上 下
53 / 108

これでオレの番

しおりを挟む
キューはオレを疑わない。

キューはオレのすることに余計な疑問をぶつけない。

ただ、ずーっと一緒という約束の証だと喜ぶ。

ずーっと一緒にいられることを喜ぶ。

なんて可愛い生き物だろうか。

「…これでずーっと一緒だからね」

「うん」

花が咲くような笑顔。

オレがどんな悪いことをしているかも知らないで。

可愛い可愛い、オレの番。

「ふふ」

「兄様嬉しそう。キューもね、嬉しい」

疑うことを知らない子ではない。

聡明な子だ。

しかし、オレのことを疑うことはしない。

健気で愛おしいオレの番。

そう、キューは今この時よりオレの番となったのだ。

「愛してるよ」

「ふふ、そればっかり」

愛している、の意味が。

これまでの、妹に対する純粋な愛ではなく。

番とみなした女に対するものだなんて、まだこの子には教えない。

…まさか幼い頃からこんな苛烈で醜い、けれど甘美で幸福な感情を抱くことになるとは。

自分が人の子より恐ろしいほど成長が早いのも、それがあのクソギツネの影響なのもわかっていたことなのだが…これはさすがに予想外。

「…キューがさ、オレを大好きでいてくれるから。兄様がキューを大好きになったのも、当然の流れだよね?」

責任転嫁する。

だって、たとえ妖に片足を突っ込んでいようがキューの存在がなければこんな感情とは一生無縁だっただろうから。

オレが悪いとは思うけど、オレだけのせいじゃないと思う。

「当然じゃないよ。すごく特別なこと。キューは幸せ」

心底嬉しそうにそんなことを言うこの生き物が愛おしい。

守りたい、幸せにしたい、そばに置きたい。

独占したい、自分だけのものでいて欲しい。

多分良い感情、絶対悪い感情。

色んなものがごった煮になった愛。

「…騙し討ちしてごめんね」

「ううん。兄様との約束の証だもんね」

嘘ではないが。

そもそも約束の証だというのなら相手の承諾は必要で。

一方的なものなのに喜んでくれるのは愛おしいが、本来はもっと怒るべきだ。オレを大好きでいてくれるキューには、オレを怒るのは無理だろうけど。

それに、これはずーっと一緒にいるという約束の証と言えばそうだと言えるが。

ようは、番の証なのである。他の妖連中に見せつけるものだ。これはオレのものだから手を出すなよと。オレはあのクソギツネのせいで妖としての力も強いから、他の妖には手は出せまい。あのクソギツネは例外だが、手を出してきたら泣かす。

「キュー、左手は大事にするね。手を洗っても落ちないよね?大丈夫だよね?」

「左手以外も大事にしようね。何をしても落ちないから大丈夫だよ」

健気にも刺青を残しておこうとするキューにキュンとする。

番の証と知らないとはいえ、可愛すぎる。

本人に番となったことを伝えるのは、そして人間として制度的に正式に番となるのは当分先にはなるが。

オレはこの番を永遠に大切にすると心に決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...