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黒の少年の看病

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「クロヴィス様、大丈夫ですか…?」

「ごほっ…問題ない」

「今日はお仕事は休んで、ちゃんと療養してくださいね」

「わかっている」

今日は珍しく体調を崩した。ルー先生に来てもらって薬を貰った。今は薬を飲んで横になっている。

「お熱もあるので、氷嚢を脇とおでこに失礼しますね」

「ああ…」

「あ、その前に喉は乾きませんか?良かったらはちみつれもんのホットドリンクはいかがでしょう?」

「貰おうか」

身体を起こした私に、はちみつれもんのホットドリンクを差し出すアリス。ごくごくと飲んで、コップ一杯一気に飲んでしまった。

「クロヴィス様。喉が渇いていたなら、言ってくださらないと。喉が痛くなっちゃいますよ。水分補給も大事です」

「すまないな。なんだか眠たくて」

「あ、ごめんなさい。トイレは大丈夫ですか?付き添いますか?」

「トイレはまだいい。行きたくなったら、悪いがポールを呼んでほしい。君に寄りかかるのは、気が引ける。君が大切なんだ…」

愛しているからこそ、無理はさせたくない。アリスは私と比べると小柄だから、寄りかかるのは心配だ。

「わかりました、その時はポールさんに来てもらいますね」

「ああ」

「では寝てください、僕はそばに居ますから」

「ありがとう。嬉しい」

アリスは横になった私のおでこと脇に氷嚢を入れた。

「冷たくて、気持ちいいな…」

「早く良くなってくださいね」

「ああ。…アリス」

「なんですか?」

「本当にありがとう。私は、あまりこういった愛情に触れることなく育ってきた。もちろん、シエルが生まれてからは惜しみなく愛情を注いできたが。シエル以外からこんなにも愛情を返してもらえたのは、初めてだ」

私は妾の子として、あまり愛されていなかった。だから、こういうのは純粋に嬉しい。

「大丈夫ですよ、クロヴィス様。僕がいつまでもおそばに居ますからね」

「…実は誰かにこうして看病してもらうの、夢だったんだ。その相手がアリスだなんて、嬉しい」

「ふふ、そうですか?僕もそう言ってもらえて嬉しいです」

「でも、風邪は移らないか?大丈夫だろうか」

今更だが、アリスに移したらと思うと心配だ。だがアリスは笑って言う。

「僕の育った国では、風邪は人に移すと治ると言われています。だから、移しちゃってください。その代わり、その後は看病してくださいね」

「…ふふ、お安い御用だ」

そう言った後すぐ、眠気に負けてしまった。

「おやすみなさい、いい夢を」












「クロヴィス様、起きてください。クロヴィス様」

アリスの声で目が覚める。

「ん…アリス…」

「もうお夕飯のお時間ですよ。ポールさんとトイレに行ってきて、パン粥を食べましょう」

「ああ…もうそんな時間か…」

ゆっくりと身体を起こした。氷嚢をアリスに預ける。

「ご当主様、トイレまで介助させていただきます」

「…いや、必要ないな。頭もスッキリしているし、身体も軽い。だいぶ楽になった」

「失礼致しました。ご回復したようでなによりです」

「良かったぁ…」

アリスの心底安心したという表情に、なんだか心が満たされる。そんなに心配してくれるなんて、嬉しい。

「ちょっと行ってくるから待っていてくれ」

「はい」

トイレを済ませて部屋に戻る。

「戻った」

「おかえりなさい、クロヴィス様」

私はベッドの上ではなくソファーの上に座る。アリスを呼べば素直に来てくれた。

「アリス、隣に来てくれるか?」

「はい!」

パン粥をソファーの前の机の上に置くアリス。

「アリスに頼みたいことがある」

「なんですか?クロヴィス様」

ちょっと緊張する。が、長年の夢だったのでお願いする。

「手ずから食べさせてくれないか」

「え」

「あーん、して欲しい。こんな時くらいしか頼めないから。どうだろうか?」

アリスは快く受け入れてくれた。

「いいですよ、あーん」

「あーん…食べやすいな」

「ふふ、パン粥ですから」

「ちょっと味気ないが、その分アリスにあーんしてもらえるからいいか」

なんだかアリスの表情が緩んだ。

「はちみつれもんのホットドリンクもありますから、適度に飲んでくださいね」

「ああ。そちらはさすがに自分で飲むか」

そうして手ずから食べさせてもらい、お皿が空になった頃にポールが皿を下げに来た。

「ご当主様、お身体は本当に大丈夫ですか?」

「ああ、本当にもう問題ない。ただ、大事をとって今日は薬を飲んだらもう寝る」

「さようですか。お薬と白湯をお持ちしましたので、どうぞ」

「ああ、助かる」

私は薬を飲む。白湯と皿をポールが下げていった。

「アリス。もう熱も下がったようだし、大丈夫そうだ。だから、良かったら添い寝してくれないか」

「え、添い寝ですか?」

「ああ、もちろん無理にとは言わない。ただ、そういうシチュエーションに憧れてただけだ」

「あ、全然いいですよ!添い寝しましょう!」

アリスとの添い寝。期待でドキドキする。大きなベッドで、二人でくっついて眠る。アリスが腕の中にいるととても安心する。そう思っていると、アリスが私の胸に顔を擦り寄せた。心臓が跳ねる。

「ふふ。緊張していたの、僕だけじゃなくてよかった」

「そんな可愛いことをされたら、誰だってドキドキする」

「ふふ、もう。クロヴィス様ったら」

笑いながらのおでこに手を触れたアリス。

「熱が引いて、本当に良かったです」

「そうだな、これで明日から仕事を再開出来る」

「あんまり無理しちゃダメですからね?クロヴィス様」

「わかっている。ありがとう」

心配されるのは、やはり嬉しい。

「まあ仕事も溜まってしまったから、少し頑張らないといけないが無理はしない。それに今日はシエルに構ってやれなかったから、シエルのこともたくさん構ってやらないといけないしな」

「ふふ。シエル様にたくさん癒されてくださいね」

「アリスにも癒してもらうけどな」

「が、頑張ります!」

「ふふ、ぜひそうしてくれ」

そうして話しているうちに、私はうとうとしてきた。

「寝ちゃって大丈夫ですよ。ずっとそばに居ますから」

「ん…」

私の意識は安心に溶けるように夢に沈んでいった。











「おはよう、アリス」

「んん…クロヴィス様、おはようございます」

カーテンを開けた。朝日がさす。

「私はおかげさまで絶好調だ。アリスはどうだ?風邪は移っていないか?」

「んー。うん、大丈夫そうです」

「それは良かった。アリス」

「はい」

アリスを強く抱きしめて、耳元で囁く。

「本当にありがとう。すごく、すごく救われた気分だった。子供の頃の孤独な私が、やっと泣き止んだように感じる」

「クロヴィス様…大丈夫、僕達はずっと一緒です。もう、孤独なんて感じさせません」

アリスが私を優しくぎゅっと抱きしめ返す。

「本当にありがとう」

アリスがそばにいることで、私は心から安心できる。
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