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幸せになりました
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ステファーヌ・アンブロワーズ。公爵家の一人娘である彼女は、つい最近まで隣国に留学に行っていた。そして、留学が終わり国に帰ってきた彼女は婚約者の変わりように驚くことになる。
「ステファーヌ、元気そうでなによりだ」
「第三王子殿下こそ益々のご活躍、隣国に居ても耳にしております。皇太子殿下と結婚出来る日が早く来ないかと、楽しみです」
「…それなんだが」
彼女の婚約者であるアルヴィア帝国第三王子、オーギュスタン・アルヴィアはきっぱりと言った。
「好きな人が出来た。婚約を白紙にして欲しい」
「…まあ!」
ステファーヌは驚く。しかし、オーギュスタンにもそういう一面があったのだなと驚きはしても嫌いにはならなかった。
「どなたか聞いてもよろしくて?」
「…リリーだ」
「あら。この学園で唯一の平民の生徒…だったかしら?」
「そうだ。彼女はとても努力家で、奨学金制度と特待生制度両方を受けて学園に通っている」
まるで我が事のように自慢するオーギュスタンに、ステファーヌはこれはもう手遅れだと早々に諦めた。嫌いにはならないが、ステファーヌの仲の序列で婚約者というトップからただの幼馴染という中の中に格下げである。
「第三王子殿下の気持ちはわかりましたわ。ただ、お父様や皇帝陛下の許しがないとなんとも言えません。第三王子殿下から皇帝陛下とお父様にお話をしてくださる?許しが出たら、婚約を白紙にしてくださって結構ですわ」
そんなステファーヌにオーギュスタンは微笑んだ。
「さすがはステファーヌ。話が早くて助かる」
「それでは、私は失礼致しますわ。ご機嫌よう」
ステファーヌは心の中で吹雪が吹き荒れるのを必死に抑えて下がった。
「父上、廃嫡とはどういうことですか!?」
「貴様が勝手にステファーヌとの婚約を白紙に戻すなどと宣った故、貴様を王族とは認めないことにした。お前は一介の平民とする」
「そんな…っ!ステファーヌが何かしたのですか!?」
「ステファーヌは婚約の白紙化が決まってすぐに新しい婿候補を探すのに忙しくなった。あの子は関係ない」
「では何故!」
皇帝はオーギュスタンを冷たく見下ろした。
「王族とは、尊き血により統治を行うもの。その端くれである貴様がよりにもよって平民と浮気をして、公爵家の一人娘を捨てたなど醜聞もいいところだ。よって、責任を取ってもらうことにした」
「そんな…」
「安心しろ。貴様は平民となったのだから、その浮気相手と大手を振って結婚できるぞ」
「!」
オーギュスタンは途端に笑顔になる。
「ありがとうございます、父上!頑張ります!」
そして荷物をまとめて出て行った。
「…そう上手く行くかはわからないがな」
バカな息子に、泣きたくなった皇帝であった。
「リリー!」
「第三王子殿下!」
オーギュスタンは真っ先にリリーの元へ向かった。
「リリー、俺はもう第三王子ではないよ。廃嫡されたんだ」
「…え?」
「これで俺も平民だ!大手を振って結婚できる!嬉しいな、リリー」
「…嬉しいわけないじゃない!」
「…え?」
リリーは可愛らしい顔を鬼のように歪めて毒を吐く。
「せっかく第三王子で公爵家に婿入りするっていうから愛人になりたくて粉かけたのに!なにやってんのよ!」
「リリー…?」
「私は楽な生活を保障して欲しかっただけよ!あんたなんか元々好きじゃない!大っ嫌い!二度と顔を見せないで!」
オーギュスタンはあまりのことに声も出ない。とぼとぼと道を引き返し、行くあてもなく彷徨った。
「俺は一体…どこで間違えたんだ…」
オーギュスタンはスラム街に身を落とした。盗みを働いてなんとか食い繋ぐ日々。死にたくないから生きるだけのつまらない時間を過ごす彼の耳にも、噂話は入ってくる。
曰く、第三王子が〝病死〟したらしい。
曰く、第三王子の〝お気に入り〟が不慮の事故で亡くなったらしい。
曰く、その二人の死には疑問が多く、もしかしたらスラム街や娼館に身を落としているのではないかと言われているらしい。
曰く、第三王子の婚約者だった公爵家の一人娘は新たな婿候補に再従兄弟を選んだらしい。
曰く、その再従兄弟は彼女にぞっこんであり彼女も満更でもなさそうとのことらしい。
オーギュスタンは、ただ絶望した。浮気なんてするんじゃなかった。何をさせても完璧で、勝手にコンプレックスを抱いた婚約者を手酷く裏切ることで得た快楽の代償がこれだった。
泣くオーギュスタン。もう、壊してしまったものは元に戻らない。
リリーも、噂通り本当に娼館に売られていた。リリーの両親がステファーヌの両親から多額の慰謝料を請求され、それを払うためのお金の足しにするためであった。そんな彼女は恐ろしい性癖の変態達ばかりの相手をさせられて心身をぼろぼろにされた。そういう客ばかり来る高級娼館に売られたからである。
「一体どこで間違えたの…?」
彼女が心から反省できるまで、まだまだかかりそうである。
「ステファーヌ」
「どうしたの?バティスト」
「癒されたい、ハグさせて」
「もう、甘えん坊なんだから」
ステファーヌは新たな婚約者、バティストとは上手くいっている。バティストを甘やかしているように見えて、その実バティストに甘やかされているステファーヌ。今日も無意識に抱えたオーギュスタンにつけられた心の傷を、バティストに癒されている。
「ステファーヌ、元気そうでなによりだ」
「第三王子殿下こそ益々のご活躍、隣国に居ても耳にしております。皇太子殿下と結婚出来る日が早く来ないかと、楽しみです」
「…それなんだが」
彼女の婚約者であるアルヴィア帝国第三王子、オーギュスタン・アルヴィアはきっぱりと言った。
「好きな人が出来た。婚約を白紙にして欲しい」
「…まあ!」
ステファーヌは驚く。しかし、オーギュスタンにもそういう一面があったのだなと驚きはしても嫌いにはならなかった。
「どなたか聞いてもよろしくて?」
「…リリーだ」
「あら。この学園で唯一の平民の生徒…だったかしら?」
「そうだ。彼女はとても努力家で、奨学金制度と特待生制度両方を受けて学園に通っている」
まるで我が事のように自慢するオーギュスタンに、ステファーヌはこれはもう手遅れだと早々に諦めた。嫌いにはならないが、ステファーヌの仲の序列で婚約者というトップからただの幼馴染という中の中に格下げである。
「第三王子殿下の気持ちはわかりましたわ。ただ、お父様や皇帝陛下の許しがないとなんとも言えません。第三王子殿下から皇帝陛下とお父様にお話をしてくださる?許しが出たら、婚約を白紙にしてくださって結構ですわ」
そんなステファーヌにオーギュスタンは微笑んだ。
「さすがはステファーヌ。話が早くて助かる」
「それでは、私は失礼致しますわ。ご機嫌よう」
ステファーヌは心の中で吹雪が吹き荒れるのを必死に抑えて下がった。
「父上、廃嫡とはどういうことですか!?」
「貴様が勝手にステファーヌとの婚約を白紙に戻すなどと宣った故、貴様を王族とは認めないことにした。お前は一介の平民とする」
「そんな…っ!ステファーヌが何かしたのですか!?」
「ステファーヌは婚約の白紙化が決まってすぐに新しい婿候補を探すのに忙しくなった。あの子は関係ない」
「では何故!」
皇帝はオーギュスタンを冷たく見下ろした。
「王族とは、尊き血により統治を行うもの。その端くれである貴様がよりにもよって平民と浮気をして、公爵家の一人娘を捨てたなど醜聞もいいところだ。よって、責任を取ってもらうことにした」
「そんな…」
「安心しろ。貴様は平民となったのだから、その浮気相手と大手を振って結婚できるぞ」
「!」
オーギュスタンは途端に笑顔になる。
「ありがとうございます、父上!頑張ります!」
そして荷物をまとめて出て行った。
「…そう上手く行くかはわからないがな」
バカな息子に、泣きたくなった皇帝であった。
「リリー!」
「第三王子殿下!」
オーギュスタンは真っ先にリリーの元へ向かった。
「リリー、俺はもう第三王子ではないよ。廃嫡されたんだ」
「…え?」
「これで俺も平民だ!大手を振って結婚できる!嬉しいな、リリー」
「…嬉しいわけないじゃない!」
「…え?」
リリーは可愛らしい顔を鬼のように歪めて毒を吐く。
「せっかく第三王子で公爵家に婿入りするっていうから愛人になりたくて粉かけたのに!なにやってんのよ!」
「リリー…?」
「私は楽な生活を保障して欲しかっただけよ!あんたなんか元々好きじゃない!大っ嫌い!二度と顔を見せないで!」
オーギュスタンはあまりのことに声も出ない。とぼとぼと道を引き返し、行くあてもなく彷徨った。
「俺は一体…どこで間違えたんだ…」
オーギュスタンはスラム街に身を落とした。盗みを働いてなんとか食い繋ぐ日々。死にたくないから生きるだけのつまらない時間を過ごす彼の耳にも、噂話は入ってくる。
曰く、第三王子が〝病死〟したらしい。
曰く、第三王子の〝お気に入り〟が不慮の事故で亡くなったらしい。
曰く、その二人の死には疑問が多く、もしかしたらスラム街や娼館に身を落としているのではないかと言われているらしい。
曰く、第三王子の婚約者だった公爵家の一人娘は新たな婿候補に再従兄弟を選んだらしい。
曰く、その再従兄弟は彼女にぞっこんであり彼女も満更でもなさそうとのことらしい。
オーギュスタンは、ただ絶望した。浮気なんてするんじゃなかった。何をさせても完璧で、勝手にコンプレックスを抱いた婚約者を手酷く裏切ることで得た快楽の代償がこれだった。
泣くオーギュスタン。もう、壊してしまったものは元に戻らない。
リリーも、噂通り本当に娼館に売られていた。リリーの両親がステファーヌの両親から多額の慰謝料を請求され、それを払うためのお金の足しにするためであった。そんな彼女は恐ろしい性癖の変態達ばかりの相手をさせられて心身をぼろぼろにされた。そういう客ばかり来る高級娼館に売られたからである。
「一体どこで間違えたの…?」
彼女が心から反省できるまで、まだまだかかりそうである。
「ステファーヌ」
「どうしたの?バティスト」
「癒されたい、ハグさせて」
「もう、甘えん坊なんだから」
ステファーヌは新たな婚約者、バティストとは上手くいっている。バティストを甘やかしているように見えて、その実バティストに甘やかされているステファーヌ。今日も無意識に抱えたオーギュスタンにつけられた心の傷を、バティストに癒されている。
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