4 / 58
かたかたかた
しおりを挟む
かたかたかたと音がする。
その方向に行くと、よくわからないものがいた。
蜘蛛のような姿に、人の上半身がついている。
彼女は言った。
「そんなに生きていたくないのなら、交換するかぇ?」
「私は辰巳さんに食べていただくので、ご遠慮します」
次の瞬間、蜘蛛女は弾け飛んだ。
「やれやれ。この家は本当に危ないですね」
「辰巳さん」
「ほぼタダ同然の物件。そりゃあ事故物件に決まってますよね。おまけに霊道に通じてますし…まあ、この土地の立派な一軒家をこの破格の値段で借りられているのは素直に嬉しいところでしょうけれど」
辰巳さんはなんてことないように笑うけれど、この蜘蛛女の弾け飛んだ残骸はどうしようか。
「ああ、百合はそれを気にしなくて大丈夫ですよ。僕が食って証拠隠滅しますから」
「証拠?」
「ふふ、下半身はともかく上半身は人間っぽいでしょう?」
「ああ…」
言いたいことは察したのでそれ以上聞かないようにリビングに行く。
離れてもなお聞こえるばりばり貪り食う音に、いいなぁなんて思ってしまうのは場違いだろうか。
でも、私も…あの美しい男の腹のなかで、はやく溶かされたい。
「ご馳走さまでしたー」
「辰巳さん、おかえりなさい」
「この家は本当に食事に困らないですね。お掃除はちょっと大変ですが」
「ちゃんと血とか片付けました?」
「もちろんです」
にっこり笑う辰巳さん。
「けれど君、今までどうやって住んでたんです?僕がいないとすぐ死にそうなものなのに」
「多分これのおかげですかね」
「…ほう、パワーストーンですか。たしかに破魔の力は篭っていますが」
「私が捨てられていたところに、置いてあったそうです」
「ふむ」
彼は興味深いものを見る目でパワーストーンを見つめる。
「…ふふ、まあ今はいいでしょう。それより百合。明日は休みですし、今からゆっくり寝て明日に備えましょう」
「え」
「僕らはカップルなのですから、休みの日はデートをしなければ」
ね?と首をかしげる彼に、そうだろうか?と疑問に思う。
が、彼がそうしたいのなら付き合うのも吝かではない。
「ほら、おいで」
「はい」
そういう欲がないのか、私に魅力がないのか。
彼はセクハラ発言はあっても手を出してくることはない。
今もこうして、私を抱きしめて体温を奪うだけ。
「僕は冷たくて気持ちいいでしょう?」
「はい」
「今はゆっくりおやすみ」
優しく頭を撫でられて、気づいたら寝落ちしていた。
その方向に行くと、よくわからないものがいた。
蜘蛛のような姿に、人の上半身がついている。
彼女は言った。
「そんなに生きていたくないのなら、交換するかぇ?」
「私は辰巳さんに食べていただくので、ご遠慮します」
次の瞬間、蜘蛛女は弾け飛んだ。
「やれやれ。この家は本当に危ないですね」
「辰巳さん」
「ほぼタダ同然の物件。そりゃあ事故物件に決まってますよね。おまけに霊道に通じてますし…まあ、この土地の立派な一軒家をこの破格の値段で借りられているのは素直に嬉しいところでしょうけれど」
辰巳さんはなんてことないように笑うけれど、この蜘蛛女の弾け飛んだ残骸はどうしようか。
「ああ、百合はそれを気にしなくて大丈夫ですよ。僕が食って証拠隠滅しますから」
「証拠?」
「ふふ、下半身はともかく上半身は人間っぽいでしょう?」
「ああ…」
言いたいことは察したのでそれ以上聞かないようにリビングに行く。
離れてもなお聞こえるばりばり貪り食う音に、いいなぁなんて思ってしまうのは場違いだろうか。
でも、私も…あの美しい男の腹のなかで、はやく溶かされたい。
「ご馳走さまでしたー」
「辰巳さん、おかえりなさい」
「この家は本当に食事に困らないですね。お掃除はちょっと大変ですが」
「ちゃんと血とか片付けました?」
「もちろんです」
にっこり笑う辰巳さん。
「けれど君、今までどうやって住んでたんです?僕がいないとすぐ死にそうなものなのに」
「多分これのおかげですかね」
「…ほう、パワーストーンですか。たしかに破魔の力は篭っていますが」
「私が捨てられていたところに、置いてあったそうです」
「ふむ」
彼は興味深いものを見る目でパワーストーンを見つめる。
「…ふふ、まあ今はいいでしょう。それより百合。明日は休みですし、今からゆっくり寝て明日に備えましょう」
「え」
「僕らはカップルなのですから、休みの日はデートをしなければ」
ね?と首をかしげる彼に、そうだろうか?と疑問に思う。
が、彼がそうしたいのなら付き合うのも吝かではない。
「ほら、おいで」
「はい」
そういう欲がないのか、私に魅力がないのか。
彼はセクハラ発言はあっても手を出してくることはない。
今もこうして、私を抱きしめて体温を奪うだけ。
「僕は冷たくて気持ちいいでしょう?」
「はい」
「今はゆっくりおやすみ」
優しく頭を撫でられて、気づいたら寝落ちしていた。
20
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】さよなら、私の愛した世界
東 里胡
青春
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる