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黒の少年は優し過ぎる
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「アリス。悪いが、心配だから抱き上げて私室のベッドまで連れて行く。いいか?」
「は、恥ずかしいな…」
「坊ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないです!行きましょう!」
「アリスティアお兄ちゃん、お願い。お兄様に少し甘えよう?」
「あうー…」
アリスを横抱きにして私室のベッドまで運び、寝かせる。使用人達もなんだなんだと心配していた。
「治癒術師を手配した。すぐにくると思う」
「ありがとうございます、クロヴィス様」
「君が無事なら、とりあえずそれでいい。治癒術師が来るまでは安静にな」
「じゃあその間、男の子の話を聞こうか。ごめんね、僕は寝ながらになっちゃうけど、なんであんなことしたかお話出来るかな?」
「…」
男の子は黙ったまま。誠意が感じられない。シエルがみかねて話しかけた。
「大丈夫だよ。アリスティアお姉ちゃんは優しいから、怒ってない。感情の色も穏やかだもの。だから、お話してみよう?」
「…俺は、親がいなくて」
「苦労してきたんだね。偉いね」
アリスは男の子の頭を撫でてあげるために手を伸ばすが、ベッド広すぎて届かない。アリスは優し過ぎる。
「大丈夫だよ。心配ない。僕がなんとかしてあげるからね」
「奥様!?」
「アリス、少しお人好し過ぎるぞ」
「ね、アリスティアお兄ちゃんは優しいでしょう?」
「…うん。…迷惑かけて、ごめんなさい」
アリスのお人好しすぎるところまで可愛く見える私は末期か。男の子もそんなアリスに、大分素直になった。だが。
「そもそも、どうして孤児院に行かなかったんだ」
「まして引ったくりだなんて!」
「ふ、二人ともそんなに責めなくても」
なんでそんなに優しく出来るんだ、アリスは。
「俺の母さんは、とある国の出身で。とある由緒正しい血筋の男の子供が出来て、抹殺される前に逃げてきたって言ってた」
「…ほう」
「それは大変だったね…」
なるほど、事情があるにはあるらしい。
「母さんは、身体が弱くて。それでも俺をここまで育ててくれた。母さんは死ぬ間際に言ったんだ。孤児院とか、公的な場所は頼っちゃダメだって。逃げて隠れておけって。それで、スラム街に紛れて。でも、度胸がなくて悪いことできなくて、今日初めての引ったくりで、失敗した…」
…そこまでするほどの生まれ?まさかどこぞの王家じゃあるまいな。
「それならきっと、お母さんが守ってくれたんだね」
「え」
「悪いことしなくていいように、今日失敗させてくれたんだよ。公爵家で保護されたら、安心だしね」
男の子はアリスの言葉に泣き始めた。で、なぜか逆ギレした。
「なんで怒らないんだよ!普通怒るだろ!平民がお貴族様を傷つけるなんて!」
「でも、由緒正しい血筋なんでしょう?」
「母さんはそう言ってたけど!」
「子供の頃は多かれ少なかれ悪いことをしてしまう経験はあると思うし、色々な失敗もするよ。それを全部叱った上で守ってあげるのも大人だよ。ね?」
アリスの言葉を聞くと男の子は余計に泣く。
「…っ!叱ってねぇじゃん!…ひっく」
「あ、そういえばそうだった。なにが悪いことかは、自覚があるよね?もうしちゃダメだよ」
「うーっ…!!!」
アリスの優しさに、男の子の心が解れていくのがわかった。
「クロヴィス様、この子を僕の侍従でも護衛でもなんでもいい。雇って欲しいです」
「アリス…どうしてもか?」
「どうしてもです!」
「…はぁ。おい、君」
「うん」
私は男の子と目を合わせて真剣な話をする。
「うちで保護した場合、もう悪いことは一切しない。誓えるか?」
「…うん」
「罪滅ぼしとして、アリスに忠誠を尽くす。誓えるか?」
「…できる、誓う」
「わかった。ポール、この子をお風呂に入れて子供服を用意してやれ。その後食事を与えろ。痩せ細ってるから、出来るだけ食べやすい軽いものを与えてやれ」
男の子はポールに連れていかれる。さて、そろそろかな。
「ご当主様!治癒術師様がいらっしゃいました!」
「部屋へ案内しろ」
「はい!」
治癒術師の先生はすぐに部屋に来てくれた。
「お待たせしました。治癒術師のルーです。頭を打ったとのことで、まずはそこから見ていきますね」
「お願いします」
ルー先生が隅々まで見てくれた。頭の治療は心配で見ていたが、背中の方はさすがに一度退出して呼ばれて戻った。
「…はい。大丈夫でした。脳にダメージはありませんよ。後遺症なども心配ありません」
「よかったです、ありがとうございます」
「身体の方も、痣などもありませんし大丈夫ですね。ただ、今後はあまり無茶はしないように。なにがあったかは知りませんが、頭を打つと最悪の場合もあります」
「はい!気をつけます」
「よろしい。では、私はこれで」
ルー先生は帰った。帰りに小切手を渡しておく。色をつけて支払った。
「坊ちゃん、よかったです!」
「もう大丈夫なら動いていい?」
「今日は大事をとって一日安静です!」
「えー」
シエルが一瞬、すんっと無表情になった。上手く隠しているが、自分を顧みないアリスに怒っているらしい。
「なにを言っているの?アリスティアお姉ちゃんは、三日くらい安静にしなきゃダメだよ」
「え」
「シエルの言う通りだ。君は危なっかしいしお人好しだし。心配過ぎるからな」
「そんなー」
情け無い表情も可愛かった。
「は、恥ずかしいな…」
「坊ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないです!行きましょう!」
「アリスティアお兄ちゃん、お願い。お兄様に少し甘えよう?」
「あうー…」
アリスを横抱きにして私室のベッドまで運び、寝かせる。使用人達もなんだなんだと心配していた。
「治癒術師を手配した。すぐにくると思う」
「ありがとうございます、クロヴィス様」
「君が無事なら、とりあえずそれでいい。治癒術師が来るまでは安静にな」
「じゃあその間、男の子の話を聞こうか。ごめんね、僕は寝ながらになっちゃうけど、なんであんなことしたかお話出来るかな?」
「…」
男の子は黙ったまま。誠意が感じられない。シエルがみかねて話しかけた。
「大丈夫だよ。アリスティアお姉ちゃんは優しいから、怒ってない。感情の色も穏やかだもの。だから、お話してみよう?」
「…俺は、親がいなくて」
「苦労してきたんだね。偉いね」
アリスは男の子の頭を撫でてあげるために手を伸ばすが、ベッド広すぎて届かない。アリスは優し過ぎる。
「大丈夫だよ。心配ない。僕がなんとかしてあげるからね」
「奥様!?」
「アリス、少しお人好し過ぎるぞ」
「ね、アリスティアお兄ちゃんは優しいでしょう?」
「…うん。…迷惑かけて、ごめんなさい」
アリスのお人好しすぎるところまで可愛く見える私は末期か。男の子もそんなアリスに、大分素直になった。だが。
「そもそも、どうして孤児院に行かなかったんだ」
「まして引ったくりだなんて!」
「ふ、二人ともそんなに責めなくても」
なんでそんなに優しく出来るんだ、アリスは。
「俺の母さんは、とある国の出身で。とある由緒正しい血筋の男の子供が出来て、抹殺される前に逃げてきたって言ってた」
「…ほう」
「それは大変だったね…」
なるほど、事情があるにはあるらしい。
「母さんは、身体が弱くて。それでも俺をここまで育ててくれた。母さんは死ぬ間際に言ったんだ。孤児院とか、公的な場所は頼っちゃダメだって。逃げて隠れておけって。それで、スラム街に紛れて。でも、度胸がなくて悪いことできなくて、今日初めての引ったくりで、失敗した…」
…そこまでするほどの生まれ?まさかどこぞの王家じゃあるまいな。
「それならきっと、お母さんが守ってくれたんだね」
「え」
「悪いことしなくていいように、今日失敗させてくれたんだよ。公爵家で保護されたら、安心だしね」
男の子はアリスの言葉に泣き始めた。で、なぜか逆ギレした。
「なんで怒らないんだよ!普通怒るだろ!平民がお貴族様を傷つけるなんて!」
「でも、由緒正しい血筋なんでしょう?」
「母さんはそう言ってたけど!」
「子供の頃は多かれ少なかれ悪いことをしてしまう経験はあると思うし、色々な失敗もするよ。それを全部叱った上で守ってあげるのも大人だよ。ね?」
アリスの言葉を聞くと男の子は余計に泣く。
「…っ!叱ってねぇじゃん!…ひっく」
「あ、そういえばそうだった。なにが悪いことかは、自覚があるよね?もうしちゃダメだよ」
「うーっ…!!!」
アリスの優しさに、男の子の心が解れていくのがわかった。
「クロヴィス様、この子を僕の侍従でも護衛でもなんでもいい。雇って欲しいです」
「アリス…どうしてもか?」
「どうしてもです!」
「…はぁ。おい、君」
「うん」
私は男の子と目を合わせて真剣な話をする。
「うちで保護した場合、もう悪いことは一切しない。誓えるか?」
「…うん」
「罪滅ぼしとして、アリスに忠誠を尽くす。誓えるか?」
「…できる、誓う」
「わかった。ポール、この子をお風呂に入れて子供服を用意してやれ。その後食事を与えろ。痩せ細ってるから、出来るだけ食べやすい軽いものを与えてやれ」
男の子はポールに連れていかれる。さて、そろそろかな。
「ご当主様!治癒術師様がいらっしゃいました!」
「部屋へ案内しろ」
「はい!」
治癒術師の先生はすぐに部屋に来てくれた。
「お待たせしました。治癒術師のルーです。頭を打ったとのことで、まずはそこから見ていきますね」
「お願いします」
ルー先生が隅々まで見てくれた。頭の治療は心配で見ていたが、背中の方はさすがに一度退出して呼ばれて戻った。
「…はい。大丈夫でした。脳にダメージはありませんよ。後遺症なども心配ありません」
「よかったです、ありがとうございます」
「身体の方も、痣などもありませんし大丈夫ですね。ただ、今後はあまり無茶はしないように。なにがあったかは知りませんが、頭を打つと最悪の場合もあります」
「はい!気をつけます」
「よろしい。では、私はこれで」
ルー先生は帰った。帰りに小切手を渡しておく。色をつけて支払った。
「坊ちゃん、よかったです!」
「もう大丈夫なら動いていい?」
「今日は大事をとって一日安静です!」
「えー」
シエルが一瞬、すんっと無表情になった。上手く隠しているが、自分を顧みないアリスに怒っているらしい。
「なにを言っているの?アリスティアお姉ちゃんは、三日くらい安静にしなきゃダメだよ」
「え」
「シエルの言う通りだ。君は危なっかしいしお人好しだし。心配過ぎるからな」
「そんなー」
情け無い表情も可愛かった。
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