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オムライスが食べたいね
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「ねえねえ」
「なに?」
「今日のクエストクリアでMVP認定貰えたらさ、オムライスが食べたいね」
「いいねいいね」
ターフェルルンデ帝国の、小さな小さな田舎町にある孤児院。
身寄りのない子供達が身を寄せ合うそこは、しかしながら財政的にとても厳しい。
職員達は創意工夫を施してなんとか施設を維持しているが、限界はあった。
そこで孤児院は、仕方なく冒険者稼業を子供達にさせることにした。
冒険者とは実質、国が認めた『何でも屋』のようなものである。
ギルドにてクエストを受け付け、それをこなして報酬を得る。
子供達にそんなことをさせるのは職員達としては不安だったが、ギルドはそんな職員達の不安も汲み取って難しくない割に報酬の多いクエストを子供達に流した。
他の冒険者もそれに異論は無いようで、早い者勝ちのクエストの受注だが孤児院の子供達だけは特別扱いされていた。
子供達にとっても、将来的にプロの冒険者になる道が開けるので…ある意味では職業訓練のようなものにはなっていた。
孤児院は子供達が稼いだ額の10%をもらって施設を維持して、残りは将来子供達に残せるよう貯蓄。
ただ、今頑張っている分のご褒美も子供達は当然欲しい。
将来の貯金云々は子供達にとってはピンとこないものだった。
なので孤児院はその日一番報酬を稼いだ子供をMVPとして、できる限りのお願い事を毎日叶えることにした。
夕飯は何が食べたいとか、おやつは何がいいとか、そんなレベルの話だが。
そんな孤児院で、年少組がオムライスを夢見るのを聞いてしまった年長組の一人『ロイ』。
彼は音もなくその場から立ち去り、ギルドに向かった。
ギルドにて、孤児院の子供が受けられる一番報酬の高いクエストを引き受ける。
内容は上級モンスターの討伐。
年長組の中でも腕利の孤児でなければ受けられないほどの難関クエストだが、ロイは顔色ひとつ変えずにモンスター討伐に向かった。
ソロでモンスター討伐は特に危険が伴う。
しかしロイは、片手剣ひとつでモンスター討伐のクエストを軽々とこなした。
その後も凄い勢いでたくさんの難関クエストをこなしたロイ。
その日のMVPは、当然のようにロイが選ばれた。
「MVPもらえなかったね…」
「仕方ないよ、僕たちまだ年少組だもん…」
「そうだね…」
落胆する朝に見かけた子供達。
それを横目にロイは少しの緊張に唾を飲み込む。
施設長はロイに問いかける。
「何か望みはあるかな?」
「では…今日の夜の給食は、オムライスをお願いします」
「ふふ、そうか。わかったよ、そうしよう」
施設長とロイの会話に、年少組は沸いた。
「やったー!」
「ロイ兄ありがとー!」
「わーい!」
なんてことない顔をして、感謝を叫ぶ年少組を軽くあしらうロイ。
だが、いつのまにかそんなロイの隣に座っていた幼馴染はそんなロイにクスクスと笑う。
「感謝されてるんだから、照れることないじゃない」
「フェリシー、そんな簡単に言わないでくれ」
「照れ屋さんなんだから」
ロイの片思いの相手は、ロイ以上に彼自身をよく知っていた。
「年少組たちも、貴方の優しさにはとっくに気付いてるわ」
「…」
「私、貴方のそういうところとても好きよ」
「そ、そんなこと言われても」
「いつも年少組に優しいところとか、私にだけ特別見せてくれる笑顔とか、モンスター討伐の時にしか見せないキリッとした顔とか。全部好き」
フェリシーの突然の告白に、ロイは戸惑う。
「え?え、フェリシー、急に何だ?」
「急じゃないわ。本当はずっと、伝える機会を待ってたの」
「え」
「好きよ、ロイ。貴方のことが」
突然の公開告白に、施設内は色めき立つ。
ロイはあまりに突然の展開にフリーズ。
フェリシーはそんなロイを根気強く待った。
そしてロイはやっと正気に戻ると、フェリシーを抱きしめた。
「俺も好きだ!」
フェリシーはロイをそっと抱きしめ返した。
こうして孤児院内で熱々カップルが誕生したのである。
なお、年少組はそんな騒ぎにはしばらく気付かず夕飯の給食で出てきたオムライスに夢中だったらしい。
「なに?」
「今日のクエストクリアでMVP認定貰えたらさ、オムライスが食べたいね」
「いいねいいね」
ターフェルルンデ帝国の、小さな小さな田舎町にある孤児院。
身寄りのない子供達が身を寄せ合うそこは、しかしながら財政的にとても厳しい。
職員達は創意工夫を施してなんとか施設を維持しているが、限界はあった。
そこで孤児院は、仕方なく冒険者稼業を子供達にさせることにした。
冒険者とは実質、国が認めた『何でも屋』のようなものである。
ギルドにてクエストを受け付け、それをこなして報酬を得る。
子供達にそんなことをさせるのは職員達としては不安だったが、ギルドはそんな職員達の不安も汲み取って難しくない割に報酬の多いクエストを子供達に流した。
他の冒険者もそれに異論は無いようで、早い者勝ちのクエストの受注だが孤児院の子供達だけは特別扱いされていた。
子供達にとっても、将来的にプロの冒険者になる道が開けるので…ある意味では職業訓練のようなものにはなっていた。
孤児院は子供達が稼いだ額の10%をもらって施設を維持して、残りは将来子供達に残せるよう貯蓄。
ただ、今頑張っている分のご褒美も子供達は当然欲しい。
将来の貯金云々は子供達にとってはピンとこないものだった。
なので孤児院はその日一番報酬を稼いだ子供をMVPとして、できる限りのお願い事を毎日叶えることにした。
夕飯は何が食べたいとか、おやつは何がいいとか、そんなレベルの話だが。
そんな孤児院で、年少組がオムライスを夢見るのを聞いてしまった年長組の一人『ロイ』。
彼は音もなくその場から立ち去り、ギルドに向かった。
ギルドにて、孤児院の子供が受けられる一番報酬の高いクエストを引き受ける。
内容は上級モンスターの討伐。
年長組の中でも腕利の孤児でなければ受けられないほどの難関クエストだが、ロイは顔色ひとつ変えずにモンスター討伐に向かった。
ソロでモンスター討伐は特に危険が伴う。
しかしロイは、片手剣ひとつでモンスター討伐のクエストを軽々とこなした。
その後も凄い勢いでたくさんの難関クエストをこなしたロイ。
その日のMVPは、当然のようにロイが選ばれた。
「MVPもらえなかったね…」
「仕方ないよ、僕たちまだ年少組だもん…」
「そうだね…」
落胆する朝に見かけた子供達。
それを横目にロイは少しの緊張に唾を飲み込む。
施設長はロイに問いかける。
「何か望みはあるかな?」
「では…今日の夜の給食は、オムライスをお願いします」
「ふふ、そうか。わかったよ、そうしよう」
施設長とロイの会話に、年少組は沸いた。
「やったー!」
「ロイ兄ありがとー!」
「わーい!」
なんてことない顔をして、感謝を叫ぶ年少組を軽くあしらうロイ。
だが、いつのまにかそんなロイの隣に座っていた幼馴染はそんなロイにクスクスと笑う。
「感謝されてるんだから、照れることないじゃない」
「フェリシー、そんな簡単に言わないでくれ」
「照れ屋さんなんだから」
ロイの片思いの相手は、ロイ以上に彼自身をよく知っていた。
「年少組たちも、貴方の優しさにはとっくに気付いてるわ」
「…」
「私、貴方のそういうところとても好きよ」
「そ、そんなこと言われても」
「いつも年少組に優しいところとか、私にだけ特別見せてくれる笑顔とか、モンスター討伐の時にしか見せないキリッとした顔とか。全部好き」
フェリシーの突然の告白に、ロイは戸惑う。
「え?え、フェリシー、急に何だ?」
「急じゃないわ。本当はずっと、伝える機会を待ってたの」
「え」
「好きよ、ロイ。貴方のことが」
突然の公開告白に、施設内は色めき立つ。
ロイはあまりに突然の展開にフリーズ。
フェリシーはそんなロイを根気強く待った。
そしてロイはやっと正気に戻ると、フェリシーを抱きしめた。
「俺も好きだ!」
フェリシーはロイをそっと抱きしめ返した。
こうして孤児院内で熱々カップルが誕生したのである。
なお、年少組はそんな騒ぎにはしばらく気付かず夕飯の給食で出てきたオムライスに夢中だったらしい。
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