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万能執事は天才お嬢様に忠誠を誓う
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「我が公爵家にお前は相応しくない」
トゥルネン・ヴンダー。ゲシェンク国の筆頭公爵家の末娘。彼女は五歳の誕生日を迎えた今、最大のピンチに直面している。
このゲシェンク国では貴族の子供は五歳の誕生日にギフトを神から授けられる。それは才能や魔法など様々な種類がある。そして栄えある公爵家の末娘に与えられたギフトは…あろうことか身体能力強化の魔法だった。
「使えんな。長男は領地経営の才能、次男は聖人の位、三男は賢者の位。長女や次女は音楽や芸術の才能。それに比べて、なんなのだ、お前のギフトは」
実はこの状況、すごくまずい。下手を打てば「病死」させられかねない。
「お父様…」
トゥルネンは震え上がり父を見る。父の目には冷たい温度しかなかった。が、その後顔色が変わる。
「…いや、待てよ?ふむ…うん、よし、トゥルネン。幼いお前に誉をくれてやろう」
「え…?」
「ハイデ領をお前にくれてやろう。領地経営してみなさい」
「…は、はい!」
ハイデ領。ヴンダー家の領地の中で唯一開拓出来ていない未開の地。名前だけの領地である。トゥルネンの父は、未だ幼い末娘に酷な仕事を与えたのだ。もし何かの間違いで開拓出来れば御の字だし、そうでなくても別に困らない。そしてトゥルネンは父の気まぐれに縋り付くしかない。そうでなければ最悪殺される。
「では、金貨をいくらかやろう。今すぐに領地に向かえ。達者でな。ああ、お前の執事のアルメヒティヒだけは連れて行ってもいいぞ。あれは万能ではあるが従順さに欠けるからな」
「は、はい、お父様…」
そしてトゥルネンはハイデ領に追い出されたのだった。
ー…
「お嬢様、着きましたよ」
アルメヒティヒはトゥルネンを馬車から降ろす。馬車はさっさとヴンダー家に帰ってしまう。薄情にも思えるが仕方がない。アルメヒティヒは未だ幼い自らの主人を少ない金貨でどう養っていくかを考える。トゥルネンの父はアルメヒティヒを従順さに欠けると言ったが、実際にはちょっと違う。主人たるトゥルネン以外には興味がないだけなのだ。アルメヒティヒはトゥルネンという主人を高く買っていた。トゥルネン以外に自分の主人に相応しい人間はいないとすら思っていた。
「アルメヒティヒ…私のせいでごめんね」
「何を仰います。このアルメヒティヒ、お嬢様のためにならこの身も捧げましょう。お嬢様はどーんと構えていればよろしいのです」
「ふふ、アルメヒティヒったら。…とりあえず、家が必要…だよね?」
「そうですね、お嬢様。どこか近くに安くて良い宿がないか探しに…」
「ううん。私が作るよ」
「お嬢様?」
「せっかくの身体能力強化の魔法だもん。使いこなして見せなきゃね」
そして、トゥルネンは身体能力強化の魔法を使う。異様なまでの力強さ、身のこなしの速さであっという間にその辺に生えていた木で簡易的な家を建てて見せた。ご丁寧に屋根まである。地震でも起こらない限り崩れないだろう頑丈さだ。
「…さすがはお嬢様。やはり貴女は転んでもただでは起きないのですね」
「えーっと、褒めてる?」
「はい」
「えへへ」
褒められて嬉しそうに笑うトゥルネン。アルメヒティヒが褒めたのはなにも身体能力強化の魔法だけではない。簡易的とはいえ『家』を作る設計図すらなくここまでしっかりしたものを作り出したトゥルネンの潜在能力の高さこそを褒めたのだ。
「えっと、家はあって、アルメヒティヒが居てくれるから…次は、食べ物?あと飲み水?」
「そうですね、とりあえず…」
アルメヒティヒはハイデ領を見渡す。
「まずは食べ物と飲み物を探しつつ領内の状況を把握しましょうか」
「はーい」
アルメヒティヒがトゥルネンを抱き上げて領内を歩いていく。トゥルネンは抱き上げられた状態で「あれは食べられるきのこだね」「あれはポーションの材料だね」「あれはきちんと調理したら美味しく食べられるよ」「あの実は酸っぱいから食べられないね」「あ、あの鳥は身体能力強化の魔法を使って捕まえよう!美味しいよ!」「あ、この湧き水は安全そうだよ!飲み水にしよう!」と解説していく。アルメヒティヒはそれを参考に食べられるものとポーションの材料を収穫していく。トゥルネンは時折アルメヒティヒの腕を降りて動物をその細腕一つで狩る。気付いたら結構な大荷物になっていた。
「一度戻りましょうか」
「うん」
トゥルネン自作の家に戻ると、二人は焚き火を囲んでアルメヒティヒが食べ物を調理する。
「んー、美味しい!」
「私が錬金術でポーションを作りますので、しばらくはそれを売りながら領地を開拓して行きましょう」
「うん!あ、あと、お野菜の種と農具を金貨で買おうね!あと動物用の罠も買おう!あと、釣竿も買って川でお魚を取ろうね!それで余りは売るの!身体能力強化の魔法で普通の五倍は働けるもん!頑張ろうね!」
「はい、お嬢様」
ー…
八年が経過した。ハイデ領は領民こそいないが着実に開拓が進んでいた。二人が身体能力強化の魔法でコツコツと農作業をし、狩りをし、釣りをしながら手を入れてきたハイデ領は、むしろ二人以外に人がいないのが惜しい程に豊かになっていた。もちろんいつ移住者が来てもいいようにトゥルネン自作の木の家もたくさん建てられている。ついでに言えばトゥルネン達はその中で一番広くて快適な家に住んでいる。ということで人さえ呼び込めれば一大領地になるだろう。
「そろそろ領民を集めましょうか」
「それじゃあ近くの町の掲示板に求人広告を出そう!家も農地も狩場も漁場もあるから、好きな家に住んで、好きなように働いて、好きなように稼いでくれれば、あとは税金さえ納めてくれればいいよって広告にしよう!」
「農地や狩場や漁場を売るのではなく譲渡されるのですか?」
「だってこの八年で金貨も銀貨もたくさん稼げたし、お父様への上納金がネックだけどまあまだなんとかなるし良くない?」
「まあ、確かに移住者がまじめに働いて税金を納めてくれれば採算は取れますね。わかりました、銀貨を払い広告を掲載してもらいましょう」
「わーい」
ー…
「あの、この広告を見て来たんですけど!」
「はい、いらっしゃい。すみません、君が最後の移住者になるので家はここしか空いていませんが大丈夫ですか?」
「えっと…はい!むしろ本当にただで住んでいいんですか?」
「ええ。構いませんよ。仕事場は農地のこの一角になります。では、頑張ってくださいね。よろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いします!」
五年が経過した。ハイデ領には大量の移住者が増えて、もうトゥルネンやアルメヒティヒが自ら働かなくとも税金で食べていけるようになっていた。ついでに自作の家はさらに広く快適になっている。
「お父様への上納金を差し引いても全然余裕になったね!」
「そうですね、お嬢様。さすがはお嬢様です」
「いやー、それほどでも」
「旦那様もそろそろお嬢様の婚約者をお決めになられる頃でしょうか?」
「あ、それだけど、アルメヒティヒが私の婚約者になったよ。まあ、正式な手続きはまだだけど」
「…え?」
「あ、やっぱりまだ聞いてなかった?私が上納金を値切らない代わりにお願いを聞いて貰ったんだ!アルメヒティヒは嫌?」
「え、あ…い、いえ、嫌ではありませんが…平民である私などが、そんな…」
「私はアルメヒティヒがいいの!お願い!」
「お嬢様…」
アルメヒティヒはしばらく悩んだ後、トゥルネンに微笑む。
「…私などでよろしければ、喜んで。生涯、夫としてお嬢様をお支え致します」
「!…アルメヒティヒ、ありがとー!」
アルメヒティヒに抱きついて喜ぶトゥルネン。そんなトゥルネンに蕩けるような笑みを向けるアルメヒティヒ。これからも二人はお互いを支え合い幸せに領地を経営していくだろう。
トゥルネン・ヴンダー。ゲシェンク国の筆頭公爵家の末娘。彼女は五歳の誕生日を迎えた今、最大のピンチに直面している。
このゲシェンク国では貴族の子供は五歳の誕生日にギフトを神から授けられる。それは才能や魔法など様々な種類がある。そして栄えある公爵家の末娘に与えられたギフトは…あろうことか身体能力強化の魔法だった。
「使えんな。長男は領地経営の才能、次男は聖人の位、三男は賢者の位。長女や次女は音楽や芸術の才能。それに比べて、なんなのだ、お前のギフトは」
実はこの状況、すごくまずい。下手を打てば「病死」させられかねない。
「お父様…」
トゥルネンは震え上がり父を見る。父の目には冷たい温度しかなかった。が、その後顔色が変わる。
「…いや、待てよ?ふむ…うん、よし、トゥルネン。幼いお前に誉をくれてやろう」
「え…?」
「ハイデ領をお前にくれてやろう。領地経営してみなさい」
「…は、はい!」
ハイデ領。ヴンダー家の領地の中で唯一開拓出来ていない未開の地。名前だけの領地である。トゥルネンの父は、未だ幼い末娘に酷な仕事を与えたのだ。もし何かの間違いで開拓出来れば御の字だし、そうでなくても別に困らない。そしてトゥルネンは父の気まぐれに縋り付くしかない。そうでなければ最悪殺される。
「では、金貨をいくらかやろう。今すぐに領地に向かえ。達者でな。ああ、お前の執事のアルメヒティヒだけは連れて行ってもいいぞ。あれは万能ではあるが従順さに欠けるからな」
「は、はい、お父様…」
そしてトゥルネンはハイデ領に追い出されたのだった。
ー…
「お嬢様、着きましたよ」
アルメヒティヒはトゥルネンを馬車から降ろす。馬車はさっさとヴンダー家に帰ってしまう。薄情にも思えるが仕方がない。アルメヒティヒは未だ幼い自らの主人を少ない金貨でどう養っていくかを考える。トゥルネンの父はアルメヒティヒを従順さに欠けると言ったが、実際にはちょっと違う。主人たるトゥルネン以外には興味がないだけなのだ。アルメヒティヒはトゥルネンという主人を高く買っていた。トゥルネン以外に自分の主人に相応しい人間はいないとすら思っていた。
「アルメヒティヒ…私のせいでごめんね」
「何を仰います。このアルメヒティヒ、お嬢様のためにならこの身も捧げましょう。お嬢様はどーんと構えていればよろしいのです」
「ふふ、アルメヒティヒったら。…とりあえず、家が必要…だよね?」
「そうですね、お嬢様。どこか近くに安くて良い宿がないか探しに…」
「ううん。私が作るよ」
「お嬢様?」
「せっかくの身体能力強化の魔法だもん。使いこなして見せなきゃね」
そして、トゥルネンは身体能力強化の魔法を使う。異様なまでの力強さ、身のこなしの速さであっという間にその辺に生えていた木で簡易的な家を建てて見せた。ご丁寧に屋根まである。地震でも起こらない限り崩れないだろう頑丈さだ。
「…さすがはお嬢様。やはり貴女は転んでもただでは起きないのですね」
「えーっと、褒めてる?」
「はい」
「えへへ」
褒められて嬉しそうに笑うトゥルネン。アルメヒティヒが褒めたのはなにも身体能力強化の魔法だけではない。簡易的とはいえ『家』を作る設計図すらなくここまでしっかりしたものを作り出したトゥルネンの潜在能力の高さこそを褒めたのだ。
「えっと、家はあって、アルメヒティヒが居てくれるから…次は、食べ物?あと飲み水?」
「そうですね、とりあえず…」
アルメヒティヒはハイデ領を見渡す。
「まずは食べ物と飲み物を探しつつ領内の状況を把握しましょうか」
「はーい」
