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彼女が生まれた日
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「…ねえ、兄様」
「なんだよ、リュー」
「どうしたんだい、リュー」
ヴォリュビリスがフィーグとシャルドンの服の裾を不安げに掴む。フィーグはイライラした様子で、シャルドンは優しくヴォリュビリスに向き直る。
「お母様は、どうして部屋に入れてくれないの?」
「あ?そりゃあお前、出産してる時に俺たちがいたら邪魔だろ」
「どうして?」
「…あー、あれだよ、命懸けなんだよ。出産ってやつは」
「命懸け?お母様死んじゃうの?」
ヴォリュビリスは緑の瞳をうるうると潤ませる。赤い髪がはらりと頬に掛かった。
「リュー。大丈夫だよ。兄様、お母様が心配なのはわかりますがイライラし過ぎです」
シャルドンは緑の瞳で兄を睨みつける。フィーグはその鋭い視線に思わず目を背ける。シャルドンは、自身の銀色に近い金色の、長い髪を束ねているリボンを解き、ヴォリュビリスの中途半端な長さの髪を縛ってやる。
「シャル兄様?」
「リューは髪を短くした方が似合うかもね。束ねて顔を出したらすごくかっこいいよ」
「そ、そうかな」
「そうとも。ねえ、兄様」
「おう、似合ってるぞ。いい加減自信なさそうに中途半端な長さにして顔隠してないで、シャルみたいに伸ばして束ねるか俺みたいに短くしてみろ。モテるぞ」
そういいながら銀色に近い金色の短く切った髪をかき上げるフィーグ。弟を見つめる赤い瞳は意外にも優しいものだった。
「僕は切るのに一票」
「俺も」
「じゃ、じゃあ、今度お母様に切ってもらうね」
「バカ。ちゃんと理容師に切ってもらえ」
「で、でも、恥ずかしいよ…フィー兄様」
「大丈夫。リューは素材がいいからイケメンになるよ」
「ありがとう、シャル兄様」
兄弟がやっとピリピリした空気から解放された頃、ようやくその声が響いた。
「おぎゃー!おぎゃー!」
「お、生まれたな」
「…大丈夫そうだね、よかった」
「この声、赤ちゃん!?」
「そうだぜ、リュー。お前もちょっと前まであんな声で泣いてたんだぞ」
「そうなんだ!」
母親であるガルデニアの部屋の前で待機していた三人を、父親であるルノンキュルが呼ぶ。
「三人とも。おいで」
「はい、父上」
「はい、お父様」
「お父様、お母様は?」
「大丈夫。母子ともに健康…お母様も赤ちゃんも元気だよ」
「よかったぁ」
三人が部屋に入ると、赤ちゃんを抱くガルデニアの姿があった。
「三人とも。貴方達の妹よ。」
ガルデニアはすぐに三人に妹を紹介する。三人とも『妹』は初めてで、興味深そうに顔を寄せ合って覗き込む。
「母上、名前は決めているんですか?」
「女の子だから、プリュネにするわ。ねえ、貴方」
「ああ。この子はプリュネだよ」
「プリュネかぁ、これからよろしくな」
フィーグはプリュネの頭を撫でる。その手つきはとても優しいものだ。
「プリュネ、僕らの可愛いお姫様。大切に大切に守ってあげないとね」
シャルドンはプリュネの手を頬をそっと撫でる。はやくも可愛くて仕方がないようだ。
「ぷ、プリュネ…可愛くて、ちっちゃくて、さ、触っていいの?」
「いいのよ、リュー」
ヴォリュビリスは恐る恐るプリュネの手に触れる。するとプリュネがヴォリュビリスの指をきゅっと握った。
「…わぁ、可愛い」
ヴォリュビリスの緑の瞳が輝く。
「これからこの子の事をしっかりと守るんだよ」
「はい、父上」
「もちろんです」
「はい!頑張るよ!」
こうしてプリュネはディヴィナシオン公爵家の末っ子長女として生まれ、受け入れられたのだった。
「なんだよ、リュー」
「どうしたんだい、リュー」
ヴォリュビリスがフィーグとシャルドンの服の裾を不安げに掴む。フィーグはイライラした様子で、シャルドンは優しくヴォリュビリスに向き直る。
「お母様は、どうして部屋に入れてくれないの?」
「あ?そりゃあお前、出産してる時に俺たちがいたら邪魔だろ」
「どうして?」
「…あー、あれだよ、命懸けなんだよ。出産ってやつは」
「命懸け?お母様死んじゃうの?」
ヴォリュビリスは緑の瞳をうるうると潤ませる。赤い髪がはらりと頬に掛かった。
「リュー。大丈夫だよ。兄様、お母様が心配なのはわかりますがイライラし過ぎです」
シャルドンは緑の瞳で兄を睨みつける。フィーグはその鋭い視線に思わず目を背ける。シャルドンは、自身の銀色に近い金色の、長い髪を束ねているリボンを解き、ヴォリュビリスの中途半端な長さの髪を縛ってやる。
「シャル兄様?」
「リューは髪を短くした方が似合うかもね。束ねて顔を出したらすごくかっこいいよ」
「そ、そうかな」
「そうとも。ねえ、兄様」
「おう、似合ってるぞ。いい加減自信なさそうに中途半端な長さにして顔隠してないで、シャルみたいに伸ばして束ねるか俺みたいに短くしてみろ。モテるぞ」
そういいながら銀色に近い金色の短く切った髪をかき上げるフィーグ。弟を見つめる赤い瞳は意外にも優しいものだった。
「僕は切るのに一票」
「俺も」
「じゃ、じゃあ、今度お母様に切ってもらうね」
「バカ。ちゃんと理容師に切ってもらえ」
「で、でも、恥ずかしいよ…フィー兄様」
「大丈夫。リューは素材がいいからイケメンになるよ」
「ありがとう、シャル兄様」
兄弟がやっとピリピリした空気から解放された頃、ようやくその声が響いた。
「おぎゃー!おぎゃー!」
「お、生まれたな」
「…大丈夫そうだね、よかった」
「この声、赤ちゃん!?」
「そうだぜ、リュー。お前もちょっと前まであんな声で泣いてたんだぞ」
「そうなんだ!」
母親であるガルデニアの部屋の前で待機していた三人を、父親であるルノンキュルが呼ぶ。
「三人とも。おいで」
「はい、父上」
「はい、お父様」
「お父様、お母様は?」
「大丈夫。母子ともに健康…お母様も赤ちゃんも元気だよ」
「よかったぁ」
三人が部屋に入ると、赤ちゃんを抱くガルデニアの姿があった。
「三人とも。貴方達の妹よ。」
ガルデニアはすぐに三人に妹を紹介する。三人とも『妹』は初めてで、興味深そうに顔を寄せ合って覗き込む。
「母上、名前は決めているんですか?」
「女の子だから、プリュネにするわ。ねえ、貴方」
「ああ。この子はプリュネだよ」
「プリュネかぁ、これからよろしくな」
フィーグはプリュネの頭を撫でる。その手つきはとても優しいものだ。
「プリュネ、僕らの可愛いお姫様。大切に大切に守ってあげないとね」
シャルドンはプリュネの手を頬をそっと撫でる。はやくも可愛くて仕方がないようだ。
「ぷ、プリュネ…可愛くて、ちっちゃくて、さ、触っていいの?」
「いいのよ、リュー」
ヴォリュビリスは恐る恐るプリュネの手に触れる。するとプリュネがヴォリュビリスの指をきゅっと握った。
「…わぁ、可愛い」
ヴォリュビリスの緑の瞳が輝く。
「これからこの子の事をしっかりと守るんだよ」
「はい、父上」
「もちろんです」
「はい!頑張るよ!」
こうしてプリュネはディヴィナシオン公爵家の末っ子長女として生まれ、受け入れられたのだった。
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