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線香花火

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「ねえ、百合。線香花火買ってきたので、庭で遊びましょうよ」

「え、いいですけど急ですね」

「ええ。君を食べるのを我慢できなくなる前になんとしてでも思い出作りをしなければと思いまして」

辰巳さんのその言葉に嬉しくなる。

「ふふ、そういうことでしたらぜひ」

このお化け屋敷紛いの自宅は戸建で庭付き、おまけにご近所さんはかなり離れたところに数軒程度。

あまりにもお化け屋敷なのと立地の関係もありタダ同然。

らっきー。

ということで線香花火をしても多分誰にも迷惑にならないので、庭に出て線香花火の準備。

バケツに水汲みよし、火の元よし、線香花火よし。

「では始めましょうか」

「はい」

二人で線香花火に火を付けて見つめる。

「君たち人間は、線香花火を見て儚さを感じるそうですね」

「そうですよ」

「僕にとって、君たちもこの線香花火と同じです」

ちらっと辰巳さんを見る。

辰巳さんは線香花火を見つめて、少し切なそうに瞳を揺らした。

「悠久を生きる僕にとって、君たちの人生というものはあまりにも儚い」

「…」

「なのに短い一生をかけて、命を輝かせる。僕はある意味では、君たち人類のファンとも言える」

「…そうですか」

「美味しくて、栄養満点で、そして食べずとも楽しませてくれる。僕は君たちの箱推しだったはずなのに、君という推しが出来た。同担拒否の強火ファンになってしまいましたよ」

「ふふ」

辰巳さんは真剣なのだろうけど、あまりにも現代に染まった言い方にちょっとだけ笑う。

「だからね、百合」

ぽとっと私の線香花火の先が落ちた。

辰巳さんのそれはまだ輝いている。

「…きっと、僕は君を食べてしまうけど。君の魂ごと取り込んで、逃がしてあげられないけれど。…永遠に愛しています」

「…私も愛してますよ、辰巳さん」

どちらともなく、キスを交わした。

触れ合うだけのそれは、それだけで満たされる。

「…ふふ、僕の百合。永遠に僕だけのものです」

「もちろんです」

「そのかわりといってはなんですが」

「?」

「僕も君のものですからね」

にっこり笑う辰巳さん。

その言葉に頬が緩む。

「ふふ、辰巳さん」

「ん?」

「一生私のものでいてくださいね」

「もちろんです」

早く食べられたい。

けれど、こんな日々がずっと続いて欲しい。

綱渡りの幸せに、背反する願望。

ゴールはいつになるだろうか。
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