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ジャック・フィンリー・アレクサンダー・ウインザー
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俺は、恵まれた人間だと思う。
愛する母上に似た俺の妹に対して甘過ぎるところはあるが、優れた王である父上。そんな父上を上手に支える王妃である母上。可愛いあまり甘やかしてしまったせいで、大分わがままに育ってしまったがやはり可愛い妹。燃えるような激しい恋ではないが、信頼し合える素晴らしい婚約者。
まさに順風満帆だった。
だから、妹のリリーがよりにもよってあのノアに目をつけたのは、正直困った。下手をすると、あの優秀なノアが王家に叛旗を翻す可能性があったから。父上はリリー可愛さのあまりアホなことをほざくし…。
だから、いつまで経っても自分を受け入れないノアにリリーが余計に意地になるのは本当に困った。いくら諫めても聞く耳を持たないし。
そんな中で、妹が突然ユリアナ嬢と賭けをすると言い出した時は驚いた。なんでも、ノアが自分にキスをするかしないかで賭けをするらしい。ノアがリリーにキスをすればユリアナ嬢にノアとの婚約を解消してもらう。ノアがリリーにキスをしなければユリアナ嬢との婚約や結婚を祝福する。
…リリーがなにを考えているかはわからないが、それでリリーが納得するなら仕方がない。ユリアナ嬢には悪いが、少し付き合って貰おう。
「…ユリアナ・オルコット、ただいま登城しました」
「ユリアナさん!来てくれたのね!」
リリーが嬉しそうにユリアナ嬢に駆け寄っていく。俺はどうしたらいいかわからなくてとりあえず微笑む。
「今日はね、ユリアナさんにお願いがあって来てもらったのよ!」
リリーはユリアナ嬢の手を両手で包み込む。
「あのね!ノアを私に譲って欲しいの!」
「…え?」
そりゃあ戸惑うよな。ごめん、ユリアナ嬢。
「ねえ、賭けをしましょう?」
「は、はい?」
「私、これから来るノアにキスをお願いするわ!それで、ノアが拒めたら貴女の勝ち!私、諦めるわ!でも、ノアが私にキスをしたら私の勝ち!貴女達は婚約破棄よ!」
「は、はい…?」
我が妹ながら、理不尽なことをいう。
「ユリアナ嬢、すまないな。妹にはどうせ無駄だからやめておけと言ったんだが…」
「まあ!酷いわ!お兄様!どちらの味方なの!?」
「ノアとユリアナ嬢に決まってるだろう」
「…もう!意地悪ね!」
意地悪なのはお前の方だよ。
「とにかくそういうことだから!貴女とお兄様はそこの物陰で見てて!」
「は、はい…?」
「ユリアナ嬢、大丈夫。ノアなら必ず拒むよ」
「ええ…?」
ということで俺はユリアナ嬢と物陰に隠れる。
そしてノアがやって来る。最近のノアは、大分窶れて痛々しい姿。やはりリリーのせいだろうか。
「ノア、私、キスしてくれれば貴方を諦めるわ!ユリアナさんとの婚約や結婚も祝福する!だから、私にキスをして!」
「そうですか。わかりました」
そしてノアは、そっとリリーに近づいて、そっと耳打ち。
「お断りいたします」
「…!?なんで!?キスしてくれるなら貴方を諦めるのよ!?」
「白々しい。そんな嘘に僕は騙されませんよ。大体、もし本気だとしてもユリアナ以外の誰かにキスするとか地獄でしかない」
「なっ…、なによ!」
ばちんっ!と、音を立ててノアはリリーに顔を叩かれる。なにやってるんだあの子は…。
「私に…この私にここまでさせておいて!」
「そんなのそちらの勝手でしょう。僕のことは大人しく諦めてください」
「…っ!」
「そこまでだ」
物陰からユリアナ嬢と一緒に出る。
「ユリア!会いたかった!」
「ノア…っ!」
相変わらずお熱いことで。さて。
「賭けはユリアナ嬢の勝ちだ。リリー、諦めなさい」
「うぅ…」
「賭け?」
「ああ。ノアがユリアナ嬢を諦めないからな。妹が痺れを切らして、ユリアナ嬢と賭けをしたんだ」
「一体どんな?」
ノアがユリアナ嬢を抱きしめたままで聞く。
「ノアがリリーにキスをするかしないか。ノアは、やっぱり断ったな。ユリアナ嬢。これでもう安心だぞ」
ユリアナ嬢に安心させるように微笑んでやる。
「ノア…」
「ユリア!これでもう安心だよね!僕と婚約続けてくれるよね!?」
「…っ!うん!勝手なこと言ってごめんね、ノア…!」
「ユリアが戻ってきてくれたなら、それで充分だよ!」
「ノア…っ!」
ユリアナ嬢の目からは大粒の涙。綺麗だな…。
「…綺麗だ」
思わず、そんな言葉が口をついて出る。即ノアから睨まれるのでそっと目をそらす。
ふとリリーの方を見ると、なぜか青ざめている。
「あの…ユリアナさん。私が悪かったわ、ごめんなさい」
「え?い、いえ、そんな…」
「だからお兄様まで盗らないで…!」
「え?」
おい、やめてくれ!
「リリー!」
「だって、お兄様!」
「それじゃあ、僕達はこれで失礼します。いいですよね?」
「はい…」
「妹がすまなかったな」
こうしてノアは、ユリアナ嬢を連れて王城を後にした。
愛する母上に似た俺の妹に対して甘過ぎるところはあるが、優れた王である父上。そんな父上を上手に支える王妃である母上。可愛いあまり甘やかしてしまったせいで、大分わがままに育ってしまったがやはり可愛い妹。燃えるような激しい恋ではないが、信頼し合える素晴らしい婚約者。
まさに順風満帆だった。
だから、妹のリリーがよりにもよってあのノアに目をつけたのは、正直困った。下手をすると、あの優秀なノアが王家に叛旗を翻す可能性があったから。父上はリリー可愛さのあまりアホなことをほざくし…。
だから、いつまで経っても自分を受け入れないノアにリリーが余計に意地になるのは本当に困った。いくら諫めても聞く耳を持たないし。
そんな中で、妹が突然ユリアナ嬢と賭けをすると言い出した時は驚いた。なんでも、ノアが自分にキスをするかしないかで賭けをするらしい。ノアがリリーにキスをすればユリアナ嬢にノアとの婚約を解消してもらう。ノアがリリーにキスをしなければユリアナ嬢との婚約や結婚を祝福する。
…リリーがなにを考えているかはわからないが、それでリリーが納得するなら仕方がない。ユリアナ嬢には悪いが、少し付き合って貰おう。
「…ユリアナ・オルコット、ただいま登城しました」
「ユリアナさん!来てくれたのね!」
リリーが嬉しそうにユリアナ嬢に駆け寄っていく。俺はどうしたらいいかわからなくてとりあえず微笑む。
「今日はね、ユリアナさんにお願いがあって来てもらったのよ!」
リリーはユリアナ嬢の手を両手で包み込む。
「あのね!ノアを私に譲って欲しいの!」
「…え?」
そりゃあ戸惑うよな。ごめん、ユリアナ嬢。
「ねえ、賭けをしましょう?」
「は、はい?」
「私、これから来るノアにキスをお願いするわ!それで、ノアが拒めたら貴女の勝ち!私、諦めるわ!でも、ノアが私にキスをしたら私の勝ち!貴女達は婚約破棄よ!」
「は、はい…?」
我が妹ながら、理不尽なことをいう。
「ユリアナ嬢、すまないな。妹にはどうせ無駄だからやめておけと言ったんだが…」
「まあ!酷いわ!お兄様!どちらの味方なの!?」
「ノアとユリアナ嬢に決まってるだろう」
「…もう!意地悪ね!」
意地悪なのはお前の方だよ。
「とにかくそういうことだから!貴女とお兄様はそこの物陰で見てて!」
「は、はい…?」
「ユリアナ嬢、大丈夫。ノアなら必ず拒むよ」
「ええ…?」
ということで俺はユリアナ嬢と物陰に隠れる。
そしてノアがやって来る。最近のノアは、大分窶れて痛々しい姿。やはりリリーのせいだろうか。
「ノア、私、キスしてくれれば貴方を諦めるわ!ユリアナさんとの婚約や結婚も祝福する!だから、私にキスをして!」
「そうですか。わかりました」
そしてノアは、そっとリリーに近づいて、そっと耳打ち。
「お断りいたします」
「…!?なんで!?キスしてくれるなら貴方を諦めるのよ!?」
「白々しい。そんな嘘に僕は騙されませんよ。大体、もし本気だとしてもユリアナ以外の誰かにキスするとか地獄でしかない」
「なっ…、なによ!」
ばちんっ!と、音を立ててノアはリリーに顔を叩かれる。なにやってるんだあの子は…。
「私に…この私にここまでさせておいて!」
「そんなのそちらの勝手でしょう。僕のことは大人しく諦めてください」
「…っ!」
「そこまでだ」
物陰からユリアナ嬢と一緒に出る。
「ユリア!会いたかった!」
「ノア…っ!」
相変わらずお熱いことで。さて。
「賭けはユリアナ嬢の勝ちだ。リリー、諦めなさい」
「うぅ…」
「賭け?」
「ああ。ノアがユリアナ嬢を諦めないからな。妹が痺れを切らして、ユリアナ嬢と賭けをしたんだ」
「一体どんな?」
ノアがユリアナ嬢を抱きしめたままで聞く。
「ノアがリリーにキスをするかしないか。ノアは、やっぱり断ったな。ユリアナ嬢。これでもう安心だぞ」
ユリアナ嬢に安心させるように微笑んでやる。
「ノア…」
「ユリア!これでもう安心だよね!僕と婚約続けてくれるよね!?」
「…っ!うん!勝手なこと言ってごめんね、ノア…!」
「ユリアが戻ってきてくれたなら、それで充分だよ!」
「ノア…っ!」
ユリアナ嬢の目からは大粒の涙。綺麗だな…。
「…綺麗だ」
思わず、そんな言葉が口をついて出る。即ノアから睨まれるのでそっと目をそらす。
ふとリリーの方を見ると、なぜか青ざめている。
「あの…ユリアナさん。私が悪かったわ、ごめんなさい」
「え?い、いえ、そんな…」
「だからお兄様まで盗らないで…!」
「え?」
おい、やめてくれ!
「リリー!」
「だって、お兄様!」
「それじゃあ、僕達はこれで失礼します。いいですよね?」
「はい…」
「妹がすまなかったな」
こうしてノアは、ユリアナ嬢を連れて王城を後にした。
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