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辰巳さん

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「あの、辰巳さん」

「なんです?百合」

「戯言だと聞き流してくださっても構わないんですけど」

ふむ?と辰巳さんはこちらを向く。

「創作系だと、龍って基本優しくて善良なイメージだったりしません?」

「邪龍とかでもなければ、たしかにそんなイメージですね?」

「辰巳さんって邪龍なんですか?」

私の直球な質問に、辰巳さんは吹き出した。

「ぶっ…ははは、百合は本当に可愛いですね」

笑った後に辰巳さんは答えてくれた。

「そうですね、善悪の区別をつけるなら僕は悪でしょう。邪龍と呼ばれてもまあ、おかしくは無い」

「へえ」

「ただ、僕はそれほど人目に晒されるような場所に祀られた龍でもありませんし…だから邪龍として認定されることもなく、のらりくらりと『龍』として上手くやってますよ」

「邪龍認定されると面倒とかあります?」

質問を重ねても、面倒そうにするでもなく真面目に返してくれる辰巳さん。

「信仰や逸話次第で属性自体変わってしまいますからねぇ…今まで通りの僕でいられなくなる、という面倒ならありますよ」

「なるほど」

「他に質問は?」

「あの山の龍の噂が急に広がったのは…」

「僕が意図的に広めました」

にっこり笑う辰巳さん。

「まさか、ここまで極上の獲物が釣れるとは思いませんでしたが」

「極上…」

「君みたいな見える子はね、僕たちみたいな存在にとってはご馳走なんですよ」

「へえ」

やけに襲われると思ったらそういうこと。

破魔のパワーストーンがあったから生き延びてこれただけというわけだ。

生き延びていたかったわけではないが、辰巳さんと出会うまで生き残れたのはある意味幸運か。

辰巳さんとの今は、楽しいから。

「百合」

「はい」

「君と出会えて良かった」

「…藪から棒になんですか」

「ふふ、いえいえ。なんとなく思っただけですよ」

嬉しい言葉をもらってしまった。

こちらも言葉を返すしかない。

「…私も、辰巳さんと出会えて良かったです」

「おや、僕たち両思いですね」

「…はいはい」

両思いなんて簡単に言ってくださるなと思うけれど、ちょっと嬉しくなってしまう自分もいる。

「まあ、仕事までまだ時間もありますし他にも聞きたいことがあればどうぞ。なければ…」

「なければ?」

「少しイチャイチャしましょうか」

「ご遠慮します」

まったく、自由なヒトだ。
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