42 / 108
キツネの編みぐるみ
しおりを挟む
キューのくれた黄色いキツネの編みぐるみは、現在オレの部屋の机の上に無造作に置かれている。
本来ならばキューのくれたプレゼントはどんなものにも価値を見出せるし、無造作に置くなんて勿体ないことはせず大切に飾る。
だが、どうにもこうにもこれだけは大切にし難い。
しかしモデルがキツネとはいえ…キューの手作りで、キューのくれたもので、キューとお揃いの品だ。あまりにも露骨に蔑ろにはできず。
苦肉の策で、よく使う机の上に転がしておくという良いんだか悪いんだか謎な扱いをする。
「…ちっ」
ふと視界の端に黄色い尻尾が見えて、ちょうど持っていたペンの先で突いてやろうとしたが失敗した。
目障りだな。
「キツネでなければ可愛がれたのに」
そう言って編みぐるみを優しくツンツンするが、オレがあの子のくれたものなら好きになれるかもしれないと思ってキツネで良いとしてしまったのだから今更だ。
「…キュー」
キューがお風呂から上がってくるのを待つ間に、キツネの編みぐるみを何度ツンツンしたことか。
今日も今日とて同じことの繰り返し。
ともかく愛用の日記帳は閉じてペンも仕舞い、また編みぐるみと向き合った。
「…この編みぐるみは、あの忌々しいキツネとは違う」
わかってはいるが、キツネだというだけで拒否反応が出るのも事実。
「…困った」
大切にしたいが、無理だ。
困ったな…。
「兄様、上がったよ」
ちょうどそこにキューが戻ってきて、意識が逸れた。
「おかえり、キュー」
今日もキューは寝巻きに着替えて、髪も梳かして乾かしてきたらしい。
「それじゃあおいで。兄様が今日も寝かしつけてあげようね」
キューと共に布団の中に入る。それまで布団を温めてくれていた湯たんぽは安全のために退けた。
「兄様…」
「うん?」
「兄様はキューが好き?」
「もちろん大好きだし愛しているよ」
前世の記憶の話をしてから、キューは眠る前に時々愛情確認をしてくる。
本人にとって、よほど辛い記憶なのだろう。
だからそんなキューに今オレにできるのは、こうして愛情を示すこと。
「…ほら、ぎゅーっ。好きでもない相手にこんなことはしないよ」
「うん…兄様、大好き」
「オレは愛しているよ」
心の底から愛おしい。
そんな気持ちがキューに伝わればいいな。
そう思っていつも大切に大切に強く抱きしめる。
「キューね、わかってるの。兄様がキューを愛してくれていること」
「うん」
「でも、わかりきっているのに時々不安になるんだ」
「いいんだよ。そんな時は兄様を頼っておいで。いつだってこうして包んであげる」
むしろ、こうして甘えてくれるのは嬉しい。
不安をそのままにせず、オレを頼ってくれて嬉しい。
オレからの愛を求めてくれるのが嬉しい。
「愛しているよ、オレの愛おしい妹よ」
「うん…」
「おや、安心したらおねむかな。おやすみ」
「…おやすみ」
そうして、眠気に負けてすやすやと寝息をたてる愛おしい子。
…ああ、やはりいっとう可愛い。
本来ならばキューのくれたプレゼントはどんなものにも価値を見出せるし、無造作に置くなんて勿体ないことはせず大切に飾る。
だが、どうにもこうにもこれだけは大切にし難い。
しかしモデルがキツネとはいえ…キューの手作りで、キューのくれたもので、キューとお揃いの品だ。あまりにも露骨に蔑ろにはできず。
苦肉の策で、よく使う机の上に転がしておくという良いんだか悪いんだか謎な扱いをする。
「…ちっ」
ふと視界の端に黄色い尻尾が見えて、ちょうど持っていたペンの先で突いてやろうとしたが失敗した。
目障りだな。
「キツネでなければ可愛がれたのに」
そう言って編みぐるみを優しくツンツンするが、オレがあの子のくれたものなら好きになれるかもしれないと思ってキツネで良いとしてしまったのだから今更だ。
「…キュー」
キューがお風呂から上がってくるのを待つ間に、キツネの編みぐるみを何度ツンツンしたことか。
今日も今日とて同じことの繰り返し。
ともかく愛用の日記帳は閉じてペンも仕舞い、また編みぐるみと向き合った。
「…この編みぐるみは、あの忌々しいキツネとは違う」
わかってはいるが、キツネだというだけで拒否反応が出るのも事実。
「…困った」
大切にしたいが、無理だ。
困ったな…。
「兄様、上がったよ」
ちょうどそこにキューが戻ってきて、意識が逸れた。
「おかえり、キュー」
今日もキューは寝巻きに着替えて、髪も梳かして乾かしてきたらしい。
「それじゃあおいで。兄様が今日も寝かしつけてあげようね」
キューと共に布団の中に入る。それまで布団を温めてくれていた湯たんぽは安全のために退けた。
「兄様…」
「うん?」
「兄様はキューが好き?」
「もちろん大好きだし愛しているよ」
前世の記憶の話をしてから、キューは眠る前に時々愛情確認をしてくる。
本人にとって、よほど辛い記憶なのだろう。
だからそんなキューに今オレにできるのは、こうして愛情を示すこと。
「…ほら、ぎゅーっ。好きでもない相手にこんなことはしないよ」
「うん…兄様、大好き」
「オレは愛しているよ」
心の底から愛おしい。
そんな気持ちがキューに伝わればいいな。
そう思っていつも大切に大切に強く抱きしめる。
「キューね、わかってるの。兄様がキューを愛してくれていること」
「うん」
「でも、わかりきっているのに時々不安になるんだ」
「いいんだよ。そんな時は兄様を頼っておいで。いつだってこうして包んであげる」
むしろ、こうして甘えてくれるのは嬉しい。
不安をそのままにせず、オレを頼ってくれて嬉しい。
オレからの愛を求めてくれるのが嬉しい。
「愛しているよ、オレの愛おしい妹よ」
「うん…」
「おや、安心したらおねむかな。おやすみ」
「…おやすみ」
そうして、眠気に負けてすやすやと寝息をたてる愛おしい子。
…ああ、やはりいっとう可愛い。
193
お気に入りに追加
1,826
あなたにおすすめの小説
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。
石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。
いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。
前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。
ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる