とある鬼と雛鳥の話

下菊みこと

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雛鳥と風呂

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「…えっと」

おずおずと口を開くそれに目を向ける。

「…ありがとうございます?」

「なんで疑問形」

「ええ…いや…うーん?」

はてなをたくさん浮かべる。

自分の状況も理解していないらしい。

が、俺に向けた目はキラキラしている。

さっき見たとき、一瞬だけ奴らへ向けた目は酷く冷めていたくせに。

ああ…数百年ぶりに、珍しい感情を得た気がする。

…愛玩、かな?

「とりあえず、食事をとるといい。怪我の手当ては面倒くさいから風呂の後で」

「はい」

「お疲れ様」

頭を撫でる。

きょとんとする。

言われていることがわからないらしい。

…そんなボロボロになるまで耐え忍んでいたことを、労っているのだけど。

まあ、せっかく愛玩するのであれば頭が鈍い方が可愛いというものだ。

「旦那様、食事をお持ちしました」

「うん、ありがとう」

奴らは俺の腕の中にいる…いわゆるラッコさん座りという状態にあるこれに対して嫌な目を向ける。

むかつく。

視線を下に向けてあれを見れば、怯えたように身体を竦ませ俺に寄りかかりさも恐怖したような様子のくせに。

目だけ、異様に冷めていた。

…ぞくりと腹が疼く。

欲だとわかるが、これがどんな欲がわからない。

「…旦那様、そのような汚い娘にそのように寵愛を与えるのは」

「ふふ、おかしなことを言う」

寵愛、なんてものじゃない。

ただの愛玩。

「さあ、この子に食事を与えるから下がっていいよ」

有無は言わせない。

出て行け。

不満げな様子で部屋を後にする奴らに呆れつつ、腕の中のこれに声をかける。

「大丈夫かい?」

「あなた様が居ますので」

「なにそれ」

くすくす笑う。

こんなに穏やかに笑うのはいつ振りだろう。

「ほら、俺が食わせてやろう」

俺はふと興味を持ち、これに手ずから食事を与える。

最初に遠慮こそしたが抵抗もせず俺の腕の中で、俺が口元へ持っていく食事を素直に口に入れる。

…食事は、これと俺のを交換した。

これに与えられた飯があまりにも粗末で、俺は基本食事などそもそもいらないし。

「お前はまるで雛鳥のようだね」

「ひな…」

「良い子」

愛玩というのは、こんなにも心満ちる行為なのか。

面白い。

頭を撫でてやれば、目を細める。

ああ…馬鹿だなぁ。

「食べたね、偉い偉い」

「ご馳走さまでした」

結局全て食べ終えるまで手ずから与えて、その後風呂に連れて行く。

俺の部屋は風呂付トイレ付だ。

奴らに与える大浴場になんかやらない。

「入ろうか」

「はい」

一応俺は男で、これは女なのに臆面もなく脱ぎ出す。

馬鹿で可愛い。

まあ、これの予想通り人間に欲情などしないけど。

身体を洗ってやり、全身の傷を改めて確認する。

可哀想に、ボロボロだ。

性器も含めて。

ただ、まあ、病気はないのはわかる。

俺は人間ではないからね。

病気でも別に、腐り落ちて死なない限りどうでもいいけれど。

「お前、よっぽどだねぇ」

「そうですか?」

きょとんとする。

だがわかっていないわけではないらしい。

おそらくなにもかも実感がないのだろう。

頭の中の回路を、自ら焼き切ったのだとわかる。

愚かで愛おしい。

「さて、湯船で温まろう」

傷は痛いだろうが、俺は温まりたいしこれをひとりにする気もないので我慢させる。

痛いだろうに、湯船で俺に抱きしめられて心底ほっとした顔。

馬鹿だなぁ。

「言いたくないなら答えなくてもいいけれど」

「…?」

「…お前、前の」

飼い主は?

とは聞けなかった。

理由なんぞ知らない。

聞きたくないと思った。

俺も馬鹿かもしれない。

「前の…服は捨てていいかい?俺の服を与えてやろう」

「わーい」

言葉の割に平坦な声。

でも、俺に向けた目はキラキラしている。

可愛らしいと思った。
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