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美術館

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「いやぁ、二馬力で働けば深夜のコンビニアルバイトでもしっかり稼げますね」

「深夜ですしね」

「よかったよかった」

給料が入った。

これで来月分の引き落としと来月分の生活費は大丈夫。

辰巳さんと生活費は折半なのでむしろ余裕があるくらい。

おかげで遊びに行くお金もある。

「ということで、せっかくの給料日後の休日なのですし一緒に遊びに行きましょうか。費用はもちろん僕が出しますから」

「いいですよ。どこに行きましょうか」

「今日は、故人の個展が開催されているそうです。行ってみませんか?」

「個展…」

「故人は若い天才画家だったそうですよ。とても美しい水彩画を描いていたそうです」

…絵に興味はないのだけど。

「辰巳さんはみたいですか?」

「ええ」

「…じゃあ行きましょうか」

「ふふ、おしゃれ楽しみにしていますね」

とりあえずこの間買った可愛い服を選んで、着てみる。

「あの、着替えました」

「百合、とても似合いますよ」

「ありがとうございます」

「今日はどんな髪型にしましょうか。僕が結ってもいいですよね?」

「はい」

辰巳さんは私をドレッサーの前に座らせて、髪型を改造し始める。

ハーフアップ?とかいう髪型になった。

「ああ、やはり似合いますね」

「そうですか」

「化粧もしますね」

化粧もしてもらう。

可愛くしてもらえた。

「首のあともまだ残っていますから、ファンデーション塗りますね」

「はい」

「爪もせっかくですからネイルしましょう」

爪をきれいに整えられ、ネイルされる。

「…きれいですね」

「ええ、さすがは僕の百合。とても似合います」

ニコニコ笑う辰巳さんに手を差し伸べられる。

「では、行きましょうか」

「はい」

握った手は、やっぱりひんやりとしていた。










個展が開かれていたそこで、出入り口にヤバいものがいた。

全身ぐちょぐちょの肉塊。

私は知らないふりを貫き通した。

「…わぁ」

中に入ると、肉塊のことを忘れるほど素敵な空間が広がっていた。

可愛らしい絵やきれいな絵がたくさん。

絵には詳しくないが、どれもとても素敵な絵だと思った。

「どうです?気に入りました?」

「はい、とっても!」

「連れてきてよかった」

絵を見て、テンションの上がる私。

そんな私に辰巳さんは優しく微笑む。

時間を忘れるほどに絵を楽しみ、そして夢のような時間は終わった。

帰り際、肉塊の横を通り過ぎようとした時。

『私の絵は、どうでしたか』

その一言で、肉塊の正体を知ってしまった。

どうして、と思った。

こんな綺麗な絵を描く人が、どうしてこんな目に遭うのか。

けれど、私は頷いた。

「どれもとても綺麗で、時間を忘れるほどに素敵な個展でした」

『…よかった』

肉塊は溶けて消えた。

あるべき場所に還っていったのだろうか。

「…君はお人好しですね。無視すればいいのに」

そう言いながら、辰巳さんは優しい目を私に向ける。

「…お礼です」

「え?」

「素敵な絵を描いてくださったお礼」

「おやおや」

私の言葉ににっこり笑った辰巳さん。

それがどういう意味の笑みなのかは、わからなかった。
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