上 下
65 / 67

ジャック・フィンリー・アレクサンダー・ウインザー

しおりを挟む
俺は、恵まれた人間だと思う。

愛する母上に似た俺の妹に対して甘過ぎるところはあるが、優れた王である父上。そんな父上を上手に支える王妃である母上。可愛いあまり甘やかしてしまったせいで、大分わがままに育ってしまったがやはり可愛い妹。燃えるような激しい恋ではないが、信頼し合える素晴らしい婚約者。

まさに順風満帆だった。

だから、妹のリリーがよりにもよってあのノアに目をつけたのは、正直困った。下手をすると、あの優秀なノアが王家に叛旗を翻す可能性があったから。父上はリリー可愛さのあまりアホなことをほざくし…。

だから、いつまで経っても自分を受け入れないノアにリリーが余計に意地になるのは本当に困った。いくら諫めても聞く耳を持たないし。

そんな中で、妹が突然ユリアナ嬢と賭けをすると言い出した時は驚いた。なんでも、ノアが自分にキスをするかしないかで賭けをするらしい。ノアがリリーにキスをすればユリアナ嬢にノアとの婚約を解消してもらう。ノアがリリーにキスをしなければユリアナ嬢との婚約や結婚を祝福する。

…リリーがなにを考えているかはわからないが、それでリリーが納得するなら仕方がない。ユリアナ嬢には悪いが、少し付き合って貰おう。

「…ユリアナ・オルコット、ただいま登城しました」

「ユリアナさん!来てくれたのね!」

リリーが嬉しそうにユリアナ嬢に駆け寄っていく。俺はどうしたらいいかわからなくてとりあえず微笑む。

「今日はね、ユリアナさんにお願いがあって来てもらったのよ!」

リリーはユリアナ嬢の手を両手で包み込む。

「あのね!ノアを私に譲って欲しいの!」

「…え?」

そりゃあ戸惑うよな。ごめん、ユリアナ嬢。

「ねえ、賭けをしましょう?」

「は、はい?」

「私、これから来るノアにキスをお願いするわ!それで、ノアが拒めたら貴女の勝ち!私、諦めるわ!でも、ノアが私にキスをしたら私の勝ち!貴女達は婚約破棄よ!」

「は、はい…?」

我が妹ながら、理不尽なことをいう。

「ユリアナ嬢、すまないな。妹にはどうせ無駄だからやめておけと言ったんだが…」

「まあ!酷いわ!お兄様!どちらの味方なの!?」

「ノアとユリアナ嬢に決まってるだろう」

「…もう!意地悪ね!」

意地悪なのはお前の方だよ。

「とにかくそういうことだから!貴女とお兄様はそこの物陰で見てて!」

「は、はい…?」

「ユリアナ嬢、大丈夫。ノアなら必ず拒むよ」

「ええ…?」

ということで俺はユリアナ嬢と物陰に隠れる。

そしてノアがやって来る。最近のノアは、大分窶れて痛々しい姿。やはりリリーのせいだろうか。

「ノア、私、キスしてくれれば貴方を諦めるわ!ユリアナさんとの婚約や結婚も祝福する!だから、私にキスをして!」

「そうですか。わかりました」

そしてノアは、そっとリリーに近づいて、そっと耳打ち。

「お断りいたします」

「…!?なんで!?キスしてくれるなら貴方を諦めるのよ!?」

「白々しい。そんな嘘に僕は騙されませんよ。大体、もし本気だとしてもユリアナ以外の誰かにキスするとか地獄でしかない」

「なっ…、なによ!」

ばちんっ!と、音を立ててノアはリリーに顔を叩かれる。なにやってるんだあの子は…。

「私に…この私にここまでさせておいて!」

「そんなのそちらの勝手でしょう。僕のことは大人しく諦めてください」

「…っ!」

「そこまでだ」

物陰からユリアナ嬢と一緒に出る。

「ユリア!会いたかった!」

「ノア…っ!」

相変わらずお熱いことで。さて。

「賭けはユリアナ嬢の勝ちだ。リリー、諦めなさい」

「うぅ…」

「賭け?」

「ああ。ノアがユリアナ嬢を諦めないからな。妹が痺れを切らして、ユリアナ嬢と賭けをしたんだ」

「一体どんな?」

ノアがユリアナ嬢を抱きしめたままで聞く。

「ノアがリリーにキスをするかしないか。ノアは、やっぱり断ったな。ユリアナ嬢。これでもう安心だぞ」

ユリアナ嬢に安心させるように微笑んでやる。

「ノア…」

「ユリア!これでもう安心だよね!僕と婚約続けてくれるよね!?」

「…っ!うん!勝手なこと言ってごめんね、ノア…!」

「ユリアが戻ってきてくれたなら、それで充分だよ!」

「ノア…っ!」

ユリアナ嬢の目からは大粒の涙。綺麗だな…。

「…綺麗だ」

思わず、そんな言葉が口をついて出る。即ノアから睨まれるのでそっと目をそらす。

ふとリリーの方を見ると、なぜか青ざめている。

「あの…ユリアナさん。私が悪かったわ、ごめんなさい」

「え?い、いえ、そんな…」

「だからお兄様まで盗らないで…!」

「え?」

おい、やめてくれ!

「リリー!」

「だって、お兄様!」

「それじゃあ、僕達はこれで失礼します。いいですよね?」

「はい…」

「妹がすまなかったな」

こうしてノアは、ユリアナ嬢を連れて王城を後にした。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...