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なあ、君の人生ってあんまりにも報われないものじゃないか?
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なあ、君の人生ってあんまりにも報われないものじゃないか?
そう目の前の王子は私に対して、面と向かって言った。
そんな屈辱的とも取れるその言葉に私は。
「そうなんですよー!!!わかってくださるのは貴方だけです!王子殿下!!!」
王子の手を握りしめて深く深く感謝した。
「ええー…」
王子の率直過ぎる物言いにピリピリしていた彼の側近たちは、私の予想外の反応にドン引きしている。
が、そんなものどうでもいい。
「私を、どうか彼と共に連れ去っていただけませんか!?」
「は!?」
続いた私の更なる予想外の発言に彼の側近たちはさらにさらに驚愕する。
が、王子は言った。
「連れ去るのは無理だが、側室として連れて帰るなら出来るぞ。側近としてその男も連れてきたらいい」
「ちょっと第三王子殿下!?」
「やったー!!!」
こうして小国の王女でしかなかった私は、大国の第三王子の側室となった。
「…いや、どういうわけなんです?なんでそんな流れに?」
私の十歳年上の、幼馴染であり側近であるベリルが、大国に嫁ぐための馬車に乗り込んだ私に問う。
ベリルもその馬車に乗り込む。
名目は護衛。
そして馬車は出発した。
なので正直に話す。
「大国の第三王子殿下が、こんな小国に来てくださったのは奇跡。そうよね?」
「ええ。我が国で最近見つかった希少な魔力石がお目当てでしたね」
「そう。我が国はその魔力石の採掘地として急に小国ながら表舞台に躍り出てしまった」
だけどそんなもの、私には関係ない。
関係ないのに。
「私は色んな国から喉から手が出るほどに欲しがられるだろうこれからの祖国の安定のため、中堅国家のクソデブハゲ国王の献上品にされるところだった」
「我が国はただの小国でしたのに、いきなりどこの国より重要な立場になってしまったのですから…王女殿下を贄に国の安定を計るのは変な話ではないでしょう」
「でもでも、お兄様は自分が国王になったら私は自由にして良いって仰ったのよ!だから貴方をもらって適当な男に嫁いで幸せになるつもりだったのに!」
「私を愛人にする計画、まだ諦めてなかったのですね」
「初めて会った時からゾッコンだもの!なのに!お兄様ったら国王に即位してすぐこんな…!ひどいわ!」
私を愛人にする気満々の貴女もなかなかにひどいですよ、と言われるが知らない。
この男は私のものだ。
初めて会った時から、私のものなのだ。
幼い日。
優秀なお兄様と比較され、泣いていた私に。
『お姫様、どうか泣かないでください。私はお姫様の笑った顔が見てみたい』
『ふふ、やっと笑ってくださいましたね。やはり、貴女は笑顔の方がいい。美しいです、お姫様』
そう手を差し伸べたのが、この男の運の尽きなのだ。
「でもまあ、これで貴女も諦めざるを得なくなりましたね」
「え?」
「第三王子殿下に嫁ぐのですから」
「ああ、それなら心配ないわ」
「え?」
私はベリルに説明する。
第三王子は正妻である妃にしか女としての興味がないこと。
彼の正妻である妃は物分かりのいい人で、私との結婚を形ばかりのものであるなら受け入れてくださるということ。
私は突如表舞台に立たされた小国の生贄として、人質として嫁ぐだけのお飾りの妻にしかならないこと。
子供を求められることもないこと。
「…は?」
「で、私は離宮に匿われて表舞台にはこれから先出ないの」
「は!?」
「とはいえ、人質として嫁ぐのだから祖国の安寧はこれから嫁ぐ大国がなんとかしてくれるわ。まあ、人質婚とはいえ第三王子の妻だから、どこまで面倒を見てもらえるかわからないけれど」
ガシッとベリルが私の肩を掴む。
「なんでそんな…!」
「ベリル、私の人生って本当に退屈なものだったの。貴方に出会うまで」
「は?」
小国の王女なんて、そう素晴らしいものではない。
優秀な兄と比較され、誰の役に立つでもなく、ただそこにあるだけ。
特別な幸せ、なんてなかった。
幼い日に、ベリルと会うまでは。
貴方と出会えたのが、私の初めての幸せだった。
「貴方だけ。貴方だけが私の幸せだった」
「王女殿下…」
「私は貴方だけが欲しかった」
だから、優秀な兄に必死で媚びた。
媚びた上で願った。
婚約者なんて作らないで。
いつかベリルを欲しい。
いつか程々の男と結婚して、それを隠れ蓑にベリルを囲いたい。
お兄様は優秀だからこそ、私のその執着心の深さを察して…私を哀れんだ。
そして私の好きにしろと言ってくれたのだ。
だから。
その頃国王であったお父様に、私に絶対婚約者など作るなと言い含めてくださった。
だから。
第三王子殿下に私がそんな話を、こんな話をする機会をくださった。
だから。
私は。
「ねえ、私ここまでしたのよ。ここまでしたの。なのにあの女好きで、そのくせ女に愛人を持たせることを許容しないクソデブハゲに嫁いだら全部水の泡。そんな話を第三王子殿下に包み隠さず話したら、第三王子殿下も…私と同じ穴の狢だったらしくて、協力してくれたのよ」
「…王女殿下」
「ねえ、もういいでしょう?十分頑張ったでしょう?」
ベリルの腕から力が抜けた。
「どこまで私なんかにそこまで執着してるんですか、貴女は」
「だって、好きなんだもの」
けど、と付け加える。
本当は言いたくない。
でも。
「でも、貴方が本当に嫌なら愛人にならなくてもいいの」
「は…」
「でも、その場合でも…私は貴方以外を愛さないし、貴方以外は必要ないから。だから、お願い。そばにいて。それだけは許して」
「…貴女って人は」
彼が天を仰ぐ。
そして、言った。
「本当は、断らねばならぬのです。突き放して、貴女の本当の幸せを説くべきだ」
「ベリル」
「でも、出来ない。私も、もう我慢の限界だ。貴女が欲しい。欲しいのです」
「…!!!」
「そばにいさせてください。どうか、私と共に生きて欲しい」
その言葉だけで。
心臓が口から出るほど、幸福だ。
「やっと、私のものになった…」
「それはこちらのセリフです」
彼が私を、見つめる。
いつになく、熱っぽい目で。
「やっと、貴女を手に入れた…」
その目に涙が浮かぶから。
私も自然と泣いてしまった。
けどその涙は、とても優しい味がした。
それから。
私は第三王子殿下の妃として離宮に匿われた。
表舞台に出ることもなく、生涯子供を持つこともなかった。
ただ、私には最期の時まで添い遂げた愛人がいた。
それで、十分だった。
そう目の前の王子は私に対して、面と向かって言った。
そんな屈辱的とも取れるその言葉に私は。
「そうなんですよー!!!わかってくださるのは貴方だけです!王子殿下!!!」
王子の手を握りしめて深く深く感謝した。
「ええー…」
王子の率直過ぎる物言いにピリピリしていた彼の側近たちは、私の予想外の反応にドン引きしている。
が、そんなものどうでもいい。
「私を、どうか彼と共に連れ去っていただけませんか!?」
「は!?」
続いた私の更なる予想外の発言に彼の側近たちはさらにさらに驚愕する。
が、王子は言った。
「連れ去るのは無理だが、側室として連れて帰るなら出来るぞ。側近としてその男も連れてきたらいい」
「ちょっと第三王子殿下!?」
「やったー!!!」
こうして小国の王女でしかなかった私は、大国の第三王子の側室となった。
「…いや、どういうわけなんです?なんでそんな流れに?」
私の十歳年上の、幼馴染であり側近であるベリルが、大国に嫁ぐための馬車に乗り込んだ私に問う。
ベリルもその馬車に乗り込む。
名目は護衛。
そして馬車は出発した。
なので正直に話す。
「大国の第三王子殿下が、こんな小国に来てくださったのは奇跡。そうよね?」
「ええ。我が国で最近見つかった希少な魔力石がお目当てでしたね」
「そう。我が国はその魔力石の採掘地として急に小国ながら表舞台に躍り出てしまった」
だけどそんなもの、私には関係ない。
関係ないのに。
「私は色んな国から喉から手が出るほどに欲しがられるだろうこれからの祖国の安定のため、中堅国家のクソデブハゲ国王の献上品にされるところだった」
「我が国はただの小国でしたのに、いきなりどこの国より重要な立場になってしまったのですから…王女殿下を贄に国の安定を計るのは変な話ではないでしょう」
「でもでも、お兄様は自分が国王になったら私は自由にして良いって仰ったのよ!だから貴方をもらって適当な男に嫁いで幸せになるつもりだったのに!」
「私を愛人にする計画、まだ諦めてなかったのですね」
「初めて会った時からゾッコンだもの!なのに!お兄様ったら国王に即位してすぐこんな…!ひどいわ!」
私を愛人にする気満々の貴女もなかなかにひどいですよ、と言われるが知らない。
この男は私のものだ。
初めて会った時から、私のものなのだ。
幼い日。
優秀なお兄様と比較され、泣いていた私に。
『お姫様、どうか泣かないでください。私はお姫様の笑った顔が見てみたい』
『ふふ、やっと笑ってくださいましたね。やはり、貴女は笑顔の方がいい。美しいです、お姫様』
そう手を差し伸べたのが、この男の運の尽きなのだ。
「でもまあ、これで貴女も諦めざるを得なくなりましたね」
「え?」
「第三王子殿下に嫁ぐのですから」
「ああ、それなら心配ないわ」
「え?」
私はベリルに説明する。
第三王子は正妻である妃にしか女としての興味がないこと。
彼の正妻である妃は物分かりのいい人で、私との結婚を形ばかりのものであるなら受け入れてくださるということ。
私は突如表舞台に立たされた小国の生贄として、人質として嫁ぐだけのお飾りの妻にしかならないこと。
子供を求められることもないこと。
「…は?」
「で、私は離宮に匿われて表舞台にはこれから先出ないの」
「は!?」
「とはいえ、人質として嫁ぐのだから祖国の安寧はこれから嫁ぐ大国がなんとかしてくれるわ。まあ、人質婚とはいえ第三王子の妻だから、どこまで面倒を見てもらえるかわからないけれど」
ガシッとベリルが私の肩を掴む。
「なんでそんな…!」
「ベリル、私の人生って本当に退屈なものだったの。貴方に出会うまで」
「は?」
小国の王女なんて、そう素晴らしいものではない。
優秀な兄と比較され、誰の役に立つでもなく、ただそこにあるだけ。
特別な幸せ、なんてなかった。
幼い日に、ベリルと会うまでは。
貴方と出会えたのが、私の初めての幸せだった。
「貴方だけ。貴方だけが私の幸せだった」
「王女殿下…」
「私は貴方だけが欲しかった」
だから、優秀な兄に必死で媚びた。
媚びた上で願った。
婚約者なんて作らないで。
いつかベリルを欲しい。
いつか程々の男と結婚して、それを隠れ蓑にベリルを囲いたい。
お兄様は優秀だからこそ、私のその執着心の深さを察して…私を哀れんだ。
そして私の好きにしろと言ってくれたのだ。
だから。
その頃国王であったお父様に、私に絶対婚約者など作るなと言い含めてくださった。
だから。
第三王子殿下に私がそんな話を、こんな話をする機会をくださった。
だから。
私は。
「ねえ、私ここまでしたのよ。ここまでしたの。なのにあの女好きで、そのくせ女に愛人を持たせることを許容しないクソデブハゲに嫁いだら全部水の泡。そんな話を第三王子殿下に包み隠さず話したら、第三王子殿下も…私と同じ穴の狢だったらしくて、協力してくれたのよ」
「…王女殿下」
「ねえ、もういいでしょう?十分頑張ったでしょう?」
ベリルの腕から力が抜けた。
「どこまで私なんかにそこまで執着してるんですか、貴女は」
「だって、好きなんだもの」
けど、と付け加える。
本当は言いたくない。
でも。
「でも、貴方が本当に嫌なら愛人にならなくてもいいの」
「は…」
「でも、その場合でも…私は貴方以外を愛さないし、貴方以外は必要ないから。だから、お願い。そばにいて。それだけは許して」
「…貴女って人は」
彼が天を仰ぐ。
そして、言った。
「本当は、断らねばならぬのです。突き放して、貴女の本当の幸せを説くべきだ」
「ベリル」
「でも、出来ない。私も、もう我慢の限界だ。貴女が欲しい。欲しいのです」
「…!!!」
「そばにいさせてください。どうか、私と共に生きて欲しい」
その言葉だけで。
心臓が口から出るほど、幸福だ。
「やっと、私のものになった…」
「それはこちらのセリフです」
彼が私を、見つめる。
いつになく、熱っぽい目で。
「やっと、貴女を手に入れた…」
その目に涙が浮かぶから。
私も自然と泣いてしまった。
けどその涙は、とても優しい味がした。
それから。
私は第三王子殿下の妃として離宮に匿われた。
表舞台に出ることもなく、生涯子供を持つこともなかった。
ただ、私には最期の時まで添い遂げた愛人がいた。
それで、十分だった。
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