上 下
15 / 58

いじめっ子

しおりを挟む
コンビニバイトをしていれば、当然会いたくないお客様にたまたま会うこともあるわけで。

「…あ、岩瀬さん」

「いらっしゃいませ」

目を合わせないでやり過ごそうとする。

彼女は今大学生のはず。

今でもパリピ集団の中でお姫様をやってるんだろうか。

「うわぁ、岩瀬さんコンビニバイトで食いつないでるの?可哀想」

「そうですか」

「ねえねえ、今どんな気持ち?惨め過ぎない?私だったらストレス過多で死んじゃいそう」

なら今すぐ死ね。

…なんて、さすがにお口が悪すぎるか。

「お客様」

「え、めっちゃイケメン!」

「僕の恋人に絡まないでくれます?」

「…え?…あ、辰巳くん?」

ああそうだ。

周りの人には偽の記憶が流れ込んでるんだった。

ずっと一緒にいた幼馴染だった設定だから、当然彼女は辰巳さんを知っている。

「誰でしたっけ、貴方」

「玲奈だよ!覚えてない?」

「記憶にありませんが」

そりゃそうだ。

初めましてだもの。

「もう、岩瀬さんのお友達の玲奈だよ!」

「ああ、百合の全てを否定して自己肯定感を無駄に低くしてくれた玲奈さんですね」

「なっ…」

はっきり言うなぁ。

今の一瞬で私の記憶を覗き見たらしい。

「岩瀬さんになにを吹き込まれたのか知らないけど、そんなんじゃないよ!」

「百合からはなにも聞いてませんよ。ですが、ずっと側にいたのだから気付きますよ」

嘘つき。

でも、守ろうとしてくれるのは嬉しい。

幸い深夜で他のお客様もいないから誰にも迷惑かけてないし。

「…っ、でも、ね、辰巳くんには岩瀬さんより私の方が似合うよ!なんか恋人とか言ってたけど、やめた方がいいよ、私にしておきなよ!」

「お言葉ですが」

辰巳さんが、私を抱きしめて言った。

「大学生にもなってまだ高校の頃の上下関係が通じると勘違いするようなイタイ女より、百合の方が何百倍も可愛いので無理です」

「なっ…」

「しかも貴女、百合が自分より可愛いのに嫉妬して虐めを開始しましたよね。百合の悪口をあることないこと言いふらして、孤立させて。惨めなのは、そんなことをしてもなお百合に何一つ勝てない貴女の方ですよ」

「…っ、クレーム入れてやる!」

辰巳さんが私を離す。

「大丈夫でしたか?百合」

「はい、あの…」

「ん?」

「私の方が可愛いから虐められたってマジですか?」

「あの女の記憶を見る限りマジです」

「わぁ」

てっきり捨て子だからかと。

でもそっか。

そんなくだらない理由だったのか。

「ふふ…っく、はははははっ」

「百合?」

「そんなくだらない理由だったんですね」

虐められた記憶は、私に暗い影を落としていたけれど。

「なんか、どうでもよくなっちゃいました」

「…ふふ、そうですか。スッキリした顔ですね」

「はい、スッキリしましたから」

「では、もう僕に食い殺されたくはない?」

「それとこれとは別ですが」

そう、それとこれとは別。

私は辰巳さんに食べられたい。

「おやおや、本当に素直な子だ」

「えへへ」

「さあ、バイト中ですから仕事に戻りましょう」

「はい」

その後玲奈さんには本当にクレームを入れられたらしいが、なにやら監視カメラを確認して事実ではないと突っぱねられたらしい。

どうも暴力を振るわれたとか嘘ついたらしい。

なぜバレる嘘をついたのか。

そんなに悔しかったのだろうか。

ちょっとだけ、ざまぁみろと思ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉
青春
高校生の相沢優希(あいざわゆうき)は人には言えない秘密がある。 前世の記憶があり現代では唯一無二の魔法使い。 力のことは隠しつつ、高校三年間過ごす予定だったが、同級生の美少女、一ノ瀬穂香(いちのせほのか)を助けた事から少しずつ変わっていく生活。 恩に報いるためか部屋の掃除や料理など何かと世話を焼いてくれる穂香。 人を好きになった事がない優希は段々穂香に惹かれていく。 一方、穂香も優希に惹かれていくが、誰にも言えない秘密があり…… ※魔法要素は少なめです。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

処理中です...