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好きは好きでも推し的な意味での好き
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私はマナ。平民ではあるが類稀なる才能…魔法を使えるから、貴族の子女の通う学園に特待生として入学することが出来た。
普通の人は魔術は使えても魔法は使えない、しかも私は平民。貴族の子女の皆様方から嫉妬からイジメられるようになったのはある意味当然の流れだと思う。
でもその分本来なら学べない知識も学園で身につけられるし、放課後は魔法使いとしてお仕事を国から斡旋してもらえて今では我が家は平民にしてはかなり裕福。
国にも貴族の皆様方にも、感謝こそすれ恨みなどない。だからイジメられるのも受け入れていた。
あの日までは。
『大丈夫かい?』
『え、あ…』
『まったく、幼稚なイジメだね。いきなり硬いボールを背中に投げつけるなんて…怪我はない?痛みは引いた?』
『だ、大丈夫です!』
『そう。これから移動教室だろう?一緒に行こうか』
その人は学園内でも有名な人。その名もシルヴィウス様。一代で財を成し叙爵までされた男爵様の一人息子で、かなりの大金持ち。王族ですら彼の父には一目置いているらしい。
彼自身も文武両道で博愛主義、見た目もかっこいい。そして将来は商会と爵位を継ぐ立場とくれば当然モテる。
そんな人から話しかけられるなんて思ってもみなかった。しかもイジメられる私をみかねたのか、あの日以降クラスが違うのに通学の時や休み時間はずっと一緒にいてくれるようになった。
シルヴィウス様は優しくて気遣い上手で、いつからか彼と一緒にいるのが当たり前にすらなっていた。
『シルヴィウス様、お菓子を作ってみたのですが…』
『君の手作りお菓子!?欲しい!』
『ふふ、はいどうぞ』
『ありがとう!君は女神だ!』
『大袈裟ですよ』
意外と甘党の彼に、いつからかお菓子の差し入れをするのが当たり前になっていた。
彼は毎回毎回嬉しそうに受け取ってくれて、それがなんだかとても嬉しかった。
彼との何気ない日常が、とてもとても大切だった。
でも、ある日偶然聞いてしまった。彼と彼の親友の会話に、私は現実を思い出した。
『なあ、シルヴィウスはなんであの特待生ちゃんといつも一緒にいるんだ?』
『なんでって?』
『お前の好みのタイプじゃないだろ』
『あー…そういうのじゃないよ。可哀想な子だからさ』
『うっわぁ…ひっでぇの…』
現実を突きつけられた私は決めたのだ。
もう、シルヴィウス様に迷惑はかけないと!!!
ということで、優しいシルヴィウス様には悪いけど逃げ回ることにした。
「…マナ」
「あ、すみません今から魔法使いとしての活動があるので」
「待って」
あれ以降私は登校時間や下校時間をずらしたり、休み時間は女好きで有名な同級生に付き合ってもらって時間を潰したりしてシルヴィウス様を徹底的に避けた。
そうなると、シルヴィウス様もわざわざ話しかけには来ない。
でも、今日は違った。
「本当にごめんなさい、今から仕事なので…」
「頼む、少し話してくれるだけでいいんだ」
「…」
「僕は、君に何かしたかな…?」
まるで捨てられた子犬みたいな目を見てしまい、罪悪感がすごい。
シルヴィウス様は何も悪くない。でもだからこそ、私のことなんか気にせず楽しい学園生活を謳歌して欲しい。
「…えっと、特に何も」
「では何故離れていくの」
「シルヴィウス様、もう私のことは気にしなくていいので」
そう言って背を向けたのが悪かったのか。
「…マナ!」
私は後ろからシルヴィウス様に抱きしめられた。
「え!?シルヴィウス様!?」
「ごめん、僕が何かしたなら謝るから…」
「ええ…?」
これはどういう状況だろうか。
…とりあえず、お互いに話し合う方がマシだろうか。
「…つまり、僕の失言で君を傷つけたと」
「いや、傷つくというか…現実を受け入れただけというか…」
「すまない、なんとお詫びをすればいいのか…でも、違うんだ。苦しい言い訳だと思われるかもしれないが、聞いてくれ」
「はい」
「君のことを好きだと言って、君のいいところをあいつに聞かせたら…取られるかもって思って」
…はい?
「…?」
「僕はまだまだ未熟者だから…あいつみたいな完璧な男が君に惚れたら、きっと取られる。僕は他の男の前で惚気るほど自分に自信がない」
「………???」
「だが、それで君を傷つけたなんて…いっそハラキリするべきだろうか」
「そんな文化をどこで習ってしまったのですか、あとハラキリじゃなくて切腹です。そして勝手に死なないでください」
すらすらと言葉は出るけれど、まだ頭が混乱している。
今のはまるで、私のことが好きみたいな…。
「…頼む、他の男のところに行かないで欲しい。あの同じクラスの女好きの男とも縁を切って、僕だけのそばにいて欲しい」
「ええ…???」
どういうことなんだろうか。
「………わかった、わかってる。この逃げ腰がダメなんだよな」
「?」
「好きだよ、マナ。愛してる。最初は同情だったけど…それは否めないけど、でもずっと一緒にいて君の素敵なところをたくさん知った。僕はもう君以外なんて考えられない!」
「!?」
「結婚を前提として付き合ってもらえないか」
嬉しい。気持ちは嬉しい。
でも、私のシルヴィウス様への憧れは恋じゃなくて推し的な意味なんです…無理!!!!!
「シルヴィウス様…ごめんなさい。シルヴィウス様のことは大好きですし憧れますけど、恋愛感情じゃなくて…その、大好きな役者さんを追いかけてる時みたいな感じで」
「…っ、わかった。そっか。そうだよね」
悲しそうに揺れる瞳に、なんとも言えない気持ちになる。
「でも、諦めないから」
「え」
「これからは押せ押せでいく。よろしくね」
そう言ってウィンクするシルヴィウス様。
その後本当に押せ押せで迫ってくるシルヴィウス様に、前とは違う意味ではちゃめちゃな学園生活を送ることになるとはこの時は思ってもみなかった。
普通の人は魔術は使えても魔法は使えない、しかも私は平民。貴族の子女の皆様方から嫉妬からイジメられるようになったのはある意味当然の流れだと思う。
でもその分本来なら学べない知識も学園で身につけられるし、放課後は魔法使いとしてお仕事を国から斡旋してもらえて今では我が家は平民にしてはかなり裕福。
国にも貴族の皆様方にも、感謝こそすれ恨みなどない。だからイジメられるのも受け入れていた。
あの日までは。
『大丈夫かい?』
『え、あ…』
『まったく、幼稚なイジメだね。いきなり硬いボールを背中に投げつけるなんて…怪我はない?痛みは引いた?』
『だ、大丈夫です!』
『そう。これから移動教室だろう?一緒に行こうか』
その人は学園内でも有名な人。その名もシルヴィウス様。一代で財を成し叙爵までされた男爵様の一人息子で、かなりの大金持ち。王族ですら彼の父には一目置いているらしい。
彼自身も文武両道で博愛主義、見た目もかっこいい。そして将来は商会と爵位を継ぐ立場とくれば当然モテる。
そんな人から話しかけられるなんて思ってもみなかった。しかもイジメられる私をみかねたのか、あの日以降クラスが違うのに通学の時や休み時間はずっと一緒にいてくれるようになった。
シルヴィウス様は優しくて気遣い上手で、いつからか彼と一緒にいるのが当たり前にすらなっていた。
『シルヴィウス様、お菓子を作ってみたのですが…』
『君の手作りお菓子!?欲しい!』
『ふふ、はいどうぞ』
『ありがとう!君は女神だ!』
『大袈裟ですよ』
意外と甘党の彼に、いつからかお菓子の差し入れをするのが当たり前になっていた。
彼は毎回毎回嬉しそうに受け取ってくれて、それがなんだかとても嬉しかった。
彼との何気ない日常が、とてもとても大切だった。
でも、ある日偶然聞いてしまった。彼と彼の親友の会話に、私は現実を思い出した。
『なあ、シルヴィウスはなんであの特待生ちゃんといつも一緒にいるんだ?』
『なんでって?』
『お前の好みのタイプじゃないだろ』
『あー…そういうのじゃないよ。可哀想な子だからさ』
『うっわぁ…ひっでぇの…』
現実を突きつけられた私は決めたのだ。
もう、シルヴィウス様に迷惑はかけないと!!!
ということで、優しいシルヴィウス様には悪いけど逃げ回ることにした。
「…マナ」
「あ、すみません今から魔法使いとしての活動があるので」
「待って」
あれ以降私は登校時間や下校時間をずらしたり、休み時間は女好きで有名な同級生に付き合ってもらって時間を潰したりしてシルヴィウス様を徹底的に避けた。
そうなると、シルヴィウス様もわざわざ話しかけには来ない。
でも、今日は違った。
「本当にごめんなさい、今から仕事なので…」
「頼む、少し話してくれるだけでいいんだ」
「…」
「僕は、君に何かしたかな…?」
まるで捨てられた子犬みたいな目を見てしまい、罪悪感がすごい。
シルヴィウス様は何も悪くない。でもだからこそ、私のことなんか気にせず楽しい学園生活を謳歌して欲しい。
「…えっと、特に何も」
「では何故離れていくの」
「シルヴィウス様、もう私のことは気にしなくていいので」
そう言って背を向けたのが悪かったのか。
「…マナ!」
私は後ろからシルヴィウス様に抱きしめられた。
「え!?シルヴィウス様!?」
「ごめん、僕が何かしたなら謝るから…」
「ええ…?」
これはどういう状況だろうか。
…とりあえず、お互いに話し合う方がマシだろうか。
「…つまり、僕の失言で君を傷つけたと」
「いや、傷つくというか…現実を受け入れただけというか…」
「すまない、なんとお詫びをすればいいのか…でも、違うんだ。苦しい言い訳だと思われるかもしれないが、聞いてくれ」
「はい」
「君のことを好きだと言って、君のいいところをあいつに聞かせたら…取られるかもって思って」
…はい?
「…?」
「僕はまだまだ未熟者だから…あいつみたいな完璧な男が君に惚れたら、きっと取られる。僕は他の男の前で惚気るほど自分に自信がない」
「………???」
「だが、それで君を傷つけたなんて…いっそハラキリするべきだろうか」
「そんな文化をどこで習ってしまったのですか、あとハラキリじゃなくて切腹です。そして勝手に死なないでください」
すらすらと言葉は出るけれど、まだ頭が混乱している。
今のはまるで、私のことが好きみたいな…。
「…頼む、他の男のところに行かないで欲しい。あの同じクラスの女好きの男とも縁を切って、僕だけのそばにいて欲しい」
「ええ…???」
どういうことなんだろうか。
「………わかった、わかってる。この逃げ腰がダメなんだよな」
「?」
「好きだよ、マナ。愛してる。最初は同情だったけど…それは否めないけど、でもずっと一緒にいて君の素敵なところをたくさん知った。僕はもう君以外なんて考えられない!」
「!?」
「結婚を前提として付き合ってもらえないか」
嬉しい。気持ちは嬉しい。
でも、私のシルヴィウス様への憧れは恋じゃなくて推し的な意味なんです…無理!!!!!
「シルヴィウス様…ごめんなさい。シルヴィウス様のことは大好きですし憧れますけど、恋愛感情じゃなくて…その、大好きな役者さんを追いかけてる時みたいな感じで」
「…っ、わかった。そっか。そうだよね」
悲しそうに揺れる瞳に、なんとも言えない気持ちになる。
「でも、諦めないから」
「え」
「これからは押せ押せでいく。よろしくね」
そう言ってウィンクするシルヴィウス様。
その後本当に押せ押せで迫ってくるシルヴィウス様に、前とは違う意味ではちゃめちゃな学園生活を送ることになるとはこの時は思ってもみなかった。
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