上 下
4 / 7

お父さんとお母さん

しおりを挟む
今日は社会のお勉強が終了した。いや、なんか、すごいスルスルと知識が入ってもう習うことがないらしい。待って。もしかして本当にこの脳みそ前世と出来が違うかもしれない。後は帝王学と哲学と魔法学。でも、なんだか興味がないことに関しては本当に覚えられない。一生懸命に教えてくれる先生に申し訳ない。魔法学はまあ実践はなんとかなってるけど、座学が難しい。

「姫様は本当に天才です!あとは帝王学と哲学と魔法学ですな!魔法学も実践の方はなかなかの出来です!同年代の子供と比べればかなりの実力です!」

「まあまあ、姫様は本当に天才ですね!」

相変わらずこの二人の期待が大きい。いや、あの、あんまり期待しないで…興味がないことに関しては本当に覚えられない…。

「さあ、そろそろ皇帝陛下とのお茶会のお時間ですよ」

「いってらっしゃいませ、姫様」

「いってきます、先生。ヴィアベル、行こう」

「はい、姫様」

ヴィアベルに抱っこされてお兄ちゃんのいる中庭に行く。お兄ちゃんは先に椅子に座って待っていてくれた。

「お兄ちゃん!」

「メーア。今日の勉強はどうだった」

「社会のお勉強終わった!」

「終わった…?」

「うん。もう教えることないって!」

「…。なるほど、母上譲りか。俺よりも母上の能力を色濃く継いだな、メーア」

「うん?」

「母上は、特殊な能力をお持ちだった。興味がある分野に関しては記憶力が凄い方だったんだ」

「そうなの?」

「ああ。俺も多少はその能力を受け継いでいるから、魔法学においては国一だと自負している」

「へー。お兄ちゃんすごい!」

「母上のおかげだ」

「ねえねえ、お兄ちゃん」

「なんだ」

「お母さんってどんな人だった?」

「…。会いたいか?」

「うん!会ってみたい!」

「少しでよければ、俺の記憶を見せてやる」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

お兄ちゃんが私の額に手を置く。

ー…

「ヒンメル」

「母上!」

銀色の髪に藤色の瞳。この美しい人がお母さん…。お母さんに抱きつく。甘くて優しい匂いがする。これは、お兄ちゃんの記憶…なんだよね?

「ヒンメルは優しい子ね。お母様はとても貴方が誇らしいわ」

「そんな、俺はただ母上のようになりたいだけですから…」

「いいえ。貴方はとても優しい子よ。人の気持ちに敏感で、助けを求める人に気付いてあげられる」

「ありがとうございます…母上」

「ヒンメル。どうかその優しさを忘れないで」

「はい、母上!」

ー…

「…満足したか?」

「うん、ありがとう!お兄ちゃん!」

「ああ。俺も母上に無性に会いたくなる時があるが、お前はそもそも会ったことがないのだものな。今まで寂しかったか?」

「おじいちゃんとおばあちゃんが居てくれたから大丈夫。でも、たまに二人に隠れて泣いてたよ」

「そうか。…そうだろうな」

「でも、私を帝位争いから守ってくれて、お陰で私はこうしてお兄ちゃんと平和に暮らしているから、むしろ感謝してるんだよ?本当だよ?」

「そうか。なら良かった。…これからも、母上が恋しくなったら言え。見せてやる」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「ああ」

お母さんのことを考えているお兄ちゃんの表情は優しい。お母さんが大好きなんだね。…ちょっとだけ羨ましい。

「お兄ちゃん、お父さんはどんな人だった?」

「…」

一気に空気が重くなる。なに?

「父上は、皇帝だった」

「うん…」

それは知ってる。

「父上には、私がなかった」

「え?」

「俺も、俺以外の兄弟だった奴らにも、等しく皇帝として接していた。誰かに父として接していた記憶はない」

「…厳しかった?」

「とても。魔法学の天才と言われた俺ですら勉強の進みのことで殴られた」

「えっ」

「皇帝には臣民たちを守る義務がある。だから完璧でなければならない。それが父上の持論だった。父上は完璧な皇帝だった。それを俺達にも強要した。それで心が壊れた兄も姉もいた。皇帝になることだけを目的とした兄と姉もいた。そんな兄弟に、俺は襲われた。俺は父上が嫌いだ。父上だけが悪い訳じゃないのはわかってる。けど、それでも、大嫌いだ」

「お兄ちゃん…」

なるほど、それは嫌いになる。お兄ちゃんは、ずっと無理をして過ごしてきたんだろうな。

「お兄ちゃん。私とお母さんがいるから大丈夫だよ」

テーブルに身を乗り出してお兄ちゃんの頭をなでなでする。本当はお行儀が悪いけど、今はお兄ちゃんが優先だ。

「…ありがとう、メーア。だがテーブルに乗るんじゃない」

「はーい」

私は素直に椅子に戻る。

「お母さんとの思い出とかないの?」

「そうだな。よくここでこうしてお茶会をしていた。二人きりでな」

「そうなんだ!」

「お前もいたら、きっともっと楽しかっただろうな」

「今はいるよ!」

「ふ…そうだな」

「じゃあ、いっぱいお茶会しよう!そしたらもう寂しくないよ!」

「わかった。…明日も、楽しみにしてる」

「私も!」

「じゃあ、またな。メーア」

「またね!お兄ちゃん!」

お兄ちゃんと別れて部屋に帰る。お母さん、いい匂いだったなぁ。今度またお兄ちゃんのお母さんに関する記憶を見せて貰おう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

宮廷魔術師の家系に生まれて占いが得意になったので宮廷占い師になったら、何故かイケメンに囲まれてます!(旧、僕らの可愛いお姫様)

下菊みこと
恋愛
プリュネ・ディヴィナシオンはとても可愛い女の子。ディヴィナシオン公爵家の末っ子長女にして、占いの天才。宮廷魔術師の家系において、その類稀なる才能はとても重宝されるものである。なので…。 「リュリュ。もし知らない男に言い寄られたらすぐに俺にいうんだぞ」 「僕らの可愛いお姫様。男は狼だから、簡単に信用してはいけないよ」 「リュリュ。男はとっても怖い生き物だから、近付いちゃだめだよ」 とてもとてもシスコンな兄達に囲まれて、男を知らない無垢な少女に育っていた。そんな彼女が宮廷占い師として皇宮で働き始めると、それはもうあちこちでドタバタ大騒ぎになるのだった。これはそんな彼女の成長記録である。 小説家になろう様でも投稿しております。

聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜
恋愛
聖女求む! 第2王子リシャールは国を救い自身の婚約者となる予定の聖女を必死に追い求めていた。 国中探し回ってやっと見つけた!...と思ったら、なんかこの聖女思ってたのと違う!? 見た目は超絶美少女なのに中身はまだ子供!? しかも冒険者やってて魔法バンバン打ちまくるし、弓の腕前も一流だし。 聖女にはならないとか言い出すし... どうすればいいんだ!? 自由奔放な聖女に振り回される王子の話です。

痴話喧嘩はほどほどに

下菊みこと
恋愛
痴話喧嘩ともちょっと違う…?まあそんなお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

処理中です...