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病弱じゃない身体と前世チート最高ってお話
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私は、昔から病弱だった。どう頑張っても周りのお友達のように外で遊ぶことなんて出来なかった。いつも勉強か読書かゲームくらいしかやることがなくて。そうしてあっけなく最期の時を迎えて。なのに私、どうしてこんなキラキラしたお姫様のようなお部屋にいるんだろう。
「お嬢様。今日こそはきちんとお勉強を受けていただきますよ」
お嬢様と言われて途端に全てを思い出す。そうだ、今の私はミカエラ・ターブルロンド。地球じゃないこの世界の公爵令嬢。そして今思い出した前世の記憶が確かなら、おそらく十年後には悪役令嬢になることになる。
乙女ゲーム「君恋」。孤児院育ちの主人公が特待生制度で入った貴族学院にて貴公子と恋に落ちる物語。私は攻略対象者の一人、公爵令息アレックス・ザンクトゥアーリウムの婚約者になるはず。現段階ではまだ決まっていないけど。そして主人公が逆ハーレムルートまたはアレックスルートに行くと悪役令嬢になるのだ。私は勉強嫌いで性格も最悪、見た目だけしか取り柄がない一番攻略の簡単な悪役令嬢。我ながら扱いが酷い。まあともかく、せっかく健康な肉体に転生したのだ。楽しまなきゃ損だ。ということでとりあえずは勉強をさっさと終わらせてしまおう。
「わかったわ。先生を呼んで。今の実力を測るテストからやるようにお願いしてね」
「…え?は、はい!」
地球人だった記憶フル活用して進ぜよう。どうせ前世では勉強と読書とゲームくらいしかすることが出来なかったので、知識チートならどんとこいだ。
ー…
「旦那様!お嬢様は本物の天才です!国語、数学、物理、薬学、生物学、神聖語、技術、美術、音楽においてはこの国でお嬢様の右に出る者はおりません!教えることすらありません!むしろ私が色々と教えていただきました!いくつかお嬢様の書いた論文を学会で発表させていただきます!」
「なんだと?ミカエラが?」
「おそらく今まで勉強から逃げていらしたのはすでに知っている内容ばかりでつまらなかったのでしょう。地理と歴史、魔法、体育に関しては年齢相応の知識がある程度ですが、きっとすぐに吸収されるに違いありません!」
神聖語とは神聖帝国の言葉。英語だったので、洋書も読み漁っていた私には楽勝だった。その他の勉強も、発展を魔法に頼ってきたこの国では進みが遅いらしく、私の知識は貴族学院の教授ですらびっくりするほどのものらしい。
「そうか…わかった。では、これからは社会、魔法、体育のみに力を入れなさい」
「はい、お父様」
「論文まで書き上げるほど影で勉強していたとは知らなかった。褒美をやろう。なにが欲しい」
「では、孤児院への訪問の許可を」
「…は?」
「領内の孤児院で勉強会を開きたいのです、お父様」
「…何故だ」
「それは…」
推しキャラである、攻略対象外だったカインが孤児院にいるから。カインはほんのちょっとだけ君恋に出てきた私の推しキャラ。主人公が道に迷ったのを見かねて声をかけてくれる優しいお兄さん。爽やかなお兄ちゃん系イケメンなのだ!攻略対象外と知ってどれほど悶絶したことか。だが、今はむしろ好都合。主人公に取られる可能性が低いからね!
「私も何か、ターブルロンド領に貢献したいのです。子供は将来の財産。少しでも知識を身につけてもらって、ターブルロンド領のために働いてもらいたいと考えました」
「…子供のお前がそれを言うのか。いいだろう、護衛を付ける。週に一度だけ、ならば許可しよう」
「ありがとうございます、お父様!」
生のカインに会えるー!嬉しい!思わずお父様に抱きついて喜ぶ。
「な…」
「お父様大好きです!」
そうして上機嫌なままさっさと部屋を出て早速護衛を付けてもらい孤児院に向かった私は気づかなかった。
「…ミカエラから、大好きなどと言われるとは」
冷え切った関係だった父との関係性が少しずつ変わり始めることに。
ー…
「来たわ!孤児院!」
私は早速孤児院で勉強会を開催する。まず自己紹介をした。
「ご機嫌よう。私はミカエラ・ターブルロンドと申します、よろしくお願いしますね!早速ですが…一緒にクイズをしましょう!」
「え?クイズ?」
「勉強会じゃないの?」
「はい、クイズ大会形式のお勉強です!きっと楽しんでいただけるかと!」
ということで勉強。まず一時間、数学の問題を出す。足し算や引き算で解ける簡単な問題から、掛け算や割り算を使う難しめな問題まで、色々出してみた。それによって一人一人の得意不得意を把握して、問題の解説をしてあげる。みんなクイズ形式なのが楽しいのか、ばんばんと問題を解いていくので勉強の進みも早い。他の教科も一時間ずつ、同じような形式で進めていく。みんな飲み込みが早くて助かる。
「じゃあ、今日の授業はここまでにしましょう!」
「えー、もっとやりたーい!」
「こら、お嬢様を困らせるなよ。お嬢様、また来週楽しみにしてますね」
この孤児院で一番年上のカインが子供達を諌めて、私の頭を撫でてくれる。カインは私の一つ年上なので、子供扱いされているのだろう。でも、嬉しい。
「ふふ、はい。私も楽しみにしています」
そうして私は孤児院から屋敷に帰った。
ー…
「ミカエラ、おかえりなさい」
「お母様、ただいま戻りました!」
カインに会えてご機嫌なままお母様に抱きつく。お母様は目を見開いた。
「あらあら…うふふ。ミカエラから抱きついてくれるなんて嬉しいわ。さあ、ご飯にしましょうね」
「はい!」
晩餐に向かうと、お父様とお兄様が喧嘩をしていた。多分私のことだろう。グレイお兄様は正義感が強く、いつもわがままで横暴で意地悪な私が嫌いだ。今のところ社交の場に出されていないから被害者は使用人たちだけだけれど、お兄様はそれが許せないらしい。
「ミカエラのバカが天才なんて有り得ない!しかも孤児院に慰問!?絶対なにか問題を起こすに決まってる!」
「だが事実だ。孤児院の件については護衛を付けた。後で護衛に様子を聞く」
「ミカエラも帰ってくる頃だろうし今すぐ聞こう!どうせなにかやらかしているんだから!」
我ながら扱いが酷い。
「あの…お父様、お兄様、ただいま戻りました」
「帰ったか、ミカエラ」
「おい!お前なんのつもりだよ!孤児院でなにしてきた!」
私に食って掛かるお兄様。見かねたお母様が先程まで一緒にいた護衛を慌てて呼び戻し、孤児院での様子を話すように言った。
「お嬢様はクイズ形式で問題を出して、子供達にわかりやすく解説をしていました。子供達はそれはもう楽しそうに問題を解いて、お嬢様は一日であっという間に人気者になりました。勉強の進みも早く、きっとこのまま続ければ孤児院の子供達はみんな優秀に育つでしょう」
「ミカエラにそう言えって言われたのか!?」
「いえ。少なくとも私にはそう見えたという話です。ミカエラお嬢様はまるで天使のようでした。…いつもは悪魔のようでしたが、憑き物が落ちたように別人でした」
「…っ!」
「だから言っただろう」
「グレイ。ミカエラも大人になったのだから、グレイも歩み寄らないとダメよ?」
