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ヤンデレ男子によるやり過ぎな報復
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バスチアン王国序列第一位アガット公爵家。その一人娘であるベルティーユはそれはもう可愛がられて育った。娘が欲しかった両親から可愛い可愛いと言われて育ったベルティーユは、わがままで傲慢なことで有名だ。その白薔薇のような真っ白な髪と瞳、そして肌。美しく儚げな見た目と気高すぎる気性から、彼女は白薔薇の姫君と呼ばれていた。
そんな白薔薇の姫君は、バスチアン王国第三王子であるコルネイユの婚約者である。
そんなコルネイユは三兄弟の末っ子である。コルネイユの上の兄は為政者らしく腹黒くも、懐に入れたものにはかなり甘い性格。下の兄は脳筋で曲がったことが大っ嫌い。そんな二人から鍛えられたコルネイユは、文武両道で見た目も良く、そして性格も良いと有名だった。
だからみんなが口にする。何故第三王子殿下ほどの方があのわがままで傲慢な白薔薇の姫君を溺愛するのかと。
コルネイユは、ベルティーユを溺愛していた。それは生まれながらに婚約者だったからでも、ベルティーユが〝白薔薇の姫君〟と称される美しさを誇るからでもない。
ー…ベルティーユがどんなにわがままで傲慢な性格を装っていても、本当は誰よりも脆いとわかっているから。それが溺愛の理由だった。
ベルティーユは幼い頃、インコを飼っていた。殊更そのインコを可愛がるベルティーユは、決してインコを部屋から出さず、部屋にはなるべく使用人を入れないようにしていた。
コルネイユは、その頃からベルティーユと会わされていた。政略結婚の意味を幼くして理解していた彼は、わがままで傲慢なベルティーユを嫌っていたがそれを表には出さずただ微笑んでいた。
二人が会う時はいつも中庭に連れられていた。ベルティーユが部屋にコルネイユを入れたがらなかったから。
でも、その日は違った。熱を出して倒れたベルティーユの見舞いにきたコルネイユは、ベルティーユの部屋に案内された。ベルティーユの側には、インコだけが心配そうに寄り添っていた。
「ベルティーユ。会いにきたよ」
その言葉にも熱に浮かされたベルティーユは反応を示さない。代わりに反応したのはインコの〝コルネイユ〟だった。
「コルネイユ、またコルネイユ様に嫌われちゃったよお」
「…え」
「コルネイユ、今日はね、コルネイユ様が朝摘みの白薔薇でブーケを作って持ってきてくださったの!見て、可愛らしいでしょう?でも私、つい強がってブーケなんて興味ないわなんて言っちゃったの。どうして私強がってしまうのかしら」
「ちょっと、なにそれ」
「ねえコルネイユ、聞いて!コルネイユ様がね、私にお手紙を下さったの!お手紙、送らなきゃね!お手紙でなら、強がらないで済むもの!」
「…ちょっと」
たしかに。手紙でのベルティーユは、繊細で優しげな女の子のような印象だった。きっと誰かに代筆でもさせてるんだろうと気にしていなかったのに、そっちの方が本来の性格だなんて。
なんて歪んでるんだ。
ー…なんて、愛おしいんだ。
その日は、何もせずベルティーユの頭を優しく撫でて帰った。
しかし数日後。ベルティーユが回復したという報せを受けた日から、コルネイユは〝毎日〟ベルティーユの元へ通った。
「また来たんですの?貴方は王族で、いずれは我が家の爵位を相続される方ですのよ。もっとご自覚を持ったらどうなのです?」
そんな強がりを言うベルティーユの頬に、コルネイユはキスをした。
「なっ!」
「大丈夫だよ、愛しい人。僕は優秀なことで有名なんだ。勉強も武術の稽古も問題なく進んでいる。その中で愛する婚約者との時間を捻出するのは、決して無駄なことじゃない」
「あ…う…い、愛しいとか、愛するとかそんな…簡単に…」
「簡単なことだよ。それが純然たる事実なんだから」
「あ…うう…」
白過ぎるほど白い頬を赤く染め、白い瞳は右往左往し、白い髪を白い手で弄ればそれはもう可愛らしい恥ずかしがり屋な乙女の完成だった。
