ルーヴルナは今日も最悪な予知夢を見る

下菊みこと

文字の大きさ
上 下
40 / 59

成金お嬢様、孤児院を運営する

しおりを挟む
「さあ、着きましたわ!ここですわよ」

ルーヴルナは馬車にぎゅうぎゅう詰めになりつつ子供達を私有地の村に連れてきた。

孤児院の規模は小さく子供達の数が多くなかったのが幸いして一度で全員連れて来れたのは良かったが、その分酔いそうだったルーヴルナはちょっと涙目だ。

「ここどこー?」

「わたくしの私有地の村ですわ!」

「私有地の村?って名前なの?」

「…あ、そういえば村の名前とか気にしてませんでしたわ。あとで村人たちにどんな名前にしたか聞きますわ」

「ふーん」

子供達は村の様子を見る。大きな建物がいっぱいで、ゴミも落ちてなくて綺麗な村だ。獣人もたくさんいるがみんな自由にしていて、身なりもいい。そして。

「なんか、みんな笑顔だね」

「わたくしの村にいるんですもの。当然ですわ」

笑顔に満ちた村。窮屈な孤児院にいた子供たちには、なんだかとても安心できる空間に思えた。

「ルーヴルナ様」

「あら、ごきげんよう」

「よく来てくださいました。ジル様からお話は伺っております。孤児院の準備もとりあえずは完了しておりますので、どうぞこちらへ」

「ええ」

ルーヴルナは子供たちを連れて新しい孤児院へと向かう。

「孤児院の準備ってなにー?」

「説明が面倒なんですけれど…まあ、みんなあの孤児院は卒業ということですわ」

「え…?」

「これからは綺麗な服を着て、美味しいご飯をお腹いっぱい食べられる孤児院にお引越しですのよ。悪くないでしょう?」

ルーヴルナがそういえば、無邪気な子供たちは顔を見合わせてから大はしゃぎした。

「わーい!」

「やったー!」

「ふふ、はしゃぐのはいいですけれど新しい孤児院を見てからになさいな」

そして、孤児院に着く。孤児院として使われることになる建物は、あの悪徳孤児院と同じくらいの大きさだが綺麗で清潔感がある。周りを見れば、子供たちのための遊び場も用意してくれているらしい。

「さあ、どのお部屋を使うか選んでいらっしゃい」

「はーい!」

子供たちは施設内を見て回り、どの部屋を誰が使うかと話し合ってじゃれ合っている。

家具やら服やら靴やら、必要なものは大体揃えてあるのをルーヴルナも確認した。その他調理場や応接室など必要な部屋も見て回ったルーヴルナは満足気に笑った。

「あの悪徳孤児院なんかよりよーっぽどいい施設ですわ!」

そしてふと気付いた。

「ところで、ジルは?」

「ジル様はそろそろ戻られるかと」

「?」

そこに噂をすれば、でジルが戻ってきた。

「申し訳ありません、お嬢様。お待たせ致しました」

「ああ、いいんですのよ…なんですのそれ?」

「大きなテディベアですね」

「そうですわね…そうではなくて!」

「お礼です」

ジルの言葉に目をぱちくりするルーヴルナ。

「お礼?」

「子供たちを救ってくださったお嬢様に、私からの気持ちです」

「…あら?」

なんだかジルからの好感度が爆上がりしていることに、ここでルーヴルナは気付いた。嬉しい誤算だ、テディベアも嬉しい。しかし今はことがことなので、屋敷に戻ってから大喜びすることにして一旦気持ちを落ち着けるルーヴルナ。

「ジル、ありがとう。わたくし嬉しいですわ。屋敷に戻ってから大喜びしますわね」

「ええ」

「ああ、本当ならばこの場で小躍りしたいくらい嬉しいのですけれど…あの悪徳孤児院のクソ野郎どもを成敗せねばなりませんわ!」

またもルーヴルナの瞳に火がついた。悪徳孤児院のせいでジルと満足にいちゃつけないと、半ば八つ当たり気味だが怒りに燃える。

「さあ、行動開始ですわ!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...