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ライバルキャラだって幸せになっていい
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アンナ・グラシアン。グラシアン男爵家の長女である彼女は、ある日目が覚めてこう叫んだ。
「私、ハピラブのヒロインになってるー!?」
そう。彼女はよくある異世界転生のよくいるヒロインなのである。
前世、彼女は「ハッピー・ラブストーリー」というよくある同人乙女ゲームを愛していた。同人乙女ゲームというだけあってまあそれなりの値段ではあったが、その分よく作り込まれていた。
特に彼女が気に入っていたのは、攻略対象達と「ライバルキャラ」達の関係性。こいつらヒロインが引っ掻き回さなきゃ最強のカップルじゃん。全部推しカプだよ。と何度も思ったものである。
そんな大好きなゲームの世界に転生し、それも舞台である学園への入学前日に前世の記憶を取り戻した彼女。今の彼女の目標はもちろん。
「攻略対象達全員とライバルキャラ達全員を無理矢理にでもくっつけてみせる…!」
これである。
フラグ管理とかとても面倒な気がするし、とりあえず一組ずつくっつけることにした。
そして入学、数ある出会いイベントを全て華麗にかわして彼女は一組目のカップルのゴールインに向けて動き始めた。
『僕はルイス。伯爵家の長男で、身分違いの恋をしている。メイドのアリアを心から愛しているのだ。決して認められないのがわかっていて、僕はアリアと秘密のお付き合いをしている。…バレたとして、本気だと思う人は少ないかも知れないけれど。』
「坊ちゃん、見てください!学園の中庭もお屋敷と同じくらい整っていますよ!」
「ふふ、そうだね?でもアリア、ちょっとこちらに来てごらん」
「?はい」
「花びらが髪についていたよ」
「あ、お恥ずかしいです…えへへ」
『そんな言い訳で、彼女の柔らかな髪に触れる。どうにか、彼女との仲を許される方法はないかとこの歳まで足掻いたがもう諦めた。せめて彼女との時間を引き伸ばすのがせいぜいで。両親に婚約者を決められるまでが、僕らのタイムリミットだ』
(生で見れたー!!!甘酸っぱいー!!!聞こえる、モノローグまではっきり聞こえるー!!!)
ルイスとアリア。推しカプの甘酸っぱい雰囲気に、アンナは大興奮である。
(さて、二人の障害は身分差。何か二人の身分差を乗り越える方法は…)
アンナは、あるとんでもない方法を思いついた。
(神様…味方してください!)
アンナは早速行動に出る。
あれから一ヶ月。しがない男爵令嬢でしかなかったアンナは、成金令嬢になっていた。お小遣いを全額カジノに突っ込んで大勝ちしたのである。
乙女ゲームハピラブにはミニゲームが複数あり、その一つがカジノでの賭け事である。実は熟練のプレイヤーになると編み出されるポーカーでの必勝法があり…つまりはまあ隠し要素のイカサマである。
それを駆使して見事に大金持ちになり、アンナは家にも勿論お金を還元したが、自分のお小遣い分をちゃっかり確保していた。
で。
「あの、アリア様」
「あ、アンナ様!?私はしがないメイドですのでアリアで結構です!!!坊ちゃんにご用ですか?」
「いえ、アリア様にお願いがあって」
「なんでしょう…?」
「実は、先日の泡銭で商店を開いたのですが中々難しいのです!そこで、店長をやっていただきたくて!」
いきなりの話にアリアは目が点になる。
「それが軌道に乗れば、行く行くは大きなお店にする予定で、アリア様にも社長になってもらおうかななんて思ってて!」
「で、でも」
「アリア様なら絶対大丈夫だと思って任せたいんです!それに、大きなお店の女社長になれば誰か『御曹司』との結婚も夢じゃないかも!」
「!」
「名ばかり店長でもいいのでやってください!お願いします!」
アリアは、夢を見る。誰からも祝福されて、ルイスと結ばれる幸せな夢を。
「…メイドの仕事がありますので、名ばかり店長なら」
「ありがとうございます!でもあんまり甘い話に乗っちゃダメですよ!今回は是非乗ってほしいけど!」
「は、はい」
ということで、アリアはアンナのお店の名ばかり店長になった。
そして、アンナのお店は〝サクラ〟が大量に動員されて一時的に爆発的な人気を博した。すぐに大きなお店になり、アリアが社長になり、アリアはメイドを辞めた。そしてなんと、アリアの頑張りでサクラを動員しなくても人気のお店となり、無事ルイスとの婚約が認められた。
「アンナ様のお陰でルイス様と結婚できます!ありがとうございました!」
「いえいえ、なんか思ったよりアリアさんが頑張ってくれてびっくりです」
「えへへ。やってみたら意外と楽しくて」
「じゃあ、私は今日はこれで」
アンナはそそくさと退散する。…フリをして物陰で二人を伺った。
『アリアは、知らないうちにアンナ嬢の元で働いて社長にまで上り詰めていた。今や人気のお店の女社長であるアリアとは、無事に婚約者になれた』
「アリア、迎えに来たよ」
「ルイス様っ!」
『もう、人目を気にせずアリアを抱きしめられる。こんなに幸せなことはない。何故アリアを誘ったのかは不思議だけど、アンナ嬢には感謝してもしきれない』
「アリア…こんな風に、毎日君を迎えに来て抱きしめられるのが幸せだ。アリアの新しい家に送り届けるまで、ずっと手を繋いで帰れるのも」
「ルイス様…」
「愛してる。ただただこの幸せを、君と共に守っていきたい」
「私もです!」
『もう僕等にはなんの障害もない。二人ともに、歩いていける。この幸せを、君と共に守っていく』
(…ハッピーエンドおめでとうー!!!)
なんだかんだでカジノだのお店の成長だのに時間は掛かったが、完全無欠のハッピーエンド…だと、アンナは思う。アンナの目標がひとつ達成された。そして二組目の成就にまた、アンナが動き出す。
『僕は、アンドロイドに恋してる』
ロイドは、アイに髪を梳かれている。
「マスター。少しは自分で身の回りのことを出来るようにならないと」
「そんなの、アンドロイドの君の仕事だろ」
「マスターったら、もう。私が壊れたらどうなさるおつもりですか?」
「僕が何度だって助けてあげるよ。そのための科学者だろ」
「…マスターったら!」
『おそらく、人間の感情を学習し過ぎたアイも製作者でありマスターの僕に恋をしている』
「ねえ、アイ」
「なんですか?マスター」
「今はこの国も寛容でね、車との入籍や自転車との入籍、はたまた猫や犬、ハムスターとの入籍なんてニュースもたまにだけど聞くんだ」
「はい、マスター」
「…いや、なんでもない」
『だから、結婚して欲しい。…この一言が言えたなら、僕はどれほど幸福だろう』
(いや言えよー!!!言えばそれで解決なんだよ、ロイドは天涯孤独で誰にも迷惑かからないしいいじゃん!!!言えよ!!!)
アンナは、肝心なところで奥手な教授のために一肌脱ぐことにした。
「学園と合同で慈善事業、ですか」
「そう!アリアさんにしか頼めないの!」
「学園の協力にもよりますが、アンナ様のためなら実現に向けて努力しましょう。内容は?」
「社会における少数派の人々の心の解放」
「大きく出ましたね…」
アンナはアリアに頼った。アリアはアンナと一緒に悩んでくれるらしい。ちなみに恋人モードのアリアはふわふわ女子だが、仕事モードは頼りになるお姉さんである。
「といっても、今回は特にごく一部に限ってね」
「ふむ」
「人間以外を愛しちゃう人たちの性癖の暴露大会とか」
「…はい?」
「よくあるでしょう?愛する人に向かって愛してる!って叫ぶイベント。あれの相手が人間じゃない版」
アリアは頭を抱えた。
「やろうと思えばいけるけど…いけるかな…」
「いけるいける」
「簡単に言わないでください!」
「あと、人間じゃないこの人間への愛を叫ぶのも可にしてね」
「…いっそそちらの方が簡単です。…わかりました!やってやりますよ!」
ということで、アンナの無茶振りは見事貴族社会もぶいぶい言わせる女社長アリアの指揮の元、実現することになった。
『変な大会が学園内で開かれた。冷やかしに行ったら何故かアイが立っていた』
「マスター!愛してます!心から愛してますー!」
『自然と、涙が出た。ここで逃げたら男が廃る。頑張れ僕。泣き顔のままでいい。カッコつかなくていい。愛を伝えるんだ』
「アイ」
「マスター!?あの、あのこれは」
『泣き顔のままでステージに無理矢理割り込む。アイからマイクを無理矢理奪って大声を張り上げた』
「アイ、愛してるー!!!君のことが好きだ、結婚してくれー!!!」
『横にいたアイは、驚いた顔をして。段々と顔をぐしゃぐしゃにして、人口涙を流して言った』
「お受けしますー!!!」
『ステージの下、観客どもから歓声が上がった。祝福の声に押されて、アイに以前から用意していて渡せなかった指輪をはめる。』
「幸せにする。幸せでいてくれる?」
「はい、マスター!」
『僕たちはきっと、これからもさまざまな障害にぶち当たる。けど、この子となら間違いなく乗り越えていける。僕は、そう信じてる』
(文句無しのハッピーエンドをありがとうございます!!!)
