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婚約者との馴れ初めを思い出す

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「お帰りなさいませ、お嬢様」

使用人からのおざなりな挨拶を聞き流しつつ、これからの地獄の時間をどうやり過ごすか考える。両親と食事を共にするのは私にとっては苦痛なのだ。

そうだ。ノアとの馴れ初めでも思い出していよう。

ノアと出会ったのはノアのお母様主催のお茶会だった。

当時、私は両親から今以上に邪険にされていて、それは当然のように他のご令嬢方にも知られていた。親から蔑ろにされていること、姉に遠く及ばない容姿、性格、教養…私が虐められる理由としては十分だった。

わざと此方に聞こえる程度の声でひそひそと私の悪口をいうご令嬢方。

でも私はめげなかった。だって、私はべつに悪いことをしたわけでもなんでもないのだ。胸を張って、背筋をしゃんと伸ばして、凛とした雰囲気で立つ。

…その時だった。突然、素敵な男の子…お茶会の主催者のご令息、ノアが私に求婚してきたのだ。

「あ、あの…ユリアナ嬢、だよね?」

「え?はい、そうですが」

「僕と結婚を前提に婚約してください!」

突然のことでしばらくフリーズした。一瞬何かの罰ゲームとかドッキリかな?とも思ったがどうやら違うらしい。彼が本気だと知った私は、最初は断ろうと思った。父はきっと、いくらマリアナお姉様に立派な婚約者がいるとしても、ノアとの婚約は認めてくれないだろうと思ったから。この頃のノアは内気で大人しい、頼りないタイプの子で、見た目はよく勉強は出来るけど剣術を含め運動は苦手だった。私と一緒で、優秀な弟とよく比べられていて、弟にも虐められていたらしい。将来は長男のノアではなく次男のアベルが家督を継ぐのではとすら囁かれていた。

「貴女がご両親からどんな仕打ちを受けているかは知っています!婚約については僕がちゃんとご両親を説得します!生涯貴女を守ると誓います!だからどうか、僕の手をとって!ユリアナ嬢!」

…だめだった。今までお姉様以外からろくに愛情をかけてもらったことがない私は、ノアの思いに縋りたくなってしまった。

「…はい、喜んで」

気付けば私は、にっこりと微笑んで了承してしまっていた。

その後のノアの行動は早かった。得意な勉強に打ち込むのはもちろん、苦手な剣術や運動も頑張り、弟にも反撃するようになっていた。ここまで来ると家督を継ぐのはもちろんノアの方に決まった。そして結局私とノアの両親、特に私の父を説き伏せて、見事に私との婚約を勝ち取った。

…で、溺愛されまくり今に至ります。ノアの婚約者になってから、何故か両親の態度が少しだけ軟化し、使用人達からの虐めもなくなった。ノアすごい。

…あ、ノアとの馴れ初めを思い出しているうちに食事も終わってしまった。よし、速攻でお風呂に入って、部屋に戻って寝よう。両親との接触は出来る限り避けたいもの。
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