上 下
2 / 58

人の世

しおりを挟む
「さあ、それでは早速下界に降りましょうか!」

「そうですね」

「ああその前に。君はどんな人間なのです?」

「どんな人間…?」

「それに合わせて擬態しましょう」

にっこりと笑って告げられる。

「私は…」

「ええ」

「児童擁護施設の前に捨てられていた赤子で、肉親がいるかどうかすらわかりません」

「ふむ」

「国にもらった名前は、岩瀬百合」

百合ですか、可愛い名前ではないですか!なんて彼は笑う。

「無垢、純粋。死にたがりの君には似つかわしくない花言葉ですがね」

「喧嘩を売ってますか」

「いいえ?似つかわしくないからこそ良い」

彼は私の頬を撫でた。

「そんな君だから、興味を持った。いずれ僕を満足させてくれれば、美味しく食べてあげますからね」

「…龍神様は、悪趣味です」

「ふふ、よく言われます。続けて?」

「今は児童擁護施設を出て、コンビニでアルバイトをしながら食いつないでいます」

「おやおや」

ニコニコ笑いながら彼は相槌を打つ。

「食べ物に好き嫌いはないです。あとは…誕生日は一応、四月一日…ということになっています」

「おや、エイプリルフール!君は誕生日まで面白いですね!」

「…疲れる」

「おや、何故ですか?」

「貴方のせいですが」

他に何がある。

「まあ良いでしょう。他に伝えておくべきことはありますか?」

「いえ」

「では、僕は君の幼馴染に擬態しましょう。児童擁護施設の頃から、そばにいた幼馴染。辰巳という名前にしましょうか」

「戸籍とかは?」

「適当に呪いでちょちょいのちょいですよ」

「わあ、神様って便利」

辰巳さんが指を鳴らした瞬間、私の中に存在しない記憶が流れた。

多分他の人はもっと強力に暗示をかけられている。

そして辰巳さんの手の中には戸籍入りの住民票。

「ついでにバイト先は君と一緒、シフトも必ず君と一緒なので」

「わぁ」

徹底してるなこの神様。

「ちなみに住む家も君と一緒なので」

「同棲中の幼馴染カップルの設定ですものね」

「あ、ちゃんと偽の記憶流れ込んでますね。よかった。君にだけは偽の記憶とわかるようにしていますが、他の人は本当の記憶だと思ってますから上手くやってくださいね」

ニコニコと言われるけれど、やめてほしい。

「どうしてまた同棲中の幼馴染カップルに?」

「君に興味があって君と一緒に下界に降りるのです。君に張り付く理由は必要でしょう?僕は君に首ったけで、いわゆるヤンデレ男子…ということにすれば、理由にはなります」

「最悪の理由ですけどね」

「まあまあ!せっかくですし楽しみましょうよ」

ニコニコと告げられて、仕方なく頷く。

まったく、しょうがない人だ。

人じゃないけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完結】さよなら、私の愛した世界

東 里胡
青春
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。 気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。 というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ! だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。 それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。 最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。 娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。 そして親友と好きだった人。 一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。 絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。 笑って泣ける、あたたかい物語です。

処理中です...