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理不尽冷めのお話につき閲覧注意
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ぱんっと乾いた音が響く。私が頬を打たれた音だ。
「君の束縛にはいい加減呆れました。妹みたいに甘えてくる可愛い従妹を大切にしてなにが悪いんですか?もう放っておいてください」
そして、私の生まれながらの婚約者は部屋を出て行き去っていった。
「お嬢様…!」
侍女は私に駆け寄って、私の頬を濡らしたタオルで押さえてくれる。ああ、赤く腫れてしまったのかしら。
「メアリー」
「はい、お嬢様」
「彼に打たれたこと、誰にも報告しないでね」
侍女が目を見開いた。
「お嬢様…」
「私が悪いの。彼を束縛したのが悪かったの」
「…お嬢様はなにも悪くありません。ですが、分かりました。報告は致しません。今日は体調が優れないということにして、部屋で少し休みましょう。明日には頬の赤みも引くでしょう」
「ありがとう」
私はその日一日を部屋で過ごした。
婚約者である彼には、いつも手紙を出している。さすがに毎日ではなかったけど。でも、私は今日からしつこくするのをやめることにした。彼から手紙がない限りは送らないことにした。
デートのお誘いもいつも私から。でも今日から誘うのをやめることにした。彼から誘われない限りデートにはいかないことにした。
毎日彼を監視するが如く身辺調査をしていた。無駄金を使うのはもうやめる。今日からは身辺調査は依頼しないと探偵に連絡した。探偵もその方がいいだろうと言ってキャンセルを受け入れてくれた。まあ、今までたくさんお金を落としたしね。…もう、いいのだ。彼が従妹とイチャイチャしようが、それは彼の勝手だ。私が口を出せることじゃない。
「…お嬢様、本当によろしいのですか?」
「いいの」
私の異常な彼への執着を知っている侍女は心配するけれど、もういい。彼はこちらを向いてはくれないのだと諦めがついた。
「彼の監視のために使っていたお金と時間が一気に浮いたわ。たくさんのお金と時間を使って、今度は何をしようかしら」
私がそう言えば、侍女は微笑む。
「でしたら、孤児院と養老院への寄付と慰問はいかがでしょう。ボランティアは今のお嬢様にはぴったりです」
「まあ、いいわね。早速今から行きましょうか」
「はい、お嬢様」
たくさんのお小遣いを持って、孤児院へ向かった。
一日分の探偵代として払っていたお金が浮いた分を、あの日以降毎日孤児院と養老院に持っていった。孤児院と養老院の運営がすごく楽になったと喜ばれている。役に立てるのは嬉しい。お父様とお母様、お兄様からも褒められるのが楽しい。
お金を持っていくついでに、孤児院の子供たちと遊んだり養老院のお年寄りに甘えたりしているが、それも楽しい。子供たちはすっかりと私に懐いてくれて、お年寄りはすっかりと私を孫のように思ってくれている。
彼とはなんのやり取りもない。彼はきっと、私から解放されてせいせいしてるだろう。
「今日も孤児院と養老院、たくさん遊んで可愛がってもらえて楽しかったわ!」
「お嬢様、ご立派です!」
最近の私は心が健康になった気がする。そんな時に彼からの手紙をお父様から渡された。
「婚約者から手紙だぞ。よかったな」
「ありがとうございます、お父様」
あちらから手紙をくれるなんて、どういう風の吹きまわしだろうか。
手紙には、束縛をやめてくれて嬉しい。やっと分かり合えてありがたい。今度またデートでも行こうか。というようなことが書いてあった。
私は返事を送る。孤児院や養老院に毎日慰問に行っていることと、そちらで忙しいので彼と会う気はないことを書いた。
「…さすがに怒るかしら。でも、会いたくないのよね」
なんでかはわからない。どういう心境の変化か自分でも謎。ただ、もう彼に関わりたくないのだ。
「…政略結婚の相手なのだし、永遠に関わらないわけにはいかないのだけど」
いつかは彼の子供を数人ほど産まなければならない。これはもう決まったことなのだ。だけど。
「なんでこんなにも、彼が嫌なのかしら。いわゆる理不尽冷めってやつかしら」
勝手に嫉妬して、束縛して。そして頬を打たれた。それは明らかに私が悪い。わかっているのに、彼に以前のような気持ちが湧かない。従妹ばかりを可愛がり、私に振り向いてくれなかったことを恨みでもしているのか。理不尽にもほどがある。
「私って本当にダメな子ね」
嫌な気分から逃げるように、布団に潜って眠りについた。
彼と関わりを絶ってからしばらく。孤児院と養老院への寄付と慰問のおかげですっかり慈愛の人なんて呼ばれて褒め称えられるようになってしまった。別に、好きで子供たちと遊んでおじいちゃんとおばあちゃんたちに可愛がってもらっているだけなのだけど。
ただ、社交界でもそうやって褒めちぎられるようになってから気付いたことがある。私はちやほやされるのが好きなのだ。愛されたがりなのだ。
孤児院の子供たちに懐かれるのも。おじいちゃんとおばあちゃんたちに可愛がられるのも。社交界で褒められて憧れの眼差しを向けられるのも。ひどく気分がいい。
「つまり私は、そういうのを彼に求めていたのね?」
あえて一人になって少し休んでいた私は、ぽつりと呟く。そう、私はそういう感情を婚約者に求めていたのだ。それは報われるはずがない。
「わかってしまうと、ますます理不尽だわ」
彼は一ミリも悪くない。私が全部悪い。
「…とはいえ、熱が冷めてしまうと前のようには振る舞えないし。適当に好き好き言っていれば許されるかしら」
彼がパーティーでぽつんとしていた私の元に戻ってきた。
「お待たせしました」
「ええ」
彼は私に微笑みかける。私も久しぶりに、彼に微笑んだ。
「大好きです」
そんな大嘘を私が吐けば、彼は満面の笑み。うん、理不尽に冷めた私が悪いんだからご機嫌くらいはとっておこう。
あれから。私の婚約者は従妹を溺愛しつつもたまに思い出したように私のところに来るようになった。私は適当に好きだの大好きだの言ってご機嫌をとる。
しかし、彼に溺愛されている従妹はそれが面白くないようで。
「お従兄様を束縛するのはやめてください!」
私は極力婚約者にもその従妹にも関わらないようにしていたのに。面倒くさい。
「うーん。でも、手紙もこちらからは出していませんし。デートのお誘いもやめましたし。これ以上どうしろと?」
「そんなの嘘!」
「嘘と言われても…」
「お従兄様が私より貴女を優先するなんておかしいもん!」
精神年齢幼過ぎないか。私に言えたことじゃないけど。
「いつも私より貴女を優先していらっしゃるじゃないですか」
「そう!それが普通なの!なのにこの間、お従兄様は私より貴女とのデートを優先した!絶対貴女が悪いのよ!」
「…わかりました。では、これからはデートもなるべく控えます」
「わかればいいのよ」
一昔前の私を見ているようで恥ずかしくなる。私もこんな感じだったのかー。そりゃ頬も打たれるわ。
帰っていく彼女の馬車を見送りつつ、私は恥ずかしさで身悶えして侍女に慰められていた。
婚約者とのデートも三回に二回の割合でお断りするようにしつつ、会う時にはとびきり甘い言葉を囁いてご機嫌とりをする。
そして孤児院と養老院には毎日いく。毎日のお稽古ごともちゃんと頑張る。
そんな生活を送っていると、いよいよ私たちの政略結婚の日が近づいてきた。
「…やだなぁ」
ちなみに、彼の溺愛する従妹は私達の結婚より先に隣国の貴族に嫁いだ。
なんと彼女は私の婚約者に一緒に逃げようと駆け落ちを持ちかけたらしいが、彼はそういう意味で彼女を愛しているわけではなく本当に妹として可愛がっていただけだと断ったらしい。
結婚していく彼女の憔悴しきった顔に、少し同情した。
「彼の気持ちが一つも読めない…」
こんなんで彼と結婚して大丈夫か。適当に好き好き言ってよいしょしてれば許されるだろうか。
「面倒くさいなぁ…」
まあ、なるようになれ。
結局。彼と大人しく結婚して、適当に好き好き言ってよいしょしてきた。
彼との間には三男三女が生まれて子宝に恵まれた。
子供たちもなんだかんだで立派に育っている。
「…ここまで頑張ったんだから、もういいよね」
私は夫からの夜のお誘いはお断りすることにした。そして、好き好き言って適当にご機嫌をとるのもやめた。子供たちももう立派に育って、一番下の子でさえ思春期を過ぎてもうすぐ結婚するので許されるだろう。
そう思っていたのだが、いつも彼のご機嫌をとって過剰に愛情表現をしていた私がいきなり彼に対してすんっ…となったので周りは戸惑っているらしい。子供たちにも心配された。
そしてとうとう、彼に聞かれた。
「最近、どうしたんです?なにかありましたか?」
長男が爵位を継いでくれたので、私達は隠居生活中。なので、もういいだろうと口を開いた。
「ごめんなさい、旦那様。私、貴方に理不尽冷めしてしまったんです」
「え…?」
「あの日。貴方に頬を打たれた時から、貴方のことは別に好きでもなんでもなくなりました。今までの愛情表現は、単に貴方のご機嫌を損ねないようにと嘘を吐いていただけなんです」
私の告白に、彼は目を見開いた。
「浮気しても構いませんので、私のことも放っておいてください」
ようやく言えた。私はすっきりして清々しい気持ちになった。そして、彼とは家庭内別居みたいな形で暮らし始めた。私は快適。家庭内別居なので私達の実情を知る人もいないので、誰に咎められることもない。
彼は段々と憔悴しているような気がするけれど、若い女の子でも引っ掛けて気分転換でもしたらいい。
こうして私はようやく、誰に気を遣うこともない生活を手に入れた。
「君の束縛にはいい加減呆れました。妹みたいに甘えてくる可愛い従妹を大切にしてなにが悪いんですか?もう放っておいてください」
そして、私の生まれながらの婚約者は部屋を出て行き去っていった。
「お嬢様…!」
侍女は私に駆け寄って、私の頬を濡らしたタオルで押さえてくれる。ああ、赤く腫れてしまったのかしら。
「メアリー」
「はい、お嬢様」
「彼に打たれたこと、誰にも報告しないでね」
侍女が目を見開いた。
「お嬢様…」
「私が悪いの。彼を束縛したのが悪かったの」
「…お嬢様はなにも悪くありません。ですが、分かりました。報告は致しません。今日は体調が優れないということにして、部屋で少し休みましょう。明日には頬の赤みも引くでしょう」
「ありがとう」
私はその日一日を部屋で過ごした。
婚約者である彼には、いつも手紙を出している。さすがに毎日ではなかったけど。でも、私は今日からしつこくするのをやめることにした。彼から手紙がない限りは送らないことにした。
デートのお誘いもいつも私から。でも今日から誘うのをやめることにした。彼から誘われない限りデートにはいかないことにした。
毎日彼を監視するが如く身辺調査をしていた。無駄金を使うのはもうやめる。今日からは身辺調査は依頼しないと探偵に連絡した。探偵もその方がいいだろうと言ってキャンセルを受け入れてくれた。まあ、今までたくさんお金を落としたしね。…もう、いいのだ。彼が従妹とイチャイチャしようが、それは彼の勝手だ。私が口を出せることじゃない。
「…お嬢様、本当によろしいのですか?」
「いいの」
私の異常な彼への執着を知っている侍女は心配するけれど、もういい。彼はこちらを向いてはくれないのだと諦めがついた。
「彼の監視のために使っていたお金と時間が一気に浮いたわ。たくさんのお金と時間を使って、今度は何をしようかしら」
私がそう言えば、侍女は微笑む。
「でしたら、孤児院と養老院への寄付と慰問はいかがでしょう。ボランティアは今のお嬢様にはぴったりです」
「まあ、いいわね。早速今から行きましょうか」
「はい、お嬢様」
たくさんのお小遣いを持って、孤児院へ向かった。
一日分の探偵代として払っていたお金が浮いた分を、あの日以降毎日孤児院と養老院に持っていった。孤児院と養老院の運営がすごく楽になったと喜ばれている。役に立てるのは嬉しい。お父様とお母様、お兄様からも褒められるのが楽しい。
お金を持っていくついでに、孤児院の子供たちと遊んだり養老院のお年寄りに甘えたりしているが、それも楽しい。子供たちはすっかりと私に懐いてくれて、お年寄りはすっかりと私を孫のように思ってくれている。
彼とはなんのやり取りもない。彼はきっと、私から解放されてせいせいしてるだろう。
「今日も孤児院と養老院、たくさん遊んで可愛がってもらえて楽しかったわ!」
「お嬢様、ご立派です!」
最近の私は心が健康になった気がする。そんな時に彼からの手紙をお父様から渡された。
「婚約者から手紙だぞ。よかったな」
「ありがとうございます、お父様」
あちらから手紙をくれるなんて、どういう風の吹きまわしだろうか。
手紙には、束縛をやめてくれて嬉しい。やっと分かり合えてありがたい。今度またデートでも行こうか。というようなことが書いてあった。
私は返事を送る。孤児院や養老院に毎日慰問に行っていることと、そちらで忙しいので彼と会う気はないことを書いた。
「…さすがに怒るかしら。でも、会いたくないのよね」
なんでかはわからない。どういう心境の変化か自分でも謎。ただ、もう彼に関わりたくないのだ。
「…政略結婚の相手なのだし、永遠に関わらないわけにはいかないのだけど」
いつかは彼の子供を数人ほど産まなければならない。これはもう決まったことなのだ。だけど。
「なんでこんなにも、彼が嫌なのかしら。いわゆる理不尽冷めってやつかしら」
勝手に嫉妬して、束縛して。そして頬を打たれた。それは明らかに私が悪い。わかっているのに、彼に以前のような気持ちが湧かない。従妹ばかりを可愛がり、私に振り向いてくれなかったことを恨みでもしているのか。理不尽にもほどがある。
「私って本当にダメな子ね」
嫌な気分から逃げるように、布団に潜って眠りについた。
彼と関わりを絶ってからしばらく。孤児院と養老院への寄付と慰問のおかげですっかり慈愛の人なんて呼ばれて褒め称えられるようになってしまった。別に、好きで子供たちと遊んでおじいちゃんとおばあちゃんたちに可愛がってもらっているだけなのだけど。
ただ、社交界でもそうやって褒めちぎられるようになってから気付いたことがある。私はちやほやされるのが好きなのだ。愛されたがりなのだ。
孤児院の子供たちに懐かれるのも。おじいちゃんとおばあちゃんたちに可愛がられるのも。社交界で褒められて憧れの眼差しを向けられるのも。ひどく気分がいい。
「つまり私は、そういうのを彼に求めていたのね?」
あえて一人になって少し休んでいた私は、ぽつりと呟く。そう、私はそういう感情を婚約者に求めていたのだ。それは報われるはずがない。
「わかってしまうと、ますます理不尽だわ」
彼は一ミリも悪くない。私が全部悪い。
「…とはいえ、熱が冷めてしまうと前のようには振る舞えないし。適当に好き好き言っていれば許されるかしら」
彼がパーティーでぽつんとしていた私の元に戻ってきた。
「お待たせしました」
「ええ」
彼は私に微笑みかける。私も久しぶりに、彼に微笑んだ。
「大好きです」
そんな大嘘を私が吐けば、彼は満面の笑み。うん、理不尽に冷めた私が悪いんだからご機嫌くらいはとっておこう。
あれから。私の婚約者は従妹を溺愛しつつもたまに思い出したように私のところに来るようになった。私は適当に好きだの大好きだの言ってご機嫌をとる。
しかし、彼に溺愛されている従妹はそれが面白くないようで。
「お従兄様を束縛するのはやめてください!」
私は極力婚約者にもその従妹にも関わらないようにしていたのに。面倒くさい。
「うーん。でも、手紙もこちらからは出していませんし。デートのお誘いもやめましたし。これ以上どうしろと?」
「そんなの嘘!」
「嘘と言われても…」
「お従兄様が私より貴女を優先するなんておかしいもん!」
精神年齢幼過ぎないか。私に言えたことじゃないけど。
「いつも私より貴女を優先していらっしゃるじゃないですか」
「そう!それが普通なの!なのにこの間、お従兄様は私より貴女とのデートを優先した!絶対貴女が悪いのよ!」
「…わかりました。では、これからはデートもなるべく控えます」
「わかればいいのよ」
一昔前の私を見ているようで恥ずかしくなる。私もこんな感じだったのかー。そりゃ頬も打たれるわ。
帰っていく彼女の馬車を見送りつつ、私は恥ずかしさで身悶えして侍女に慰められていた。
婚約者とのデートも三回に二回の割合でお断りするようにしつつ、会う時にはとびきり甘い言葉を囁いてご機嫌とりをする。
そして孤児院と養老院には毎日いく。毎日のお稽古ごともちゃんと頑張る。
そんな生活を送っていると、いよいよ私たちの政略結婚の日が近づいてきた。
「…やだなぁ」
ちなみに、彼の溺愛する従妹は私達の結婚より先に隣国の貴族に嫁いだ。
なんと彼女は私の婚約者に一緒に逃げようと駆け落ちを持ちかけたらしいが、彼はそういう意味で彼女を愛しているわけではなく本当に妹として可愛がっていただけだと断ったらしい。
結婚していく彼女の憔悴しきった顔に、少し同情した。
「彼の気持ちが一つも読めない…」
こんなんで彼と結婚して大丈夫か。適当に好き好き言ってよいしょしてれば許されるだろうか。
「面倒くさいなぁ…」
まあ、なるようになれ。
結局。彼と大人しく結婚して、適当に好き好き言ってよいしょしてきた。
彼との間には三男三女が生まれて子宝に恵まれた。
子供たちもなんだかんだで立派に育っている。
「…ここまで頑張ったんだから、もういいよね」
私は夫からの夜のお誘いはお断りすることにした。そして、好き好き言って適当にご機嫌をとるのもやめた。子供たちももう立派に育って、一番下の子でさえ思春期を過ぎてもうすぐ結婚するので許されるだろう。
そう思っていたのだが、いつも彼のご機嫌をとって過剰に愛情表現をしていた私がいきなり彼に対してすんっ…となったので周りは戸惑っているらしい。子供たちにも心配された。
そしてとうとう、彼に聞かれた。
「最近、どうしたんです?なにかありましたか?」
長男が爵位を継いでくれたので、私達は隠居生活中。なので、もういいだろうと口を開いた。
「ごめんなさい、旦那様。私、貴方に理不尽冷めしてしまったんです」
「え…?」
「あの日。貴方に頬を打たれた時から、貴方のことは別に好きでもなんでもなくなりました。今までの愛情表現は、単に貴方のご機嫌を損ねないようにと嘘を吐いていただけなんです」
私の告白に、彼は目を見開いた。
「浮気しても構いませんので、私のことも放っておいてください」
ようやく言えた。私はすっきりして清々しい気持ちになった。そして、彼とは家庭内別居みたいな形で暮らし始めた。私は快適。家庭内別居なので私達の実情を知る人もいないので、誰に咎められることもない。
彼は段々と憔悴しているような気がするけれど、若い女の子でも引っ掛けて気分転換でもしたらいい。
こうして私はようやく、誰に気を遣うこともない生活を手に入れた。
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