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実際に片想いしているのは、どっち?
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「好きです!」
「そっかー」
周りの生徒は、またやってるよと遠巻きに二人のやり取りを眺める。
「ナタン様は、優しくて、かっこよくて、ちょっと意地悪だけどとても頼り甲斐がある素敵な方です!」
「うん、君によく言われるね」
「このヴェロニクは、ナタン様を愛しています!」
「そっかー。まあ婚約者居ない同士でフリーだから恋愛は自由だねー。今ちょっと小説がいいところだから黙って」
「はい」
ヴェロニクはナタンの言う通り、黙る。ナタンはヴェロニクの頭を一度だけ優しく撫でて、再び小説を読む。そのナタンの行動に、周りの生徒は呆れる。
「ナタン様も、付き合ってあげないならあんな思わせぶりな態度取らなければいいのに」
「ヴェロニク様も、他の殿方を探さないのかしら」
「ナタン様も罪な方だよな」
ヴェロニクとナタンの関係は、毎日告白してくる侯爵令嬢と毎日それに明確な答えを出さない公爵令息というなんとも言えないものだった。
だから、周りの生徒は誤解している。
本当に片想いしているのは、ナタンの方だった。
「は?毎日告白するから毎日受け流せ?」
「はい!お願いします、ナタン様!」
「いや、意味わからないんだけど。頭打った?」
三年前。貴族の子女は大抵通う学園に、例に漏れず通うことになったナタンはある生徒に一目惚れした。ヴェロニクである。そんなヴェロニクに放課後呼び出されて、意気揚々と応じたら変なことを頼まれたのだ。
「だって…」
「なに」
「このままじゃ、私…お金持ちのお爺ちゃんの後妻にされちゃうんです。ナタン様を落としてナタン様との婚約にこぎつけたら許してくれるって…お父様が」
「…なら僕と付き合えば?」
「好きな人がいるんです!」
ナタンは鈍器で頭を殴られた気分だった。それでも可愛いヴェロニクのためだと話を聞く。
「駆け落ちでもするつもり?」
「いえ。その人は平民なのですが、そもそも私の片想いなんです。だから、学園卒業ギリギリまで粘ってそれでダメなら諦めてお金持ちのお爺ちゃんの後妻になります。オーケーを貰えたら駆け落ちするかもしれないですけど」
「ふーん…いいよ」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。協力してあげる」
まあ、そんなのは嘘なのだが。
「その結果がどうなっても、僕は責任を持てないけどね」
「もちろんです!協力してくださるだけで結構です!」
「…そんなに純粋だと、悪い男に騙されるかもね?」
「えー?またまたー」
それからずっと、ヴェロニクはナタンに嘘の告白をしている。ナタンは受け入れていないフリをしている。
「いつもご協力ありがとうございます、ナタン様!」
「君のためならお安い御用さ」
「ふふ、ナタン様って本当に優しいですね。好きな人が居なかったら、惚れちゃってたかも」
「…そう?なら良かったよ」
「良かったって?」
「なんでもないよ」
ナタンはこの三年間、ヴェロニクに協力しているフリをして彼女の知らないところで根回しをしていた。ヴェロニクの両親に対して、卒業する頃にはヴェロニクの想いを受け入れるつもりだと話し、ヴェロニクとの縁談を密かに進めている。
「うちの子の想いを受け入れていただきありがとうございます!」
「こちらこそ、卒業までなかなかきちんとした返事が出来ずに申し訳ありません。学園の生徒であるうちは学業に専念するという約束で、学園に通っているので。両親も本当は学園になど通わずすぐに爵位を継承して欲しいというのが本音らしくて。でも、娘さんは必ず幸せにします」
「よろしくお願いします!」
さらに、ヴェロニクが好きだという平民の男に対して報酬を支払ってわざと気がある素振りをしてもらいつつ明確な答えを出さないでもらっていた。
「ヴェロニク、意中の彼は振り向いてくれそうかい?」
「脈ありな反応…な気がするんですけど、明確な答えをくれなくて」
「まあ、卒業まであと数日だからね。せめて思い出を作るつもりでアプローチを続けたら?」
「ありがとうございます、ナタン様…!」
そして、運命の日が来た。卒業式だ。
「ヴェロニク。昨日最後に、彼に告白したんだろう?どうだった?」
「…ナタン様、結局意中の彼は気持ちに応えられないとのことでした」
「そう。…ねえ、ヴェロニク。」
「はい…」
「僕にしときなよ」