「…。なら、態度で示せよ。本当にお前が変わったのか確かめてやる」
「はい、お兄様」
晩餐ではずっとお父様とお母様が私の才能を褒めてくれていた。お兄様は面白くなさそうだった。
ー…
あれから一カ月。社会や魔法、体育の授業も根性で乗り切って、昨日勉強をクリアした。ご褒美に、今日から毎日孤児院に通えることになった。
毎日カインに会えるとご機嫌な私を、お父様は抱き上げてよくやったと褒めてくれる。お母様はその横で私の頭を撫でてくれる。さあ孤児院に出発しよう、という時にお兄様から声を掛けられた。
「ミカエラ」
「はい、お兄様」
「今日は僕も一緒に行く」
「え?でも…」
「いいから行くぞ」
「は、はい!」
そうして孤児院に向かった。孤児院に着くとお兄様は子供達に私に意地悪されていないか、私の授業はつまらなくないかを聞いてまわって、子供達からブーイングの嵐を受けた。そこまでしてようやく、お兄様は私を信じてくれて今までの冷たい言動を謝ってくれた。
「ミカエラ、お前が本当に変わったのはわかった。悪かったな」
「いえ、そんな!」
「…そんなお前にプレゼントだ」
お兄様は私の首にネックレスを掛けてくれた。
「僕のお小遣いで買った。気に入ってくれたら嬉しい」
「ありがとうございます、お兄様!」
そうして今日も勉強会。みんなでワイワイと楽しく問題を解いていく。カインは特に優秀で、すぐになんでも覚えてしまう。ああ、カインといい感じになりたいなぁ。と思いつつも、今日もカインとは進展がなく、帰りの馬車にてお兄様に聞かれた。
「ミカエラ」
「はい、お兄様」
「お前、あのカインという奴が気になるんだろう」
「え!?」
「わかりやすいな、お前。我がターブルロンド家は公爵家。伯爵家以上の家に養子にでもさせない限り結婚は厳しいと思え」
「はうっ…」
痛いところを突かれた。うん…考えないようにしてたけど、そうだよねー。どうしよう。というかそもそもカインとはなんの進展もないし。
「お前は我がターブルロンド家の長女。急がないと婚約者を決められるぞ。やるなら今しかないぞ」
「ど、どうしよう、お兄様…」
「お父様とお母様に相談してみろ。それしかない」
「う、うん…」
ということで屋敷に帰ってすぐにお父様とお母様に孤児院に好きな人がいると相談した。するとお父様もお母様も、じゃあザンクトゥアーリウムに養子に取ってもらおうと言ってくれた。
「ちょうどザンクトゥアーリウム家から婚約の打診が来ていたからな」
「そうしましょうね」
「よかったな、ミカエラ」
「ありがとうございます、お父様、お母様、お兄様!」
三人に抱きつく。でも、カインは受け入れてくれるかな?
ー…
そしてその日が来た。カインは特に嫌がらずにザンクトゥアーリウム家に引き取られ、私と婚約してくれた。もちろんザンクトゥアーリウム家の後継者はアレックスだし、ターブルロンド家の後継者はグレイお兄様。将来的にはカインは宮廷官僚の道を目指すことになる。
「いやー、まさかお嬢様と婚約出来るなんてな。人生なにがあるかわからないな」
「えっと…嫌じゃない…?大丈夫?」
「ん?嫌なわけないだろ?お嬢様は俺の初恋なんだから」
「え?」
「好きだよ、お嬢様。…俺のこと、好きになってくれると嬉しい」
「わ、私もカインが好き!」
「!本当か!?お嬢様…いや、ミカエラ。ずっと一緒にいような!」
「うん!」
ー…
カインと婚約して約十年。貴族学院に入学した。カインは去年から在学している。…そこまではいいのだけれど。
「カインさまぁ!ユーリと一緒にランチに行きませんかぁ?」
「悪いけど、俺婚約者と一緒に行くから」
「じゃあ私も混ぜて欲しいなぁ?」
「無理。悪いけど、ついてこないで」
「えー、酷いですぅ」
何故か主人公のユーリ様にカインがめちゃくちゃ迫られている。
「ミカエラ、行くぞ」
「うん!」
カインに手を繋がれてユーリ様とすれ違った。するとユーリ様はわざと私にぶつかって、転んでみせた。
「やぁーん、ユーリのこと突き飛ばすなんてひどーい」
「突き飛ばす?君が俺のミカエラにぶつかってきたんだろ、ふざけるなよ」
さすがにカインが怒った。しかしユーリ様はどこ吹く風。
「ぶつかってきたんだから、慰謝料としてカイン様を私にくださいねぇ?お貴族様なんだからそのくらいいいですよね?」
なんだろう、すごくイライラする。けど、ここで手を出したら負けだ。
「嫌です。行こう、カイン」
「ミカエラ…ごめん、そうだな。行こう」
それからもしつこくユーリ様はカインに迫ってきた。なので私はユーリ様に告げる。これでも引かないようなら暗殺も視野に入れておこう。
「ユーリ様」
「なんですかぁ?」
「カインはザンクトゥアーリウム家の正統な後継者ではありませんよ」
「…えー?またまたぁ」
「カインは私と婚約するために公爵家に養子に入っただけで、正統な後継者はアレックス様です」
「…マジで?」
「はい」
「やぁーん、ユーリ勘違いしちゃった!いけないいけない!ごめんねぇ、ミカエラ様!もうちょっかいかけないから許してねぇ?」
「まあ…はい」
「ありがとー!じゃあねー!」
呆気なかった。もっとはやく言えばよかったな。
ー…
「なんか、あの女の子最近来ないな。静かになって助かった」
「よかったね」
「ん。こちとら官僚試験の勉強に忙しいからな。唯一の癒しであるミカエラとの時間を邪魔されると堪える」
「ふふ、うん」
ユーリ様のアタックの対象はアレックス様に変わった。逆ハーレムルートは狙わないだけ賢いけれど、アレックス様の今の婚約者はかなり厳しい方なのですぐに殺処分されるのではないだろうか。可哀想に。
「愛してる、ミカエラ。これからもずっと側にいてくれ」
「私も愛してるよ、カイン。はやく貴方のお嫁さんになりたい」
後数年が待ち遠しい。はやく結婚してしまいたい。でも、こうして手と手を取り合って将来を誓う今もとても好きだから、大切な時間をもっと味わっていたいとも思うのです。
「お嬢様。今日こそはきちんとお勉強を受けていただきますよ」
お嬢様と言われて途端に全てを思い出す。そうだ、今の私はミカエラ・ターブルロンド。地球じゃないこの世界の公爵令嬢。そして今思い出した前世の記憶が確かなら、おそらく十年後には悪役令嬢になることになる。
乙女ゲーム「君恋」。孤児院育ちの主人公が特待生制度で入った貴族学院にて貴公子と恋に落ちる物語。私は攻略対象者の一人、公爵令息アレックス・ザンクトゥアーリウムの婚約者になるはず。現段階ではまだ決まっていないけど。そして主人公が逆ハーレムルートまたはアレックスルートに行くと悪役令嬢になるのだ。私は勉強嫌いで性格も最悪、見た目だけしか取り柄がない一番攻略の簡単な悪役令嬢。我ながら扱いが酷い。まあともかく、せっかく健康な肉体に転生したのだ。楽しまなきゃ損だ。ということでとりあえずは勉強をさっさと終わらせてしまおう。
「わかったわ。先生を呼んで。今の実力を測るテストからやるようにお願いしてね」
「…え?は、はい!」
地球人だった記憶フル活用して進ぜよう。どうせ前世では勉強と読書とゲームくらいしかすることが出来なかったので、知識チートならどんとこいだ。
ー…
「旦那様!お嬢様は本物の天才です!国語、数学、物理、薬学、生物学、神聖語、技術、美術、音楽においてはこの国でお嬢様の右に出る者はおりません!教えることすらありません!むしろ私が色々と教えていただきました!いくつかお嬢様の書いた論文を学会で発表させていただきます!」
「なんだと?ミカエラが?」
「おそらく今まで勉強から逃げていらしたのはすでに知っている内容ばかりでつまらなかったのでしょう。地理と歴史、魔法、体育に関しては年齢相応の知識がある程度ですが、きっとすぐに吸収されるに違いありません!」
神聖語とは神聖帝国の言葉。英語だったので、洋書も読み漁っていた私には楽勝だった。その他の勉強も、発展を魔法に頼ってきたこの国では進みが遅いらしく、私の知識は貴族学院の教授ですらびっくりするほどのものらしい。
「そうか…わかった。では、これからは社会、魔法、体育のみに力を入れなさい」
「はい、お父様」
「論文まで書き上げるほど影で勉強していたとは知らなかった。褒美をやろう。なにが欲しい」
「では、孤児院への訪問の許可を」
「…は?」
「領内の孤児院で勉強会を開きたいのです、お父様」
「…何故だ」
「それは…」
推しキャラである、攻略対象外だったカインが孤児院にいるから。カインはほんのちょっとだけ君恋に出てきた私の推しキャラ。主人公が道に迷ったのを見かねて声をかけてくれる優しいお兄さん。爽やかなお兄ちゃん系イケメンなのだ!攻略対象外と知ってどれほど悶絶したことか。だが、今はむしろ好都合。主人公に取られる可能性が低いからね!
「私も何か、ターブルロンド領に貢献したいのです。子供は将来の財産。少しでも知識を身につけてもらって、ターブルロンド領のために働いてもらいたいと考えました」
「…子供のお前がそれを言うのか。いいだろう、護衛を付ける。週に一度だけ、ならば許可しよう」
「ありがとうございます、お父様!」
生のカインに会えるー!嬉しい!思わずお父様に抱きついて喜ぶ。
「な…」
「お父様大好きです!」
そうして上機嫌なままさっさと部屋を出て早速護衛を付けてもらい孤児院に向かった私は気づかなかった。
「…ミカエラから、大好きなどと言われるとは」
冷え切った関係だった父との関係性が少しずつ変わり始めることに。
ー…
「来たわ!孤児院!」
私は早速孤児院で勉強会を開催する。まず自己紹介をした。
「ご機嫌よう。私はミカエラ・ターブルロンドと申します、よろしくお願いしますね!早速ですが…一緒にクイズをしましょう!」
「え?クイズ?」
「勉強会じゃないの?」
「はい、クイズ大会形式のお勉強です!きっと楽しんでいただけるかと!」
ということで勉強。まず一時間、数学の問題を出す。足し算や引き算で解ける簡単な問題から、掛け算や割り算を使う難しめな問題まで、色々出してみた。それによって一人一人の得意不得意を把握して、問題の解説をしてあげる。みんなクイズ形式なのが楽しいのか、ばんばんと問題を解いていくので勉強の進みも早い。他の教科も一時間ずつ、同じような形式で進めていく。みんな飲み込みが早くて助かる。
「じゃあ、今日の授業はここまでにしましょう!」
「えー、もっとやりたーい!」
「こら、お嬢様を困らせるなよ。お嬢様、また来週楽しみにしてますね」
この孤児院で一番年上のカインが子供達を諌めて、私の頭を撫でてくれる。カインは私の一つ年上なので、子供扱いされているのだろう。でも、嬉しい。
「ふふ、はい。私も楽しみにしています」
そうして私は孤児院から屋敷に帰った。
ー…
「ミカエラ、おかえりなさい」
「お母様、ただいま戻りました!」
カインに会えてご機嫌なままお母様に抱きつく。お母様は目を見開いた。
「あらあら…うふふ。ミカエラから抱きついてくれるなんて嬉しいわ。さあ、ご飯にしましょうね」
「はい!」
晩餐に向かうと、お父様とお兄様が喧嘩をしていた。多分私のことだろう。グレイお兄様は正義感が強く、いつもわがままで横暴で意地悪な私が嫌いだ。今のところ社交の場に出されていないから被害者は使用人たちだけだけれど、お兄様はそれが許せないらしい。
「ミカエラのバカが天才なんて有り得ない!しかも孤児院に慰問!?絶対なにか問題を起こすに決まってる!」
「だが事実だ。孤児院の件については護衛を付けた。後で護衛に様子を聞く」
「ミカエラも帰ってくる頃だろうし今すぐ聞こう!どうせなにかやらかしているんだから!」
我ながら扱いが酷い。
「あの…お父様、お兄様、ただいま戻りました」
「帰ったか、ミカエラ」
「おい!お前なんのつもりだよ!孤児院でなにしてきた!」
私に食って掛かるお兄様。見かねたお母様が先程まで一緒にいた護衛を慌てて呼び戻し、孤児院での様子を話すように言った。
「お嬢様はクイズ形式で問題を出して、子供達にわかりやすく解説をしていました。子供達はそれはもう楽しそうに問題を解いて、お嬢様は一日であっという間に人気者になりました。勉強の進みも早く、きっとこのまま続ければ孤児院の子供達はみんな優秀に育つでしょう」
「ミカエラにそう言えって言われたのか!?」
「いえ。少なくとも私にはそう見えたという話です。ミカエラお嬢様はまるで天使のようでした。…いつもは悪魔のようでしたが、憑き物が落ちたように別人でした」
「…っ!」
「だから言っただろう」
「グレイ。ミカエラも大人になったのだから、グレイも歩み寄らないとダメよ?」
「…。なら、態度で示せよ。本当にお前が変わったのか確かめてやる」
「はい、お兄様」
晩餐ではずっとお父様とお母様が私の才能を褒めてくれていた。お兄様は面白くなさそうだった。
ー…
あれから一カ月。社会や魔法、体育の授業も根性で乗り切って、昨日勉強をクリアした。ご褒美に、今日から毎日孤児院に通えることになった。
毎日カインに会えるとご機嫌な私を、お父様は抱き上げてよくやったと褒めてくれる。お母様はその横で私の頭を撫でてくれる。さあ孤児院に出発しよう、という時にお兄様から声を掛けられた。
「ミカエラ」
「はい、お兄様」
「今日は僕も一緒に行く」
「え?でも…」
「いいから行くぞ」
「は、はい!」
そうして孤児院に向かった。孤児院に着くとお兄様は子供達に私に意地悪されていないか、私の授業はつまらなくないかを聞いてまわって、子供達からブーイングの嵐を受けた。そこまでしてようやく、お兄様は私を信じてくれて今までの冷たい言動を謝ってくれた。
「ミカエラ、お前が本当に変わったのはわかった。悪かったな」
「いえ、そんな!」
「…そんなお前にプレゼントだ」
お兄様は私の首にネックレスを掛けてくれた。
「僕のお小遣いで買った。気に入ってくれたら嬉しい」
「ありがとうございます、お兄様!」
そうして今日も勉強会。みんなでワイワイと楽しく問題を解いていく。カインは特に優秀で、すぐになんでも覚えてしまう。ああ、カインといい感じになりたいなぁ。と思いつつも、今日もカインとは進展がなく、帰りの馬車にてお兄様に聞かれた。
「ミカエラ」
「はい、お兄様」
「お前、あのカインという奴が気になるんだろう」
「え!?」
「わかりやすいな、お前。我がターブルロンド家は公爵家。伯爵家以上の家に養子にでもさせない限り結婚は厳しいと思え」
「はうっ…」
痛いところを突かれた。うん…考えないようにしてたけど、そうだよねー。どうしよう。というかそもそもカインとはなんの進展もないし。
「お前は我がターブルロンド家の長女。急がないと婚約者を決められるぞ。やるなら今しかないぞ」
「ど、どうしよう、お兄様…」
「お父様とお母様に相談してみろ。それしかない」
「う、うん…」
ということで屋敷に帰ってすぐにお父様とお母様に孤児院に好きな人がいると相談した。するとお父様もお母様も、じゃあザンクトゥアーリウムに養子に取ってもらおうと言ってくれた。
「ちょうどザンクトゥアーリウム家から婚約の打診が来ていたからな」
「そうしましょうね」
「よかったな、ミカエラ」
「ありがとうございます、お父様、お母様、お兄様!」
三人に抱きつく。でも、カインは受け入れてくれるかな?
ー…
そしてその日が来た。カインは特に嫌がらずにザンクトゥアーリウム家に引き取られ、私と婚約してくれた。もちろんザンクトゥアーリウム家の後継者はアレックスだし、ターブルロンド家の後継者はグレイお兄様。将来的にはカインは宮廷官僚の道を目指すことになる。
「いやー、まさかお嬢様と婚約出来るなんてな。人生なにがあるかわからないな」
「えっと…嫌じゃない…?大丈夫?」
「ん?嫌なわけないだろ?お嬢様は俺の初恋なんだから」
「え?」
「好きだよ、お嬢様。…俺のこと、好きになってくれると嬉しい」
「わ、私もカインが好き!」
「!本当か!?お嬢様…いや、ミカエラ。ずっと一緒にいような!」
「うん!」
ー…
カインと婚約して約十年。貴族学院に入学した。カインは去年から在学している。…そこまではいいのだけれど。
「カインさまぁ!ユーリと一緒にランチに行きませんかぁ?」
「悪いけど、俺婚約者と一緒に行くから」
「じゃあ私も混ぜて欲しいなぁ?」
「無理。悪いけど、ついてこないで」
「えー、酷いですぅ」
何故か主人公のユーリ様にカインがめちゃくちゃ迫られている。
「ミカエラ、行くぞ」
「うん!」
カインに手を繋がれてユーリ様とすれ違った。するとユーリ様はわざと私にぶつかって、転んでみせた。
「やぁーん、ユーリのこと突き飛ばすなんてひどーい」
「突き飛ばす?君が俺のミカエラにぶつかってきたんだろ、ふざけるなよ」
さすがにカインが怒った。しかしユーリ様はどこ吹く風。
「ぶつかってきたんだから、慰謝料としてカイン様を私にくださいねぇ?お貴族様なんだからそのくらいいいですよね?」
なんだろう、すごくイライラする。けど、ここで手を出したら負けだ。
「嫌です。行こう、カイン」
「ミカエラ…ごめん、そうだな。行こう」
それからもしつこくユーリ様はカインに迫ってきた。なので私はユーリ様に告げる。これでも引かないようなら暗殺も視野に入れておこう。
「ユーリ様」
「なんですかぁ?」
「カインはザンクトゥアーリウム家の正統な後継者ではありませんよ」
「…えー?またまたぁ」
「カインは私と婚約するために公爵家に養子に入っただけで、正統な後継者はアレックス様です」
「…マジで?」
「はい」
「やぁーん、ユーリ勘違いしちゃった!いけないいけない!ごめんねぇ、ミカエラ様!もうちょっかいかけないから許してねぇ?」
「まあ…はい」
「ありがとー!じゃあねー!」
呆気なかった。もっとはやく言えばよかったな。
ー…
「なんか、あの女の子最近来ないな。静かになって助かった」
「よかったね」
「ん。こちとら官僚試験の勉強に忙しいからな。唯一の癒しであるミカエラとの時間を邪魔されると堪える」
「ふふ、うん」
ユーリ様のアタックの対象はアレックス様に変わった。逆ハーレムルートは狙わないだけ賢いけれど、アレックス様の今の婚約者はかなり厳しい方なのですぐに殺処分されるのではないだろうか。可哀想に。
「愛してる、ミカエラ。これからもずっと側にいてくれ」
「私も愛してるよ、カイン。はやく貴方のお嫁さんになりたい」
後数年が待ち遠しい。はやく結婚してしまいたい。でも、こうして手と手を取り合って将来を誓う今もとても好きだから、大切な時間をもっと味わっていたいとも思うのです。
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