「ねえ、ベルティーユ。愛してる。だから、僕にだけはありのままの君を見せて」
「コルネイユ様…私…」
「僕なら、君の全部を受け止められる」
「コルネイユ様…愛しておりますわ…」
「僕も愛してる…」
これが二人の幼い頃の記憶というのだから、末恐ろしい。
そんなこんなでコルネイユと二人きりの時だけ、インコのコルネイユにしていたように弱音をこぼすようになったベルティーユ。コルネイユは益々ベルティーユに傾倒していった。その結果が十年後、十八歳の今の溺愛っぷりである。
「コルネイユ様、もっと離れて歩いてくださいまし」
「僕の可愛い白薔薇の姫君を花盗人に持っていかれないよう守っているんだよ。気にしなくていい」
「さすがに腰を抱かれて歩いていたら気にしますわよ!」
「だったら君が僕の腕に腕を絡めて歩いてくれるかい?腰を抱くより余程マシだと思うけど」
「…うう、意地悪ですわ」
「腕を絡めてくれるの?愛しているよ、ベルティーユ」
「…わ、私だって負けないくらい愛していましてよ」
「世界一可愛い。キスしていい?」
「せめて人目のないところでしてくださいませ!」
そんな二人を見つめて、一人の少女が言った。
「私もあれが欲しいなぁ」
後日、ベルティーユは王城に呼び出された。要件はわかっているから、ベルティーユは覚悟は出来ていた。
「すまぬ、ベルティーユ。我が国の宗主国、セレスト皇国が第一皇女、クローデット様からコルネイユとの縁談の話があった。我が国の力ではとても断れぬ。どうか、婚約の白紙化を受け入れて欲しい」
「もちろんですわ。私も腐ってもこの国の貴族。手前勝手な理由でお断りなど出来ません。この度の縁談が、コルネイユ様にとってより良きものならば喜んで身を引きましょう」
「すまぬ…コルネイユから、如何にそなたを愛しているか聞いておるのに、このような結果になって残念だ」
「いいんです。…国王陛下、どうかご自分を責めないでくださいませ。私は本当に大丈夫ですわ」
「…うむ。そなたの決意、無駄にはせぬ。必ずこの縁談をもって、少しでも我が国の地位を築いて見せよう」
こうして、コルネイユとベルティーユの婚約は〝コルネイユの反対を押し切り〟白紙化された。
後日。屋敷に引きこもって泣いて過ごしていたベルティーユの元へ報せが届く。セレスト皇国が一夜にして滅んだと。
何事かとベルティーユが詳しく聞けば、なんでも古代に封印されていた呪術が何者かにより使われたらしい。数多くのセレスト皇国の人々…王族も含まれたらしいが、その命が生贄にされてその代わり世界中に散らばる多くの魔獣や瘴気の霧が消え去ったとのこと。魔獣と瘴気を消せるのは良いが、多くの人を犠牲にしなければならないためその方法を書いた書物は封印されていたらしい。だから誰もそれを知るはずがなかった。
封印されていたのは、バスチアン王国の地下だと言う。ベルティーユはコルネイユの仕業だとすぐに気付いた。しかし黙っていた。
きっと、コルネイユがベルティーユとの婚約の白紙化を恨んでセレスト皇国を消したのだと勘付いた人々は多い。けれど、誰も何も言わなかった。言わない方が、みんな幸せになれるから。
セレスト皇国との特殊な協定などが無くなったバスチアン王国は、その後経済大国として成り上がる。
そのバスチアン王国で、もっとも裕福な貴族となったのがアガット公爵家。色々な新規事業へ積極的に投資をして、元々裕福だったのをさらに発展させ、国まで豊かにしてしまった。
そのアガット公爵家を盛り立てたのはもちろん、アガット公爵家の一人娘だったベルティーユの愛する夫コルネイユ。
〝不慮の事故〟で左手と右足を失くしたという彼は、しかし性能のいい義手と義足と開発させて今では問題なく過ごしているという。
「コルネイユ様、子供達が見ている前でベタベタするのはやめてくださいまし!」
「どうして?こんなにも愛しているのだから構わないだろう?」
「教育に悪いですわ!」
「愛の素晴らしさを教えているんだよ」
「ちょっとそこの使用人!助けてくださいまし!」
「彼女は今私達の子供達の子守で忙しいようだよ?」
「コルネイユ様ったら!」
公爵令嬢だった彼女の秘密は、その精神の脆さ。
公爵夫人となった彼女の秘密は、大きな愛による一つの国の悲しい結末。
おそらく、脆い彼女は生涯自分が犯したわけでもないその罪をずっと背負っていくのだろう。
そして、それが分かった上で彼女を自分に縛り付ける鎖にする彼は、やはりどうしようもない〝愛に縛られた〟男なのだ。
そんな白薔薇の姫君は、バスチアン王国第三王子であるコルネイユの婚約者である。
そんなコルネイユは三兄弟の末っ子である。コルネイユの上の兄は為政者らしく腹黒くも、懐に入れたものにはかなり甘い性格。下の兄は脳筋で曲がったことが大っ嫌い。そんな二人から鍛えられたコルネイユは、文武両道で見た目も良く、そして性格も良いと有名だった。
だからみんなが口にする。何故第三王子殿下ほどの方があのわがままで傲慢な白薔薇の姫君を溺愛するのかと。
コルネイユは、ベルティーユを溺愛していた。それは生まれながらに婚約者だったからでも、ベルティーユが〝白薔薇の姫君〟と称される美しさを誇るからでもない。
ー…ベルティーユがどんなにわがままで傲慢な性格を装っていても、本当は誰よりも脆いとわかっているから。それが溺愛の理由だった。
ベルティーユは幼い頃、インコを飼っていた。殊更そのインコを可愛がるベルティーユは、決してインコを部屋から出さず、部屋にはなるべく使用人を入れないようにしていた。
コルネイユは、その頃からベルティーユと会わされていた。政略結婚の意味を幼くして理解していた彼は、わがままで傲慢なベルティーユを嫌っていたがそれを表には出さずただ微笑んでいた。
二人が会う時はいつも中庭に連れられていた。ベルティーユが部屋にコルネイユを入れたがらなかったから。
でも、その日は違った。熱を出して倒れたベルティーユの見舞いにきたコルネイユは、ベルティーユの部屋に案内された。ベルティーユの側には、インコだけが心配そうに寄り添っていた。
「ベルティーユ。会いにきたよ」
その言葉にも熱に浮かされたベルティーユは反応を示さない。代わりに反応したのはインコの〝コルネイユ〟だった。
「コルネイユ、またコルネイユ様に嫌われちゃったよお」
「…え」
「コルネイユ、今日はね、コルネイユ様が朝摘みの白薔薇でブーケを作って持ってきてくださったの!見て、可愛らしいでしょう?でも私、つい強がってブーケなんて興味ないわなんて言っちゃったの。どうして私強がってしまうのかしら」
「ちょっと、なにそれ」
「ねえコルネイユ、聞いて!コルネイユ様がね、私にお手紙を下さったの!お手紙、送らなきゃね!お手紙でなら、強がらないで済むもの!」
「…ちょっと」
たしかに。手紙でのベルティーユは、繊細で優しげな女の子のような印象だった。きっと誰かに代筆でもさせてるんだろうと気にしていなかったのに、そっちの方が本来の性格だなんて。
なんて歪んでるんだ。
ー…なんて、愛おしいんだ。
その日は、何もせずベルティーユの頭を優しく撫でて帰った。
しかし数日後。ベルティーユが回復したという報せを受けた日から、コルネイユは〝毎日〟ベルティーユの元へ通った。
「また来たんですの?貴方は王族で、いずれは我が家の爵位を相続される方ですのよ。もっとご自覚を持ったらどうなのです?」
そんな強がりを言うベルティーユの頬に、コルネイユはキスをした。
「なっ!」
「大丈夫だよ、愛しい人。僕は優秀なことで有名なんだ。勉強も武術の稽古も問題なく進んでいる。その中で愛する婚約者との時間を捻出するのは、決して無駄なことじゃない」
「あ…う…い、愛しいとか、愛するとかそんな…簡単に…」
「簡単なことだよ。それが純然たる事実なんだから」
「あ…うう…」
白過ぎるほど白い頬を赤く染め、白い瞳は右往左往し、白い髪を白い手で弄ればそれはもう可愛らしい恥ずかしがり屋な乙女の完成だった。
「ねえ、ベルティーユ。愛してる。だから、僕にだけはありのままの君を見せて」
「コルネイユ様…私…」
「僕なら、君の全部を受け止められる」
「コルネイユ様…愛しておりますわ…」
「僕も愛してる…」
これが二人の幼い頃の記憶というのだから、末恐ろしい。
そんなこんなでコルネイユと二人きりの時だけ、インコのコルネイユにしていたように弱音をこぼすようになったベルティーユ。コルネイユは益々ベルティーユに傾倒していった。その結果が十年後、十八歳の今の溺愛っぷりである。