ヴェロニクの目が点になる。
「え…」
「お金持ちのお爺ちゃんの後妻にされちゃうよりマシでしょ?」
「でも…」
「僕はヴェロニクが好きだよ」
「え!?」
ナタンはヴェロニクが逃げられないよう、ヴェロニクを壁際に追いやり両手で退路を遮断する。
「ねえ。今まで散々僕を利用して、僕に思わせぶりな態度を取ってきたよね?責任を取ってくれてもいいんじゃないの?」
「そ、それは」
「ヴェロニク」
ナタンはヴェロニクの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「僕が全部、忘れさせてあげるから。これからは、僕だけを見て」
ヴェロニクはまるで酩酊状態のような、ふわふわした心地になる。まるでナタンの言葉が頭の中に刷り込まれるような、そんな感覚。
「で、でも、私が好きなのは…」
「大丈夫。言っただろう?忘れさせてあげるから。君は今日から、僕だけを愛するんだ」
逃げられない状態で、至近距離から真っ直ぐ目を見つめられて。今まで嘘とはいえ、好きだ好きだと言っていた美形の男性から迫られている。ヴェロニクは、冷静ではいられなかった。それをナタンは分かっている。その上で、話しを優位に運ぼうとしている。
「ヴェロニク。君は悪い子だね」
「え」
「好きな人がいるからって、僕の気持ちを利用して弄んで」
「あ…でも、でも知らなくて」
「だとしても、悪い子だ。そうだろう?」
ヴェロニクは、今までのことがナタンを傷つけていたのだと思うと強く言えない。ましてや今は冷静に考えることができない状態だったから、余計に。
「ヴェロニク。彼に愛されなかった哀れな君を、僕が愛してあげるから。僕を選んで」
「で、でも」
「それとも、ここまで利用しておいて僕をあっさりと捨てるの?」
「それは」
「僕より金持ちのお爺ちゃんの後妻になりたい?」
ヴェロニクはもう、限界だった。
「…ご、後妻はいや…ですけど」
「なら、ね?わかるだろう?」
「ナタン様…」
「ヴェロニク。僕と婚約してくれるよね?」
「…はい」
ナタンは、ヴェロニクを見事に手に入れた。
なお、あとで正気になったヴェロニクが周りを見ればもう外堀は埋まっていて逃げられなかった。ヴェロニクはナタンに抗議するが、ナタンはそんなヴェロニクをただ愛おしそうに抱きしめてヴェロニクが諦めて大人しくなるまで愛の言葉を囁き続けた。
「そっかー」
周りの生徒は、またやってるよと遠巻きに二人のやり取りを眺める。
「ナタン様は、優しくて、かっこよくて、ちょっと意地悪だけどとても頼り甲斐がある素敵な方です!」
「うん、君によく言われるね」
「このヴェロニクは、ナタン様を愛しています!」
「そっかー。まあ婚約者居ない同士でフリーだから恋愛は自由だねー。今ちょっと小説がいいところだから黙って」
「はい」
ヴェロニクはナタンの言う通り、黙る。ナタンはヴェロニクの頭を一度だけ優しく撫でて、再び小説を読む。そのナタンの行動に、周りの生徒は呆れる。
「ナタン様も、付き合ってあげないならあんな思わせぶりな態度取らなければいいのに」
「ヴェロニク様も、他の殿方を探さないのかしら」
「ナタン様も罪な方だよな」
ヴェロニクとナタンの関係は、毎日告白してくる侯爵令嬢と毎日それに明確な答えを出さない公爵令息というなんとも言えないものだった。
だから、周りの生徒は誤解している。
本当に片想いしているのは、ナタンの方だった。
「は?毎日告白するから毎日受け流せ?」
「はい!お願いします、ナタン様!」
「いや、意味わからないんだけど。頭打った?」
三年前。貴族の子女は大抵通う学園に、例に漏れず通うことになったナタンはある生徒に一目惚れした。ヴェロニクである。そんなヴェロニクに放課後呼び出されて、意気揚々と応じたら変なことを頼まれたのだ。
「だって…」
「なに」
「このままじゃ、私…お金持ちのお爺ちゃんの後妻にされちゃうんです。ナタン様を落としてナタン様との婚約にこぎつけたら許してくれるって…お父様が」
「…なら僕と付き合えば?」
「好きな人がいるんです!」
ナタンは鈍器で頭を殴られた気分だった。それでも可愛いヴェロニクのためだと話を聞く。
「駆け落ちでもするつもり?」
「いえ。その人は平民なのですが、そもそも私の片想いなんです。だから、学園卒業ギリギリまで粘ってそれでダメなら諦めてお金持ちのお爺ちゃんの後妻になります。オーケーを貰えたら駆け落ちするかもしれないですけど」
「ふーん…いいよ」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。協力してあげる」
まあ、そんなのは嘘なのだが。
「その結果がどうなっても、僕は責任を持てないけどね」
「もちろんです!協力してくださるだけで結構です!」
「…そんなに純粋だと、悪い男に騙されるかもね?」
「えー?またまたー」
それからずっと、ヴェロニクはナタンに嘘の告白をしている。ナタンは受け入れていないフリをしている。
「いつもご協力ありがとうございます、ナタン様!」
「君のためならお安い御用さ」
「ふふ、ナタン様って本当に優しいですね。好きな人が居なかったら、惚れちゃってたかも」
「…そう?なら良かったよ」
「良かったって?」
「なんでもないよ」
ナタンはこの三年間、ヴェロニクに協力しているフリをして彼女の知らないところで根回しをしていた。ヴェロニクの両親に対して、卒業する頃にはヴェロニクの想いを受け入れるつもりだと話し、ヴェロニクとの縁談を密かに進めている。
「うちの子の想いを受け入れていただきありがとうございます!」
「こちらこそ、卒業までなかなかきちんとした返事が出来ずに申し訳ありません。学園の生徒であるうちは学業に専念するという約束で、学園に通っているので。両親も本当は学園になど通わずすぐに爵位を継承して欲しいというのが本音らしくて。でも、娘さんは必ず幸せにします」
「よろしくお願いします!」
さらに、ヴェロニクが好きだという平民の男に対して報酬を支払ってわざと気がある素振りをしてもらいつつ明確な答えを出さないでもらっていた。
「ヴェロニク、意中の彼は振り向いてくれそうかい?」
「脈ありな反応…な気がするんですけど、明確な答えをくれなくて」
「まあ、卒業まであと数日だからね。せめて思い出を作るつもりでアプローチを続けたら?」
「ありがとうございます、ナタン様…!」
そして、運命の日が来た。卒業式だ。
「ヴェロニク。昨日最後に、彼に告白したんだろう?どうだった?」
「…ナタン様、結局意中の彼は気持ちに応えられないとのことでした」
「そう。…ねえ、ヴェロニク。」
「はい…」
「僕にしときなよ」
ヴェロニクの目が点になる。
「え…」
「お金持ちのお爺ちゃんの後妻にされちゃうよりマシでしょ?」
「でも…」
「僕はヴェロニクが好きだよ」
「え!?」
ナタンはヴェロニクが逃げられないよう、ヴェロニクを壁際に追いやり両手で退路を遮断する。
「ねえ。今まで散々僕を利用して、僕に思わせぶりな態度を取ってきたよね?責任を取ってくれてもいいんじゃないの?」
「そ、それは」
「ヴェロニク」
ナタンはヴェロニクの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「僕が全部、忘れさせてあげるから。これからは、僕だけを見て」
ヴェロニクはまるで酩酊状態のような、ふわふわした心地になる。まるでナタンの言葉が頭の中に刷り込まれるような、そんな感覚。
「で、でも、私が好きなのは…」
「大丈夫。言っただろう?忘れさせてあげるから。君は今日から、僕だけを愛するんだ」
逃げられない状態で、至近距離から真っ直ぐ目を見つめられて。今まで嘘とはいえ、好きだ好きだと言っていた美形の男性から迫られている。ヴェロニクは、冷静ではいられなかった。それをナタンは分かっている。その上で、話しを優位に運ぼうとしている。
「ヴェロニク。君は悪い子だね」
「え」
「好きな人がいるからって、僕の気持ちを利用して弄んで」
「あ…でも、でも知らなくて」
「だとしても、悪い子だ。そうだろう?」
ヴェロニクは、今までのことがナタンを傷つけていたのだと思うと強く言えない。ましてや今は冷静に考えることができない状態だったから、余計に。
「ヴェロニク。彼に愛されなかった哀れな君を、僕が愛してあげるから。僕を選んで」
「で、でも」
「それとも、ここまで利用しておいて僕をあっさりと捨てるの?」
「それは」
「僕より金持ちのお爺ちゃんの後妻になりたい?」
ヴェロニクはもう、限界だった。
「…ご、後妻はいや…ですけど」
「なら、ね?わかるだろう?」
「ナタン様…」
「ヴェロニク。僕と婚約してくれるよね?」
「…はい」
ナタンは、ヴェロニクを見事に手に入れた。
なお、あとで正気になったヴェロニクが周りを見ればもう外堀は埋まっていて逃げられなかった。ヴェロニクはナタンに抗議するが、ナタンはそんなヴェロニクをただ愛おしそうに抱きしめてヴェロニクが諦めて大人しくなるまで愛の言葉を囁き続けた。
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