41 / 108
クマを奉る
しおりを挟む
宿敵ムーンリットへの制裁の根回しも済み、穏やかな日々が戻ってきた。
キューケン様はあれ以来フラッシュバックや過呼吸などの発作が見られることもなく、ゴッドリープ様のもと幸せそうに笑っていらっしゃるのを見て我々としても安心している。
ゴッドリープ様も今回限りは少しばかり苛烈な面を見せられたかと思ったが、その後は穏やかないつもの様子に戻られた。我ら教徒に寄り添い、救いの手を差し伸べてくださり、そしてキューケン様を何よりも愛するいつものゴッドリープ様に他の教徒もほっと息を吐いた。
そんな中で、数ある教徒の中でも我々にだけ下賜されたものがあった。
『クマさん!あげる』
そう言ってキューケン様がくださったのは編みぐるみ。手作りだと一目でわかる、少し作りの粗いそれ。
『可愛い可愛いキューからの先程まで特別な任務についていたお前たちへの労いであり、共に秘密を共有するお前たちへの信頼の証だ。そして、普段の感謝の気持ちでもある』
キューケン様の前世の記憶。
その秘密を守る証。
何より大切にするべき宝。
『貴方は茶色で、貴方は黒!私と兄様ちょっと違って、クマさんじゃなくてキツネさん。兄様が黄色で私は白い子!』
なるほど、ゴッドリープ様とは特別なお揃いにしたかったのだろう。
本当にキューケン様はお可愛らしい。
色がそれぞれ違うのもこだわりなのだろう。
それに、キツネは我らがパラディース教の主神たる豊穣の神の化身とされる。
幼いながらにキューケン様はよく物事を見ていらっしゃる。
「兎にも角にも、この素晴らしい宝であるクマさんは部屋にて奉り拝さねば」
部屋の一角にお祈り用の場所を確保し、クマさんを安置する。
本当のお祈りの時間は、お祈りのための部屋まで出向いて行う。
だが、これは神にではなくゴッドリープ様とキューケン様に捧ぐ祈りだから別枠なのだ。
「きっと、我らが神もわかってくださる」
ふと、視界の端に黄色い尻尾が映った気がした。
もちろん、幻覚だったようで見れば跡形もなく消えているが。
なんだか、我らが神にお許しを受けた気がして嬉しくなる。
「これから先も、ゴッドリープ様とキューケン様の穏やかな日々がずっとずっと続きますように」
そんなささやかな願いを、クマさんに託す。
ゴッドリープ様とキューケン様の心温かな触れ合いを見ていると心が洗われるようで。
そんな幸せをくださるお二人だから、我らもその幸せを守りたい。
合同部屋を使う手と足に痺れがある相方も同じ思いらしく、同じことを隣で真剣に祈っていた。
キューケン様はあれ以来フラッシュバックや過呼吸などの発作が見られることもなく、ゴッドリープ様のもと幸せそうに笑っていらっしゃるのを見て我々としても安心している。
ゴッドリープ様も今回限りは少しばかり苛烈な面を見せられたかと思ったが、その後は穏やかないつもの様子に戻られた。我ら教徒に寄り添い、救いの手を差し伸べてくださり、そしてキューケン様を何よりも愛するいつものゴッドリープ様に他の教徒もほっと息を吐いた。
そんな中で、数ある教徒の中でも我々にだけ下賜されたものがあった。
『クマさん!あげる』
そう言ってキューケン様がくださったのは編みぐるみ。手作りだと一目でわかる、少し作りの粗いそれ。
『可愛い可愛いキューからの先程まで特別な任務についていたお前たちへの労いであり、共に秘密を共有するお前たちへの信頼の証だ。そして、普段の感謝の気持ちでもある』
キューケン様の前世の記憶。
その秘密を守る証。
何より大切にするべき宝。
『貴方は茶色で、貴方は黒!私と兄様ちょっと違って、クマさんじゃなくてキツネさん。兄様が黄色で私は白い子!』
なるほど、ゴッドリープ様とは特別なお揃いにしたかったのだろう。
本当にキューケン様はお可愛らしい。
色がそれぞれ違うのもこだわりなのだろう。
それに、キツネは我らがパラディース教の主神たる豊穣の神の化身とされる。
幼いながらにキューケン様はよく物事を見ていらっしゃる。
「兎にも角にも、この素晴らしい宝であるクマさんは部屋にて奉り拝さねば」
部屋の一角にお祈り用の場所を確保し、クマさんを安置する。
本当のお祈りの時間は、お祈りのための部屋まで出向いて行う。
だが、これは神にではなくゴッドリープ様とキューケン様に捧ぐ祈りだから別枠なのだ。
「きっと、我らが神もわかってくださる」
ふと、視界の端に黄色い尻尾が映った気がした。
もちろん、幻覚だったようで見れば跡形もなく消えているが。
なんだか、我らが神にお許しを受けた気がして嬉しくなる。
「これから先も、ゴッドリープ様とキューケン様の穏やかな日々がずっとずっと続きますように」
そんなささやかな願いを、クマさんに託す。
ゴッドリープ様とキューケン様の心温かな触れ合いを見ていると心が洗われるようで。
そんな幸せをくださるお二人だから、我らもその幸せを守りたい。
合同部屋を使う手と足に痺れがある相方も同じ思いらしく、同じことを隣で真剣に祈っていた。
189
お気に入りに追加
1,826
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。
石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。
いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。
前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。
ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる