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ほんの少しの逢瀬なのに

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「ゴッドリープ様がお優しいことは存じております!でも、ねずみなどにまで慈悲を掛ける必要はありません!そんなもの捨て置けばいいのです!」

「…ムーンリット」

「はい、ゴッドリープ様!」

言ってやった。

ゴッドリープ様は優しいから、きっとそのねずみなどにさえ慈悲を与えて悪く言えないのだろうから。

ねずみなど、捨て置けばいいのだと。

私が教えて差し上げたのだ。

そう思ったのに。

「悪いけれど、あの子はねずみなどではないよ」

「え」

「いや、たしかに小動物のような可愛らしさはあるけれど。どちらかといえば野ネズミというよりリスかうさぎ…いや、子犬…」

ゴッドリープ様は、不思議なことを言って考え込み始めた。

…もしかして、ゴッドリープ様はねずみなどを気に入っているの?

「…まあ、ともかく。キューはたしかに愛らしい小動物のようではあるけれども。ねずみなどと呼んではまるで蔑んでいるようにも聞こえるからやめようね」

「あの、ゴッドリープ様」

「ムーンリット」

いつもは柔らかな声で私の名を呼ぶゴッドリープ様が、酷く冷たい声で私を呼んだ。

「…まさかとは思うが、オレの妹を貶すつもりではないね?」

「…」

「ムーンリット?」

ゴッドリープ様はお優しい。

そしてお美しい。

だからこそ。

怒らせてはいけない。

「…そのようなつもりは、ありません」

「そうだよね。よかった。ほら、それを見てごらん」

表情を柔らかくしたゴッドリープ様の指差す先には、いくつかの押し花。

それは、飾り気のない野の花だと一目でわかる。

「それは全部妹が、オレの為にとってきた花だよ」

「…」

忌々しい。

そんなものでゴッドリープ様のご機嫌をとるなんて。

私だったら、薔薇の花束も百合の花もいくらでも持って来られるのに。

…ゴッドリープ様は、それを喜んではくださらなかったのに。

何故、ねずみなどにそんな優しい表情を浮かべるのですか。

「そこに飾ってある花もそう。可愛い可愛い、オレの妹。健気で愛おしいだろう?」

「…そうですね」

健気というなら。

ぽっと出の、同じ色というだけで貴方を頼ってきた力無い娘より。

毎月せっせとお布施をして、毎月貴方に必ず会いに来る私でしょう。

「…まあ、ないとは思うけど」

冷えた目が、私を捉える。

「オレの妹に、手を出さないでね?」

優しい口調と、相反する表情。

こくりと頷いて、震えないよう取り繕い微笑むので精一杯だった。

幼い恋と言われるかもしれない。

けれど、本気の恋なのに。

一月にほんの少ししかない逢瀬の時間は、今回は冷たい終わりを迎えた。
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