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「ねえ、百合。海に行きませんか?」

「海ですか?」

唐突に誘われて戸惑う私に、辰巳さんは手を差し伸べる。

「海に入るのではなく、海を見に行くのです」

「まあ、それなら」

私は差し伸べられた辰巳さんの手を取った。
















「見てください、百合」

「…わあ」

夜の暗い海。

その筈だったが…。

「光るクジラ…!?」

「クジラのお化けです。あれは僕たちのような存在か、君のような特殊な者にしか見えません。見た目は綺麗ですが、なんでも取り込む大喰らいですよ」

「でも、綺麗ですね…」

私がそう言うと、辰巳さんは楽しげに笑った。

「ふふ。君はいつも冷めているような態度を取りますが、なんだかんだで美しいモノを愛する心はあるのですね」

「いや、それは…」

「では、ちょうど広い場所にいることですし…僕の本当の姿を見せてあげましょう」

辰巳さんはふわりと宙に浮かぶ。

そして龍の姿に戻った。

『ふふ、この姿を君に見せるのは初めてですが…どうです?』

虹色の鱗の巨大な龍。

カラフルだけど変な軽さはない。

むしろ目の前の虹色の龍には神々しささえ感じる。

「美しいです…」

『でしょう?君はこの先、この僕の血肉となるのですよ。嬉しいですか?』

「嬉しいです…」

恍惚としてしまう私に辰巳さんは笑う。

『ふふ、君はブレませんね』

辰巳さんはヒトの姿に戻った。

「まあ、このくらいのサービスはいいですよね」

「ありがとうございます、ますます食べて欲しくなりました」

「ふふ、素直ですね」

ひんやりとした手に頬を撫でられる。

「さあ、そろそろバイトに行きましょうか」

「あれ、クジラがいつの間にかいない」

「僕に怯えて海の深いところに潜りましたよ」

「わあ」

辰巳さんはすごいなぁ。

あんな大きなクジラにも怖がられるなんて。

「さあ、行きますよ」

「はい」

もう一度、差し伸べられた手を取った。

今度の行き先は、なんの変哲も無いコンビニだけど。

辰巳さんと一緒なら、それすら大切な時間に感じてしまう。

まるで、青い春だ。

…なんちゃって。
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