今回も完全無欠のハッピーエンド…だと、アンナは思う。アンナの目標がまたひとつ達成された。そして最後の一組の成就にまた、アンナが動き出す。
『皇女殿下は、本当に俺が相手でいいんだろうか』
レアンドルは悩んでいた。自分が皇女殿下…将来の女帝の皇配なんて大丈夫なのか、と。昔からの婚約だ。今に始まった事ではない。そう、昔からの悩みだったということでもある。
『俺は皇女殿下に心底惚れ込んでいるから心配ないけれど。皇女殿下には他に相応しい人がいるのではないか』
杞憂である。両思い…いや、両片思いであった。だが、お互いに気付かないというのが厄介であった。
『今日こそ言おう。皇女殿下を愛しています。だからこそ、皇女殿下のお気持ちをお伺いしたいです。と』
…しかし、レアンドルがそう心に決めても。レアンドルの意中の人、アナスタシアを目の前にすると彼は何も言えないのだ。
(…言えってばぁぁぁぁぁああああああああっ!!!なんで、この世界の男どもは!肝心なところでヘタれるのよー!!!)
仕方がないので、アンナはまたアリアに頼った。アリアも大変な人物に恩を売られたものである。
「愛する人に気持ちを伝える日、というイベントですか」
「そう!お菓子とか花束とかをプレゼントして、それにメッセージカードをそっと添えるの!それなら奥手の人でも想いを伝えられるでしょう?」
「なるほど。それを学園とも協同で、ですね?」
「うん!」
「頑張ってみます」
なお、ヴァレンタインの丸パクリである。
『俺は、愛する人への感謝の日とやらを口実に皇女殿下にお気持ちをお伺いすることにした。お菓子と花束を吟味して用意して、メッセージカードを何度も何度も書き直して完成させて。そして、今から渡す』
「皇女殿下」
「レアンドル!」
『皇女殿下は俺を見て駆け寄ってくれる。使用人に持たせていたメッセージカード付きのお菓子と花束を、皇女殿下に渡す』
「俺の気持ちです」
『皇女殿下は、顔を真っ赤にする。そして、皇女殿下の使用人の持つメッセージカード付きのお菓子と花束を、俺にくれた』
「私からも。受け取って」
「皇女殿下…!」
『皇女殿下とベンチに座り、お互いのメッセージカードを確認した。結論から言えば、皇女殿下も俺と同じ気持ちだった。好き』
「皇女殿下…あの、もしよろしければ想いも通じ合ったところで、お菓子の食べさせあいっことか…」
「私も同じことを思っていたの。ふふ」
『ああ、幸せだ。昇天しそう。…でも、俺には皇配として皇女殿下をお守りする未来が待っている。頑張れ俺』
「皇女殿下。こんなイベントに頼る他なかった情け無い俺ですが、皇女殿下を誰よりも愛しています。一緒に幸せになってくださいますか?」
「もちろんよ。誰よりも幸せになりましょう?」
『俺は今、世界一の幸せ者だ。この幸せを離さないように、壊さないように。誰よりも幸せな皇女様でいてもらえるように、努力を重ねよう』
(ハッピーエンドおめでとう!!!パーフェクトだわ!!!)
これで望んだ三組のカップルはくっついた。あとは主人公であるアンナ本人だが…。
「実家は成金男爵家と陰口を叩かれるけど大金持ちになったし、私も個人資産がアリアさんのお陰でどんどん増えるし!!!このまま独り身でも平気ね!」
しばらくは、春は来そうにない。
「私、ハピラブのヒロインになってるー!?」
そう。彼女はよくある異世界転生のよくいるヒロインなのである。
前世、彼女は「ハッピー・ラブストーリー」というよくある同人乙女ゲームを愛していた。同人乙女ゲームというだけあってまあそれなりの値段ではあったが、その分よく作り込まれていた。
特に彼女が気に入っていたのは、攻略対象達と「ライバルキャラ」達の関係性。こいつらヒロインが引っ掻き回さなきゃ最強のカップルじゃん。全部推しカプだよ。と何度も思ったものである。
そんな大好きなゲームの世界に転生し、それも舞台である学園への入学前日に前世の記憶を取り戻した彼女。今の彼女の目標はもちろん。
「攻略対象達全員とライバルキャラ達全員を無理矢理にでもくっつけてみせる…!」
これである。
フラグ管理とかとても面倒な気がするし、とりあえず一組ずつくっつけることにした。
そして入学、数ある出会いイベントを全て華麗にかわして彼女は一組目のカップルのゴールインに向けて動き始めた。
『僕はルイス。伯爵家の長男で、身分違いの恋をしている。メイドのアリアを心から愛しているのだ。決して認められないのがわかっていて、僕はアリアと秘密のお付き合いをしている。…バレたとして、本気だと思う人は少ないかも知れないけれど。』
「坊ちゃん、見てください!学園の中庭もお屋敷と同じくらい整っていますよ!」
「ふふ、そうだね?でもアリア、ちょっとこちらに来てごらん」
「?はい」
「花びらが髪についていたよ」
「あ、お恥ずかしいです…えへへ」
『そんな言い訳で、彼女の柔らかな髪に触れる。どうにか、彼女との仲を許される方法はないかとこの歳まで足掻いたがもう諦めた。せめて彼女との時間を引き伸ばすのがせいぜいで。両親に婚約者を決められるまでが、僕らのタイムリミットだ』
(生で見れたー!!!甘酸っぱいー!!!聞こえる、モノローグまではっきり聞こえるー!!!)
ルイスとアリア。推しカプの甘酸っぱい雰囲気に、アンナは大興奮である。
(さて、二人の障害は身分差。何か二人の身分差を乗り越える方法は…)
アンナは、あるとんでもない方法を思いついた。
(神様…味方してください!)
アンナは早速行動に出る。
あれから一ヶ月。しがない男爵令嬢でしかなかったアンナは、成金令嬢になっていた。お小遣いを全額カジノに突っ込んで大勝ちしたのである。
乙女ゲームハピラブにはミニゲームが複数あり、その一つがカジノでの賭け事である。実は熟練のプレイヤーになると編み出されるポーカーでの必勝法があり…つまりはまあ隠し要素のイカサマである。
それを駆使して見事に大金持ちになり、アンナは家にも勿論お金を還元したが、自分のお小遣い分をちゃっかり確保していた。
で。
「あの、アリア様」
「あ、アンナ様!?私はしがないメイドですのでアリアで結構です!!!坊ちゃんにご用ですか?」
「いえ、アリア様にお願いがあって」
「なんでしょう…?」
「実は、先日の泡銭で商店を開いたのですが中々難しいのです!そこで、店長をやっていただきたくて!」
いきなりの話にアリアは目が点になる。
「それが軌道に乗れば、行く行くは大きなお店にする予定で、アリア様にも社長になってもらおうかななんて思ってて!」
「で、でも」
「アリア様なら絶対大丈夫だと思って任せたいんです!それに、大きなお店の女社長になれば誰か『御曹司』との結婚も夢じゃないかも!」
「!」
「名ばかり店長でもいいのでやってください!お願いします!」
アリアは、夢を見る。誰からも祝福されて、ルイスと結ばれる幸せな夢を。
「…メイドの仕事がありますので、名ばかり店長なら」
「ありがとうございます!でもあんまり甘い話に乗っちゃダメですよ!今回は是非乗ってほしいけど!」
「は、はい」
ということで、アリアはアンナのお店の名ばかり店長になった。
そして、アンナのお店は〝サクラ〟が大量に動員されて一時的に爆発的な人気を博した。すぐに大きなお店になり、アリアが社長になり、アリアはメイドを辞めた。そしてなんと、アリアの頑張りでサクラを動員しなくても人気のお店となり、無事ルイスとの婚約が認められた。
「アンナ様のお陰でルイス様と結婚できます!ありがとうございました!」
