1 / 1
兵士達は言う。あの夫婦少しは大人しくできないのかと。
しおりを挟む
「アルト様ー!好きです!今日もカッコいいです!」
「どうもありがとうございます。君は今日も元気ですね」
「アルト様のお顔を見られて朝から幸せですから!」
「いっそ少しは静かになったらいいのに」
「アルト様を見るだけでテンション上がるので無理です!」
「はぁ…ほら、ルリア。行きますよ」
「はーい!」
朝から盛大な夫婦漫才を披露するのはルリア・ヴォーティガーンとアルト・ヴォーティガーン。もちろんれっきとした夫婦である。18歳の彼等は結婚したばかりだが、国のエリートばかりが集まる魔法省でバリバリ働いている。二人がタッグを組めば怖いもの無しだと前線に駆り出されることも多々あるほどに。
ルリアは男爵令嬢として育ったが、貴族のご令嬢というよりは自由に育った平民の感覚に近い価値観を持っている割とフリーダムな女性。しかし見た目が抜群に良い。小柄で童顔、華奢で守ってあげたくなるタイプだ。そのためアルトのことを知っていながらアプローチをかける上位貴族のボンボンもいるが、爵位なんぞどうだって良いルリアは靡かない。なんならかなり辛辣に振る。報復されても良いと開き直っているルリアにアルトの方が肝を冷やしている。そんなアホの子なのに魔法省で働けるのは他ならぬ彼女の努力の賜物である。特に魔法の実技は大の得意である。
アルトは子爵家の跡取り息子でありながら勉学に励み、魔法省の官僚の中でもトップクラスの知識を持ち合わせている。魔法の座学においては誰にも負けない。ルリアのように無詠唱でバンバン上級魔法を打ち込むのは無理だが、緻密な魔法陣を組み上げ強力な極大魔法で一気に形勢を逆転するのが得意だ。そのため妻と共に良く前線に駆り出されるが、本人は『官僚として』働きたいので不本意である。
そんな二人、今日も前線に駆り出されることになっている。今、国は隣国と対立している。進行してくる隣国の魔の手から国民達を守るためにとみんな頑張っているところだ。二人の活躍で今のところ戦いは有利に進んでいる。
「さて。ではアルト様。私は敵陣に単騎で突っ込んでくるので、極大魔法の準備よろしくです!」
「君は考え無しで突っ込むので心配です」
「アルト様が…私を心配してくださった…!」
「前言撤回です、さっさと突っ込んで来なさい」
「はい!」
アルトは、実はルリアに防御力の高い結界型の魔法陣を何重にも掛けているがルリアは知らない。知らないのに、最終的にアルトが必ず勝つと信じて何も考えず敵陣に突っ込む。そんなルリアは戦場の悪魔と敵から罵られているが、バーサーカーじみたその力も全ては愛故である。そんなルリアが本当はなによりも愛おしいアルトは、極大魔法を緻密な魔法陣により発動する際も必ずルリアの帰還を待ってからと決めていた。
「…ふぅ」
粗方敵陣の魔法陣、魔法具、そして敵兵達を〝粉々に砕いた〟ルリアはため息をつく。この血の海は自らの罪の証。大義名分があろうとも、人の命は尊いものだと思うルリアにはそれは罪でしかない。それでも戦うのは、ただ愛する人のため。一人で戦わせるつもりなど毛頭ない。死ぬならば二人一緒に。罪も二人で一緒に。
そんなルリアに、漆黒の武具を纏う騎士が声を掛けた。
「貴様が戦場の悪魔か?」
「そうですよー?…敵さんですか?」
「そうだな」
騎士はこれから戦うというには余りにも軽い雰囲気で声をかけてくる。
「この惨状は全て貴様が築いたものか」
「お仲間さんは、果敢にも私を討ち取ろうと最期まで戦われました。立派な最期でしたよ」
「…そうか」
兜のせいで、騎士の表情はわからない。だが、ルリアは騎士から目を逸らさなかった。
「…寝返る気はないか?」
てっきり憎しみをぶつけてくると思ったが、騎士は意外な提案をしてくる。が、ルリアが受け入れるはずがない。
「愛する人を裏切れません」
「そうか。夫がいたか。…残念だ」
ルリアは隙をついて無詠唱で騎士に上級魔法をぶつけた。しかし騎士は動じない。…武具に傷すら入っていない。
ルリアはさっと血の気が引いたが、撤退は有り得ない。夫に逃げ帰る様など見せられない。
「なら、無理矢理連れて帰る。戦利品として、俺の妻になって貰おう」
ルリアに切り掛かりながらなんとも身勝手なことを言う騎士にルリアは困惑した。防御魔法を発動させながら口を開く。
「え、急になんですか?」
「戦うお前の姿に惚れた。好きだ」
「愛する人がいるんで」
「だから、無理矢理にでも連れて帰る」
「馬鹿なんですか!?」
防御魔法を複数展開させながらも劣勢に追い込まれるルリアは騎士を見つめるが、どうも本気らしい。自分以上の馬鹿を初めてみた。
この状況に怒り狂ったのは他でもない。…アルトだった。
実はアルト、極大魔法のための魔法陣を形成しながらも監視用の使い魔を飛ばしてルリアの様子を見ていた。
人の妻に手を出されそうになりぶち切れたアルトはいつもの倍のスピードで極大魔法の魔法陣を形成。ルリアの足元に転移魔法陣を一瞬で浮かび上がらせて、強制的にルリアを連れ帰った。
転移魔法で飛ばされたルリアは困惑。その間にアルトは極大魔法を打ち込んだ。
例の騎士はただ一人だけ、アルトの極大魔法にも耐えて戦場に立っていたがアルトはそこで上に報告するでもなく己の魔力のギリギリ限界まで騎士に対して魔法を仕掛けた。しかしそれは上級魔法や極大魔法ではなく〝ハゲ始まる魔法〟〝水虫になる魔法〟〝老眼になる魔法〟などおふざけで作ったシャレにならない悪戯魔法である。アルトはちょっと冷静ではなかった。
その後、戦場には一人だけの生き残りであった騎士も本陣に戻り一旦戦闘は終了。
ルリアはアルトにああいう輩に絡まれたら即逃げろと説教を受けてしょげていた。
その頃例の騎士はいきなりハゲ始まり、水虫になり、老眼になって人生に絶望していた。まだ若いのに可哀想である。
ということで、なんだかんだと忙しいが、結局夫婦は今日も明日も戦場に出る。妻の方は変な騎士から相変わらず愛を乞われたり、夫の方は戦場の女スパイに狙われたりするが二人の深い愛の前にはなんのその。戦場にて輝く愛は、周りの独身の兵士達にはかなり鬱陶しいがなんだかんだで許容され、夫婦漫才はどこまでも続く。さっさと戦争を終わらせてハネムーンに行くのが今の夫婦の目標である。
「どうもありがとうございます。君は今日も元気ですね」
「アルト様のお顔を見られて朝から幸せですから!」
「いっそ少しは静かになったらいいのに」
「アルト様を見るだけでテンション上がるので無理です!」
「はぁ…ほら、ルリア。行きますよ」
「はーい!」
朝から盛大な夫婦漫才を披露するのはルリア・ヴォーティガーンとアルト・ヴォーティガーン。もちろんれっきとした夫婦である。18歳の彼等は結婚したばかりだが、国のエリートばかりが集まる魔法省でバリバリ働いている。二人がタッグを組めば怖いもの無しだと前線に駆り出されることも多々あるほどに。
ルリアは男爵令嬢として育ったが、貴族のご令嬢というよりは自由に育った平民の感覚に近い価値観を持っている割とフリーダムな女性。しかし見た目が抜群に良い。小柄で童顔、華奢で守ってあげたくなるタイプだ。そのためアルトのことを知っていながらアプローチをかける上位貴族のボンボンもいるが、爵位なんぞどうだって良いルリアは靡かない。なんならかなり辛辣に振る。報復されても良いと開き直っているルリアにアルトの方が肝を冷やしている。そんなアホの子なのに魔法省で働けるのは他ならぬ彼女の努力の賜物である。特に魔法の実技は大の得意である。
アルトは子爵家の跡取り息子でありながら勉学に励み、魔法省の官僚の中でもトップクラスの知識を持ち合わせている。魔法の座学においては誰にも負けない。ルリアのように無詠唱でバンバン上級魔法を打ち込むのは無理だが、緻密な魔法陣を組み上げ強力な極大魔法で一気に形勢を逆転するのが得意だ。そのため妻と共に良く前線に駆り出されるが、本人は『官僚として』働きたいので不本意である。
そんな二人、今日も前線に駆り出されることになっている。今、国は隣国と対立している。進行してくる隣国の魔の手から国民達を守るためにとみんな頑張っているところだ。二人の活躍で今のところ戦いは有利に進んでいる。
「さて。ではアルト様。私は敵陣に単騎で突っ込んでくるので、極大魔法の準備よろしくです!」
「君は考え無しで突っ込むので心配です」
「アルト様が…私を心配してくださった…!」
「前言撤回です、さっさと突っ込んで来なさい」
「はい!」
アルトは、実はルリアに防御力の高い結界型の魔法陣を何重にも掛けているがルリアは知らない。知らないのに、最終的にアルトが必ず勝つと信じて何も考えず敵陣に突っ込む。そんなルリアは戦場の悪魔と敵から罵られているが、バーサーカーじみたその力も全ては愛故である。そんなルリアが本当はなによりも愛おしいアルトは、極大魔法を緻密な魔法陣により発動する際も必ずルリアの帰還を待ってからと決めていた。
「…ふぅ」
