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友情を悪魔に売ったのだと罪悪感を抱くが、甘やかされていくうちに違和感に気付いた。
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「マルスリーヌ!よく来てくれたね。さあ、今お茶を淹れるから待っていて!」
大学の研究室。彼はいつも通り私に紅茶を淹れる。お互いがお互いの唯一の友人。変わり者の私達は寄り添い合い、大切を積み重ねていた。
ー…今から私は、その信頼をへし折る。
「さあ、マルスリーヌ!飲んでおくれ!今日は特別に素敵なジャムも淹れてみたよ」
「あの、エルキュール。私もお勧めのジャムを持ってきたから、入れてあげる」
「…?珍しいね。ありがとう」
エルキュールの紅茶に、彼に見えないようにジャムと偽り媚薬を入れる。ちょっと怪しかったかな。いっそバレて、罵られて、失敗してしまえばいいのに。
「はい、エルキュール。どうぞ」
「ありがとう、マルスリーヌ。…え、この香りは?」
「…じゃ、ジャムの香り、だけど?」
「…そう。マルスリーヌ」
「なに?」
エルキュールに、抱きしめられた。
「好きだよ」
「…!?」
飲んでないのに効いた!?匂いだけで!?嘘だぁ!?
「愛してる。マルスリーヌは?」
こ、こうなったら仕方がない。
「もちろん、私も愛してるわ」
「ああ…僕たち両想いだね。夢みたいだ…」
私にとっては、友人を裏切った悪夢なんだけど。
ふと、エルキュールの淹れてくれた紅茶の香りがした。エルキュールがジャムを入れてくれたというその紅茶からは何故か、私がジャムと偽った媚薬の匂いとよく似た香りがした。
うちは貧乏な公爵家だ。家名ばかり広まり、歴史ばかり古く、親戚づきあいばかりが良い。お陰で面子のために煌びやかに着飾っているが、裏では借金まみれ。理由は多いが、あえて一つ挙げるとするなら先先代が派手好きで金食い虫だったせいだ。
領地は広く、健全な領地経営で収入は多い。本来なら、並みの商人よりお金持ちのはず。でも、先先代の残した借金の返済にほとんどを使う。自転車操業に近い。両親は頑張っているが、いつまでこんな状況が続くのか。先が見えないのに、両親も兄も気付いていた。それでも私には心配させまいと何も言わず、公爵家の娘として贅沢をさせて大学にまで出してくれた。
そこで私が仲良くなったのが、天才魔法学者のエルキュール。エルキュールの家は元々裕福な商家で、他国との交易などで王室から功績を称えられ男爵位を賜った。その家の末の息子である彼は、魔法学にのめり込み若くして学者としての頭角を現した。結果家の名前に箔をつけるのに貢献したとして、割と好き勝手させてもらっているらしい。
エルキュールの家は男爵位とはいえ、下手な家よりお金持ち。そんな家の息子と仲良くなった娘に、両親はとうとう我が家の真実を話した。それが昨日のこと。そして、両親は私に懇願した。この媚薬をエルキュールに盛って、エルキュールと結婚して結納金を家に入れて欲しいと。私は友達と家族を天秤に掛けて、友情を悪魔に売ったのだ。
なのだが。
「愛するマリー。今日は新しい魔法陣を完成させたんだ。収入も増えるよ。実家からの仕送りがなくてもマリーを養えるから安心してね。ああ、益々結婚が楽しみだ!」
「そ、そうね。結納金なんだけど…」
「両親が僕らのことを祝福してくれたよ!あの公爵家と繋がりが持てると大喜びで、多額の結納金を公爵家に払うと約束するよ」
「あ、ありがとう…」
上手く行き過ぎて、怖い!!!
「マリーは僕が好き?愛してる?」
「も、もちろんよ。貴方を心から愛しているわ」
「マリー!愛してる!子供はサッカーチームが作れるくらい欲しい!」
「それは流石に無理がないかしら!?」
なんか、めちゃくちゃ溺愛されている…。いや、媚薬の効果なんだろうけど効きすぎて怖い。飲んでないのに匂いだけでこんなに効くとか、飲んだらどうなってたんだろう。
「ところで、マリー。そろそろ結婚式の準備も始めなくちゃね。あと、両家の顔合わせ…結納式もしなくちゃ。やることがたくさんだけど、マリーは疲れていない?大丈夫?」
「舐めないで。私、体力には自信があるわ」
精神的には磨り減ってるけど。
「なら、早速なんだけど…悪いんだけど来週には結納式がしたい」
「え、両家の顔合わせもまだよ?」
「両親がマリーの気が変わる前に早くやりたいって。午前中に顔合わせの食事会、午後に結納式にしよう。マリーの両親がよろしければだけど」
「こっちはもういつでもウェルカムよ。うちの両親エルキュールとの結婚楽しみにしてるもの」
「本当に?嬉しいなぁ」
…ひとつ。気になっていることがある。両親からの懇願で泣く泣く大切だった友達に媚薬を盛った私だけれど、怖いくらい溺愛されてそれは正直有り難い。でも、彼が勧めてくれたお茶からも同じ香りがしていたのは気のせいかな。
ある可能性がずっと頭を掠めている。もしかして彼は媚薬が効いているのではなくて、最初からそのつもりだったのではないかと。そして、私が媚薬を盛ろうとしたことに気づいた彼は、両想いなのだと舞い上がっているのではないかと。
…彼はあの日、私を無理矢理にでも手に入れるつもりだったのではないだろうか。
「…変人だとは思っていたけれど、まさかヤンデレだったなんて」
とんでもない人に捕まったかもしれない。
「マリー、ヤンデレってなに?変人って僕のこと?」
「ものすごく愛してくれる人をヤンデレって言うのよ。そこも含めて変人よね、貴方」
「えへへ。マリーが魅力的だからだよ」
「…そんな変人を愛してる私も、やっぱり変人なんだわ」
「えー?今更?」
まあ、でも、媚薬の効果なしにそこまで愛されているのなら悪い気はしない。何故なら私も、溺愛が始まってから数日でころっと彼に堕ちてしまったからである。
だってこんなに好き好き愛してるって言われたらこっちだって好きになっちゃうじゃん!私悪くない!
「マリー、マリー、愛してる。ずっとずっと大事にするよ」
「そう。私も愛してるわ。今更誰にも渡してあげないから、覚悟しなさい」
「ふふふ、なにそれ幸せだなぁ。マリーも誰にも渡してあげない!」
とりあえず、こんな二人だけど幸せになっていいのよね…?…いっか!
大学の研究室。彼はいつも通り私に紅茶を淹れる。お互いがお互いの唯一の友人。変わり者の私達は寄り添い合い、大切を積み重ねていた。
ー…今から私は、その信頼をへし折る。
「さあ、マルスリーヌ!飲んでおくれ!今日は特別に素敵なジャムも淹れてみたよ」
「あの、エルキュール。私もお勧めのジャムを持ってきたから、入れてあげる」
「…?珍しいね。ありがとう」
エルキュールの紅茶に、彼に見えないようにジャムと偽り媚薬を入れる。ちょっと怪しかったかな。いっそバレて、罵られて、失敗してしまえばいいのに。
「はい、エルキュール。どうぞ」
「ありがとう、マルスリーヌ。…え、この香りは?」
「…じゃ、ジャムの香り、だけど?」
「…そう。マルスリーヌ」
「なに?」
エルキュールに、抱きしめられた。
「好きだよ」
「…!?」
飲んでないのに効いた!?匂いだけで!?嘘だぁ!?
「愛してる。マルスリーヌは?」
こ、こうなったら仕方がない。
「もちろん、私も愛してるわ」
「ああ…僕たち両想いだね。夢みたいだ…」
私にとっては、友人を裏切った悪夢なんだけど。
ふと、エルキュールの淹れてくれた紅茶の香りがした。エルキュールがジャムを入れてくれたというその紅茶からは何故か、私がジャムと偽った媚薬の匂いとよく似た香りがした。
うちは貧乏な公爵家だ。家名ばかり広まり、歴史ばかり古く、親戚づきあいばかりが良い。お陰で面子のために煌びやかに着飾っているが、裏では借金まみれ。理由は多いが、あえて一つ挙げるとするなら先先代が派手好きで金食い虫だったせいだ。
領地は広く、健全な領地経営で収入は多い。本来なら、並みの商人よりお金持ちのはず。でも、先先代の残した借金の返済にほとんどを使う。自転車操業に近い。両親は頑張っているが、いつまでこんな状況が続くのか。先が見えないのに、両親も兄も気付いていた。それでも私には心配させまいと何も言わず、公爵家の娘として贅沢をさせて大学にまで出してくれた。
そこで私が仲良くなったのが、天才魔法学者のエルキュール。エルキュールの家は元々裕福な商家で、他国との交易などで王室から功績を称えられ男爵位を賜った。その家の末の息子である彼は、魔法学にのめり込み若くして学者としての頭角を現した。結果家の名前に箔をつけるのに貢献したとして、割と好き勝手させてもらっているらしい。
エルキュールの家は男爵位とはいえ、下手な家よりお金持ち。そんな家の息子と仲良くなった娘に、両親はとうとう我が家の真実を話した。それが昨日のこと。そして、両親は私に懇願した。この媚薬をエルキュールに盛って、エルキュールと結婚して結納金を家に入れて欲しいと。私は友達と家族を天秤に掛けて、友情を悪魔に売ったのだ。
なのだが。
「愛するマリー。今日は新しい魔法陣を完成させたんだ。収入も増えるよ。実家からの仕送りがなくてもマリーを養えるから安心してね。ああ、益々結婚が楽しみだ!」
「そ、そうね。結納金なんだけど…」
「両親が僕らのことを祝福してくれたよ!あの公爵家と繋がりが持てると大喜びで、多額の結納金を公爵家に払うと約束するよ」
「あ、ありがとう…」
上手く行き過ぎて、怖い!!!
「マリーは僕が好き?愛してる?」
「も、もちろんよ。貴方を心から愛しているわ」
「マリー!愛してる!子供はサッカーチームが作れるくらい欲しい!」
「それは流石に無理がないかしら!?」
なんか、めちゃくちゃ溺愛されている…。いや、媚薬の効果なんだろうけど効きすぎて怖い。飲んでないのに匂いだけでこんなに効くとか、飲んだらどうなってたんだろう。
「ところで、マリー。そろそろ結婚式の準備も始めなくちゃね。あと、両家の顔合わせ…結納式もしなくちゃ。やることがたくさんだけど、マリーは疲れていない?大丈夫?」
「舐めないで。私、体力には自信があるわ」
精神的には磨り減ってるけど。
「なら、早速なんだけど…悪いんだけど来週には結納式がしたい」
「え、両家の顔合わせもまだよ?」
「両親がマリーの気が変わる前に早くやりたいって。午前中に顔合わせの食事会、午後に結納式にしよう。マリーの両親がよろしければだけど」
「こっちはもういつでもウェルカムよ。うちの両親エルキュールとの結婚楽しみにしてるもの」
「本当に?嬉しいなぁ」
…ひとつ。気になっていることがある。両親からの懇願で泣く泣く大切だった友達に媚薬を盛った私だけれど、怖いくらい溺愛されてそれは正直有り難い。でも、彼が勧めてくれたお茶からも同じ香りがしていたのは気のせいかな。
ある可能性がずっと頭を掠めている。もしかして彼は媚薬が効いているのではなくて、最初からそのつもりだったのではないかと。そして、私が媚薬を盛ろうとしたことに気づいた彼は、両想いなのだと舞い上がっているのではないかと。
…彼はあの日、私を無理矢理にでも手に入れるつもりだったのではないだろうか。
「…変人だとは思っていたけれど、まさかヤンデレだったなんて」
とんでもない人に捕まったかもしれない。
「マリー、ヤンデレってなに?変人って僕のこと?」
「ものすごく愛してくれる人をヤンデレって言うのよ。そこも含めて変人よね、貴方」
「えへへ。マリーが魅力的だからだよ」
「…そんな変人を愛してる私も、やっぱり変人なんだわ」
「えー?今更?」
まあ、でも、媚薬の効果なしにそこまで愛されているのなら悪い気はしない。何故なら私も、溺愛が始まってから数日でころっと彼に堕ちてしまったからである。
だってこんなに好き好き愛してるって言われたらこっちだって好きになっちゃうじゃん!私悪くない!
「マリー、マリー、愛してる。ずっとずっと大事にするよ」
「そう。私も愛してるわ。今更誰にも渡してあげないから、覚悟しなさい」
「ふふふ、なにそれ幸せだなぁ。マリーも誰にも渡してあげない!」
とりあえず、こんな二人だけど幸せになっていいのよね…?…いっか!
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