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助けを乞われたので助けます
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「殿下」
「なんだ」
「思うんですけど、なんでそんなにナディア様を毛嫌いしてるんですか?」
ある日突然、侍従にそう聞かれた。
「毛嫌いしているように見えるか?」
「そうとしか思えないですけど」
「具体的には?」
「学園に通う前は別に仲良くはなかったですけど、お互い一応尊重しあって適切な距離を測りながら接していたのに…今はナディア様を見るだけで眉間に皺。話しかけられても無視。ガキかよって感じです」
「あー…」
そうか、そんな感じなのか。
「やっぱりナディアに相談するしかないな」
「はい?」
「いや実はな、学園にいる間の記憶が朧げなんだ」
「は?」
「学園から離れると安定するんだがな。一応医者には話すべきかと思っていたが、王位継承に障りがあるといけないから迂闊に話せなくてな」
ぎょっとする侍従。
「まあ、これは俺たちだけの秘密にしてくれ。ということでナディアのところへ急ぐぞ」
「は、はい!」
「というのがことのあらましだ」
「ふざけてます?」
「ふざけてない」
「…たしかに、学園での貴方は異常でしたが今はそんなことありませんね。下手な演技でもなさそうです」
「助けてくれ、君しか頼れない」
普段人に頼ることの少ない完璧超人が、困り果てた哀れな捨て犬のような目を向けてくる。
「仕方ない…特別ですよ」
「ありがとう、さすがナディアだ」
「精神汚染系の魔術だと推測されるので、それを防ぐためのお守りを差し上げます」
私は貴族の娘でありながら、錬金術と付与魔術を得意とする魔術師でもある。
この人との婚約だってその能力を買われてのこと。
ここでお役に立てなければ意味がない。
「殿下、お守りのネックレスです。肌身離さず持ち歩いてください」
「ありがとう」
「同じ効果の指輪もプレゼントして差し上げます」
「助かる」
私の魔術師としての腕は他からも高く評価されていて、たくさんの人が私のお守りを待っているのでこれはまさに特別待遇。
でもまあ、殿下のためならお安い御用。
殿下がいてこそ私の将来もあるというものだから。
「では、明日また学園で。もしそれでも様子がおかしければまた別の対処を考えます」
「頼んだ。…蔑ろにしてしまっていたらしく、すまなかったな。全部解決したら、埋め合わせのデート…いや、贈り物がいいか?」
「殿下の無事が先ですが、まあそうなったらデートも贈り物も欲しいですね」
「そうか。なら予定を組んでおく」
颯爽と帰っていく婚約者。
その背中を見送ってため息をついた。
…殿下は知らない。
ここがとある乙女ゲームの設定と酷似した世界で、殿下は攻略対象の一人だということを。
誰かの魅了魔術が影響しているならまだマシだけど、ゲームの強制力とかだったら目も当てられない。
「なんでこうなるかなぁ…」
私は幼い日を思い出してため息をついた。
あれは今世で八歳を迎えた時。
鏡に映る自分に違和感を感じて、よくよく見てみたらものすごい頭痛とともに前世の記憶を思い出したのだ。
「悪役令嬢に転生してる…」
病気で呆気なく死んで、今度は前世でプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に転生したことを知った。
「うーん…こりゃお手上げだ」
私はその時点で全部諦めた。
悪役令嬢ルート回避とかする気もなくて。
その代わり、このファンタジー世界を死ぬまで楽しむことに決めた。
一生懸命錬金術と魔術を習得して、そればかりに打ち込んだ。
一応、公爵家の娘として必要な教養は学んだが基本趣味に生きた。
それが功を奏して魔術師として認められることになり、乙女ゲームの設定とはちょっと違う理由…公爵家の後ろ盾だけでなく私自身の才能も買われて殿下と婚約することになった。
殿下は推しキャラだけど、目の前に本物がいると何ができるわけでもなく。
お互い距離感を測りながら少しずつ近づいていった。
原作とは違ってしつこくしたり束縛したりしなかったから嫌われてはいなかった。
けれど貴族の子女の通う学園に入学して辺りから殿下はおかしくなった。
そしてヒロインであろうアヴローラが殿下に擦り寄るのをみて殿下のルートを選んだんだなと悟った。
強制力とかかなと思って諦めていたけど、これでもし大丈夫なら…殿下とまだ婚約者で居られるかもしれない。
「ナディア」
「殿下、どうしました?」
「このお守りすごいな。学園に来ても意識がはっきりしてる」
「それはようございました」
「ところで、朝から付きまとってくるピンク髪の少女は誰だ?」
わあ、本当に魅了魔術だった。
強制力とかじゃなくてよかったけど…バカなことするなぁ。
「多分おそらく、殿下に魅了魔術を使ったバカです」
「よし、取り押さえて連行しろ」
「はい、殿下」
侍従の彼がさらに近くに控えていた護衛に命じてヒロインをさくっと回収、連行していく。
「よし、これで解決したな」
「そうですね、殿下」
「じゃあプレゼントからだな」
「ここでですか」
「ここでだ」
殿下は公衆の面前で突然ヒロインを逮捕連行したと思えば、公衆の面前で私にプレゼントをする。
「これだ」
「まあ、素敵な婚約指輪」
「嫌な思い出は素敵な思い出で塗り替えるに限る」
指輪を左手の薬指にはめてくれる殿下。
「君を不安にさせて、傷つけた。本当にすまない。だが、これからもこんな俺を支えて欲しいんだ」
「…もちろんです。できれば、今までより近い距離でそうさせていただければ幸いです」
「!!!」
「では約束通り、デートに行きましょうか」
にっこり微笑めば、手を取ってくれる殿下。
「これからは婚約者兼恋人ということでよろしく」
「はい、よろしくお願いしますね」
多分おそらく、雨降って地固まる…ということで。
「なんだ」
「思うんですけど、なんでそんなにナディア様を毛嫌いしてるんですか?」
ある日突然、侍従にそう聞かれた。
「毛嫌いしているように見えるか?」
「そうとしか思えないですけど」
「具体的には?」
「学園に通う前は別に仲良くはなかったですけど、お互い一応尊重しあって適切な距離を測りながら接していたのに…今はナディア様を見るだけで眉間に皺。話しかけられても無視。ガキかよって感じです」
「あー…」
そうか、そんな感じなのか。
「やっぱりナディアに相談するしかないな」
「はい?」
「いや実はな、学園にいる間の記憶が朧げなんだ」
「は?」
「学園から離れると安定するんだがな。一応医者には話すべきかと思っていたが、王位継承に障りがあるといけないから迂闊に話せなくてな」
ぎょっとする侍従。
「まあ、これは俺たちだけの秘密にしてくれ。ということでナディアのところへ急ぐぞ」
「は、はい!」
「というのがことのあらましだ」
「ふざけてます?」
「ふざけてない」
「…たしかに、学園での貴方は異常でしたが今はそんなことありませんね。下手な演技でもなさそうです」
「助けてくれ、君しか頼れない」
普段人に頼ることの少ない完璧超人が、困り果てた哀れな捨て犬のような目を向けてくる。
「仕方ない…特別ですよ」
「ありがとう、さすがナディアだ」
「精神汚染系の魔術だと推測されるので、それを防ぐためのお守りを差し上げます」
私は貴族の娘でありながら、錬金術と付与魔術を得意とする魔術師でもある。
この人との婚約だってその能力を買われてのこと。
ここでお役に立てなければ意味がない。
「殿下、お守りのネックレスです。肌身離さず持ち歩いてください」
「ありがとう」
「同じ効果の指輪もプレゼントして差し上げます」
「助かる」
私の魔術師としての腕は他からも高く評価されていて、たくさんの人が私のお守りを待っているのでこれはまさに特別待遇。
でもまあ、殿下のためならお安い御用。
殿下がいてこそ私の将来もあるというものだから。
「では、明日また学園で。もしそれでも様子がおかしければまた別の対処を考えます」
「頼んだ。…蔑ろにしてしまっていたらしく、すまなかったな。全部解決したら、埋め合わせのデート…いや、贈り物がいいか?」
「殿下の無事が先ですが、まあそうなったらデートも贈り物も欲しいですね」
「そうか。なら予定を組んでおく」
颯爽と帰っていく婚約者。
その背中を見送ってため息をついた。
…殿下は知らない。
ここがとある乙女ゲームの設定と酷似した世界で、殿下は攻略対象の一人だということを。
誰かの魅了魔術が影響しているならまだマシだけど、ゲームの強制力とかだったら目も当てられない。
「なんでこうなるかなぁ…」
私は幼い日を思い出してため息をついた。
あれは今世で八歳を迎えた時。
鏡に映る自分に違和感を感じて、よくよく見てみたらものすごい頭痛とともに前世の記憶を思い出したのだ。
「悪役令嬢に転生してる…」
病気で呆気なく死んで、今度は前世でプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に転生したことを知った。
「うーん…こりゃお手上げだ」
私はその時点で全部諦めた。
悪役令嬢ルート回避とかする気もなくて。
その代わり、このファンタジー世界を死ぬまで楽しむことに決めた。
一生懸命錬金術と魔術を習得して、そればかりに打ち込んだ。
一応、公爵家の娘として必要な教養は学んだが基本趣味に生きた。
それが功を奏して魔術師として認められることになり、乙女ゲームの設定とはちょっと違う理由…公爵家の後ろ盾だけでなく私自身の才能も買われて殿下と婚約することになった。
殿下は推しキャラだけど、目の前に本物がいると何ができるわけでもなく。
お互い距離感を測りながら少しずつ近づいていった。
原作とは違ってしつこくしたり束縛したりしなかったから嫌われてはいなかった。
けれど貴族の子女の通う学園に入学して辺りから殿下はおかしくなった。
そしてヒロインであろうアヴローラが殿下に擦り寄るのをみて殿下のルートを選んだんだなと悟った。
強制力とかかなと思って諦めていたけど、これでもし大丈夫なら…殿下とまだ婚約者で居られるかもしれない。
「ナディア」
「殿下、どうしました?」
「このお守りすごいな。学園に来ても意識がはっきりしてる」
「それはようございました」
「ところで、朝から付きまとってくるピンク髪の少女は誰だ?」
わあ、本当に魅了魔術だった。
強制力とかじゃなくてよかったけど…バカなことするなぁ。
「多分おそらく、殿下に魅了魔術を使ったバカです」
「よし、取り押さえて連行しろ」
「はい、殿下」
侍従の彼がさらに近くに控えていた護衛に命じてヒロインをさくっと回収、連行していく。
「よし、これで解決したな」
「そうですね、殿下」
「じゃあプレゼントからだな」
「ここでですか」
「ここでだ」
殿下は公衆の面前で突然ヒロインを逮捕連行したと思えば、公衆の面前で私にプレゼントをする。
「これだ」
「まあ、素敵な婚約指輪」
「嫌な思い出は素敵な思い出で塗り替えるに限る」
指輪を左手の薬指にはめてくれる殿下。
「君を不安にさせて、傷つけた。本当にすまない。だが、これからもこんな俺を支えて欲しいんだ」
「…もちろんです。できれば、今までより近い距離でそうさせていただければ幸いです」
「!!!」
「では約束通り、デートに行きましょうか」
にっこり微笑めば、手を取ってくれる殿下。
「これからは婚約者兼恋人ということでよろしく」
「はい、よろしくお願いしますね」
多分おそらく、雨降って地固まる…ということで。
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