粗方敵陣の魔法陣、魔法具、そして敵兵達を〝粉々に砕いた〟ルリアはため息をつく。この血の海は自らの罪の証。大義名分があろうとも、人の命は尊いものだと思うルリアにはそれは罪でしかない。それでも戦うのは、ただ愛する人のため。一人で戦わせるつもりなど毛頭ない。死ぬならば二人一緒に。罪も二人で一緒に。
そんなルリアに、漆黒の武具を纏う騎士が声を掛けた。
「貴様が戦場の悪魔か?」
「そうですよー?…敵さんですか?」
「そうだな」
騎士はこれから戦うというには余りにも軽い雰囲気で声をかけてくる。
「この惨状は全て貴様が築いたものか」
「お仲間さんは、果敢にも私を討ち取ろうと最期まで戦われました。立派な最期でしたよ」
「…そうか」
兜のせいで、騎士の表情はわからない。だが、ルリアは騎士から目を逸らさなかった。
「…寝返る気はないか?」
てっきり憎しみをぶつけてくると思ったが、騎士は意外な提案をしてくる。が、ルリアが受け入れるはずがない。
「愛する人を裏切れません」
「そうか。夫がいたか。…残念だ」
ルリアは隙をついて無詠唱で騎士に上級魔法をぶつけた。しかし騎士は動じない。…武具に傷すら入っていない。
ルリアはさっと血の気が引いたが、撤退は有り得ない。夫に逃げ帰る様など見せられない。
「なら、無理矢理連れて帰る。戦利品として、俺の妻になって貰おう」
ルリアに切り掛かりながらなんとも身勝手なことを言う騎士にルリアは困惑した。防御魔法を発動させながら口を開く。
「え、急になんですか?」
「戦うお前の姿に惚れた。好きだ」
「愛する人がいるんで」
「だから、無理矢理にでも連れて帰る」
「馬鹿なんですか!?」
防御魔法を複数展開させながらも劣勢に追い込まれるルリアは騎士を見つめるが、どうも本気らしい。自分以上の馬鹿を初めてみた。
この状況に怒り狂ったのは他でもない。…アルトだった。
実はアルト、極大魔法のための魔法陣を形成しながらも監視用の使い魔を飛ばしてルリアの様子を見ていた。
人の妻に手を出されそうになりぶち切れたアルトはいつもの倍のスピードで極大魔法の魔法陣を形成。ルリアの足元に転移魔法陣を一瞬で浮かび上がらせて、強制的にルリアを連れ帰った。
転移魔法で飛ばされたルリアは困惑。その間にアルトは極大魔法を打ち込んだ。
例の騎士はただ一人だけ、アルトの極大魔法にも耐えて戦場に立っていたがアルトはそこで上に報告するでもなく己の魔力のギリギリ限界まで騎士に対して魔法を仕掛けた。しかしそれは上級魔法や極大魔法ではなく〝ハゲ始まる魔法〟〝水虫になる魔法〟〝老眼になる魔法〟などおふざけで作ったシャレにならない悪戯魔法である。アルトはちょっと冷静ではなかった。
その後、戦場には一人だけの生き残りであった騎士も本陣に戻り一旦戦闘は終了。
ルリアはアルトにああいう輩に絡まれたら即逃げろと説教を受けてしょげていた。
その頃例の騎士はいきなりハゲ始まり、水虫になり、老眼になって人生に絶望していた。まだ若いのに可哀想である。
ということで、なんだかんだと忙しいが、結局夫婦は今日も明日も戦場に出る。妻の方は変な騎士から相変わらず愛を乞われたり、夫の方は戦場の女スパイに狙われたりするが二人の深い愛の前にはなんのその。戦場にて輝く愛は、周りの独身の兵士達にはかなり鬱陶しいがなんだかんだで許容され、夫婦漫才はどこまでも続く。さっさと戦争を終わらせてハネムーンに行くのが今の夫婦の目標である。
25
お気に入りに追加
48
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説






「好きです!」「そっかー」毎日告白してくる侯爵令嬢、毎日それを待っている公爵令息。…に、周りからは見える二人の真実。
下菊みこと
恋愛
割と身勝手な男女のお話。
ヴェロニクは毎日ナタンに告白する。ナタンは毎日ヴェロニクの告白を受け流す。ナタンのある種思わせぶりな態度に、周りの生徒は呆れていた。そんな二人の真実は、周りから見えるものとは全く違うものだった。
ヤンデレリハビリ作。微ヤンデレ程度。多分誰も不幸にはなっていない。
小説家になろう様でも投稿しています。

可愛い可愛い天邪鬼な君のこと
下菊みこと
恋愛
天邪鬼な君、執着してしまう俺、そして執着しているあの侍女のお話。
御都合主義のSS、ツンデレ美女とヤンデレ美青年と隠れヤンデレな侍女のあれそれ。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる