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奴隷の少年は自らの主人の一生を見守ることにした

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国随一の大金持ち公爵、オスカー・ノアイユ。ノアイユ家は元々伝統ある家柄だったが、その潤沢な資金をオスカーは新規事業への投資にあてた。その結果、オスカーの読みは当たり見事に倍以上の利益を生み出した。お金、地位、権力の全てを手に入れたノアイユ家は、今やもう王家ですら大きな顔はできない相手になった。

そんなオスカーには三人の子供がいる。文武両道の天才、長男のオディロン。剣術では右に出る者がいない努力の天才、オネシム。甘やかされて育ったというのにきちんと必要な知識は備えている、末っ子長女オリアーヌである。

オディロンはオスカーの跡を継ぎ公爵となることが決まっている。オネシムは騎士として先の戦争で手柄を立てたので、国から元隣国であった王家直轄領を下賜され新たに辺境伯の爵位を賜った。あと残るはオリアーヌの将来だが…。

「オリアーヌ。どうしても結婚はしたくないのかい?オリアーヌは母に似て美しい。婚約の申し込みはたくさんあるよ。今なら選り取り見取りだ」

「お父様、何度も言わせないでくださいまし。私は、貯金してきたお小遣い全部を使ってとある借金持ちの元伯爵家から伯爵位と領地を買いましたの。女伯爵になったんですわ!もちろん彼らも私の払ったお小遣いで借金から解放されて、今は慎ましやかに暮らしておりますのでご安心くださいまし?…脱線しましたわね。ともかく、今まだ家に残っているのはオディロンお兄様から領地経営を学んでいるからですの。結婚なんてする暇がありませんわ」

「だが、結婚しないならオリアーヌのあとは伯爵位と領地は誰が継ぐんだい?」

「優秀な親戚の子から養子を迎えます」

「まあ、それはそれでいいとは思うけどねぇ…孫の顔はオディロンが見せてくれるだろうし、私にとってはオリアーヌの幸せが一番大事だ。たとえ、それがどれだけ常識はずれだとしてもね」

この国では女性が当主になるのは珍しい。ないわけではないが、なかなか受け入れられない茨の道と言える。まして結婚しないなど以ての外である。けれど、オリアーヌは自らそれを選んだ。オスカーとしては応援してあげたい。

「お父様、大好きですわ!」

「現金な子だなぁ、もう」

反抗モードから手のひらをくるりと返しハグしてくる愛娘に、オスカーの表情はとても甘くなる。

そしてオリアーヌはしばらくの間兄の元で領地経営を徹底的に教え込まれ、もう教えることはないと太鼓判を押されるまでになった。

そうなるとオリアーヌは元伯爵達の住んでいた屋敷に向かう。ここも元伯爵達から買い取っていた。

「「「おかえりなさいませ、当主様」」」

そこにはオスカーからまだ与えられ続けているお小遣いを使って、オリアーヌが雇った使用人達がいる。

「ただいま、みんな」

「おかえりを首を長くしてお待ちしておりました。こちらへ」

この使用人達は、最近雇われたばかりだというのに妙にオリアーヌに懐いている。忠誠心がとても強い。

それもそのはずだ。オリアーヌは彼等を助けてあげたのだから。

彼等はスラム街にいた、憐れな孤児達だった。慈善活動として良くスラム街で炊き出しを行っていたオリアーヌは、そんな彼等に慈悲の心を向けた。顔見知りとなった彼等の内、真面目に働きそうな者だけを厳選して雇い入れることにしたのだ。衣食住を保証し、お賃金もなかなか良い。みんな真面目に働くことを誓ってくれた。

「当主様。早速ですが、何人かの商人が当主様にお会いしたいとのことです」

「そう。一人一人会うわ」

「お伝え致します」

ということで、オリアーヌは商人達に会う。父から莫大な額のお小遣いを相変わらずもらっているので、お金には困らない。気に入ればいくらでも買ってやろう。それに、お金は天下の回り物。使わなければ腐らせるだけなのだから、使えるうちに使うに限る。

「で、貴方は何を持ってきたのかしら」

商人達をたくさん相手して、良い商人を一人見つけ贔屓にすることを約束したオリアーヌ。最後の一人にはもう期待していなかった。

「奴隷商ですので、もちろん奴隷を連れてきました」

「…そう」

オリアーヌはあまり奴隷制は好きではない。同じ人間なのだからもう少し扱いをなんとか出来ないのかと呆れていた。

しかし、その考えは一瞬で吹き飛んだ。

「最高の愛玩奴隷を用意しました。まだ幼く可愛らしい、容姿の整った少年です」

そう言われて紹介された少年を見て、オリアーヌは即答した。

「買うわ」

「ありがとうございます」

金の御髪に青の瞳。怯えた表情も可愛らしいその少年は、オリアーヌの好みど真ん中であった。

「これからよろしくお願いします、ご主人様」

「当主様とお呼びなさい」

「はい、当主様」

オリアーヌは少年の頭を優しく撫でながら思う。

さすが、愛玩奴隷として売られただけあって清潔にしてあるし、お手入れもきちんとされている。さらさらの美しい髪は、指通りがとても良い。肌はもちもちのすべすべだ。程よく筋肉も付いているのがポイント高い。

「それで、当主様。僕は何をすればいいのですか?」

「特に何もしなくていいわ」

「…え」

「貴方は居るだけで私を癒してくれるもの」

少年は目をパチクリした後、微笑んだ。

「当主様。僕はペランという名前です。どうか、一度だけでも呼んでくださいませ」

「ええ。ペラン、大好きよ」

「ありがとうございます、当主様」

こうして二人の主従関係は始まった。

「当主様!今日は先生がたくさん褒めてくださったんですよ!」

「すごいじゃない、ペラン」

オリアーヌは、ペランの奴隷登録を破棄して彼を平民に戻した。さらに、わざわざ腕の良い治癒術師に頼み込みペランにつけられた奴隷刻印を消してもらうことに成功する。そして、ペランの為に家庭教師まで雇って彼に教養を身につけさせた。

「ご褒美に今日はモンブランを買って来たわ」

「モンブラン!楽しみです!」

はしゃぐペランにオリアーヌは優しく笑う。

「ペランは本当に素敵な子ね」

「そうですか?」

「ええ。見た目に反して結構な大喰らいなのもとても良いわ」

「えへへ。エネルギーは必要ですから」

オリアーヌは、ペランを優しく抱きしめる。

「これからもずっと一緒にいましょうね、ペラン」

「はい、当主様」










ペランは思う。彼女はあまりにも無防備過ぎると。

ペランは、インキュバスだ。女性の精気を吸って生きる夢魔。まさか人間なんかに魔法を封印されとっ捕まり、奴隷にされるとは思わなかったが。

まあ、どうせ愛玩奴隷となるのだから餌には困らない。飽きたら隙をついて逃げればいい。そう思っていた。

だが、自分を買った女性は手を出して来ないどころか自分を徹底的に甘やかす。あまりにも大切にされるので、ペランはとうとう諦めた。

ペランは、精気を吸わない。自分を大切にしてくれる女性を無理に襲えないし、魔法を封印されたから。そのかわり、効率は悪いが食べ物をたくさん食べてたくさん眠るようにした。多分、彼女が死ぬまでの『短い間』なら耐えられる。ペラン達夢魔には、寿命はないに等しいのだから。だから、せめてその短い間が少しでも長くなれば良い。心からそう願った。
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