上 下
17 / 60

余った魔法薬を売り捌く

しおりを挟む
どんどん魔法薬を作るので、配っても配っても余ります。ということで、冒険者ギルドに持っていって売ることにしました。ルナさんに任せました。

「お嬢様、かなりの高値で売れましたよ!」

「それは良かった」

さて、この売り上げですが、どうするかというと。

「ルナさん、この売り上げなんですが、半分を薬草の購入にあててくれますか?」

「はい、もちろんです!残りの半分は、ドレスや装飾品を買いますか?」

「いえ。…持って行きたいところがあるんです。連れて行ってくれますか?」

「お嬢様自らですか?私は構いませんけど…どこに行きます?」

「この間の、馬車の件」

「!」

「神父様の所に行きます」

「で、でも…あれはあの子供が急に飛び出してきたから…お嬢様は何も悪くありません!」

「…はい」

そう、飛び出した私が悪い。

「でも、どうしても行きたいんです。会って、謝りたい」

勝手に死んでしまったことを。

「お嬢様…わかりました…お嬢様がそうなさりたいなら…」

ー…

「着きましたよ、お嬢様」

「…懐かしい」

「え?」

「なんでもありませんよ。行きましょう」

私は教会に併設された孤児院の門をくぐる。神父様とシスターは私達…というかルナさんを見て険しい顔をしたものの、客間に通してくれた。

「…お久しぶりですね、私達の可愛い子を轢き殺しておいて今更なんの御用です?」

「ちょっと!せっかくお嬢様が貴方達に謝りたいと直接赴いたのになによその言い草!」

「謝る?今更ですか?」

いつも優しかった神父様が、珍しく怒りを露わにしている。それだけ悲しませてしまったんだよね。

「神父様…シスターも…本当にごめんなさい」

私はソファーから立ち上がって、深々とお詫びをする。

「お嬢様!そこまですることないです!あの子供が勝手に馬車に突っ込んできたのに!」

「あの子が何の理由もなくそんなことするはずない!」

「本当のことよ!」

「嘘です!」

「…猫が」

「…?」

「猫が轢かれそうになったのを、咄嗟に庇ったそうです」

「お嬢様?どこでそれを…お嬢様が傷つくから、言わないようにと口止めしたはずですのに…」

「…!…あの子は…そういう、ことでしたか。失礼な態度をとってすみませんでした」

神父様とシスターが深々と頭を下げて謝ってくれる。

「私こそ…本当にごめんなさい。神父様やシスター、皆を悲しませてしまって」

「…」

「これ、受け取ってくれませんか。お金で解決することじゃないのはわかってます。けど、孤児院の経営に少しでも役立てて欲しいんです」

「…ありがとうございます、受け取ります。…あの子の最期を、教えてくださってありがとう…本当に、ありがとうございました。これであの子たちにも、あの子の最期を伝えられる。どれだけ優しい子なのか、教えてあげられる」

「一つだけ聞いてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

私は神父様に近寄って耳元で囁く。

「ライトはテオと仲直りできましたか?…照れ隠しに暴言を吐いていて、心配だったんです」

「え…」

「神父様、教えてください」

にっこりと笑う。神父様は泣き出した。

「ああ…神よ、神よ!ありがとうございます、主に感謝します!」

いきなり泣き出した神父様に困惑するシスターとルナさん。神父様は私を抱きしめた。

「お嬢様!?お嬢様になにを…!」

「神父様、どうなされたんですか!?」

「ルナさん、いいの。…神父様」

「…すみません、取り乱しました」

神父様は優しく身体を離す。ルナさんも矛を収めてくれた。

「テオとライトは相変わらず仲良しですよ。ただ、最近は…元気はありませんが」

「…そうですか」

「でも、ええ。あの子たちは強いですから。すぐには無理でもいつかきっと立ち直れます。だから…貴女は心配せず、幸せに生きてください」

「はい。…また、来てもいいですか?」

「もちろんです。貴女なら歓迎しますよ」

「ありがとうございます、神父様」

「お嬢様…?」

「神父様?」

私達がいつのまにか仲良くなったのを見て、シスターもルナさんもぽかんとする。

「じゃあ、そろそろ帰りますね。ルナさん、行きましょう」

「はい、お嬢様」

こうして私は、神父様にだけ秘密を共有したのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...