「いえいえ、なんか思ったよりアリアさんが頑張ってくれてびっくりです」
「えへへ。やってみたら意外と楽しくて」
「じゃあ、私は今日はこれで」
アンナはそそくさと退散する。…フリをして物陰で二人を伺った。
『アリアは、知らないうちにアンナ嬢の元で働いて社長にまで上り詰めていた。今や人気のお店の女社長であるアリアとは、無事に婚約者になれた』
「アリア、迎えに来たよ」
「ルイス様っ!」
『もう、人目を気にせずアリアを抱きしめられる。こんなに幸せなことはない。何故アリアを誘ったのかは不思議だけど、アンナ嬢には感謝してもしきれない』
「アリア…こんな風に、毎日君を迎えに来て抱きしめられるのが幸せだ。アリアの新しい家に送り届けるまで、ずっと手を繋いで帰れるのも」
「ルイス様…」
「愛してる。ただただこの幸せを、君と共に守っていきたい」
「私もです!」
『もう僕等にはなんの障害もない。二人ともに、歩いていける。この幸せを、君と共に守っていく』
(…ハッピーエンドおめでとうー!!!)
なんだかんだでカジノだのお店の成長だのに時間は掛かったが、完全無欠のハッピーエンド…だと、アンナは思う。アンナの目標がひとつ達成された。そして二組目の成就にまた、アンナが動き出す。
『僕は、アンドロイドに恋してる』
ロイドは、アイに髪を梳かれている。
「マスター。少しは自分で身の回りのことを出来るようにならないと」
「そんなの、アンドロイドの君の仕事だろ」
「マスターったら、もう。私が壊れたらどうなさるおつもりですか?」
「僕が何度だって助けてあげるよ。そのための科学者だろ」
「…マスターったら!」
『おそらく、人間の感情を学習し過ぎたアイも製作者でありマスターの僕に恋をしている』
「ねえ、アイ」
「なんですか?マスター」
「今はこの国も寛容でね、車との入籍や自転車との入籍、はたまた猫や犬、ハムスターとの入籍なんてニュースもたまにだけど聞くんだ」
「はい、マスター」
「…いや、なんでもない」
『だから、結婚して欲しい。…この一言が言えたなら、僕はどれほど幸福だろう』
(いや言えよー!!!言えばそれで解決なんだよ、ロイドは天涯孤独で誰にも迷惑かからないしいいじゃん!!!言えよ!!!)
アンナは、肝心なところで奥手な教授のために一肌脱ぐことにした。
「学園と合同で慈善事業、ですか」
「そう!アリアさんにしか頼めないの!」
「学園の協力にもよりますが、アンナ様のためなら実現に向けて努力しましょう。内容は?」
「社会における少数派の人々の心の解放」
「大きく出ましたね…」
アンナはアリアに頼った。アリアはアンナと一緒に悩んでくれるらしい。ちなみに恋人モードのアリアはふわふわ女子だが、仕事モードは頼りになるお姉さんである。
「といっても、今回は特にごく一部に限ってね」
「ふむ」
「人間以外を愛しちゃう人たちの性癖の暴露大会とか」
「…はい?」
「よくあるでしょう?愛する人に向かって愛してる!って叫ぶイベント。あれの相手が人間じゃない版」
アリアは頭を抱えた。
「やろうと思えばいけるけど…いけるかな…」
「いけるいける」
「簡単に言わないでください!」
「あと、人間じゃないこの人間への愛を叫ぶのも可にしてね」
「…いっそそちらの方が簡単です。…わかりました!やってやりますよ!」
ということで、アンナの無茶振りは見事貴族社会もぶいぶい言わせる女社長アリアの指揮の元、実現することになった。
『変な大会が学園内で開かれた。冷やかしに行ったら何故かアイが立っていた』
「マスター!愛してます!心から愛してますー!」
『自然と、涙が出た。ここで逃げたら男が廃る。頑張れ僕。泣き顔のままでいい。カッコつかなくていい。愛を伝えるんだ』
「アイ」
「マスター!?あの、あのこれは」
『泣き顔のままでステージに無理矢理割り込む。アイからマイクを無理矢理奪って大声を張り上げた』
「アイ、愛してるー!!!君のことが好きだ、結婚してくれー!!!」
『横にいたアイは、驚いた顔をして。段々と顔をぐしゃぐしゃにして、人口涙を流して言った』
「お受けしますー!!!」
『ステージの下、観客どもから歓声が上がった。祝福の声に押されて、アイに以前から用意していて渡せなかった指輪をはめる。』
「幸せにする。幸せでいてくれる?」
「はい、マスター!」
『僕たちはきっと、これからもさまざまな障害にぶち当たる。けど、この子となら間違いなく乗り越えていける。僕は、そう信じてる』
(文句無しのハッピーエンドをありがとうございます!!!)
