39 / 80
生贄に選ばれたので暴れまわります。妹?元婚約者?全員私と一緒に生贄になぁーれ!
しおりを挟む
はじめまして、ご機嫌よう。私、イネス・ノアイユと申します。男爵令嬢です。…一応は。
私は、父と継母によって虐待されて育ちました。
私は母の死後、すぐにやってきた継母の手により一番狭く暗い部屋に移され、一日のほとんどをそこに押し込められて過ごしました。さらに、食事も満足に与えられませんでした。ひどい食事にも慣れざるを得ない状況でした。私は自然と、狩猟を覚え、食べられる雑草と食べられない雑草の見分けがつくようになりました。調理の腕にも自信があります。
さらに、よく夜遅くに父の部屋に呼び出されました。父がひどく酔っている時が多かったです。そして、そこで酒をかけられたり、暴言を聞かされたり、時には暴力や…口にするのもおぞましい折檻が行われた時もありました。
おぞましい仕打ちを受け、怯えながら暮らしていた私は、いつも薄暗い部屋で、自分を守るように体を抱きしめ、座り込んでいました。
そんな私は、時折、屋敷を抜け出し人助けをすることがありました。例えば、足の不自由な人の介助をしたり、お年寄りの荷物を持ったり。それは全て、穢れた自分を浄化したかったからです。人助けをすれば、自分の罪を許される気がしたからです。私が何も知らない他人から、慈悲深いと言われるのは、自分を大事する心が欠けているからなのでしょう。
私は、薄汚れた人間です。父に「醜い下劣な女」と何度も言われました。私は、存在も許されない人間なのです。
なぜなら…私は、母が他の男と通じて作った子どもだったからです。父はそれに気づいていながら、それでも私を男爵家で育てていました。ある目的の為に。そして私は、父が私を恨む気持ちが理解できてしまうため、反発もできませんでした。
この国には邪神の花嫁という風習があります。百年に一度の風習で、今年がちょうどその年です。邪神とは、創造主にして我らが原罪、クレアシオン様のことです。クレアシオン様は地下にあるという世界、ユトピに住まう神であり、この地上の創造主。そして、好き勝手に地上の世界を支配した人間を一度滅ぼし、残った人間達による正しい統治を導いたお方です。しかし、多くの命を屠ったことにより邪神となり、人の様な姿からドラゴンのような姿になったとされます。
邪神の花嫁は、そんなクレアシオン様の悲しみを慰めるため人間達から捧げられる贄です。一日中ずっとユトピに繋がるという湖の近くで剣舞を舞い、湖に身を投げます。すると、不思議なことに遺体は上がってこないのです。それにより生贄はクレアシオン様の花嫁になったとされ、花嫁の家はクレアシオン様の加護により栄え、この国は加護により繁栄するのです。
そして邪神の花嫁は心が怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより濁った者が良いとされます。父が、血の繋がりのない私を男爵家で育てる目的はこれです。父や継母が、必要以上に私に辛く当たるのも私を邪神の花嫁としたいためなのです。
ですが、普通、怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより心が濁りきった者が残される者達のためにそこまでするでしょうか?いえ、しません。だから神殿は、闇の魔力を持つ神官に儀式の進行を任せます。闇の魔力は人を操れます。例外を除いて。その例外とは、闇の魔力の所持者。そうして、無理矢理剣舞を舞わせ、身投げさせるのです。
そんな中でも、私には心の支えがあったのです。それは、心優しい婚約者のアベル・ドルー様と、可愛らしい妹、アンジェル・ノアイユの存在でした。
だから、今起きていることが理解しがたいのです。
「イネス・ノアイユ。私は、君と婚約破棄し、君の妹、アンジェル・ノアイユと結婚することにした。アンジェルとの間に子供が出来たんだ。すまない」
我が家が一瞬で静寂に包まれます。父と継母は無表情で応接室のソファに座り、アベル様とアンジェルは私に向かってただ頭を下げていました。私は、呆然として立っていました。
「…、なぜ」
