79 / 108
兄様に縁談を潰された
しおりを挟む
自然ふれあい体験の準備も万端にして、兄様の帰りを待つ。
兄様はお仕事が終わると、今日もまっすぐに私の部屋に来てくれた。
でも雰囲気がピリピリしてる?
「キュー、ただいま」
「おかえりなさい、兄様」
「キュー、今日なにかあった?」
「え、あ、えっと。うん」
兄様に嘘をつくのは忍びないので正直に頷く。
「なにがあったか言ってごらん」
「釣書をもらったの」
「よし、よく正直に言えたね。偉い偉い」
頭を撫でられる。
ボディーガードの彼は私から目をそらす。
いつのまにやら告げ口されていたらしい。
そういうところ、ボディーガードの彼は真面目だ。
「さて、その釣書をもらえるかな」
「うん」
ここで兄様に逆らう理由がないので、兄様に釣書を渡す。
兄様はにっこり笑って回収した。
「じゃあ、あのジジイに…ごほん。あのお爺ちゃんにちょっとお手紙書いてくるから」
お叱りのお手紙だろうなぁと半ばお爺ちゃんに同情しつつ、自室に向かう兄様を見送った。
お爺ちゃん教徒にはとても理不尽な災難だろうけれど、兄様のシスコンぶりはもはやパラディース教でも有名なのに頑張ってしまったお爺ちゃんが悪い。
許して、許して…!
心の中でお爺ちゃん教徒に合掌していると、ボディーガードの彼が珍しく口を開いた。
「申し訳ございません、キューケン様」
「え」
「告げ口をしたのは私です」
しょんぼり肩を落とす彼を見て微笑ましくなる。
「大丈夫、私は怒ってないよ」
「いいのでしょうか」
「いいんだよ、お仕事だもの」
ちなみに、兄様以外の前ではさすがに一人称は私にしている。
兄様の目があるとキューと名乗るけども。
「しかし私は心配です。キューケン様が嫁ぐのは一体いつになるやら…」
「そうだね」
「相手は良い男でないといけませんし、その他の条件も難しいでしょう」
「うん」
「キューケン様はゴッドリープ様の妹御で、ましてその美しさ。引く手数多なのは違いありませんが、こういうことを決めるのなら早い方が良いかと」
普段喋らない割に、口を開けば私か兄様の褒め言葉が出てくる。
ボディーガードの彼は、案外と口が上手い。
あるいは天然の人誑しなのだろうか。
「…すみません、無駄口を叩きすぎました」
「え?ううん、私は大丈夫。むしろお話できて嬉しいよ」
「いえ、私のことは置物とでもお思いください」
その後お爺ちゃん教徒への手紙を新しい側仕えに託した兄様が戻ってきて、自然ふれあい体験が予定より遅れて始まった。
まさかボディーガードの彼がその様子を「てぇてぇ」と心の中で唱えながら見守っていたとは私は気付きもしなかった。
兄様はお仕事が終わると、今日もまっすぐに私の部屋に来てくれた。
でも雰囲気がピリピリしてる?
「キュー、ただいま」
「おかえりなさい、兄様」
「キュー、今日なにかあった?」
「え、あ、えっと。うん」
兄様に嘘をつくのは忍びないので正直に頷く。
「なにがあったか言ってごらん」
「釣書をもらったの」
「よし、よく正直に言えたね。偉い偉い」
頭を撫でられる。
ボディーガードの彼は私から目をそらす。
いつのまにやら告げ口されていたらしい。
そういうところ、ボディーガードの彼は真面目だ。
「さて、その釣書をもらえるかな」
「うん」
ここで兄様に逆らう理由がないので、兄様に釣書を渡す。
兄様はにっこり笑って回収した。
「じゃあ、あのジジイに…ごほん。あのお爺ちゃんにちょっとお手紙書いてくるから」
お叱りのお手紙だろうなぁと半ばお爺ちゃんに同情しつつ、自室に向かう兄様を見送った。
お爺ちゃん教徒にはとても理不尽な災難だろうけれど、兄様のシスコンぶりはもはやパラディース教でも有名なのに頑張ってしまったお爺ちゃんが悪い。
許して、許して…!
心の中でお爺ちゃん教徒に合掌していると、ボディーガードの彼が珍しく口を開いた。
「申し訳ございません、キューケン様」
「え」
「告げ口をしたのは私です」
しょんぼり肩を落とす彼を見て微笑ましくなる。
「大丈夫、私は怒ってないよ」
「いいのでしょうか」
「いいんだよ、お仕事だもの」
ちなみに、兄様以外の前ではさすがに一人称は私にしている。
兄様の目があるとキューと名乗るけども。
「しかし私は心配です。キューケン様が嫁ぐのは一体いつになるやら…」
「そうだね」
「相手は良い男でないといけませんし、その他の条件も難しいでしょう」
「うん」
「キューケン様はゴッドリープ様の妹御で、ましてその美しさ。引く手数多なのは違いありませんが、こういうことを決めるのなら早い方が良いかと」
普段喋らない割に、口を開けば私か兄様の褒め言葉が出てくる。
ボディーガードの彼は、案外と口が上手い。
あるいは天然の人誑しなのだろうか。
「…すみません、無駄口を叩きすぎました」
「え?ううん、私は大丈夫。むしろお話できて嬉しいよ」
「いえ、私のことは置物とでもお思いください」
その後お爺ちゃん教徒への手紙を新しい側仕えに託した兄様が戻ってきて、自然ふれあい体験が予定より遅れて始まった。
まさかボディーガードの彼がその様子を「てぇてぇ」と心の中で唱えながら見守っていたとは私は気付きもしなかった。
603
お気に入りに追加
1,836
あなたにおすすめの小説

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

俺の不運はお前が原因、と言われ続けて~婚約破棄された私には、幸運の女神の加護がありました~
キョウキョウ
恋愛
いつも悪い結果になるのは、お前が居るせいだ!
婚約相手のレナルド王子から、そう言われ続けたカトリーヌ・ラフォン。
そして、それを理由に婚約破棄を認める書類にサインを迫られる。
圧倒的な権力者に抗議することも出来ず、カトリーヌは婚約破棄を受け入れるしかなかった。
レナルド王子との婚約が破棄になって、実家からも追い出されることに。
行き先も決まらず、ただ王都から旅立つカトリーヌ。
森の中を馬車で走っていると、盗賊に襲われてしまう。
やはり、不運の原因は私だったのか。
人生を諦めかけたその時、彼女は運命的な出会いを果たす。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる