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お兄ちゃんとのお茶会
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宮殿に来て数日。社会のお勉強は順調に進み、同年代の子供なら持っているだけの知識は身に付いた。マナーは勉強するまでもなく地球の日本で身につけたもので事足りたし、音楽は前世でピアノを習っていたため問題にもならない。美術もまあ同年代の子供と比べれば劣ることはないだけの知識を持っていたので、後は帝王学、哲学、魔法学。これが馬鹿みたいに難しい。でも、魔法学は実戦の方はなんとか軌道に乗り始めた。魔法石という魔力を石に込めた宝石の作り方に関しては完璧である。実は高難易度の魔法らしいが、他の魔法より上手くいった。多分興味がある分野だからだろう。他にも、魔法学の錬金術の項目だけはものすごく上手くいった。我ながら現金である。
「姫様は本当に天才であります。帝王学と哲学に関しては多少時間は必要でしょうが、必ずや私めが開花させて見せましょう」
「お願いしますね、先生」
「ヴィアベル殿こそ、姫様を頼みます。姫様は天から愛情を受けておられる。間違っても失ってはならない方です」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。こんなにも愛らしい方は他にいらっしゃいません。天から愛情を一身に受けているはずです」
…恥ずかしい。照れる。二人とも私に期待し過ぎだよ。
「おい」
突然後ろから声を掛けられる。誰?振り向くと、お兄様がいた。
「…お兄様?」
「…ふん。おい、ヴィアベル。こいつを連れて行く。付いてくるなら付いてこい。タイヒ教授、お前は今日は帰っていい」
「では、失礼致します」
「もちろん付いていきます。姫様、抱っこしますね」
「いい。キュステ。お前が運べ」
「はい」
キュステと呼ばれたのはこの間の執事。抱き上げられて、宮殿の中庭に連れ出された。中庭には大きなテーブルと二つの椅子が用意されていて、お兄様は椅子に座る。私も椅子に降ろされた。
「紅茶と、菓子やケーキを用意した。食べたいなら食べろ」
「…いいの?」
帝位争いで人間不信になったんじゃないのか。なんで急に優しくするのか。
「…たった一人の実の妹であったのに、存在すら知らずにいてすまなかったな」
「え?」
「知っていたらもっと早く迎えに行けた。お前は死産と聞かされていた。…悪かった」
「ううん!お兄ちゃんは悪くないよ!」
思わず否定する。が、勢いあまってお兄ちゃんと呼んでしまった。流石に不敬か。
「あ、えっと…お兄様、ごめんなさい」
「何故謝る。俺はお前のお兄ちゃんだ」
「…!」
お兄ちゃんが笑った。嬉しい、と思う。お兄ちゃんの笑顔はとても優しい。でも、それは一瞬だった。
「…。俺は何を話せばいいか、わからない。お前が話せ」
「うん、お兄ちゃん!えっとね、私の村ではよくこんな花が咲いたの!お兄ちゃんにあげる!」
魔法で造花を生み出してお兄ちゃんに差し出す。お兄ちゃんは素直に受け取ってくれた。
「キュステ。後で俺の部屋に飾れ」
「はい、皇帝陛下」
「私を育ててくれたのはおじいちゃんとおばあちゃん!とっても優しくて、おばあちゃんは料理が上手で、おじいちゃんはよく遊び道具を作ってくれたの!」
「ほう。優しい人に拾われたか」
「うん!おじいちゃんもおばあちゃんも大好き!」
「ならばその二人には特別な褒美を与える。今はどこにいる?」
「…死んじゃった」
「…そうか」
「たまに、お墓詣りに行きたいの。だめ?」
「俺と一緒でもいいならいい」
「一緒に行ってくれるの!?」
「じゃないと危ないだろう。誘拐でもされたらどうする」
「お兄ちゃんありがとう!」
椅子から飛び降りてお兄ちゃんの所に走り寄る。抱き上げられて、頬にキスをする。
「おやおや」
「あらまあ」
「キュステ、ヴィアベル。生温い目で見るな」
「失礼致しました」
「うふふ」
二人はとても優しい顔をしている。お兄ちゃんは照れてしまって私を椅子に戻した。
「おじいちゃんとおばあちゃんと食べる手作りパンはとっても美味しいの!」
「そうか。俺と食べる茶菓子は美味いか?」
「すっごく美味しい!」
「そうか」
お兄ちゃんは少し笑うとまた無表情に戻る。笑った顔が好きなんだけどな。
「村には丘があってね、そこから見る夕暮れがとっても綺麗なの!」
「ほう。見てみたいな」
「ちょっと待ってね…えい!」
「ん?…そうか、念写か」
「うん。はい、お兄ちゃん」
「…これは随分と綺麗な念写だな。お前、天才だと言われてるが本当に多才なんだな」
「そんなことないよー。でも、綺麗な風景でしょ?」
「ああ。お前が綺麗なものに触れて育ってくれたことがわかる。嬉しいものだな」
お兄ちゃんが頭を軽く撫でてくれる。でもその手はすぐに引っ込んだ。やっぱり、まだ人を信じるのは怖いのかな。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ、メーア」
「今まで一緒にいられなかった分、仲良くしようね」
「…。好きにしろ」
「うん!お兄ちゃんとずっと一緒にいる!」
「そうか」
そうしてお兄ちゃんとたくさんお喋りしてお茶会は終わった。キュステもヴィアベルも優しく見守ってくれた。お兄ちゃんとも仲良くなれたと思う。ただ、お兄ちゃんはまだ私に心を開くのが怖いみたいだ。なんとかお兄ちゃんの心の氷を溶かして上げたいな。
「姫様は本当に天才であります。帝王学と哲学に関しては多少時間は必要でしょうが、必ずや私めが開花させて見せましょう」
「お願いしますね、先生」
「ヴィアベル殿こそ、姫様を頼みます。姫様は天から愛情を受けておられる。間違っても失ってはならない方です」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。こんなにも愛らしい方は他にいらっしゃいません。天から愛情を一身に受けているはずです」
…恥ずかしい。照れる。二人とも私に期待し過ぎだよ。
「おい」
突然後ろから声を掛けられる。誰?振り向くと、お兄様がいた。
「…お兄様?」
「…ふん。おい、ヴィアベル。こいつを連れて行く。付いてくるなら付いてこい。タイヒ教授、お前は今日は帰っていい」
「では、失礼致します」
「もちろん付いていきます。姫様、抱っこしますね」
「いい。キュステ。お前が運べ」
「はい」
キュステと呼ばれたのはこの間の執事。抱き上げられて、宮殿の中庭に連れ出された。中庭には大きなテーブルと二つの椅子が用意されていて、お兄様は椅子に座る。私も椅子に降ろされた。
「紅茶と、菓子やケーキを用意した。食べたいなら食べろ」
「…いいの?」
帝位争いで人間不信になったんじゃないのか。なんで急に優しくするのか。
「…たった一人の実の妹であったのに、存在すら知らずにいてすまなかったな」
「え?」
「知っていたらもっと早く迎えに行けた。お前は死産と聞かされていた。…悪かった」
「ううん!お兄ちゃんは悪くないよ!」
思わず否定する。が、勢いあまってお兄ちゃんと呼んでしまった。流石に不敬か。
「あ、えっと…お兄様、ごめんなさい」
「何故謝る。俺はお前のお兄ちゃんだ」
「…!」
お兄ちゃんが笑った。嬉しい、と思う。お兄ちゃんの笑顔はとても優しい。でも、それは一瞬だった。
「…。俺は何を話せばいいか、わからない。お前が話せ」
「うん、お兄ちゃん!えっとね、私の村ではよくこんな花が咲いたの!お兄ちゃんにあげる!」
魔法で造花を生み出してお兄ちゃんに差し出す。お兄ちゃんは素直に受け取ってくれた。
「キュステ。後で俺の部屋に飾れ」
「はい、皇帝陛下」
「私を育ててくれたのはおじいちゃんとおばあちゃん!とっても優しくて、おばあちゃんは料理が上手で、おじいちゃんはよく遊び道具を作ってくれたの!」
「ほう。優しい人に拾われたか」
「うん!おじいちゃんもおばあちゃんも大好き!」
「ならばその二人には特別な褒美を与える。今はどこにいる?」
「…死んじゃった」
「…そうか」
「たまに、お墓詣りに行きたいの。だめ?」
「俺と一緒でもいいならいい」
「一緒に行ってくれるの!?」
「じゃないと危ないだろう。誘拐でもされたらどうする」
「お兄ちゃんありがとう!」
椅子から飛び降りてお兄ちゃんの所に走り寄る。抱き上げられて、頬にキスをする。
「おやおや」
「あらまあ」
「キュステ、ヴィアベル。生温い目で見るな」
「失礼致しました」
「うふふ」
二人はとても優しい顔をしている。お兄ちゃんは照れてしまって私を椅子に戻した。
「おじいちゃんとおばあちゃんと食べる手作りパンはとっても美味しいの!」
「そうか。俺と食べる茶菓子は美味いか?」
「すっごく美味しい!」
「そうか」
お兄ちゃんは少し笑うとまた無表情に戻る。笑った顔が好きなんだけどな。
「村には丘があってね、そこから見る夕暮れがとっても綺麗なの!」
「ほう。見てみたいな」
「ちょっと待ってね…えい!」
「ん?…そうか、念写か」
「うん。はい、お兄ちゃん」
「…これは随分と綺麗な念写だな。お前、天才だと言われてるが本当に多才なんだな」
「そんなことないよー。でも、綺麗な風景でしょ?」
「ああ。お前が綺麗なものに触れて育ってくれたことがわかる。嬉しいものだな」
お兄ちゃんが頭を軽く撫でてくれる。でもその手はすぐに引っ込んだ。やっぱり、まだ人を信じるのは怖いのかな。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ、メーア」
「今まで一緒にいられなかった分、仲良くしようね」
「…。好きにしろ」
「うん!お兄ちゃんとずっと一緒にいる!」
「そうか」
そうしてお兄ちゃんとたくさんお喋りしてお茶会は終わった。キュステもヴィアベルも優しく見守ってくれた。お兄ちゃんとも仲良くなれたと思う。ただ、お兄ちゃんはまだ私に心を開くのが怖いみたいだ。なんとかお兄ちゃんの心の氷を溶かして上げたいな。
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