14 / 108
兄様は平気なんだろうか
しおりを挟む
「じゃあ、キュー。申し訳ないけれど、オレはそろそろ神の子としての仕事があるから」
「お仕事?」
「うん、この総本山には今まさに困っている人たちしかいないからね。そのお悩みを聞いてあげるのがオレの役目なんだよ」
…聞いてどうするんだろう。懺悔的なことなんだろうか。それともアドバイスでもしてやるのか。
「話を聞いて寄り添ってやることで、気持ちを軽くしてやるんだよ」
…なるほど。カウンセリングみたいなものか。
「それに、多少冷静になることで見えてくるものもある。話しているうちに自分がどうしたいか分かってくるものだよ」
うん、たしかに大事かもしれない。
「兄様」
「うん?」
「兄様は、平気?」
私が問えば兄様はきょとんとする。
「どういう意味?」
「人のお悩みを聞いて寄り添うのは、体力がいる」
気力を削がれるから。
「あー…やっぱりキューは賢いね」
頭を撫でられる。幸せ。
「でも、大丈夫だよ。それがオレのお役目だから」
「…無理はしないでね」
懇願するが、お役目だと思っているのなら兄様は変わらず無理するかもしれないなとも思う。
「…ありがとう、キュー。キューが妹になってくれてよかったよ」
本当に嬉しそうな表情で言われる。
やっぱり、神の子兼天主という役割は兄様のような幼子に押し付けるものではないと思う。
けれどパラディース教を心の拠り所としている人たちにそれを言うのは酷なのだろう。
兄様の庇護から自立の促しまでの仕事を考えるに、パラディース教は地の底まで落ちてしまった人たちの最後に縋る宗教なのだろうから。
その宗教がどんどん拡大していくことを考えると、この国大丈夫かなぁとちょっと心配になるけど。
「兄様」
「うん?」
「キューは、兄様の味方だからね」
「…本当にありがとう。じゃあ、今日の仕事が終わったら甘えにくるね」
「うん」
それでいいと思う。
どう甘えてくるのか、私が甘やかしてあげられるのかわからないけど。
普段縋られ与えるだけの人なのだろうから…これからは、せめて私だけでも何かを与えてあげられたら良い。
もしこの色に生まれた、前世の記憶を持ったまま生まれた意味があるのなら…きっと、この孤独な少年のためなのだろう。
今は、人が思うよりよほど辛いだろうその仕事へ向かう小さな背中を見てそう思ってしまうから。
「…兄様、自分のことも大切にしてね」
小さな呟きは、多分兄と呼ぶことになったその人には届いていないだろう。
それでいい。
「お仕事?」
「うん、この総本山には今まさに困っている人たちしかいないからね。そのお悩みを聞いてあげるのがオレの役目なんだよ」
…聞いてどうするんだろう。懺悔的なことなんだろうか。それともアドバイスでもしてやるのか。
「話を聞いて寄り添ってやることで、気持ちを軽くしてやるんだよ」
…なるほど。カウンセリングみたいなものか。
「それに、多少冷静になることで見えてくるものもある。話しているうちに自分がどうしたいか分かってくるものだよ」
うん、たしかに大事かもしれない。
「兄様」
「うん?」
「兄様は、平気?」
私が問えば兄様はきょとんとする。
「どういう意味?」
「人のお悩みを聞いて寄り添うのは、体力がいる」
気力を削がれるから。
「あー…やっぱりキューは賢いね」
頭を撫でられる。幸せ。
「でも、大丈夫だよ。それがオレのお役目だから」
「…無理はしないでね」
懇願するが、お役目だと思っているのなら兄様は変わらず無理するかもしれないなとも思う。
「…ありがとう、キュー。キューが妹になってくれてよかったよ」
本当に嬉しそうな表情で言われる。
やっぱり、神の子兼天主という役割は兄様のような幼子に押し付けるものではないと思う。
けれどパラディース教を心の拠り所としている人たちにそれを言うのは酷なのだろう。
兄様の庇護から自立の促しまでの仕事を考えるに、パラディース教は地の底まで落ちてしまった人たちの最後に縋る宗教なのだろうから。
その宗教がどんどん拡大していくことを考えると、この国大丈夫かなぁとちょっと心配になるけど。
「兄様」
「うん?」
「キューは、兄様の味方だからね」
「…本当にありがとう。じゃあ、今日の仕事が終わったら甘えにくるね」
「うん」
それでいいと思う。
どう甘えてくるのか、私が甘やかしてあげられるのかわからないけど。
普段縋られ与えるだけの人なのだろうから…これからは、せめて私だけでも何かを与えてあげられたら良い。
もしこの色に生まれた、前世の記憶を持ったまま生まれた意味があるのなら…きっと、この孤独な少年のためなのだろう。
今は、人が思うよりよほど辛いだろうその仕事へ向かう小さな背中を見てそう思ってしまうから。
「…兄様、自分のことも大切にしてね」
小さな呟きは、多分兄と呼ぶことになったその人には届いていないだろう。
それでいい。
196
お気に入りに追加
1,826
あなたにおすすめの小説
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。
石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。
いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。
前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。
ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる