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敵国の王は姫君に恋をした
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自然が豊かといえば聞こえはいいけれど、あまり発展していない国。国王には側妃が何人もいて、私の母もその一人。私の母は特に身分が低く…低いと言っても、侯爵家の出ではあったが、それ故に私たち親子は宮廷で虐げられていた。それでも二人で支え合って来たが、最近その母も病で亡くなった。
「…いっそ、自由になってしまおうかしら」
王女という身分を捨てて、足取り軽く野を駆け回る。…うん、現実的ではない。
「そういえば、戦争はどうなっているのかしら」
山と谷に囲まれたこの国は、そう簡単には侵入出来ないはずだけど。
「誰か私を攫ってくれないかな」
「女性がそんなことを簡単に言うものではないぞ」
ふと声をかけられる。聞き覚えのない声に振り返れば、敵国の紋章が目に付いた。
「…まあ。我が国は負けたのですね。それにしては騒ぎが広がっていませんが」
「ははは。見かけは嫋やかなのに、案外精神は強いんだな」
「お父様が降伏したのですか?」
「ああ。国民達を無碍に扱わないという約束でな。だから、奴隷を調達出来そうにはない。だがこの国の豊かな資源が手に入るなら、帳尻は合う」
「奴隷…お父様が降伏してくださって良かった。王族の扱いは?」
一見優しげな彼の目が鋭くなった。
「一族郎党皆殺し」
「まあ」
ああ、私の人生もここまでか。
「…と思っていたが、気が変わった」
「あら、気まぐれなんですね」
「ははは。本当に豪胆な姫君だ。…名前は?」
「リゼットです」
「リゼット。いい名だな。俺は…君にとっての敵国の王、レジスだ」
レジス様。まさか、王様自らいらっしゃるなんて。
「レジス様は、敵国の王なのにすごく穏やかなのですね」
「それは、君が俺にそう接してくれているからだろう」
「そうでしょうか?」
「君は本当にのんびりしているな。毒気を抜かれる」
「よく言われます」
それが宮廷でいじめられる私の処世術ですもの。
「なあ、リゼット。…俺の嫁に来ないか?」
「人質…ということですか?」
「いや?惚れたから、君が欲しい」
「…まあ。私でいいのですか?」
「少し話をしただけで、ここまで惹かれる女は君が初めてだ。…嫌か?」
少し考える。断れば、レジス様はやはり一族郎党皆殺しという言葉を現実のものとなさるだろう。いじめられていたとはいえ、腹違いの兄弟達を思えば受け入れるべきだ。それに…。
「私、変化が欲しかったのです」
「…変化か」
「変わらない毎日に嫌気がさしてしまって。姫といっても、他の兄弟達ほど恵まれてはいませんので」
「なるほど、君は案外苦労して来たのだな」
「ふふ。ええ。…レジス様に嫁げば、世界の色は変わりますか?」
レジス様は私の前に跪き、私の手を取りキスを落とした。
「約束する。俺の側にいれば、色鮮やかな世界を見せてやる。…付いて来てくれるか?」
「それでしたら、ぜひ。ああ、でも、兄弟達にもそれなりの待遇をお願いしても?」
「ふむ。…俺にとっても義兄弟ということになるからな。わかった、色々言われるだろうがなんとかしよう」
「ふふ。それを言うなら、そもそも敗戦国の姫を娶る時点で色々言われるでしょう?」
「ははは。それもそうだ。…まあ、君が手に入るならそのくらい苦でもないさ」
こうして私は、敵国の王に嫁いだのです。
「あの、レジス様」
「うん?」
「わざわざ手ずから食べさせて下さらなくても、自分で食べられますから」
「俺がそうしたいんだ、だめか?」
「…レジス様がいいなら、良いですけど」
まさか、毎回膝の上に乗せて食事を手ずから食べさせてくださるほどに溺愛されるとは思いませんでしたが。
「…いっそ、自由になってしまおうかしら」
王女という身分を捨てて、足取り軽く野を駆け回る。…うん、現実的ではない。
「そういえば、戦争はどうなっているのかしら」
山と谷に囲まれたこの国は、そう簡単には侵入出来ないはずだけど。
「誰か私を攫ってくれないかな」
「女性がそんなことを簡単に言うものではないぞ」
ふと声をかけられる。聞き覚えのない声に振り返れば、敵国の紋章が目に付いた。
「…まあ。我が国は負けたのですね。それにしては騒ぎが広がっていませんが」
「ははは。見かけは嫋やかなのに、案外精神は強いんだな」
「お父様が降伏したのですか?」
「ああ。国民達を無碍に扱わないという約束でな。だから、奴隷を調達出来そうにはない。だがこの国の豊かな資源が手に入るなら、帳尻は合う」
「奴隷…お父様が降伏してくださって良かった。王族の扱いは?」
一見優しげな彼の目が鋭くなった。
「一族郎党皆殺し」
「まあ」
ああ、私の人生もここまでか。
「…と思っていたが、気が変わった」
「あら、気まぐれなんですね」
「ははは。本当に豪胆な姫君だ。…名前は?」
「リゼットです」
「リゼット。いい名だな。俺は…君にとっての敵国の王、レジスだ」
レジス様。まさか、王様自らいらっしゃるなんて。
「レジス様は、敵国の王なのにすごく穏やかなのですね」
「それは、君が俺にそう接してくれているからだろう」
「そうでしょうか?」
「君は本当にのんびりしているな。毒気を抜かれる」
「よく言われます」
それが宮廷でいじめられる私の処世術ですもの。
「なあ、リゼット。…俺の嫁に来ないか?」
「人質…ということですか?」
「いや?惚れたから、君が欲しい」
「…まあ。私でいいのですか?」
「少し話をしただけで、ここまで惹かれる女は君が初めてだ。…嫌か?」
少し考える。断れば、レジス様はやはり一族郎党皆殺しという言葉を現実のものとなさるだろう。いじめられていたとはいえ、腹違いの兄弟達を思えば受け入れるべきだ。それに…。
「私、変化が欲しかったのです」
「…変化か」
「変わらない毎日に嫌気がさしてしまって。姫といっても、他の兄弟達ほど恵まれてはいませんので」
「なるほど、君は案外苦労して来たのだな」
「ふふ。ええ。…レジス様に嫁げば、世界の色は変わりますか?」
レジス様は私の前に跪き、私の手を取りキスを落とした。
「約束する。俺の側にいれば、色鮮やかな世界を見せてやる。…付いて来てくれるか?」
「それでしたら、ぜひ。ああ、でも、兄弟達にもそれなりの待遇をお願いしても?」
「ふむ。…俺にとっても義兄弟ということになるからな。わかった、色々言われるだろうがなんとかしよう」
「ふふ。それを言うなら、そもそも敗戦国の姫を娶る時点で色々言われるでしょう?」
「ははは。それもそうだ。…まあ、君が手に入るならそのくらい苦でもないさ」
こうして私は、敵国の王に嫁いだのです。
「あの、レジス様」
「うん?」
「わざわざ手ずから食べさせて下さらなくても、自分で食べられますから」
「俺がそうしたいんだ、だめか?」
「…レジス様がいいなら、良いですけど」
まさか、毎回膝の上に乗せて食事を手ずから食べさせてくださるほどに溺愛されるとは思いませんでしたが。
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