アルメヒティヒがトゥルネンを抱き上げて領内を歩いていく。トゥルネンは抱き上げられた状態で「あれは食べられるきのこだね」「あれはポーションの材料だね」「あれはきちんと調理したら美味しく食べられるよ」「あの実は酸っぱいから食べられないね」「あ、あの鳥は身体能力強化の魔法を使って捕まえよう!美味しいよ!」「あ、この湧き水は安全そうだよ!飲み水にしよう!」と解説していく。アルメヒティヒはそれを参考に食べられるものとポーションの材料を収穫していく。トゥルネンは時折アルメヒティヒの腕を降りて動物をその細腕一つで狩る。気付いたら結構な大荷物になっていた。
「一度戻りましょうか」
「うん」
トゥルネン自作の家に戻ると、二人は焚き火を囲んでアルメヒティヒが食べ物を調理する。
「んー、美味しい!」
「私が錬金術でポーションを作りますので、しばらくはそれを売りながら領地を開拓して行きましょう」
「うん!あ、あと、お野菜の種と農具を金貨で買おうね!あと動物用の罠も買おう!あと、釣竿も買って川でお魚を取ろうね!それで余りは売るの!身体能力強化の魔法で普通の五倍は働けるもん!頑張ろうね!」
「はい、お嬢様」
ー…
八年が経過した。ハイデ領は領民こそいないが着実に開拓が進んでいた。二人が身体能力強化の魔法でコツコツと農作業をし、狩りをし、釣りをしながら手を入れてきたハイデ領は、むしろ二人以外に人がいないのが惜しい程に豊かになっていた。もちろんいつ移住者が来てもいいようにトゥルネン自作の木の家もたくさん建てられている。ついでに言えばトゥルネン達はその中で一番広くて快適な家に住んでいる。ということで人さえ呼び込めれば一大領地になるだろう。
「そろそろ領民を集めましょうか」
「それじゃあ近くの町の掲示板に求人広告を出そう!家も農地も狩場も漁場もあるから、好きな家に住んで、好きなように働いて、好きなように稼いでくれれば、あとは税金さえ納めてくれればいいよって広告にしよう!」
「農地や狩場や漁場を売るのではなく譲渡されるのですか?」
「だってこの八年で金貨も銀貨もたくさん稼げたし、お父様への上納金がネックだけどまあまだなんとかなるし良くない?」
「まあ、確かに移住者がまじめに働いて税金を納めてくれれば採算は取れますね。わかりました、銀貨を払い広告を掲載してもらいましょう」
「わーい」
ー…
「あの、この広告を見て来たんですけど!」
「はい、いらっしゃい。すみません、君が最後の移住者になるので家はここしか空いていませんが大丈夫ですか?」
「えっと…はい!むしろ本当にただで住んでいいんですか?」
「ええ。構いませんよ。仕事場は農地のこの一角になります。では、頑張ってくださいね。よろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いします!」
五年が経過した。ハイデ領には大量の移住者が増えて、もうトゥルネンやアルメヒティヒが自ら働かなくとも税金で食べていけるようになっていた。ついでに自作の家はさらに広く快適になっている。
「お父様への上納金を差し引いても全然余裕になったね!」
「そうですね、お嬢様。さすがはお嬢様です」
「いやー、それほどでも」
「旦那様もそろそろお嬢様の婚約者をお決めになられる頃でしょうか?」
「あ、それだけど、アルメヒティヒが私の婚約者になったよ。まあ、正式な手続きはまだだけど」
「…え?」
「あ、やっぱりまだ聞いてなかった?私が上納金を値切らない代わりにお願いを聞いて貰ったんだ!アルメヒティヒは嫌?」
「え、あ…い、いえ、嫌ではありませんが…平民である私などが、そんな…」
「私はアルメヒティヒがいいの!お願い!」
「お嬢様…」
アルメヒティヒはしばらく悩んだ後、トゥルネンに微笑む。
「…私などでよろしければ、喜んで。生涯、夫としてお嬢様をお支え致します」
「!…アルメヒティヒ、ありがとー!」
アルメヒティヒに抱きついて喜ぶトゥルネン。そんなトゥルネンに蕩けるような笑みを向けるアルメヒティヒ。これからも二人はお互いを支え合い幸せに領地を経営していくだろう。
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