彼の義妹は、本当に可哀想な子だ。

下菊みこと

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愛し合う二人を引き裂くことなど出来ないものです

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彼の義妹は、本当に可哀想な子だ。

「すみません…妹がまた熱を出して…」

「それは心配ですね…では今日のデートは中止にしましょう」

「その…いつもすみません。決して貴女を蔑ろにするつもりはないんです。本当に愛しています」

「ありがとうございます。私も大好きですよ」

「この埋め合わせは、後日必ず。失礼します」

婚約者は私に背を向けて去っていく。

「…貴方はいつも優しい。貴方はいつも愛を囁いてくれる。貴方は贈り物も欠かさない。貴方は私を想ってくれていると伝わっていますよ」

ただ、それでも。たまにしか会えないその日に限って、貴方の義妹は熱を出す。貴方に甘え、すぐ帰ってきてと強請る。優しい貴方はそれを拒絶できない。

「大好きです。これは本当。貴方が愛してくれているのも、恐らく本当。だけど…」

あの義妹は、邪魔だなぁと思うのです。

ああ、私は。

優しい貴方には相応しくないほど、とても内面が醜い女なのです。






















彼は生まれながらの婚約者。私達は、親に決められた婚約者でありながらお互いに惹かれあった。

そんな彼に、去年義妹が出来た。義妹は、彼の両親のお友達の娘さん。両親を事故で失い路頭に迷っていた彼女を、彼が偶然見つけ保護したことで結果的に養子縁組にまで繋がった。…彼女は、自分を助けてくれた彼を〝自分の理想の王子様〟だと思っている。

私から奪うつもり満々なのだ。…これはあくまでも政略結婚。私から奪ったところで、彼は別のお嫁さんを見つけることになるというのに。全く現実が見えていない。…元々庶民の生まれなのだから、仕方がないのかもしれないけれど。

ああ、でも確かに彼女は可哀想なのだろう。平民が、いきなり貴族の仲間入り。彼女は結局、家族以外の誰からも受け入れられはしない。

…でも、邪魔なものは邪魔なのだ。

「呪術師を呼んで」

「はい、お嬢様」

これは、貴族であれば多かれ少なかれ取ることのある手段。痕跡も残らず、確実に邪魔者を排除できる。…まあ、貴族同士だと結界を張ってる場合もあるから通じるかどうかは相手次第だけれど。彼女は今は貴族。けれど元平民。養子縁組したとはいえ、結界を張ってまで守られるような対象でもない。

元平民の彼女は、思い至らなかったようだけれど。幼稚な手段でしか、私の邪魔をできなかったものね。

…さて、どんな呪いを仕掛けようか。






















「…妹さんのこと、お悔やみ申し上げます」

「いえ…いきなり血を吐いて倒れて…元々丈夫な子ではなかったですから…」

「…こんな結果になって残念です」

「そうですね…けれど、本当の家族と天国で再会できたことを祈りましょう」

「ええ。こんな時ですけれど…どうか、気を落とさずに」

彼は少しだけ困ったように笑う。

「こんな時に、こんなことを言うのは間違いなのでしょう。ですが…正直、少しほっとしてしまったのです」

「え?」

「君との時間を邪魔する…つもりはなかったのでしょうが、結果そうなっていた妹が。…内心、疎ましかった」

私は思わず驚いた。穏やかで優しい彼にしては珍しいと。

「…君に嫌われたくなかった。君は僕の世界の中心です。君を失うわけにいかない。…だけど、こんなことを思うのは間違っている。…ああ、こんなことを言っては、余計に君に嫌われてしまうのに。それでも懺悔せずにはいられない。僕は…最低な男です」

私は彼を抱きしめる。

「…慰めてくださるのですか」

「はい」

「こんな最低な男なのに?」

「私は、貴方にそんなにも大切に思っていただけて本当に嬉しいです。どうか、そんなことを仰らないで。貴方は世界一素敵な方です。…ほんのちょっと、嫌に思う相手なんて人生で複数人いるものですわ。それがたまたま義妹だっただけです」

「…君は本当に、優しいですね」

抱きしめ返されて、幸せを感じる。ああ、私達はこんなにも愛し合っている。

「…ずっとずっと、愛しています。たとえ、誰に糾弾されるとしても」

「僕も、君を心から愛しています。たとえ、誰に憎まれることになっても」

その言葉を聞いて、ふと疑問が浮かんだ。憎まれるとは?…もしかして、もしかすると。

彼女を呪ったのは、私だけではないのかも?

そう考えると、一層彼が愛おしく思えて。

「…おや、君からキスしてくれるなんて珍しいですね」

「ふふ、どうかこれで元気を出してくださいませ」

「君には本当に敵わないですね…」

そう言って照れ臭そうに笑う彼が私は世界一大好きなのだ。

そんな私から、彼を奪えるわけがないのにね。

本当に、可哀想に。
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