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天の声も大満足の大団円
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アンジェリーヌ・ニコデモ。ニコデモ公爵家の一人娘だった彼女は、母をつい最近亡くしたばかりだった。しかし、アンジェリーヌの父は母を亡くした彼女に言った。「新しい家族を紹介する」と。
アンジェリーヌの父の浮気相手であった平民の女性は、アンジェリーヌの義母となった。また、腹違いの妹もいた。アンジェリーヌと一歳しか違わないその子は、義母にそっくりの美しい少女だった。
アンジェリーヌはあまりのショックに気絶して、三日三晩ほど高熱を出した。三日目の晩、天の声が聞こえてきた。
『えー、悪役令嬢アンジェリーヌが主役の番外編って言われて入手したけど、ヒロインのセレナ普通に酷くない?いやセレナが悪いわけじゃないかもしれないけれど、この状況で無邪気な笑顔でお姉様とか呼ばれたらそりゃ倒れるよー』
悪役令嬢?番外編?アンジェリーヌは高熱を出した頭ではてなマークを浮かべる。
『でもこの番外編、内容が一切シークレットなんだよねー。抽選で当たった一人だけにか配布されてないし。私ラッキー!しかも、もしかしたら本編とは違ってアンジェリーヌが幸せになる系かも?だったらいいなー。アンジェリーヌ好きじゃなかったけど、こんな恵まれない幼少期なら性格も歪んで当然だもんね。なんとかしてあげたいなー』
性格が歪む。胸がずきりとした。母は優しい人だった。私もあんな風になりたいと思った。性格が歪むのは嫌だ。
『でも、まずは家族との関係性だよねー。義母を拒絶して、父に拒絶されて、妹を陰でいじめるようにならなければなんとかなると思うんだよなー』
アンジェリーヌは心に決めた。義母を表向きだけでも受け入れて、妹を表向きだけでも可愛がろうと。
次の朝、目が覚めたら義母に挨拶に行った。この間は倒れてろくな挨拶も出来ないで申し訳ない、仲良くしてくれたら嬉しいと微笑んでみせる。
「アンジェリーヌ様、受け入れてくださってありがとうございます!」
「親子なのですから呼び捨てにしてください。愛称で呼んでくださったらもっと嬉しいです。敬語もいりませんよ、お義母様」
「まあ…!アンジェちゃん、ありがとう。これからよろしくね」
「はい、お義母様。セレナもよろしくね」
「はい、お姉様!」
ただ優しく振る舞うだけで、アンジェリーヌはあっという間に義母とセレナに大切にされるようになった。父も、セレナに普通に接する。セレナほど可愛がられるわけではないが、公爵家を継ぐ跡取り娘として大切にされた。それからしばらく、また天の声が聞こえる。
『うーん。やっぱりいい方向に向かっているね!素敵!セレナはもちろん、やっぱりアンジェリーヌも幸せになっていいよね?うん!今後の目標はステータス上げかなぁ。勉強と運動をたくさんしないとね。本編のアンジェリーヌは勉強を怠って真面目なセレナと比べられて跡取りから外されてたし、運動をしないせいで豚みたいな見た目になるもんね。それと、やっぱりノブレスオブリージュ!慈善活動をして、セレナに負けないくらい領民達から愛されないと!』
アンジェリーヌは、跡取りから外されるのも豚になるのも嫌だった。また、せっかく跡取りとなるなら領民達から愛されたい。アンジェリーヌは父に直談判して本来の予定より一足早く、今の内から勉強を始めることにした。また、女性にしては珍しいと言われるだろうが乗馬を嗜み痩せることを意識した。また父から渡されるお小遣いの内、無理のない範囲で孤児院や養老院への寄付をして慰問も怠らない。
その様子から父はアンジェリーヌをより女公爵として相応しくなったと認めてくれるようになり、義母は手放しで褒めてくれて、セレナは憧れの眼差しを向けてくる。領民達はアンジェリーヌを慈悲深く素晴らしい方だと喜んでくれて、アンジェリーヌは嬉しくなった。天の声に感謝した。
そんなある日、アンジェリーヌは子供達のためのお茶会と称した将来に向けた人脈作りの場に連れ出された。そうすると、天の声が聞こえる。
『あ、マリユスもいるんだー。マリユスはたしかロテール伯爵家の長男で、でも没落しかけているからみんなからいじめられるんだよね。ここでもいじめに遭うのかなー。やだなー。あんまりいじめられ過ぎて、マリユスはそのうち国家転覆を企むようになるんだよねー。でも、それを偶然知ってしまうヒロインのセレナに説得されて、心が揺らぎつつも無謀な作戦に出て死んじゃう。好きなキャラクターだったからショックだったんだよねー。優しく可愛らしく育ったアンジェリーヌが助けてくれるような展開にならないかなー』
はらはらしたような天の声に、マリユスという少年を探す。ここまで天の声のおかげで平穏無事に生きてこれた。正直父にも義母にも腹違いの妹にも思うことはあるけれど、天の声に従って優しく振る舞うことでなんとかなっている。冷静に考えると、この環境で義母と妹に冷たくしても利益はないし、だから天の声には感謝している。そんな天の声が助けて欲しいと言うのなら、アンジェリーヌはマリユスを助ける。それが恩返しになると信じて。
「お前、没落しかけてるくせに生意気なんだよ!」
「この場にそぐわないのが分かんないのかよ!」
「帰れよー!」
いじめられている少年を見つけて、アンジェリーヌは声をかける。
「貴方がマリユス?」
「あ、アンジェリーヌ様!?」
「あの、これはちがくて!」
「はい、僕がマリユスです」
優しいと評判の『公爵家の姫君』にいじめっ子達は固まる。公爵家に目をつけられたら終わりだ。しかしアンジェリーヌはいじめっ子達は意に介さず、マリユスの手を取って美味しいお菓子のたくさんあるテーブルに行った。
その日、マリユスは久々に家族以外から優しくされ、楽しいお話をたくさん聞いた。マリユスがるんるん気分で帰宅すると、マリユスは両親から抱きしめられた。何事かと思ったら、なんとあのアンジェリーヌがマリユスの両親に融資をしてくれたという。アンジェリーヌのお小遣いは、公爵家の姫君として恥ずかしくないくらいには渡されている。貧乏伯爵家を救うには充分な金額だった。
マリユスはアンジェリーヌに感謝した。アンジェリーヌからの融資で新規事業を起こしたロテール伯爵家は見事に再起を果たし、アンジェリーヌにお金を返すことが出来た。もうマリユスがいじめられることはない。それどころかちやほやされるようになった。それでも、マリユスの心はアンジェリーヌ一人に占められていた。
ある日、アンジェリーヌは婚約者を紹介された。アンジェリーヌが女公爵となった時に支えてくれるであろう、遠縁の優秀な男子が選ばれた。
『レオポルドかあ。たしかランベール辺境伯の三男だったよね。優秀なんだけど、引っ込み思案でいつもおどおどしてて、悪役令嬢になったアンジェリーヌを止めるに止められなくてセレナを害するお手伝いをするんだよねー。もう今のアンジェリーヌなら大丈夫だと思うけど。ただ、いざという時頼りにならないからこの性格今のうちに矯正して欲しいなー。アンジェリーヌちゃん頑張れー』
天の声が頑張れと言うなら頑張ろう。アンジェリーヌはレオポルドに優しく接した上で、次に会う約束を取り付けた。そして、今や親友となったマリユスに連絡を取り一緒にレオポルドを鍛えることにした。
次の約束の日、アンジェリーヌとマリユスはレオポルドを山に連れて行きサバイバル生活を一週間続けた。もちろん使用人達が見守る中での、似非サバイバルだったが、アンジェリーヌとマリユスにはもちろん引っ込み思案のレオポルドにはとてつもなく厳しい一週間だった。
それでも、テントを張り、寝袋で寝て、洗濯をして干して、罠を仕掛けて動物を解体して調理し食べるという一連の作業にレオポルドはなにかを見つけたらしい。その表情は逞しいものへと変わっていた。
「辺境伯である父上やその跡取りの兄上達が如何に過酷な生活を送っているか、少しだけわかった気がします。気弱で軟弱で、一人だけ特別可愛がられた私が如何に甘ったれなのかわかりました。綺麗な空気を吸ったことで体調もだいぶ良くなりましたし、これからは稽古を積んで心身を鍛えます。アンジェリーヌ様、マリユス様。ありがとうございました」
それからしばらくして、レオポルドは本当に無理のない範囲で身体を鍛え、心身ともに丈夫になった。アンジェリーヌの頼れる兄のようになり、自分を兄のように慕うアンジェリーヌに苦笑する姿が見られるようになる。
最近、アンジェリーヌの慰問に通う孤児院に黒髪に赤い瞳の少年が来たと聞いた。黒髪に赤い瞳の人間は、この世界では不吉の象徴とされる。そして慰問に訪れその少年に挨拶した際、天の声が聞こえた。
『え、ジェレミー!?あのアンジェリーヌを殺したジェレミー!?すごい腕利きの暗殺者に育って、セレナに心を救われて好きになってセレナをいじめる悪役令嬢のアンジェリーヌを国外追放処分の後殺したジェレミー!?こんなところで出会うなんて、どうなっちゃうの!?』
自分を殺したという天の声に一瞬怯むアンジェリーヌ。しかし、アンジェリーヌは優しく微笑んだ。そうすると、ジェレミーはいきなり土下座した。
「アンジェリーヌ様のおかげで妹と再会出来ました!ありがとうございます!」
なんと、アンジェリーヌが寄付と慰問を行なっているこの孤児院にジェレミーの妹が引き取られており、病弱だったその子はアンジェリーヌの寄付のおかげで治療を受けられて助かったという。ずっと、病で倒れて善意の人に孤児院に連れていかれたという妹を探しながら生きてきたというジェレミーのアンジェリーヌへの感謝は深かった。
『おー、これは全員幸せになっちゃう感じ?ハッピーエンドな感じ?』
天の声の嬉しそうな声に、アンジェリーヌはほっとした。
そして、貴族の子女の通う学園に入学。アンジェリーヌはマリユスとレオポルド、いつのまにやら自分の執事になったジェレミーと自分のメイドになったジェレミーの妹に囲まれて楽しく過ごした。一年後に入ってきたセレナは、婚約者は自分で決めると公言して未だに婚約者のいない王太子殿下と仲良くなったが、他の貴公子からも恋心を寄せられているようで大変そうだ。だがアンジェリーヌは手を貸さない。
そうして卒業して、天の声の『悪役令嬢脱却おめでとう!』という祝いの言葉にアンジェリーヌは微笑んだ。
それ以降、決してアンジェリーヌには天の声は聞こえなかったが、あの声に導かれたおかげで生涯を幸せに過ごしたのだった。
アンジェリーヌの父の浮気相手であった平民の女性は、アンジェリーヌの義母となった。また、腹違いの妹もいた。アンジェリーヌと一歳しか違わないその子は、義母にそっくりの美しい少女だった。
アンジェリーヌはあまりのショックに気絶して、三日三晩ほど高熱を出した。三日目の晩、天の声が聞こえてきた。
『えー、悪役令嬢アンジェリーヌが主役の番外編って言われて入手したけど、ヒロインのセレナ普通に酷くない?いやセレナが悪いわけじゃないかもしれないけれど、この状況で無邪気な笑顔でお姉様とか呼ばれたらそりゃ倒れるよー』
悪役令嬢?番外編?アンジェリーヌは高熱を出した頭ではてなマークを浮かべる。
『でもこの番外編、内容が一切シークレットなんだよねー。抽選で当たった一人だけにか配布されてないし。私ラッキー!しかも、もしかしたら本編とは違ってアンジェリーヌが幸せになる系かも?だったらいいなー。アンジェリーヌ好きじゃなかったけど、こんな恵まれない幼少期なら性格も歪んで当然だもんね。なんとかしてあげたいなー』
性格が歪む。胸がずきりとした。母は優しい人だった。私もあんな風になりたいと思った。性格が歪むのは嫌だ。
『でも、まずは家族との関係性だよねー。義母を拒絶して、父に拒絶されて、妹を陰でいじめるようにならなければなんとかなると思うんだよなー』
アンジェリーヌは心に決めた。義母を表向きだけでも受け入れて、妹を表向きだけでも可愛がろうと。
次の朝、目が覚めたら義母に挨拶に行った。この間は倒れてろくな挨拶も出来ないで申し訳ない、仲良くしてくれたら嬉しいと微笑んでみせる。
「アンジェリーヌ様、受け入れてくださってありがとうございます!」
「親子なのですから呼び捨てにしてください。愛称で呼んでくださったらもっと嬉しいです。敬語もいりませんよ、お義母様」
「まあ…!アンジェちゃん、ありがとう。これからよろしくね」
「はい、お義母様。セレナもよろしくね」
「はい、お姉様!」
ただ優しく振る舞うだけで、アンジェリーヌはあっという間に義母とセレナに大切にされるようになった。父も、セレナに普通に接する。セレナほど可愛がられるわけではないが、公爵家を継ぐ跡取り娘として大切にされた。それからしばらく、また天の声が聞こえる。
『うーん。やっぱりいい方向に向かっているね!素敵!セレナはもちろん、やっぱりアンジェリーヌも幸せになっていいよね?うん!今後の目標はステータス上げかなぁ。勉強と運動をたくさんしないとね。本編のアンジェリーヌは勉強を怠って真面目なセレナと比べられて跡取りから外されてたし、運動をしないせいで豚みたいな見た目になるもんね。それと、やっぱりノブレスオブリージュ!慈善活動をして、セレナに負けないくらい領民達から愛されないと!』
アンジェリーヌは、跡取りから外されるのも豚になるのも嫌だった。また、せっかく跡取りとなるなら領民達から愛されたい。アンジェリーヌは父に直談判して本来の予定より一足早く、今の内から勉強を始めることにした。また、女性にしては珍しいと言われるだろうが乗馬を嗜み痩せることを意識した。また父から渡されるお小遣いの内、無理のない範囲で孤児院や養老院への寄付をして慰問も怠らない。
その様子から父はアンジェリーヌをより女公爵として相応しくなったと認めてくれるようになり、義母は手放しで褒めてくれて、セレナは憧れの眼差しを向けてくる。領民達はアンジェリーヌを慈悲深く素晴らしい方だと喜んでくれて、アンジェリーヌは嬉しくなった。天の声に感謝した。
そんなある日、アンジェリーヌは子供達のためのお茶会と称した将来に向けた人脈作りの場に連れ出された。そうすると、天の声が聞こえる。
『あ、マリユスもいるんだー。マリユスはたしかロテール伯爵家の長男で、でも没落しかけているからみんなからいじめられるんだよね。ここでもいじめに遭うのかなー。やだなー。あんまりいじめられ過ぎて、マリユスはそのうち国家転覆を企むようになるんだよねー。でも、それを偶然知ってしまうヒロインのセレナに説得されて、心が揺らぎつつも無謀な作戦に出て死んじゃう。好きなキャラクターだったからショックだったんだよねー。優しく可愛らしく育ったアンジェリーヌが助けてくれるような展開にならないかなー』
はらはらしたような天の声に、マリユスという少年を探す。ここまで天の声のおかげで平穏無事に生きてこれた。正直父にも義母にも腹違いの妹にも思うことはあるけれど、天の声に従って優しく振る舞うことでなんとかなっている。冷静に考えると、この環境で義母と妹に冷たくしても利益はないし、だから天の声には感謝している。そんな天の声が助けて欲しいと言うのなら、アンジェリーヌはマリユスを助ける。それが恩返しになると信じて。
「お前、没落しかけてるくせに生意気なんだよ!」
「この場にそぐわないのが分かんないのかよ!」
「帰れよー!」
いじめられている少年を見つけて、アンジェリーヌは声をかける。
「貴方がマリユス?」
「あ、アンジェリーヌ様!?」
「あの、これはちがくて!」
「はい、僕がマリユスです」
優しいと評判の『公爵家の姫君』にいじめっ子達は固まる。公爵家に目をつけられたら終わりだ。しかしアンジェリーヌはいじめっ子達は意に介さず、マリユスの手を取って美味しいお菓子のたくさんあるテーブルに行った。
その日、マリユスは久々に家族以外から優しくされ、楽しいお話をたくさん聞いた。マリユスがるんるん気分で帰宅すると、マリユスは両親から抱きしめられた。何事かと思ったら、なんとあのアンジェリーヌがマリユスの両親に融資をしてくれたという。アンジェリーヌのお小遣いは、公爵家の姫君として恥ずかしくないくらいには渡されている。貧乏伯爵家を救うには充分な金額だった。
マリユスはアンジェリーヌに感謝した。アンジェリーヌからの融資で新規事業を起こしたロテール伯爵家は見事に再起を果たし、アンジェリーヌにお金を返すことが出来た。もうマリユスがいじめられることはない。それどころかちやほやされるようになった。それでも、マリユスの心はアンジェリーヌ一人に占められていた。
ある日、アンジェリーヌは婚約者を紹介された。アンジェリーヌが女公爵となった時に支えてくれるであろう、遠縁の優秀な男子が選ばれた。
『レオポルドかあ。たしかランベール辺境伯の三男だったよね。優秀なんだけど、引っ込み思案でいつもおどおどしてて、悪役令嬢になったアンジェリーヌを止めるに止められなくてセレナを害するお手伝いをするんだよねー。もう今のアンジェリーヌなら大丈夫だと思うけど。ただ、いざという時頼りにならないからこの性格今のうちに矯正して欲しいなー。アンジェリーヌちゃん頑張れー』
天の声が頑張れと言うなら頑張ろう。アンジェリーヌはレオポルドに優しく接した上で、次に会う約束を取り付けた。そして、今や親友となったマリユスに連絡を取り一緒にレオポルドを鍛えることにした。
次の約束の日、アンジェリーヌとマリユスはレオポルドを山に連れて行きサバイバル生活を一週間続けた。もちろん使用人達が見守る中での、似非サバイバルだったが、アンジェリーヌとマリユスにはもちろん引っ込み思案のレオポルドにはとてつもなく厳しい一週間だった。
それでも、テントを張り、寝袋で寝て、洗濯をして干して、罠を仕掛けて動物を解体して調理し食べるという一連の作業にレオポルドはなにかを見つけたらしい。その表情は逞しいものへと変わっていた。
「辺境伯である父上やその跡取りの兄上達が如何に過酷な生活を送っているか、少しだけわかった気がします。気弱で軟弱で、一人だけ特別可愛がられた私が如何に甘ったれなのかわかりました。綺麗な空気を吸ったことで体調もだいぶ良くなりましたし、これからは稽古を積んで心身を鍛えます。アンジェリーヌ様、マリユス様。ありがとうございました」
それからしばらくして、レオポルドは本当に無理のない範囲で身体を鍛え、心身ともに丈夫になった。アンジェリーヌの頼れる兄のようになり、自分を兄のように慕うアンジェリーヌに苦笑する姿が見られるようになる。
最近、アンジェリーヌの慰問に通う孤児院に黒髪に赤い瞳の少年が来たと聞いた。黒髪に赤い瞳の人間は、この世界では不吉の象徴とされる。そして慰問に訪れその少年に挨拶した際、天の声が聞こえた。
『え、ジェレミー!?あのアンジェリーヌを殺したジェレミー!?すごい腕利きの暗殺者に育って、セレナに心を救われて好きになってセレナをいじめる悪役令嬢のアンジェリーヌを国外追放処分の後殺したジェレミー!?こんなところで出会うなんて、どうなっちゃうの!?』
自分を殺したという天の声に一瞬怯むアンジェリーヌ。しかし、アンジェリーヌは優しく微笑んだ。そうすると、ジェレミーはいきなり土下座した。
「アンジェリーヌ様のおかげで妹と再会出来ました!ありがとうございます!」
なんと、アンジェリーヌが寄付と慰問を行なっているこの孤児院にジェレミーの妹が引き取られており、病弱だったその子はアンジェリーヌの寄付のおかげで治療を受けられて助かったという。ずっと、病で倒れて善意の人に孤児院に連れていかれたという妹を探しながら生きてきたというジェレミーのアンジェリーヌへの感謝は深かった。
『おー、これは全員幸せになっちゃう感じ?ハッピーエンドな感じ?』
天の声の嬉しそうな声に、アンジェリーヌはほっとした。
そして、貴族の子女の通う学園に入学。アンジェリーヌはマリユスとレオポルド、いつのまにやら自分の執事になったジェレミーと自分のメイドになったジェレミーの妹に囲まれて楽しく過ごした。一年後に入ってきたセレナは、婚約者は自分で決めると公言して未だに婚約者のいない王太子殿下と仲良くなったが、他の貴公子からも恋心を寄せられているようで大変そうだ。だがアンジェリーヌは手を貸さない。
そうして卒業して、天の声の『悪役令嬢脱却おめでとう!』という祝いの言葉にアンジェリーヌは微笑んだ。
それ以降、決してアンジェリーヌには天の声は聞こえなかったが、あの声に導かれたおかげで生涯を幸せに過ごしたのだった。
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感想ありがとうございます。アンジェリーヌは父親の件さえなければ普通にいい子ですよね。
セレナは多分たくさんの貴公子とすったもんだありつつも自分に見合ったお相手とハッピーエンドを迎えることでしょう。
読んでくださりありがとうございました!