1 / 1
身分差なんてわかってる
しおりを挟む
「おいで。私が特別に飼って差し上げますわ」
その人は傲慢な割に、とても優しい目をしていた。
俺はルクス。獣人だ。
俺の住むこの国では、獣人は虐げられている。幼い頃の俺にとってもそれは例外ではなく、幼い頃の俺は労働奴隷として搾取されてきた。
並みの人間の男より、獣人の幼子の方が力は強い。労働奴隷として、獣人はそれだけ重宝されるのだ。そして、この国では獣人には服従の首輪という特別な枷がつけられるので反抗も出来ない。
「…疲れた」
幼い俺はその日、酷使され続けてとうとう体力と精神力が限界を迎えようとしていた。その時だった。
「まあ、なんて可愛らしいの」
貴族の娘が、そう言って俺に近寄ってきた。
「り、リリアお嬢様!そんな獣人に近付いてはいけません!」
「あら。服従の首輪をしているから、人間に危害は加えられないわ。大丈夫よ」
「しかし…」
「ねえ、この子私のペットにしたいの。雇い主にお金を払って買ってきて」
「リリアお嬢様。獣人が欲しいならペットショップで買えばよろしいのでは?」
目の前で繰り広げられる会話についていけない。
「あら、私はこの子がいいと言っているのよ?逆らうの?」
「…少々お待ちください。買って参ります」
そして少女は、俺の前に出て俺の汚れた手を掴んだ。
「おいで。私が特別に飼って差し上げますわ」
その目はすごく優しくて。また奴隷として拾われただけなのに、何故か俺はひどく安心したのだ。
その後俺は、リリアお嬢様に連れられてお嬢様の屋敷にきた。お風呂で身体を清潔にされて、衣食住を与えられた。それは奴隷の俺にはあまりにも豪華なものだった。
「あの、リリアお嬢様」
「なに?ルクス」
「俺、こんなに親切にしていただいていいのでしょうか?」
「あら、貴方は私のペットよ?いいに決まってるじゃない」
リリアお嬢様は俺の頬をそっと撫でる。
「今まで苦労してきたのでしょう?ここでゆっくりと過ごしなさいな」
俺はリリアお嬢様に大切に大切にされて、それからずっと幸せな生活を送った。
それから俺たちは成長して、リリアお嬢様が十八歳の誕生日を迎えて、俺も同じくらいの歳になった。いよいよリリアお嬢様も結婚してしまう年齢になった、いつそんな話が来てもおかしくない。俺は毎日、リリアお嬢様に捨てられたらどうしようと不安になっていた。
でも、そんな日は来なかった。
国中で次々に革命が起きた。
「平民達が獣人達の服従の首輪を外して回って、そのかわりに革命に参加させているわ。獣人の力で革命は成功している。我が家も明日は我が身ね」
「リリアお嬢様…」
「ルクス。貴方の服従の首輪を外します」
「え…」
「ほら、これで貴方は自由よ。…幸せに長生きしてね、私の可愛いルクス」
俺は自由になったその身で…リリアお嬢様を抱きしめた。
「え、ルクス?」
「リリアお嬢様。俺は貴女をお慕いしています」
「…私も貴方を愛しているわ。でも、身分が違うの」
「ええ、ですから」
俺はリリアお嬢様に跪き、懇願する。
「どうか俺と、駆け落ちしてくださいませんか」
リリアお嬢様は、そんな俺の言葉にびっくりした後、微笑んでくれた。
「…私、自分一人では何もできないのよ?一生面倒を見てくれる?」
「もちろんです」
「ふふ。きっとお父様もお母様も私に失望するわね。でも、家にはお兄様もいるし、そもそも革命の波はこの領地にも押し寄せているわ。いずれ私達も貴族ではいられなくなる。…私だけ逃げてしまってちょっと申し訳ないけれどね」
そしてリリアお嬢様は、俺の手を取った。
「さあ、攫って?ルクス」
「ええ。どこまででも」
そして俺とリリアお嬢様は逃げた。こっそりと国境すら越えて、革命とも無縁の平和な小さな国に移住した。
獣人と人間の共存する国で、俺とリリアは結婚した。平和で小さな村で、穏やかで幸せな生活を送った。農業を営み、今では少しばかり裕福だ。
風の噂では、あちらの国はようやく革命が成功したとか。でも結果的に、リリアの大事な両親と兄は貴族ではなくなったものの殺されることはなかったらしく、新しい国の体制に役人として食い込んだらしい。さすがだ。それを聞いてリリアも涙を流して安心していた。
こちらはこちらで子宝にも恵まれて、まさに幸せの絶頂。そんな中で、リリアは今日も俺に微笑んでくれる。
「リリア」
「なに?ルクス」
「愛してる」
「ふふ、急になに?私だって愛しているわ」
この幸せがどうか、いつまでも続きますように。
その人は傲慢な割に、とても優しい目をしていた。
俺はルクス。獣人だ。
俺の住むこの国では、獣人は虐げられている。幼い頃の俺にとってもそれは例外ではなく、幼い頃の俺は労働奴隷として搾取されてきた。
並みの人間の男より、獣人の幼子の方が力は強い。労働奴隷として、獣人はそれだけ重宝されるのだ。そして、この国では獣人には服従の首輪という特別な枷がつけられるので反抗も出来ない。
「…疲れた」
幼い俺はその日、酷使され続けてとうとう体力と精神力が限界を迎えようとしていた。その時だった。
「まあ、なんて可愛らしいの」
貴族の娘が、そう言って俺に近寄ってきた。
「り、リリアお嬢様!そんな獣人に近付いてはいけません!」
「あら。服従の首輪をしているから、人間に危害は加えられないわ。大丈夫よ」
「しかし…」
「ねえ、この子私のペットにしたいの。雇い主にお金を払って買ってきて」
「リリアお嬢様。獣人が欲しいならペットショップで買えばよろしいのでは?」
目の前で繰り広げられる会話についていけない。
「あら、私はこの子がいいと言っているのよ?逆らうの?」
「…少々お待ちください。買って参ります」
そして少女は、俺の前に出て俺の汚れた手を掴んだ。
「おいで。私が特別に飼って差し上げますわ」
その目はすごく優しくて。また奴隷として拾われただけなのに、何故か俺はひどく安心したのだ。
その後俺は、リリアお嬢様に連れられてお嬢様の屋敷にきた。お風呂で身体を清潔にされて、衣食住を与えられた。それは奴隷の俺にはあまりにも豪華なものだった。
「あの、リリアお嬢様」
「なに?ルクス」
「俺、こんなに親切にしていただいていいのでしょうか?」
「あら、貴方は私のペットよ?いいに決まってるじゃない」
リリアお嬢様は俺の頬をそっと撫でる。
「今まで苦労してきたのでしょう?ここでゆっくりと過ごしなさいな」
俺はリリアお嬢様に大切に大切にされて、それからずっと幸せな生活を送った。
それから俺たちは成長して、リリアお嬢様が十八歳の誕生日を迎えて、俺も同じくらいの歳になった。いよいよリリアお嬢様も結婚してしまう年齢になった、いつそんな話が来てもおかしくない。俺は毎日、リリアお嬢様に捨てられたらどうしようと不安になっていた。
でも、そんな日は来なかった。
国中で次々に革命が起きた。
「平民達が獣人達の服従の首輪を外して回って、そのかわりに革命に参加させているわ。獣人の力で革命は成功している。我が家も明日は我が身ね」
「リリアお嬢様…」
「ルクス。貴方の服従の首輪を外します」
「え…」
「ほら、これで貴方は自由よ。…幸せに長生きしてね、私の可愛いルクス」
俺は自由になったその身で…リリアお嬢様を抱きしめた。
「え、ルクス?」
「リリアお嬢様。俺は貴女をお慕いしています」
「…私も貴方を愛しているわ。でも、身分が違うの」
「ええ、ですから」
俺はリリアお嬢様に跪き、懇願する。
「どうか俺と、駆け落ちしてくださいませんか」
リリアお嬢様は、そんな俺の言葉にびっくりした後、微笑んでくれた。
「…私、自分一人では何もできないのよ?一生面倒を見てくれる?」
「もちろんです」
「ふふ。きっとお父様もお母様も私に失望するわね。でも、家にはお兄様もいるし、そもそも革命の波はこの領地にも押し寄せているわ。いずれ私達も貴族ではいられなくなる。…私だけ逃げてしまってちょっと申し訳ないけれどね」
そしてリリアお嬢様は、俺の手を取った。
「さあ、攫って?ルクス」
「ええ。どこまででも」
そして俺とリリアお嬢様は逃げた。こっそりと国境すら越えて、革命とも無縁の平和な小さな国に移住した。
獣人と人間の共存する国で、俺とリリアは結婚した。平和で小さな村で、穏やかで幸せな生活を送った。農業を営み、今では少しばかり裕福だ。
風の噂では、あちらの国はようやく革命が成功したとか。でも結果的に、リリアの大事な両親と兄は貴族ではなくなったものの殺されることはなかったらしく、新しい国の体制に役人として食い込んだらしい。さすがだ。それを聞いてリリアも涙を流して安心していた。
こちらはこちらで子宝にも恵まれて、まさに幸せの絶頂。そんな中で、リリアは今日も俺に微笑んでくれる。
「リリア」
「なに?ルクス」
「愛してる」
「ふふ、急になに?私だって愛しているわ」
この幸せがどうか、いつまでも続きますように。
32
お気に入りに追加
31
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
損な人(千文字作文)
下菊みこと
恋愛
誤魔化せていると思ってるヤンデレ聖騎士と、全部わかってて微笑むだけの優しくて残酷な聖女様のお話。
ご都合主義の千文字作文。
小説家になろう様でも投稿しています。
歪んだ欲望と、我慢した先の愛
下菊みこと
恋愛
主人公だいぶ歪んでます!ヤンデレとか病んでるとかじゃなくて性的な嗜好がぶっとんでます!でも多分誰にも迷惑…は…かけてない…と思う…。
主人公は夫の仕事仲間が、夫の寵愛を得たと言い振り回してるのがストレスでとうとうはっちゃける。良い妻として、夫を支え、子供を愛し、そしてたまに息抜きに実家に戻り…養老院へ、通った。
小説家になろう様でも投稿しています!
厄介払いで英雄に嫁がされることになった姫君、英雄に捨てられる。そして拾われた相手は英雄が殺したはずの魔王様だった。
下菊みこと
恋愛
英雄に捨てられて魔王に拾われたお人好しな姫君のお話。
スノーホワイトは英雄の妻になってすぐ、英雄に捨てられて財産を持ち逃げされた。英雄は将来を誓った幼馴染と駆け落ちしたのだ。路頭に迷っていながらも痩せ細った野良犬を助けたスノーホワイト。その野良犬は実は体力回復中の魔王で、すっかり元気になった彼はお金持ちの人間に扮してスノーホワイトを助けた。
小説家になろう様でも投稿しています。
愛するお嬢様を傷付けられた少年、本人が部屋に閉じこもって泣き暮らしている間に復讐の準備を完璧に整える
下菊みこと
恋愛
捨てられた少年の恋のお話。
少年は両親から捨てられた。なんとか生きてきたがスラム街からも追い出された。もうダメかと思っていたが、救いの手が差し伸べられた。
小説家になろう様でも投稿しています。
時渡りと甘美な誘惑
下菊みこと
恋愛
過去に飛んで愛する人を守る孤独な女性のお話。
エメラルダは、王太子の亡骸に祈りを捧げ別れを告げた。今度こそ守ると、過去に飛ぶ。たとえ、自分が世界から爪弾きにされても愛する人の幸せな姿を見たかった。
小説家になろう様でも投稿しています!
最推しの幼馴染に転生できた!彼とあの子をくっつけよう!
下菊みこと
恋愛
ポンコツボンクラアホの子主人公と、彼女に人生めちゃくちゃにされたからめちゃくちゃに仕返したヤンデレ幼馴染くん(主人公の最推し)のどこまでもすれ違ってるお話。
多分エンドの後…いつかは和解できるんじゃないかな…多分…。
転生、ヤンデレ、洗脳、御都合主義なお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ほのぼのとした番の二人のお話でしたね💕一目みてリリーは、彼は私の片割れだと確信してたみたいですね💕そして世間の目を気にして、ただのペットだといいつつもいつも一緒に居られるようにしたのですね。そして、革命という変化の時を経て番として暮らせるように煩わしい財産等を捨てて旅に出て行きましたね💕故郷残した家族も、無事にささやかで静かで充実した暮らしが出来ていると風の噂で聴きほっとしてましたね🎵(*´ω`*)
感想ありがとうございます。きっとこの出会いは運命だったのでしょうね!