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私の幼馴染は王子様キャラのはずだったんです
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岩瀬祐。祐お兄ちゃんは私の大事な人である。
ー…
祐お兄ちゃんと出会ったのは五歳の冬の日。祐お兄ちゃんがお隣に引っ越してきたのだ。
「やあ。初めまして、可愛らしいお嬢さん。僕は岩瀬祐。君は?」
「…い、稲田雪です。よろしくお願いします!」
祐お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。綺麗な烏の濡れ羽色の短い髪。黒真珠の瞳。整った顔立ちのお兄ちゃんは、優しいのになぜか怖かった。…なんていうか、微笑んでいるのに目が冷めた温度しか持っていなかった。
ー…
祐お兄ちゃんとの二度目に会ったのは出会った次の日。公園で一人で遊んでいた私を、一歳しか違わない祐お兄ちゃんが見つけて話しかけてくれたのだ。
「雪ちゃん、こんにちは。あっちのお友達とは遊ばないの?」
「祐お兄ちゃん…私、人見知り?だから…」
「そっかそっか。じゃあ、僕と一緒に遊ぼうか」
「いいの?」
「もちろん」
祐お兄ちゃんは相変わらず微笑んでいるのに目が冷めた温度しか持っていない。けど、一人は寂しいから一緒に遊んでもらった。
ー…
あれから二人で遊ぶことが増えたある日、祐お兄ちゃんがキレた。私のせいである。
私達は遊具で遊ぶグループから少し離れたお砂場で遊んでいるのが常だったけれど、たまたま遊具で遊ぶグループが来なかった日に二人で遊具で遊んでいた。そうしたらいつものグループが遅れてきたのだけれど、すぐに退いたのに何故か泥団子を何度も投げつけられた。しかも祐お兄ちゃんには絶対当てない。私にだけ。今思えばすごく理不尽な話だったけれど、私は遊具で遊んだ自分が悪いと落ち込んだ。そうして落ち込んでいたら祐お兄ちゃんがキレた。
「…先に手を出したのはお前たちだからな」
「は?お前には手は出してないだろ!…痛っ!」
祐お兄ちゃんは男の子数人のグループに一人で殴り込みに行った。そして当たり前のように無傷で帰ってきた。気付いたらみんな祐お兄ちゃんの舎弟になっていた。
舎弟たちに私に謝るように促す祐お兄ちゃん。素直に謝る舎弟たち。私は訳が分からずただ頷いた。
ー…
あの事件の後から、祐お兄ちゃんの目の温度が変わった。冷たくも暖かくもない普通の温度。多分、自分がいながら年下の女の子が泥まみれになったのを気に病んでいるんだろうと思った。だから言った。
「祐お兄ちゃん、私、この間のこと気にしてないよ。祐お兄ちゃんも気にしなくていいんだよ。祐お兄ちゃんがいつも一緒にいてくれて、それだけですごく嬉しいんだよ」
「ありがとう。けど、別に僕は気にしてないよ?」
「でも、祐お兄ちゃん、目の温度が違うよ?」
「目の温度?」
「うん。いつも、優しく笑っているのに目の温度が冷たかったでしょ?でも、泥団子の日から目の温度が普通になったから、気にしてるのかなって」
祐お兄ちゃんは目を見開いて驚いた。そして、祐お兄ちゃんの目の温度が暖かいものに変わった。
「見てる奴は見てるんだな…うん、俺は最初、お前に一ミリも興味なかった。んで、この間のことでちょっとだけ悪いことしたかなって気にしてた。んで、今はそれに気付いたお前に興味がある」
祐お兄ちゃん、話し方まで変わってる…。
「お前、今日から俺のな」
横暴過ぎやしませんか?
ー…
それから祐お兄ちゃんは過保護になった。『お前は俺のなんだから俺以外に傷つけさせない』とのことで、舎弟になった男の子たちと遊ぶ時にも『私を怪我させないこと』を徹底していた。それでも私が転んで怪我をするとどこからか取り出した救急セットでめちゃくちゃ丁寧に処置された。そして何故か舎弟たちが怒られていた。
祐お兄ちゃんは私に対してだけ横暴でわがままになった。私のことを側から離さなくなって、定位置は祐お兄ちゃんの隣か膝の上。大人たちにはすごく良い子に振る舞う祐お兄ちゃんは、私に対しては『俺の側を離れるな』『舎弟たちと仲良くし過ぎるな』と大人顔負けの執着っぷりを見せる。でも、私はそれがひどく心地良く感じられた。
ー…
そんな関係は大きくなってからも続いた。というか続いている。今は祐お兄ちゃんは中学三年生。私は中学二年生。でも、相変わらず祐お兄ちゃんは私を手元に置いておこうとするし、私はそれに抵抗しない。周りの女の子は恋や愛に興味津々で、外面が異常に良い祐お兄ちゃんに憧れている子も多いが、私は祐お兄ちゃんしか選択肢がないので祐お兄ちゃんと恋人とも友達ともつかない距離でなあなあで過ごしている。
…いい加減言葉にしてくれないかなぁ。
「何不細工な顔してんの」
「祐お兄ちゃん酷い!女の子になんてこと言うの!」
「お前が人の膝の上で百面相してんのが悪い」
祐お兄ちゃんはやっぱり横暴だ。
「で、何悩んでんの。お前は俺のなんだから俺のことしか考えちゃダメだろ」
「祐お兄ちゃんがちゃんと告白してくれないかなぁって」
私がそう言うと、祐お兄ちゃんは目を見開いて…私を後ろから思い切り抱きしめてきた。
「…逃げない?」
「逃げるならとっくの昔に逃げてると思う」
「………好き」
「!…私も!」
祐お兄ちゃんに向き合って抱きつきたいのに、祐お兄ちゃんに強い力で抱きしめられてるせいで出来ない。
「祐お兄ちゃん、抱きつきたいから離して」
「…そんなこと言って、逃げない?」
「逃げないよ!」
祐お兄ちゃんが渋々離してくれるので、すぐに向かい合って抱きついた。
「祐お兄ちゃん、大好き!」
「…俺はもっと好き」
「どのくらい?」
「今日も明日も明後日も、ずっとずっとずっと一緒にいてくれって思うくらい」
「私も!」
祐お兄ちゃんはなんだかんだで世界一素敵な幼馴染です。
ー…
祐お兄ちゃんと出会ったのは五歳の冬の日。祐お兄ちゃんがお隣に引っ越してきたのだ。
「やあ。初めまして、可愛らしいお嬢さん。僕は岩瀬祐。君は?」
「…い、稲田雪です。よろしくお願いします!」
祐お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。綺麗な烏の濡れ羽色の短い髪。黒真珠の瞳。整った顔立ちのお兄ちゃんは、優しいのになぜか怖かった。…なんていうか、微笑んでいるのに目が冷めた温度しか持っていなかった。
ー…
祐お兄ちゃんとの二度目に会ったのは出会った次の日。公園で一人で遊んでいた私を、一歳しか違わない祐お兄ちゃんが見つけて話しかけてくれたのだ。
「雪ちゃん、こんにちは。あっちのお友達とは遊ばないの?」
「祐お兄ちゃん…私、人見知り?だから…」
「そっかそっか。じゃあ、僕と一緒に遊ぼうか」
「いいの?」
「もちろん」
祐お兄ちゃんは相変わらず微笑んでいるのに目が冷めた温度しか持っていない。けど、一人は寂しいから一緒に遊んでもらった。
ー…
あれから二人で遊ぶことが増えたある日、祐お兄ちゃんがキレた。私のせいである。
私達は遊具で遊ぶグループから少し離れたお砂場で遊んでいるのが常だったけれど、たまたま遊具で遊ぶグループが来なかった日に二人で遊具で遊んでいた。そうしたらいつものグループが遅れてきたのだけれど、すぐに退いたのに何故か泥団子を何度も投げつけられた。しかも祐お兄ちゃんには絶対当てない。私にだけ。今思えばすごく理不尽な話だったけれど、私は遊具で遊んだ自分が悪いと落ち込んだ。そうして落ち込んでいたら祐お兄ちゃんがキレた。
「…先に手を出したのはお前たちだからな」
「は?お前には手は出してないだろ!…痛っ!」
祐お兄ちゃんは男の子数人のグループに一人で殴り込みに行った。そして当たり前のように無傷で帰ってきた。気付いたらみんな祐お兄ちゃんの舎弟になっていた。
舎弟たちに私に謝るように促す祐お兄ちゃん。素直に謝る舎弟たち。私は訳が分からずただ頷いた。
ー…
あの事件の後から、祐お兄ちゃんの目の温度が変わった。冷たくも暖かくもない普通の温度。多分、自分がいながら年下の女の子が泥まみれになったのを気に病んでいるんだろうと思った。だから言った。
「祐お兄ちゃん、私、この間のこと気にしてないよ。祐お兄ちゃんも気にしなくていいんだよ。祐お兄ちゃんがいつも一緒にいてくれて、それだけですごく嬉しいんだよ」
「ありがとう。けど、別に僕は気にしてないよ?」
「でも、祐お兄ちゃん、目の温度が違うよ?」
「目の温度?」
「うん。いつも、優しく笑っているのに目の温度が冷たかったでしょ?でも、泥団子の日から目の温度が普通になったから、気にしてるのかなって」
祐お兄ちゃんは目を見開いて驚いた。そして、祐お兄ちゃんの目の温度が暖かいものに変わった。
「見てる奴は見てるんだな…うん、俺は最初、お前に一ミリも興味なかった。んで、この間のことでちょっとだけ悪いことしたかなって気にしてた。んで、今はそれに気付いたお前に興味がある」
祐お兄ちゃん、話し方まで変わってる…。
「お前、今日から俺のな」
横暴過ぎやしませんか?
ー…
それから祐お兄ちゃんは過保護になった。『お前は俺のなんだから俺以外に傷つけさせない』とのことで、舎弟になった男の子たちと遊ぶ時にも『私を怪我させないこと』を徹底していた。それでも私が転んで怪我をするとどこからか取り出した救急セットでめちゃくちゃ丁寧に処置された。そして何故か舎弟たちが怒られていた。
祐お兄ちゃんは私に対してだけ横暴でわがままになった。私のことを側から離さなくなって、定位置は祐お兄ちゃんの隣か膝の上。大人たちにはすごく良い子に振る舞う祐お兄ちゃんは、私に対しては『俺の側を離れるな』『舎弟たちと仲良くし過ぎるな』と大人顔負けの執着っぷりを見せる。でも、私はそれがひどく心地良く感じられた。
ー…
そんな関係は大きくなってからも続いた。というか続いている。今は祐お兄ちゃんは中学三年生。私は中学二年生。でも、相変わらず祐お兄ちゃんは私を手元に置いておこうとするし、私はそれに抵抗しない。周りの女の子は恋や愛に興味津々で、外面が異常に良い祐お兄ちゃんに憧れている子も多いが、私は祐お兄ちゃんしか選択肢がないので祐お兄ちゃんと恋人とも友達ともつかない距離でなあなあで過ごしている。
…いい加減言葉にしてくれないかなぁ。
「何不細工な顔してんの」
「祐お兄ちゃん酷い!女の子になんてこと言うの!」
「お前が人の膝の上で百面相してんのが悪い」
祐お兄ちゃんはやっぱり横暴だ。
「で、何悩んでんの。お前は俺のなんだから俺のことしか考えちゃダメだろ」
「祐お兄ちゃんがちゃんと告白してくれないかなぁって」
私がそう言うと、祐お兄ちゃんは目を見開いて…私を後ろから思い切り抱きしめてきた。
「…逃げない?」
「逃げるならとっくの昔に逃げてると思う」
「………好き」
「!…私も!」
祐お兄ちゃんに向き合って抱きつきたいのに、祐お兄ちゃんに強い力で抱きしめられてるせいで出来ない。
「祐お兄ちゃん、抱きつきたいから離して」
「…そんなこと言って、逃げない?」
「逃げないよ!」
祐お兄ちゃんが渋々離してくれるので、すぐに向かい合って抱きついた。
「祐お兄ちゃん、大好き!」
「…俺はもっと好き」
「どのくらい?」
「今日も明日も明後日も、ずっとずっとずっと一緒にいてくれって思うくらい」
「私も!」
祐お兄ちゃんはなんだかんだで世界一素敵な幼馴染です。
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