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正論パンチで若干目が覚めたヒロイン

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「…どうして!?なんで!?」

「貴女がわたくしの婚約者を奪った結果よ」

目の前の少女リリスは、わたくしの護衛に押さえつけられて悔しそうに唇を噛む。血が滲む唇にも気を留めずわたくしを睨むリリス様は、普段の可愛らしさはどこへやら。

わたくしの婚約者であった、この国の〝元〟王太子ベルフェゴール様は、同じくわたくしの護衛に押さえつけられている。

「どうしてこうなったか、理解出来ない様子だな」

「ルシフェル様」

「セラフィーヌ、奴らの罪を語ってやれ」

〝現〟王太子であり、〝現〟婚約者であるルシフェル様が語れと言うのなら語りましょう。

リリス様は男爵令嬢と言う身分でありながら、わたくしの元婚約者であるベルフェゴール様を誘惑した。

それだけで罪深いのに、あろうことかベルフェゴール様はリリス様に惚れ込んでしまった。

そして二人は共謀し、わたくしに無実の罪を着せようとした。

これを罪と言わずなんというのだろうか。

「私、ちゃんと逆ハールートを進んでたのに!選択肢は全部間違ってないのに!なんで、どうして!?悪役令嬢は私を虐めないし、それどころか何故かベルフェゴール様は王太子じゃなくなるし!」

「ルシフェル様、どうやらわたくしの言葉は届いていないようです」

「セラフィーヌがその罪を語ってやったというのに…聞く耳も持たないとは」

呆れた様子でリリス様を見下すルシフェル様。

彼は吐き捨てる。

「異母弟は正直いつか何かやらかすとは思っていたが、まさか公爵令嬢を無実の罪で断罪しようとは。くだらない女に籠絡されるし…本当に情けない。バカ弟め」

「ふふ、本当にどうしようもない方ですわね。わたくしも呆れてしまいましたわ」

「その上セラフィーヌを『悪役令嬢』などと…悪役は貴様らの方だ、恥を知れ」

貴族の子女の通う学園の卒業パーティー。このような晴れの場でこんなことをしでかすとは。

危うく虐めなどしていないのに、虐めたなどと濡れ衣を着せられるところでした。

しかしそれを事前に察知した王家の影が国王陛下に証拠付きで報告し、事なきを得ました。そして今、国王陛下と王妃殿下の名の下にわたくしとルシフェル様でリリス様とベルフェゴール様を断罪し返しているのです。

ついでにリリス様に籠絡され婚約者を蔑ろにしていたらしいリリス様の取り巻きと化した貴公子も一緒に断罪しています。そこでわたくしの護衛に拘束されている憐れな方々がそれです。

ベルフェゴール様は王太子位をこの場で剥奪され、ルシフェル様が王太子となられました。ルシフェル様は病弱だからと王太子位をベルフェゴール様に譲られていましたが、ちょうどよく今は健康になられたので問題ありません。

ルシフェル様は病弱だからと婚約者も決めていなかったのですが、今回の件でベルフェゴール様との婚約を破棄することになったわたくしが婚約者となることも決まりました。

「…っ、まさか!あんた転生者なの!?原作改変なんて信じられない!」

「テンセイシャ?ゲンサクカイヘン?」

よくわからない言葉に首をかしげる。リリス様はまた暴れ始めて、最終的に護衛に引き倒された。

「悪役令嬢はあんた!ヒロインは私!あんたがこうなるべきなのに、どうしてよ!この卑怯者!」

卑怯者?

なんのことかしら?

「私は、乙女ゲームの世界にヒロインとして転生した勝ち組!そのはずなのにっ」

「…乙女ゲーム?」

「知ってるくせにかまととぶるな!!!この世界で言うアクションブックのようなものよ、わかるでしょ!?」

アクションブックとは私達貴族向けの本。この選択肢を選ぶならこのページ、といった感じで読み進める。

まさかリリス様はアクションブックの世界に迷い込んだ設定のイタイ方?

それなら納得は出来るけど、共感性羞恥心でこちらが恥ずかしくなってしまう。

「貴女…イタイ人なのね。アクションブックの世界に迷い込んだ設定とか…痛々しいわ…」

「ちょっ…人を厨二病みたいに言わないでよ!」

「厨二病?そんな病気があるのね」

「…~っ!なにこの女!ムカつく!ムカつく!」

まあともかく。

「もし仮によ?貴女が本当にアクションブックの世界に迷い込んだ〝ヒロイン〟だとしても、ここはここでは〝現実〟で〝物語ではない〟のだから、思い通りにいくはずないでしょう」

「え…?」

「だいたいわたくし、そんなにベルフェゴール様のこと好きじゃないから嫉妬して虐めるとかあり得ないもの」

「はぁ!?」

「だってわたくし、ルシフェル様が好きだもの…」

頬を染めてルシフェル様に寄り添う。

ルシフェル様はわたくしを愛おしそうに抱きしめる。

「え、浮気じゃん!」

「いやだわ、わたくし貴女たちと違って貞操は守ってるもの。心で思うだけなら自由じゃない」

「さらっとこっちがやることやってるって言うんじゃないわよ!」

「でも本当のことでしょう?」

真っ赤になる彼らだが、全員とすることをしているリリス様の異常さには何も思わないのだろうか。

「ともかく、ここは現実の世界なの。全てが思い通りに行くわけでも、予定調和が起こるわけでもないわ。敗因は選択肢と設定しか頭になかった貴女の認識のズレじゃないかしら?」

「…そんなぁああああああ!」

リリス様は獣のように叫ぶ。泣いて泣いて、落ち着くと不安そうにわたくしを見上げる。

「私…間違ってたの…?私、この後どうされるの?」

「貴女たちは全員、身分剥奪されます。もう貴族や王族では無くなります。また男性陣は去勢もされます。けれど命までは取られません。多少のお金は持たせてもらえるでしょうから、それを元手に堅実に生きる他ないでしょう」

「そんな…」

「命を取られないだけマシだと思いなさい。特に貴女はそこの取り巻きたちの人生を狂わせたのだから、彼らを支える義務があるわ。覚悟して」

「…っ!」

そう、彼らは彼女に人生を狂わされたのだから。多分一番庶民の生活に馴染みやすい、爵位の低い彼女が支えるべきだろう。

「ぅ…うぅぅぅぅぅぅぅっ!悔しいけど、でも…頑張ってみんなを支える、それは約束する」

「そう」

「…それで………ごめんなさい。私が間違ってたかも」

「かもじゃなくてそうなのよ。罪滅ぼしを頑張りなさい」

ここで反省できるなら、芽はあると思うから。

罪滅ぼしをして、身の丈にあった幸せを掴んで欲しい。

「さあ、連行しろ」

ルシフェル様の言葉で彼らは牢へ向かう。

わたくしとルシフェル様は、改めてここにいる人々に向きあう。

「俺はこれより正式に王太子となる。よろしく頼む」

「王太子となったルシフェル様の婚約者となりました。よろしくお願いしますね、皆様」

わたくしとルシフェル様のその言葉に祝福の声が上がる。内心は知らないが、皆様はわたくしたちを受け入れてくれたらしい。

祝福してくれた皆様のためにも、これから頑張って二人三脚でルシフェル様と国を盛り立てて行こうと心に誓った。
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