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思い出してから後悔しても遅い
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ある日。あれだけ好きだった義兄に恋愛感情の一切を感じなくなった。
義兄は義両親の実の子。私は義両親の友人だった両親が馬車の事故で死んだ時色々話し合いがあって、縁あって引き取られた。
義兄と私にはそれぞれ婚約者がいる。叶わぬ恋。
誰にも言えずに苦しんでいた気持ちが、理由はわからないけれど突然消えて息が楽になった。
「…リーナ」
「お義兄様!それ、どうしたのですか?」
そんな中で、なにやら急に探し物をしてくると出かけた義兄。やっと帰ってきたと思えば、変な植物を拾ってきたようだ。
「探し物を見つけてきたんだ」
「…それを探していらっしゃったの?なんの植物でしょうか」
「ふふ。まだ秘密だ。でも丁寧に育てれば、きっとリーナも気に入るステキな花が咲くはずだ」
「まあ!それはとても楽しみです!」
義兄は丁寧に、花を鉢植えに植えた。そして、栄養剤を与え水を与え、自室で育てることにしたらしい。私はその義兄の様子に、余程綺麗な花が咲くのだろうと楽しみになってきた。時折義兄の部屋にお邪魔しては一緒に世話をする。恋愛感情こそ無くなったものの、尊敬するのには変わらない義兄。ちゃんと義兄と兄妹になれて、なんだかすごく楽しくなった。
「まあ!蕾がつきましたね、お義兄様!」
「そうだな、リーナ」
義兄は時折あの植物に、可愛い可愛いと愛を囁いて、それはもう大切に育てていた。私も一緒になってお世話をしたけれど、その植物についに蕾がついた。その植物の蕾からは僅かに花弁が見えて、多分燃えるような赤い花をつけるのだろうとわかった。
「楽しみだ。待ち遠しいな…」
「ここまでくればもう一息です!すぐに花を咲かせてくれますよ!」
「…本当に、楽しみだ」
…なぜか。義兄の瞳に少し、影がさした気がした。
「…お義兄様の婚約者と、私の婚約者が心中?」
「そうらしい。…大丈夫か?リーナ」
「ご、ごめんなさい、お義兄様…か、体の震えが止まらないの…こんな裏切り…」
「可哀想に…」
私は…義兄に恋をしていたから、自分の婚約者には何も言えない。彼がもし私の気持ちに少しでも気づいてしまったのなら、裏切られるのも仕方がない。
けれど。
義兄の婚約者は、義兄から婚約者として大切にされていた…ように思う。当人にしか見えないこともあるかもしれないけれど、信じられない裏切りだと思った。義兄の気持ちを思うと、体が震えて止まらない。義兄は自分が一番辛いはずなのに、震える私を哀れんで励ましてくれた。
色々あったが、義両親が対応してくれて私と義兄は屋敷で静かに過ごした。あんな事件があって落ち込んでいたけれど、やっと嬉しいことが起きた。
義兄のお気に入りの植物が、花を咲かせてくれたのだ。
「みてくれ、リーナ。やっと咲いた。リーナ、気に入ったか?」
「はい!とても、とても綺麗です!みたことのない花ですが…感動しました!」
「…ふふ」
「お義兄様?」
「…この植物な、花も美しいが…散ったら散ったで、とても甘くて美味しい実をつけるんだ」
義兄の言葉に胸が踊る。
「まあ!まだ楽しみが続きますね!」
「ああ。…実をつけたら、食べてくれるか?」
「ええ、一緒に食べましょう!」
「ありがとう。でも、これは絶対リーナだけに食べて欲しいんだ」
「ふふ、お義兄様ったら。わかりました。では、その時にはいただきますね」
そんな約束をした時、義兄は見たこともない本当に幸せそうな顔をした。よくわからなかったけど、婚約者を最悪な形で亡くした兄が笑ってくれて嬉しかった。
「…リーナ」
「お義兄様!実がなりましたね!」
「ああ。やっとだな」
「では…お約束通り」
「ああ、食べてくれ」
美しい赤い花が散り、真っ赤な実がなった。一口口に含んで…私は後悔した。
「…あ」
私は、義兄への気持ちに耐えきれなくなった。腕利きの魔女をこっそりと頼る。
魔女は私の愛を奪ってくれた。しかし、大切なものだから自分で処理しろと言った。そして渡されたのが、愛の花。その花が私の手元から離れる時、この記憶も消えると言われた。魔女には謝礼をたくさんお支払いした。
愛の花は、どうしても邪険にする気にはなれなくて。かといって、目のつく場所には置けない。そっと、遠くの丘の片隅に、隠すように植えた。ほかにどうすればいいかわからなかった。
そして、その記憶が消えた。
義兄は、それを見つけてきて育てていたのだ。
「…お、お義兄様」
「思い出したか?」
「え…」
お義兄様は、笑う。
「…俺はずっと、お前の気持ちに気付いていた。俺も同じ気持ちだったから。俺はいつ、どうやってお前を奪うかずっと考えていた。でも、お前は勝手に諦めてそんなに大事なものを捨てたな?だから拾って育てて、お前の中に戻したんだ。…よかったな?」
「お、お義兄様、私…」
ドキドキする。恋の高揚に、まるで知らない人みたいな義兄への恐怖に。胸が苦しくて仕方がない。それでも、一つ確かめなくては。
「お義兄様…婚約者たちは…」
しー、と義兄は唇の前に人差し指を立てた。それだけで、わかってしまう。
「お、お義兄様…!」
「そうそう。両親を説得してな?俺たちの婚約者が決まったぞ、リーナ」
「…っ!」
わかる。もう、逃げられない。それが怖くて。…嬉しくて。
「愛してる、リーナ」
「お、お義兄様…」
初めてのキスの味は、甘くて冷たかった。
義兄は義両親の実の子。私は義両親の友人だった両親が馬車の事故で死んだ時色々話し合いがあって、縁あって引き取られた。
義兄と私にはそれぞれ婚約者がいる。叶わぬ恋。
誰にも言えずに苦しんでいた気持ちが、理由はわからないけれど突然消えて息が楽になった。
「…リーナ」
「お義兄様!それ、どうしたのですか?」
そんな中で、なにやら急に探し物をしてくると出かけた義兄。やっと帰ってきたと思えば、変な植物を拾ってきたようだ。
「探し物を見つけてきたんだ」
「…それを探していらっしゃったの?なんの植物でしょうか」
「ふふ。まだ秘密だ。でも丁寧に育てれば、きっとリーナも気に入るステキな花が咲くはずだ」
「まあ!それはとても楽しみです!」
義兄は丁寧に、花を鉢植えに植えた。そして、栄養剤を与え水を与え、自室で育てることにしたらしい。私はその義兄の様子に、余程綺麗な花が咲くのだろうと楽しみになってきた。時折義兄の部屋にお邪魔しては一緒に世話をする。恋愛感情こそ無くなったものの、尊敬するのには変わらない義兄。ちゃんと義兄と兄妹になれて、なんだかすごく楽しくなった。
「まあ!蕾がつきましたね、お義兄様!」
「そうだな、リーナ」
義兄は時折あの植物に、可愛い可愛いと愛を囁いて、それはもう大切に育てていた。私も一緒になってお世話をしたけれど、その植物についに蕾がついた。その植物の蕾からは僅かに花弁が見えて、多分燃えるような赤い花をつけるのだろうとわかった。
「楽しみだ。待ち遠しいな…」
「ここまでくればもう一息です!すぐに花を咲かせてくれますよ!」
「…本当に、楽しみだ」
…なぜか。義兄の瞳に少し、影がさした気がした。
「…お義兄様の婚約者と、私の婚約者が心中?」
「そうらしい。…大丈夫か?リーナ」
「ご、ごめんなさい、お義兄様…か、体の震えが止まらないの…こんな裏切り…」
「可哀想に…」
私は…義兄に恋をしていたから、自分の婚約者には何も言えない。彼がもし私の気持ちに少しでも気づいてしまったのなら、裏切られるのも仕方がない。
けれど。
義兄の婚約者は、義兄から婚約者として大切にされていた…ように思う。当人にしか見えないこともあるかもしれないけれど、信じられない裏切りだと思った。義兄の気持ちを思うと、体が震えて止まらない。義兄は自分が一番辛いはずなのに、震える私を哀れんで励ましてくれた。
色々あったが、義両親が対応してくれて私と義兄は屋敷で静かに過ごした。あんな事件があって落ち込んでいたけれど、やっと嬉しいことが起きた。
義兄のお気に入りの植物が、花を咲かせてくれたのだ。
「みてくれ、リーナ。やっと咲いた。リーナ、気に入ったか?」
「はい!とても、とても綺麗です!みたことのない花ですが…感動しました!」
「…ふふ」
「お義兄様?」
「…この植物な、花も美しいが…散ったら散ったで、とても甘くて美味しい実をつけるんだ」
義兄の言葉に胸が踊る。
「まあ!まだ楽しみが続きますね!」
「ああ。…実をつけたら、食べてくれるか?」
「ええ、一緒に食べましょう!」
「ありがとう。でも、これは絶対リーナだけに食べて欲しいんだ」
「ふふ、お義兄様ったら。わかりました。では、その時にはいただきますね」
そんな約束をした時、義兄は見たこともない本当に幸せそうな顔をした。よくわからなかったけど、婚約者を最悪な形で亡くした兄が笑ってくれて嬉しかった。
「…リーナ」
「お義兄様!実がなりましたね!」
「ああ。やっとだな」
「では…お約束通り」
「ああ、食べてくれ」
美しい赤い花が散り、真っ赤な実がなった。一口口に含んで…私は後悔した。
「…あ」
私は、義兄への気持ちに耐えきれなくなった。腕利きの魔女をこっそりと頼る。
魔女は私の愛を奪ってくれた。しかし、大切なものだから自分で処理しろと言った。そして渡されたのが、愛の花。その花が私の手元から離れる時、この記憶も消えると言われた。魔女には謝礼をたくさんお支払いした。
愛の花は、どうしても邪険にする気にはなれなくて。かといって、目のつく場所には置けない。そっと、遠くの丘の片隅に、隠すように植えた。ほかにどうすればいいかわからなかった。
そして、その記憶が消えた。
義兄は、それを見つけてきて育てていたのだ。
「…お、お義兄様」
「思い出したか?」
「え…」
お義兄様は、笑う。
「…俺はずっと、お前の気持ちに気付いていた。俺も同じ気持ちだったから。俺はいつ、どうやってお前を奪うかずっと考えていた。でも、お前は勝手に諦めてそんなに大事なものを捨てたな?だから拾って育てて、お前の中に戻したんだ。…よかったな?」
「お、お義兄様、私…」
ドキドキする。恋の高揚に、まるで知らない人みたいな義兄への恐怖に。胸が苦しくて仕方がない。それでも、一つ確かめなくては。
「お義兄様…婚約者たちは…」
しー、と義兄は唇の前に人差し指を立てた。それだけで、わかってしまう。
「お、お義兄様…!」
「そうそう。両親を説得してな?俺たちの婚約者が決まったぞ、リーナ」
「…っ!」
わかる。もう、逃げられない。それが怖くて。…嬉しくて。
「愛してる、リーナ」
「お、お義兄様…」
初めてのキスの味は、甘くて冷たかった。
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