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かなりビターなお話
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「ねえ知ってる?この噂を聞くとね、幽霊が家にやってくるんだってー!!!家族に化けてドアを開けさせるらしいよー!」
「ちょっとー!巻き込まないでよー!」
「なっちゃんったら怖がりなんだから!ただの噂だよー!あ、でも幽霊が本当にきたら、絶対玄関のドアを開けちゃダメだよ。身体を乗っ取られちゃうから」
「わ、わかった」
私は怖くて怖くて、何度も頷いた。
そんな話をしながら帰ったら、いつのまにか家に着いていて。
私は一人、家に戻った。
私は鍵っ子なので、今日も一人でお留守番。
宿題を片付けて、予習復習もして、お夕飯も用意して食べて、お風呂にも入って、あとは寝るだけ。
お父さんは深夜に帰ってくるから、ちゃんと先に寝てなくちゃね。
『ピンポーン』
え、こんな時間に誰だろう。
ドアスコープを見ると、お父さん。
え、なんで鍵を使わないんだろう。
ふと、帰りに聞いた噂を思い出す。
ニセモノだったら、どうしよう。
「どちら様ですか」
『パパだよなっちゃん』
「…なんで鍵で入ってこないの」
『鍵を無くしちゃったんだ』
それはあり得ない。
だって、お父さんはいつもお財布に鍵を入れてる。
お財布は大切だから、無くすなんて普通はない。
この『お父さん』はカバンを持ってるから、お財布もあるはずだもん。
それに、この人は自分をパパだよって言った。
お父さんは自分をパパとは言わない、お父さんって言う。
「…お父さん、このあいだの私の誕生日のプレゼント覚えてる?」
『くまさんのぬいぐるみだね』
「じゃあ、最後に一緒に出かけた思い出は?」
「幼稚園の頃プールに連れて行ったね」
両方とも正解。
だからこそお父さんじゃないとわかる。
だってお父さんは、そういうことを覚えていてくれるほど私に興味はない。
成績くらいしか、気にしていない。
『そろそろ開けてくれるかな?』
「…お父さん、見て見て。私の、今回のテスト結果」
『おや、98点なんてすごいじゃないか!』
「…ねえ、どうしてドア越しに見えてるの?」
『!!!』
「あと、本当のお父さんは100点じゃないと殴るよ。98点じゃ褒めてくれない」
『!!!!!』
「でも、褒めてくれてありがとう。だから、開けてあげるね」
『待て!』
その人は言った。
『…父親が嫌いか?』
「わからない。好きだったはずなのに、今は怖いの」
『俺が父親になってやる』
「え」
『俺は一旦帰るから、父親に例の噂話を聞かせろ』
「え」
「じゃあな」
じゃあな、と言ったその声はお父さんの真似じゃなくて、多分その人本来の声だった。
「お父さん」
「なんだ、どうした?」
「最近帰りが早いね」
「お前のためだからな。仕事もちゃんとこなしてるから心配するな」
「ねえ、今日テストで97点だった」
「やるなぁ!さすが俺の子だ!」
お父さんは最近、帰りが早い。
お父さんは最近、たくさん褒めてくれる。
お父さんは最近、頭を撫でてくれる。
お父さんは最近、ちゃんとお母さんのために線香をあげている。
お父さんは最近、笑顔が増えた。
この人は誰なんだろう。
どうして知らない人なのに、私はこんなにもこの人が大好きになってしまったんだろう。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
「そばにいてね」
「うん、もちろんだ。なっちゃんのためだからな」
「うん…」
お母さん、なっちゃんは悪い子になってしまいました。
でも。
いつか天罰が下るまで、優しいお父さんとの思い出を作らせて欲しいのです。
「ちょっとー!巻き込まないでよー!」
「なっちゃんったら怖がりなんだから!ただの噂だよー!あ、でも幽霊が本当にきたら、絶対玄関のドアを開けちゃダメだよ。身体を乗っ取られちゃうから」
「わ、わかった」
私は怖くて怖くて、何度も頷いた。
そんな話をしながら帰ったら、いつのまにか家に着いていて。
私は一人、家に戻った。
私は鍵っ子なので、今日も一人でお留守番。
宿題を片付けて、予習復習もして、お夕飯も用意して食べて、お風呂にも入って、あとは寝るだけ。
お父さんは深夜に帰ってくるから、ちゃんと先に寝てなくちゃね。
『ピンポーン』
え、こんな時間に誰だろう。
ドアスコープを見ると、お父さん。
え、なんで鍵を使わないんだろう。
ふと、帰りに聞いた噂を思い出す。
ニセモノだったら、どうしよう。
「どちら様ですか」
『パパだよなっちゃん』
「…なんで鍵で入ってこないの」
『鍵を無くしちゃったんだ』
それはあり得ない。
だって、お父さんはいつもお財布に鍵を入れてる。
お財布は大切だから、無くすなんて普通はない。
この『お父さん』はカバンを持ってるから、お財布もあるはずだもん。
それに、この人は自分をパパだよって言った。
お父さんは自分をパパとは言わない、お父さんって言う。
「…お父さん、このあいだの私の誕生日のプレゼント覚えてる?」
『くまさんのぬいぐるみだね』
「じゃあ、最後に一緒に出かけた思い出は?」
「幼稚園の頃プールに連れて行ったね」
両方とも正解。
だからこそお父さんじゃないとわかる。
だってお父さんは、そういうことを覚えていてくれるほど私に興味はない。
成績くらいしか、気にしていない。
『そろそろ開けてくれるかな?』
「…お父さん、見て見て。私の、今回のテスト結果」
『おや、98点なんてすごいじゃないか!』
「…ねえ、どうしてドア越しに見えてるの?」
『!!!』
「あと、本当のお父さんは100点じゃないと殴るよ。98点じゃ褒めてくれない」
『!!!!!』
「でも、褒めてくれてありがとう。だから、開けてあげるね」
『待て!』
その人は言った。
『…父親が嫌いか?』
「わからない。好きだったはずなのに、今は怖いの」
『俺が父親になってやる』
「え」
『俺は一旦帰るから、父親に例の噂話を聞かせろ』
「え」
「じゃあな」
じゃあな、と言ったその声はお父さんの真似じゃなくて、多分その人本来の声だった。
「お父さん」
「なんだ、どうした?」
「最近帰りが早いね」
「お前のためだからな。仕事もちゃんとこなしてるから心配するな」
「ねえ、今日テストで97点だった」
「やるなぁ!さすが俺の子だ!」
お父さんは最近、帰りが早い。
お父さんは最近、たくさん褒めてくれる。
お父さんは最近、頭を撫でてくれる。
お父さんは最近、ちゃんとお母さんのために線香をあげている。
お父さんは最近、笑顔が増えた。
この人は誰なんだろう。
どうして知らない人なのに、私はこんなにもこの人が大好きになってしまったんだろう。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
「そばにいてね」
「うん、もちろんだ。なっちゃんのためだからな」
「うん…」
お母さん、なっちゃんは悪い子になってしまいました。
でも。
いつか天罰が下るまで、優しいお父さんとの思い出を作らせて欲しいのです。
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