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悪役令嬢に転生しましたが、ヒロインが推しなのでちょっと愛でてもいいですか?
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悪役令嬢ヴィクトリア。
エウローパ大陸のミノス皇国、その筆頭公爵家の娘にして乙女ゲーム【少女はどんな夢をみる】の悪役令嬢。
…に、転生したのはわたくしこと南野勝子。
そう、わたくしなんと!
テンプレ悪役令嬢転生をしたんですわ!!!
といってもわたくしの生前の最後の記憶…死因はちょっと特殊で。
なんとわたくし、趣味のダイビングの最中に事故ってしまいましたの。
海とは美しくも厳しいものですわ…。
―…で、なんでそんなことを今更思い出したかと言いますと。
船でクルージングの最中に事故って海で溺れたからですわー!?
幸いすぐに使用人たちの手で助けられましたけれど。
なんという不運…本当にわたくし、海に呪われてるのかしら…とはいえ、このタイミングで前世の記憶を取り戻したのは幸運ですわ!!!
何故なら明日は、貴族学院の入学式!
つまり乙女ゲームの始まり!
最推しであるヒロインとの出会いの日ですのよー!!!
わたくし悪役令嬢ですけれど、ヒロインをちょっと愛でるくらいいいですわよね?
いいですわよね!!!!!
そして迎えた今日。
入学式当日。
正門をくぐった男爵家の娘、リナ。
ああ、会いたかったですわ!
「ちょっと貴女」
「は、はい!えっと」
「わたくしは悪役…じゃなくて、アレキサンドライト公爵家の娘、ヴィクトリア・マリー・アレキサンドライトですわ」
「あ、あ、あ…私は、トパーズ男爵家の娘の…」
「リナ・クロエ・トパーズですわね」
リナが目を丸くする。
可愛い。
「え、え、あの、ご、ご存知…だったのですか…?私なんかを…!」
「お黙りっ!聞き捨てなりませんわ!!!」
いきなり叫んだ私にリナが怯んだように肩を跳ねさせる。
「あ、あの、私何か失礼を…」
「リナ、貴女はご自分を『なんか』などと卑下してはいけませんわ!」
「え…」
「学業優秀、見た目も可愛らしい、守ってあげたくなる愛らしさもある。貴女はわたくしのお眼鏡に適った最高の可愛子ちゃんなのですわ!!!」
「か、可愛子ちゃん…!?」
わたくしはどさくさに紛れてリナを抱きしめる。
「貴女はわたくしのお気に入りですわ。どうか自信を持ちなさい。そして、わたくしの側に侍ることを許しますわ」
「ゔぃ、ヴィクトリア様…うう、男爵様のお手つきになった母が生んだ私生児だからと蔑まれ、見た目が美しく育ったからと急に母から引き離されて男爵様に引き取られ…こんな、こんな私にそんなに優しくしてくださるなんて…」
「こんな私、などと言わないでくださいまし。わたくしのお気に入りでしてよ?」
「ヴィクトリア様!」
腕の中でなくリナの背中を優しく摩る。
そして、いつのまにか湧いていた外野に言い放った。
「ということで、リナはこれからわたくしの庇護下に入りますわ!皆様、どうかくれぐれもリナを無下に扱わないように!わかっていますわよね?」
コクコクと頷く外野に満足して、泣き止んだリナの顔をハンカチで拭ってやる。
「リナ、涙で可愛い顔が台無しですわ。拭いて差し上げます」
「ヴィクトリア様…!」
「これでよし、さぁ、そろそろ入学式が始まってしまいますわ!行きますわよ」
「は、はいヴィクトリア様っ」
「―…これは驚いた。ヴィクトリアに虐められていたら、助けてあげようと構えていたのだけど」
「ね?王子殿下の杞憂だったでしょう?だから言ったじゃないですか。ヴィクトリア様であろうと、さすがに入学式当日に下手な動きはしないって」
「とはいえ、お前もこの結果には意外だったろう」
「ですねぇ…あのヴィクトリア様が、たかだか男爵令嬢を庇護下に置くとは」
「…たかだか、なんて言うもんじゃない。学舎の中では皆平等だ」
はいはい、とこの国の第二王子シリルの従者ダヴィドは手を挙げて降参のポーズを取る。
まさか向こうでこんなやり取りがあるとは知らず、ヴィクトリアはリナを庇護下に置いてウハウハ状態になっていた。
「ヴィクトリア様!貴族学院の入学式って豪華なんですね!びっくりしました!」
「ええ、わたくしも先程は学園長先生や保護者代表のお話には聞き入ってしまいましたわ。やはり素敵な大人の話を聞ける機会は貴重ですわよね…まあ保護者代表はうちの父なんですけれど」
「え、あ、そ、そうですよね!あのダンディーな方がヴィクトリア様のお父様…納得です!」
「うふふ、特に目元がそっくりでしょう」
「はい!そっくりです!すごく素敵です!」
リナったらわたくしに早速懐いてますわー!可愛いー!
普通こう言う時って、推しの未来を邪魔しないためと身を引くなり悪役令嬢として振る舞うものだと思いますけれど…わたくし、むしろリナを愛でるために好感度ガンガン上げまくりますわ!
リナの将来?リナは優秀な子ですからわたくしの侍女に抜擢しますわー!!!
「では、リナ。入学式の後は自由時間ですわ!さっそく寮に行きましょう」
「寮、ですか。ヴィクトリア様は第二王子殿下の婚約者ですから、準王族として専用の寮に行かれるんですよね」
「ええ、それでなんですけど…王族、準王族は気に入った下級貴族の同性の子を一人だけ侍女見習いとして寮に住まわせ、身の回りの世話を任せられますの。使用人を連れて来られない学園ならではの特権ですわね。貴女、わたくしの侍女見習いとなりなさい」
「…え!?」
「そして学園を卒業したら、正式にわたくしの侍女となるのよ」
「えええええ!?」
ということで、四六時中リナを愛でる権利、ゲットですわ!!!
「あのヴィクトリアが、男爵令嬢を侍女見習いにねぇ…」
「せめて伯爵家の娘を選んでくれればマシと思いましたが」
「まあ、ヴィクトリアの変わり様には驚いたが…いい変化だろう。僕にはお前がいるし」
「同い年で良かったですね。従者は本当は連れてきてはいけないですが、従者が同い年の貴族ならその限りではない…ズルですね」
「やっぱり狡いかな。まあ、ちょっとくらいいいじゃないか」
ニコニコと笑ってそう言うシリルに、ダヴィドは言った。
「ところで、いつヴィクトリア様にご挨拶なさるんです?」
「あー、昨日無事だと連絡が入ったとはいえ見舞いにも行かなかったから…顔を合わせ辛い」
「でしょうね。だから見舞いに行った方がいいと言ったのに」
「うーん、そうだな。ごめん。まさかヴィクトリアがあんな変わり様を見せると思わなくて、没交渉でも良いかなって思ってたんだ」
「婚約者と没交渉はダメですよ。だいたい、幼い頃はあんなに仲が良かったのに」
責めるようにダヴィドが言うと、シリルは気まずそうに顔を伏せる。
「ヴィクトリアが変わってしまってからはね」
「ヴィクトリア様の変わり方は、未来の第二王子の妃として、真っ当に頑張っていた結果です。それを笑わなくなった、泣かなくなったとシリル様が遠ざけてしまったから、ヴィクトリア様は意固地になってしまわれたのですよ」
「それは…」
「リナ様を愛でる…失礼、庇護下に置いたヴィクトリア様を見てごらんなさい。昔の優しかった頃のヴィクトリア様そのものではございませんか」
「…」
シリルはダヴィドの言葉に、意を決する。
「謝る」
「誰に?」
「ヴィクトリアに」
「なにを?」
「これまでの全てを」
ダヴィドはシリルを激励する。
「王子殿下こそ、良い変化ですよ。頑張ってください」
「…わかってる」
ヴィクトリアはまだ、この会話を知らない。
「ヴィクトリア」
「第二王子殿下。ごきげんよう。ご入学おめでとうございます」
「ヴィクトリアこそ、おめでとう」
「あら」
わたくしはこの世界で生きてきた記憶ももちろんあって。
第二王子殿下が、わたくしが王子妃教育を頑張る度に徐々にわたくしに冷たくなっていったことを覚えている。
今なら、感情を表情に出さなくなったのを面白くなく思っていたのだと分かるけれど…理不尽、だと思った。
だから没交渉大歓迎!
と思っていたのだけど。
「それでその」
「ええ」
「すまなかった」
突然頭を下げた第二王子殿下にわたくしは大混乱。
「ど、どうしましたの、第二王子殿下!とりあえず顔をあげてくださいまし!」
「幼い日…君を冷たくなったと誤解して、遠ざけた。君は王子妃教育を受けて、僕のために努力してくれた結果ああなったというのに」
「…」
「そんな僕が原因で、君は心を閉ざし冷たく高圧的な人となってしまった…だが、その子を庇護下に置いた君を見てわかった。君の本質…その優しさは変わっていないと」
「…」
今更の謝罪。
それでも…わたくしは、この人を許そう。
何故なら。
この人のおかげで準王族として扱われ、リナを侍らせられるから!!!
「いいんですのよ、第二王子殿下」
「え」
「もういいんですの、お互い許し合いましょう」
その方が都合良いからね!
「…ヴィクトリア!ありがとう!幼い頃のように、ヴィーと呼んでも良い?僕のことも幼い頃のようにシーと呼んで」
「はい、シー様」
「ヴィー!」
第二王子殿下改めシー様に幼い頃のように抱きしめられて、仕方のない人だなと呆れる。
この時わたくしは、海に呪われていることを忘れていた。
シー様もわたくしの鬼門だったのだ。
これ以降シー様に子犬の様に付き纏われ、リナを愛でる時間を削られることになってしまったのは…まあ、仕方がないとして。
シー様の侍従のダヴィド様とリナが恋人関係になって掻っ攫われてしまったのは、すごく解せない。
まあ掻っ攫われたと言っても、リナは侍女として貴族学院を卒業した今でもわたくしの側に侍らせているけれど。
「ヴィクトリア様!貴族学院の卒業、そして明日の第二王子殿下とのご結婚!まことにおめでとうございます!」
「ありがとう、リナ。でもわたくしの一番は貴女よ」
「もう、冗談でもそんなこと言っちゃダメですよ!」
「冗談じゃないのに…」
拗ねるわたくしに、リナは笑う。
「ヴィクトリア様ったら」
「本気よ?」
「ふふ、ありがとうございます」
「…妬けるな」
「第二王子殿下!」
リナを愛でていたらまたシー様が来てしまった。
「僕はヴィーが一番なのに」
「シー様も愛してますよ」
一番の推しはリナだけどね!
「じゃあ、早めに誓いのキスをしても良い?」
「まだ唇は待ってください。その代わり…」
シー様の鼻先にちゅーする。
「これで我慢してくださいな」
「…ヴィーは狡い」
撃沈したシー様に笑う。
なんだかんだで、この人も本当に可愛いのだ。
エウローパ大陸のミノス皇国、その筆頭公爵家の娘にして乙女ゲーム【少女はどんな夢をみる】の悪役令嬢。
…に、転生したのはわたくしこと南野勝子。
そう、わたくしなんと!
テンプレ悪役令嬢転生をしたんですわ!!!
といってもわたくしの生前の最後の記憶…死因はちょっと特殊で。
なんとわたくし、趣味のダイビングの最中に事故ってしまいましたの。
海とは美しくも厳しいものですわ…。
―…で、なんでそんなことを今更思い出したかと言いますと。
船でクルージングの最中に事故って海で溺れたからですわー!?
幸いすぐに使用人たちの手で助けられましたけれど。
なんという不運…本当にわたくし、海に呪われてるのかしら…とはいえ、このタイミングで前世の記憶を取り戻したのは幸運ですわ!!!
何故なら明日は、貴族学院の入学式!
つまり乙女ゲームの始まり!
最推しであるヒロインとの出会いの日ですのよー!!!
わたくし悪役令嬢ですけれど、ヒロインをちょっと愛でるくらいいいですわよね?
いいですわよね!!!!!
そして迎えた今日。
入学式当日。
正門をくぐった男爵家の娘、リナ。
ああ、会いたかったですわ!
「ちょっと貴女」
「は、はい!えっと」
「わたくしは悪役…じゃなくて、アレキサンドライト公爵家の娘、ヴィクトリア・マリー・アレキサンドライトですわ」
「あ、あ、あ…私は、トパーズ男爵家の娘の…」
「リナ・クロエ・トパーズですわね」
リナが目を丸くする。
可愛い。
「え、え、あの、ご、ご存知…だったのですか…?私なんかを…!」
「お黙りっ!聞き捨てなりませんわ!!!」
いきなり叫んだ私にリナが怯んだように肩を跳ねさせる。
「あ、あの、私何か失礼を…」
「リナ、貴女はご自分を『なんか』などと卑下してはいけませんわ!」
「え…」
「学業優秀、見た目も可愛らしい、守ってあげたくなる愛らしさもある。貴女はわたくしのお眼鏡に適った最高の可愛子ちゃんなのですわ!!!」
「か、可愛子ちゃん…!?」
わたくしはどさくさに紛れてリナを抱きしめる。
「貴女はわたくしのお気に入りですわ。どうか自信を持ちなさい。そして、わたくしの側に侍ることを許しますわ」
「ゔぃ、ヴィクトリア様…うう、男爵様のお手つきになった母が生んだ私生児だからと蔑まれ、見た目が美しく育ったからと急に母から引き離されて男爵様に引き取られ…こんな、こんな私にそんなに優しくしてくださるなんて…」
「こんな私、などと言わないでくださいまし。わたくしのお気に入りでしてよ?」
「ヴィクトリア様!」
腕の中でなくリナの背中を優しく摩る。
そして、いつのまにか湧いていた外野に言い放った。
「ということで、リナはこれからわたくしの庇護下に入りますわ!皆様、どうかくれぐれもリナを無下に扱わないように!わかっていますわよね?」
コクコクと頷く外野に満足して、泣き止んだリナの顔をハンカチで拭ってやる。
「リナ、涙で可愛い顔が台無しですわ。拭いて差し上げます」
「ヴィクトリア様…!」
「これでよし、さぁ、そろそろ入学式が始まってしまいますわ!行きますわよ」
「は、はいヴィクトリア様っ」
「―…これは驚いた。ヴィクトリアに虐められていたら、助けてあげようと構えていたのだけど」
「ね?王子殿下の杞憂だったでしょう?だから言ったじゃないですか。ヴィクトリア様であろうと、さすがに入学式当日に下手な動きはしないって」
「とはいえ、お前もこの結果には意外だったろう」
「ですねぇ…あのヴィクトリア様が、たかだか男爵令嬢を庇護下に置くとは」
「…たかだか、なんて言うもんじゃない。学舎の中では皆平等だ」
はいはい、とこの国の第二王子シリルの従者ダヴィドは手を挙げて降参のポーズを取る。
まさか向こうでこんなやり取りがあるとは知らず、ヴィクトリアはリナを庇護下に置いてウハウハ状態になっていた。
「ヴィクトリア様!貴族学院の入学式って豪華なんですね!びっくりしました!」
「ええ、わたくしも先程は学園長先生や保護者代表のお話には聞き入ってしまいましたわ。やはり素敵な大人の話を聞ける機会は貴重ですわよね…まあ保護者代表はうちの父なんですけれど」
「え、あ、そ、そうですよね!あのダンディーな方がヴィクトリア様のお父様…納得です!」
「うふふ、特に目元がそっくりでしょう」
「はい!そっくりです!すごく素敵です!」
リナったらわたくしに早速懐いてますわー!可愛いー!
普通こう言う時って、推しの未来を邪魔しないためと身を引くなり悪役令嬢として振る舞うものだと思いますけれど…わたくし、むしろリナを愛でるために好感度ガンガン上げまくりますわ!
リナの将来?リナは優秀な子ですからわたくしの侍女に抜擢しますわー!!!
「では、リナ。入学式の後は自由時間ですわ!さっそく寮に行きましょう」
「寮、ですか。ヴィクトリア様は第二王子殿下の婚約者ですから、準王族として専用の寮に行かれるんですよね」
「ええ、それでなんですけど…王族、準王族は気に入った下級貴族の同性の子を一人だけ侍女見習いとして寮に住まわせ、身の回りの世話を任せられますの。使用人を連れて来られない学園ならではの特権ですわね。貴女、わたくしの侍女見習いとなりなさい」
「…え!?」
「そして学園を卒業したら、正式にわたくしの侍女となるのよ」
「えええええ!?」
ということで、四六時中リナを愛でる権利、ゲットですわ!!!
「あのヴィクトリアが、男爵令嬢を侍女見習いにねぇ…」
「せめて伯爵家の娘を選んでくれればマシと思いましたが」
「まあ、ヴィクトリアの変わり様には驚いたが…いい変化だろう。僕にはお前がいるし」
「同い年で良かったですね。従者は本当は連れてきてはいけないですが、従者が同い年の貴族ならその限りではない…ズルですね」
「やっぱり狡いかな。まあ、ちょっとくらいいいじゃないか」
ニコニコと笑ってそう言うシリルに、ダヴィドは言った。
「ところで、いつヴィクトリア様にご挨拶なさるんです?」
「あー、昨日無事だと連絡が入ったとはいえ見舞いにも行かなかったから…顔を合わせ辛い」
「でしょうね。だから見舞いに行った方がいいと言ったのに」
「うーん、そうだな。ごめん。まさかヴィクトリアがあんな変わり様を見せると思わなくて、没交渉でも良いかなって思ってたんだ」
「婚約者と没交渉はダメですよ。だいたい、幼い頃はあんなに仲が良かったのに」
責めるようにダヴィドが言うと、シリルは気まずそうに顔を伏せる。
「ヴィクトリアが変わってしまってからはね」
「ヴィクトリア様の変わり方は、未来の第二王子の妃として、真っ当に頑張っていた結果です。それを笑わなくなった、泣かなくなったとシリル様が遠ざけてしまったから、ヴィクトリア様は意固地になってしまわれたのですよ」
「それは…」
「リナ様を愛でる…失礼、庇護下に置いたヴィクトリア様を見てごらんなさい。昔の優しかった頃のヴィクトリア様そのものではございませんか」
「…」
シリルはダヴィドの言葉に、意を決する。
「謝る」
「誰に?」
「ヴィクトリアに」
「なにを?」
「これまでの全てを」
ダヴィドはシリルを激励する。
「王子殿下こそ、良い変化ですよ。頑張ってください」
「…わかってる」
ヴィクトリアはまだ、この会話を知らない。
「ヴィクトリア」
「第二王子殿下。ごきげんよう。ご入学おめでとうございます」
「ヴィクトリアこそ、おめでとう」
「あら」
わたくしはこの世界で生きてきた記憶ももちろんあって。
第二王子殿下が、わたくしが王子妃教育を頑張る度に徐々にわたくしに冷たくなっていったことを覚えている。
今なら、感情を表情に出さなくなったのを面白くなく思っていたのだと分かるけれど…理不尽、だと思った。
だから没交渉大歓迎!
と思っていたのだけど。
「それでその」
「ええ」
「すまなかった」
突然頭を下げた第二王子殿下にわたくしは大混乱。
「ど、どうしましたの、第二王子殿下!とりあえず顔をあげてくださいまし!」
「幼い日…君を冷たくなったと誤解して、遠ざけた。君は王子妃教育を受けて、僕のために努力してくれた結果ああなったというのに」
「…」
「そんな僕が原因で、君は心を閉ざし冷たく高圧的な人となってしまった…だが、その子を庇護下に置いた君を見てわかった。君の本質…その優しさは変わっていないと」
「…」
今更の謝罪。
それでも…わたくしは、この人を許そう。
何故なら。
この人のおかげで準王族として扱われ、リナを侍らせられるから!!!
「いいんですのよ、第二王子殿下」
「え」
「もういいんですの、お互い許し合いましょう」
その方が都合良いからね!
「…ヴィクトリア!ありがとう!幼い頃のように、ヴィーと呼んでも良い?僕のことも幼い頃のようにシーと呼んで」
「はい、シー様」
「ヴィー!」
第二王子殿下改めシー様に幼い頃のように抱きしめられて、仕方のない人だなと呆れる。
この時わたくしは、海に呪われていることを忘れていた。
シー様もわたくしの鬼門だったのだ。
これ以降シー様に子犬の様に付き纏われ、リナを愛でる時間を削られることになってしまったのは…まあ、仕方がないとして。
シー様の侍従のダヴィド様とリナが恋人関係になって掻っ攫われてしまったのは、すごく解せない。
まあ掻っ攫われたと言っても、リナは侍女として貴族学院を卒業した今でもわたくしの側に侍らせているけれど。
「ヴィクトリア様!貴族学院の卒業、そして明日の第二王子殿下とのご結婚!まことにおめでとうございます!」
「ありがとう、リナ。でもわたくしの一番は貴女よ」
「もう、冗談でもそんなこと言っちゃダメですよ!」
「冗談じゃないのに…」
拗ねるわたくしに、リナは笑う。
「ヴィクトリア様ったら」
「本気よ?」
「ふふ、ありがとうございます」
「…妬けるな」
「第二王子殿下!」
リナを愛でていたらまたシー様が来てしまった。
「僕はヴィーが一番なのに」
「シー様も愛してますよ」
一番の推しはリナだけどね!
「じゃあ、早めに誓いのキスをしても良い?」
「まだ唇は待ってください。その代わり…」
シー様の鼻先にちゅーする。
「これで我慢してくださいな」
「…ヴィーは狡い」
撃沈したシー様に笑う。
なんだかんだで、この人も本当に可愛いのだ。
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