「コルネイユ様、もっと離れて歩いてくださいまし」
「僕の可愛い白薔薇の姫君を花盗人に持っていかれないよう守っているんだよ。気にしなくていい」
「さすがに腰を抱かれて歩いていたら気にしますわよ!」
「だったら君が僕の腕に腕を絡めて歩いてくれるかい?腰を抱くより余程マシだと思うけど」
「…うう、意地悪ですわ」
「腕を絡めてくれるの?愛しているよ、ベルティーユ」
「…わ、私だって負けないくらい愛していましてよ」
「世界一可愛い。キスしていい?」
「せめて人目のないところでしてくださいませ!」
そんな二人を見つめて、一人の少女が言った。
「私もあれが欲しいなぁ」
後日、ベルティーユは王城に呼び出された。要件はわかっているから、ベルティーユは覚悟は出来ていた。
「すまぬ、ベルティーユ。我が国の宗主国、セレスト皇国が第一皇女、クローデット様からコルネイユとの縁談の話があった。我が国の力ではとても断れぬ。どうか、婚約の白紙化を受け入れて欲しい」
「もちろんですわ。私も腐ってもこの国の貴族。手前勝手な理由でお断りなど出来ません。この度の縁談が、コルネイユ様にとってより良きものならば喜んで身を引きましょう」
「すまぬ…コルネイユから、如何にそなたを愛しているか聞いておるのに、このような結果になって残念だ」
「いいんです。…国王陛下、どうかご自分を責めないでくださいませ。私は本当に大丈夫ですわ」
「…うむ。そなたの決意、無駄にはせぬ。必ずこの縁談をもって、少しでも我が国の地位を築いて見せよう」
こうして、コルネイユとベルティーユの婚約は〝コルネイユの反対を押し切り〟白紙化された。
後日。屋敷に引きこもって泣いて過ごしていたベルティーユの元へ報せが届く。セレスト皇国が一夜にして滅んだと。
何事かとベルティーユが詳しく聞けば、なんでも古代に封印されていた呪術が何者かにより使われたらしい。数多くのセレスト皇国の人々…王族も含まれたらしいが、その命が生贄にされてその代わり世界中に散らばる多くの魔獣や瘴気の霧が消え去ったとのこと。魔獣と瘴気を消せるのは良いが、多くの人を犠牲にしなければならないためその方法を書いた書物は封印されていたらしい。だから誰もそれを知るはずがなかった。
封印されていたのは、バスチアン王国の地下だと言う。ベルティーユはコルネイユの仕業だとすぐに気付いた。しかし黙っていた。
きっと、コルネイユがベルティーユとの婚約の白紙化を恨んでセレスト皇国を消したのだと勘付いた人々は多い。けれど、誰も何も言わなかった。言わない方が、みんな幸せになれるから。
セレスト皇国との特殊な協定などが無くなったバスチアン王国は、その後経済大国として成り上がる。
そのバスチアン王国で、もっとも裕福な貴族となったのがアガット公爵家。色々な新規事業へ積極的に投資をして、元々裕福だったのをさらに発展させ、国まで豊かにしてしまった。
そのアガット公爵家を盛り立てたのはもちろん、アガット公爵家の一人娘だったベルティーユの愛する夫コルネイユ。
〝不慮の事故〟で左手と右足を失くしたという彼は、しかし性能のいい義手と義足と開発させて今では問題なく過ごしているという。
「コルネイユ様、子供達が見ている前でベタベタするのはやめてくださいまし!」
「どうして?こんなにも愛しているのだから構わないだろう?」
「教育に悪いですわ!」
「愛の素晴らしさを教えているんだよ」
「ちょっとそこの使用人!助けてくださいまし!」
「彼女は今私達の子供達の子守で忙しいようだよ?」
「コルネイユ様ったら!」
公爵令嬢だった彼女の秘密は、その精神の脆さ。
公爵夫人となった彼女の秘密は、大きな愛による一つの国の悲しい結末。
おそらく、脆い彼女は生涯自分が犯したわけでもないその罪をずっと背負っていくのだろう。
そして、それが分かった上で彼女を自分に縛り付ける鎖にする彼は、やはりどうしようもない〝愛に縛られた〟男なのだ。
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