今回も完全無欠のハッピーエンド…だと、アンナは思う。アンナの目標がまたひとつ達成された。そして最後の一組の成就にまた、アンナが動き出す。
『皇女殿下は、本当に俺が相手でいいんだろうか』
レアンドルは悩んでいた。自分が皇女殿下…将来の女帝の皇配なんて大丈夫なのか、と。昔からの婚約だ。今に始まった事ではない。そう、昔からの悩みだったということでもある。
『俺は皇女殿下に心底惚れ込んでいるから心配ないけれど。皇女殿下には他に相応しい人がいるのではないか』
杞憂である。両思い…いや、両片思いであった。だが、お互いに気付かないというのが厄介であった。
『今日こそ言おう。皇女殿下を愛しています。だからこそ、皇女殿下のお気持ちをお伺いしたいです。と』
…しかし、レアンドルがそう心に決めても。レアンドルの意中の人、アナスタシアを目の前にすると彼は何も言えないのだ。
(…言えってばぁぁぁぁぁああああああああっ!!!なんで、この世界の男どもは!肝心なところでヘタれるのよー!!!)
仕方がないので、アンナはまたアリアに頼った。アリアも大変な人物に恩を売られたものである。
「愛する人に気持ちを伝える日、というイベントですか」
「そう!お菓子とか花束とかをプレゼントして、それにメッセージカードをそっと添えるの!それなら奥手の人でも想いを伝えられるでしょう?」
「なるほど。それを学園とも協同で、ですね?」
「うん!」
「頑張ってみます」
なお、ヴァレンタインの丸パクリである。
『俺は、愛する人への感謝の日とやらを口実に皇女殿下にお気持ちをお伺いすることにした。お菓子と花束を吟味して用意して、メッセージカードを何度も何度も書き直して完成させて。そして、今から渡す』
「皇女殿下」
「レアンドル!」
『皇女殿下は俺を見て駆け寄ってくれる。使用人に持たせていたメッセージカード付きのお菓子と花束を、皇女殿下に渡す』
「俺の気持ちです」
『皇女殿下は、顔を真っ赤にする。そして、皇女殿下の使用人の持つメッセージカード付きのお菓子と花束を、俺にくれた』
「私からも。受け取って」
「皇女殿下…!」
『皇女殿下とベンチに座り、お互いのメッセージカードを確認した。結論から言えば、皇女殿下も俺と同じ気持ちだった。好き』
「皇女殿下…あの、もしよろしければ想いも通じ合ったところで、お菓子の食べさせあいっことか…」
「私も同じことを思っていたの。ふふ」
『ああ、幸せだ。昇天しそう。…でも、俺には皇配として皇女殿下をお守りする未来が待っている。頑張れ俺』
「皇女殿下。こんなイベントに頼る他なかった情け無い俺ですが、皇女殿下を誰よりも愛しています。一緒に幸せになってくださいますか?」
「もちろんよ。誰よりも幸せになりましょう?」
『俺は今、世界一の幸せ者だ。この幸せを離さないように、壊さないように。誰よりも幸せな皇女様でいてもらえるように、努力を重ねよう』
(ハッピーエンドおめでとう!!!パーフェクトだわ!!!)
これで望んだ三組のカップルはくっついた。あとは主人公であるアンナ本人だが…。
「実家は成金男爵家と陰口を叩かれるけど大金持ちになったし、私も個人資産がアリアさんのお陰でどんどん増えるし!!!このまま独り身でも平気ね!」
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