私の口から出たのは、ただそれだけ。
「…結婚前の火遊びのつもりだったんだ。ちゃんと避妊もしていたつもりだった」
その言葉に継母がくすりと笑います。…ああ、あの人が避妊具に細工をしたのですね。でも、もうどうでもいいです。もう、諦めてしまいました。私は心の支えだった彼らに裏切られて、もうぼろぼろでした。邪神の花嫁?喜んで。私の心は、たった今、怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより濁りきりました。すぐにでも邪神の花嫁に選ばれることでしょう。
「婚約破棄、確かに承りました。さようなら、アベル様、アンジェル」
頭を下げた。もう、部屋に戻ろう。
その直後、おそらく神殿からの使い魔だろう鳩が私を邪神の花嫁にするという手紙を持ってきました。私の人生最期の舞台。せめて晴れやかに、彩りましょう。
ー…
今日は儀式の日。私も、神官の命に従い、舞台の上に躍り出ました。…ですが、ここで一つ。神官の命とは違うことをしました。身体強化の魔法を自分にかけたのです。
…そして、儀式を見守りに来た父と継母、妹と元婚約者を舞台の上に上らせます。そう、私も闇の魔力の持ち主なのです。
血が飛び散ります。同時に、父の腕と足が転がり落ちます。バランスを崩した父は倒れ、しばらく呆然とした後。
「あぁああああああああっ!わしの、わしの腕が!足が!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいいい!」
「パパ!?」
倒れた父に駆け寄ろうとした妹を切り捨てます。
「お、ねえ、さま…?」
「ごめんなさいね、可愛いアンジェル。…おやすみなさい」
裏切られても、やっぱりアンジェルは可愛くて。だから、アンジェルは一瞬で首をはねて終わりにしてあげました。
「う、うわぁああああ!?」
儀式は当然大混乱。関係ない多くの野次馬は逃げ出しました。次いで、一応念のために置かれていた騎士様達も逃げ出します。闇の魔力を持つ神官様も、最後に結局逃げ出しました。…ですが、父と継母と婚約者は逃げ出せません。私が操っているので、当然ですね。
「…っ!まっ、待ちなさい!私は貴女の継母よ!穢れた貴女を愛してあげられるのは私だけ!ね、見逃してちょうだい!」
「今更何を言っているのですか?お義母様。お義母様もお父様も、アンジェルもアベル様も私と一緒に生贄になるのですよ?」
「な…!?イネスっ!育ててやった恩を忘れたか!?」
「いえ、お父様。貴方の仕打ち、怨は忘れませんわ」
そう言って父の腹を割き、継母の美しい顔を斬りつけます。
「あぁああああああああ!痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいいい!」
「私の、私の顔がぁああああああああああああ!?」
その後、継母も父と同じように腕と足を切り落とし腹を割きます。
「あ、ああああああああああああ!?」
「おやすみなさい、お父様、お義母様」
そう言って最期に、首を切り落とします。鮮血が舞う様は美しいです。
「…ああ、イネス。私のせいなのか?」
「ええ、アベル様。貴方のせいです」
愛しいアベル様。貴方が、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて。…だから、殺します。
腕をもぎ、足を切り落とし、腹を割き、内臓をぶち撒き、そして頭を切り落とす。
何も喋らない…私を虐げたり、裏切ったりしない愛しい人達をそのままに、私は一日剣舞を舞い、湖に身を投げようとしました。その時でした。
「何もお前まで死ぬ必要はないだろう」
夜のような、優しい、低い声が響いたのです。
「クレアシオン…様?」
そこには、黒い鱗に紅い瞳の荘厳なドラゴンが佇んでいました。
…そして、私の愛しい人達の亡骸をその口から放つ焔で焼き尽くしました。
「!?」
「安心しろ。その者達の魂は輪廻の輪に乗った」
「それは…つまり?」
「生まれ変わり、また新しい生を受けることが出来る」
「…っ!」
安心したような、憎たらしいような。なんとも言えない気持ちでクレアシオン様を見つめます。
「それよりもお前、俺の花嫁になれ」
「つまり贄に?」
「違う。正真正銘の花嫁となれ」
私は目を丸くしてしまいます。プロポーズされているのでしょうか?でも、この深い夜のような声を聞いているととても癒されるのです。この方と共に行けば、私の孤独を癒せるような、そんな気がしていました。
「…喜んで」
そうして私は、気付けばプロポーズを受け入れていました。
クレアシオン様に連れられていったユトピは、それはそれは素晴らしい世界でした。あちこちに自然がありながら、進んだ文化もあり、妖精どころか幻獣や精霊、果ては精霊王や数々の神様が住まう世界なのです。この美しい世界に、私がいていいのでしょうか。
「そもそもな」
「はい」
「俺は邪神に堕ちてなんていないし、元々人間の姿にもドラゴンの姿にもなれる」
そう言って人間の姿になったクレアシオン様はとても美しい姿でした。
「生贄なんて、勝手に寄越されるから仕方なく魂を輪廻の輪に乗せてやって、身体だけ食ってただけだ」
「はぁ」
「つまり、贄なんて俺は必要としていない」
…なら、私の人生はなんだったのでしょうか。
「まあ、流石にそれだけだと可哀想だから加護は与えたけどな」
「そうですか…」
「だから、俺が愛するのは後にも先にもお前だけだ」
「…!?」
今のだから、はどこにかかっていたのでしょうか。あまりにも美しい方からの、あまりにも恐れ多い言葉とその優しい声になんとも言えない気持ちになります。
「…愛している。大事にする。だからまずは警戒を解け」
「そうはおっしゃられましても…なぜ私を愛してくださるのです?」
「俺は強い女が好きだ。慈悲深い女が好きだ。可憐で、容易く手折ることができそうな女が好きだ」
お前は全てに当てはまる、とクレアシオン様。買い被り過ぎではないでしょうか?
「…まあいい。そのうち俺に惚れさせて、幸せな家庭を持たせてやる」
喜べ、とクレアシオン様。私は、はい、としか答えられませんでした。
ー…
あれから随分と時が経ち、私は二男三女のお母さんです。クレアシオン様からもたっぷりと愛されて、子供達をたくさん愛して、今はとても幸せです。
「だから言っただろう?」
「ええ、クレアシオン様」
私は今日も、この方の隣で、幸せに生きています。
私は、父と継母によって虐待されて育ちました。
私は母の死後、すぐにやってきた継母の手により一番狭く暗い部屋に移され、一日のほとんどをそこに押し込められて過ごしました。さらに、食事も満足に与えられませんでした。ひどい食事にも慣れざるを得ない状況でした。私は自然と、狩猟を覚え、食べられる雑草と食べられない雑草の見分けがつくようになりました。調理の腕にも自信があります。
さらに、よく夜遅くに父の部屋に呼び出されました。父がひどく酔っている時が多かったです。そして、そこで酒をかけられたり、暴言を聞かされたり、時には暴力や…口にするのもおぞましい折檻が行われた時もありました。
おぞましい仕打ちを受け、怯えながら暮らしていた私は、いつも薄暗い部屋で、自分を守るように体を抱きしめ、座り込んでいました。
そんな私は、時折、屋敷を抜け出し人助けをすることがありました。例えば、足の不自由な人の介助をしたり、お年寄りの荷物を持ったり。それは全て、穢れた自分を浄化したかったからです。人助けをすれば、自分の罪を許される気がしたからです。私が何も知らない他人から、慈悲深いと言われるのは、自分を大事する心が欠けているからなのでしょう。
私は、薄汚れた人間です。父に「醜い下劣な女」と何度も言われました。私は、存在も許されない人間なのです。
なぜなら…私は、母が他の男と通じて作った子どもだったからです。父はそれに気づいていながら、それでも私を男爵家で育てていました。ある目的の為に。そして私は、父が私を恨む気持ちが理解できてしまうため、反発もできませんでした。
この国には邪神の花嫁という風習があります。百年に一度の風習で、今年がちょうどその年です。邪神とは、創造主にして我らが原罪、クレアシオン様のことです。クレアシオン様は地下にあるという世界、ユトピに住まう神であり、この地上の創造主。そして、好き勝手に地上の世界を支配した人間を一度滅ぼし、残った人間達による正しい統治を導いたお方です。しかし、多くの命を屠ったことにより邪神となり、人の様な姿からドラゴンのような姿になったとされます。
邪神の花嫁は、そんなクレアシオン様の悲しみを慰めるため人間達から捧げられる贄です。一日中ずっとユトピに繋がるという湖の近くで剣舞を舞い、湖に身を投げます。すると、不思議なことに遺体は上がってこないのです。それにより生贄はクレアシオン様の花嫁になったとされ、花嫁の家はクレアシオン様の加護により栄え、この国は加護により繁栄するのです。
そして邪神の花嫁は心が怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより濁った者が良いとされます。父が、血の繋がりのない私を男爵家で育てる目的はこれです。父や継母が、必要以上に私に辛く当たるのも私を邪神の花嫁としたいためなのです。
ですが、普通、怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより心が濁りきった者が残される者達のためにそこまでするでしょうか?いえ、しません。だから神殿は、闇の魔力を持つ神官に儀式の進行を任せます。闇の魔力は人を操れます。例外を除いて。その例外とは、闇の魔力の所持者。そうして、無理矢理剣舞を舞わせ、身投げさせるのです。
そんな中でも、私には心の支えがあったのです。それは、心優しい婚約者のアベル・ドルー様と、可愛らしい妹、アンジェル・ノアイユの存在でした。
だから、今起きていることが理解しがたいのです。
「イネス・ノアイユ。私は、君と婚約破棄し、君の妹、アンジェル・ノアイユと結婚することにした。アンジェルとの間に子供が出来たんだ。すまない」
我が家が一瞬で静寂に包まれます。父と継母は無表情で応接室のソファに座り、アベル様とアンジェルは私に向かってただ頭を下げていました。私は、呆然として立っていました。
「…、なぜ」
私の口から出たのは、ただそれだけ。
「…結婚前の火遊びのつもりだったんだ。ちゃんと避妊もしていたつもりだった」
その言葉に継母がくすりと笑います。…ああ、あの人が避妊具に細工をしたのですね。でも、もうどうでもいいです。もう、諦めてしまいました。私は心の支えだった彼らに裏切られて、もうぼろぼろでした。邪神の花嫁?喜んで。私の心は、たった今、怒りや憎しみ、悲しみや嘆きにより濁りきりました。すぐにでも邪神の花嫁に選ばれることでしょう。
「婚約破棄、確かに承りました。さようなら、アベル様、アンジェル」
頭を下げた。もう、部屋に戻ろう。
その直後、おそらく神殿からの使い魔だろう鳩が私を邪神の花嫁にするという手紙を持ってきました。私の人生最期の舞台。せめて晴れやかに、彩りましょう。
ー…
今日は儀式の日。私も、神官の命に従い、舞台の上に躍り出ました。…ですが、ここで一つ。神官の命とは違うことをしました。身体強化の魔法を自分にかけたのです。
…そして、儀式を見守りに来た父と継母、妹と元婚約者を舞台の上に上らせます。そう、私も闇の魔力の持ち主なのです。
血が飛び散ります。同時に、父の腕と足が転がり落ちます。バランスを崩した父は倒れ、しばらく呆然とした後。
「あぁああああああああっ!わしの、わしの腕が!足が!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいいい!」
「パパ!?」
倒れた父に駆け寄ろうとした妹を切り捨てます。
「お、ねえ、さま…?」
「ごめんなさいね、可愛いアンジェル。…おやすみなさい」
裏切られても、やっぱりアンジェルは可愛くて。だから、アンジェルは一瞬で首をはねて終わりにしてあげました。
「う、うわぁああああ!?」
儀式は当然大混乱。関係ない多くの野次馬は逃げ出しました。次いで、一応念のために置かれていた騎士様達も逃げ出します。闇の魔力を持つ神官様も、最後に結局逃げ出しました。…ですが、父と継母と婚約者は逃げ出せません。私が操っているので、当然ですね。
「…っ!まっ、待ちなさい!私は貴女の継母よ!穢れた貴女を愛してあげられるのは私だけ!ね、見逃してちょうだい!」
「今更何を言っているのですか?お義母様。お義母様もお父様も、アンジェルもアベル様も私と一緒に生贄になるのですよ?」
「な…!?イネスっ!育ててやった恩を忘れたか!?」
「いえ、お父様。貴方の仕打ち、怨は忘れませんわ」
そう言って父の腹を割き、継母の美しい顔を斬りつけます。
「あぁああああああああ!痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいいい!」
「私の、私の顔がぁああああああああああああ!?」
その後、継母も父と同じように腕と足を切り落とし腹を割きます。
「あ、ああああああああああああ!?」
「おやすみなさい、お父様、お義母様」
そう言って最期に、首を切り落とします。鮮血が舞う様は美しいです。
「…ああ、イネス。私のせいなのか?」
「ええ、アベル様。貴方のせいです」
愛しいアベル様。貴方が、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて、愛しくて、憎くて。…だから、殺します。
腕をもぎ、足を切り落とし、腹を割き、内臓をぶち撒き、そして頭を切り落とす。
何も喋らない…私を虐げたり、裏切ったりしない愛しい人達をそのままに、私は一日剣舞を舞い、湖に身を投げようとしました。その時でした。
「何もお前まで死ぬ必要はないだろう」
夜のような、優しい、低い声が響いたのです。
「クレアシオン…様?」
そこには、黒い鱗に紅い瞳の荘厳なドラゴンが佇んでいました。
…そして、私の愛しい人達の亡骸をその口から放つ焔で焼き尽くしました。
「!?」
「安心しろ。その者達の魂は輪廻の輪に乗った」
「それは…つまり?」
「生まれ変わり、また新しい生を受けることが出来る」
「…っ!」
安心したような、憎たらしいような。なんとも言えない気持ちでクレアシオン様を見つめます。
「それよりもお前、俺の花嫁になれ」
「つまり贄に?」
「違う。正真正銘の花嫁となれ」
私は目を丸くしてしまいます。プロポーズされているのでしょうか?でも、この深い夜のような声を聞いているととても癒されるのです。この方と共に行けば、私の孤独を癒せるような、そんな気がしていました。
「…喜んで」
そうして私は、気付けばプロポーズを受け入れていました。
クレアシオン様に連れられていったユトピは、それはそれは素晴らしい世界でした。あちこちに自然がありながら、進んだ文化もあり、妖精どころか幻獣や精霊、果ては精霊王や数々の神様が住まう世界なのです。この美しい世界に、私がいていいのでしょうか。
「そもそもな」
「はい」
「俺は邪神に堕ちてなんていないし、元々人間の姿にもドラゴンの姿にもなれる」
そう言って人間の姿になったクレアシオン様はとても美しい姿でした。
「生贄なんて、勝手に寄越されるから仕方なく魂を輪廻の輪に乗せてやって、身体だけ食ってただけだ」
「はぁ」
「つまり、贄なんて俺は必要としていない」
…なら、私の人生はなんだったのでしょうか。
「まあ、流石にそれだけだと可哀想だから加護は与えたけどな」
「そうですか…」
「だから、俺が愛するのは後にも先にもお前だけだ」
「…!?」
今のだから、はどこにかかっていたのでしょうか。あまりにも美しい方からの、あまりにも恐れ多い言葉とその優しい声になんとも言えない気持ちになります。
「…愛している。大事にする。だからまずは警戒を解け」
「そうはおっしゃられましても…なぜ私を愛してくださるのです?」
「俺は強い女が好きだ。慈悲深い女が好きだ。可憐で、容易く手折ることができそうな女が好きだ」
お前は全てに当てはまる、とクレアシオン様。買い被り過ぎではないでしょうか?
「…まあいい。そのうち俺に惚れさせて、幸せな家庭を持たせてやる」
喜べ、とクレアシオン様。私は、はい、としか答えられませんでした。
ー…
あれから随分と時が経ち、私は二男三女のお母さんです。クレアシオン様からもたっぷりと愛されて、子供達をたくさん愛して、今はとても幸せです。
「だから言っただろう?」
「ええ、クレアシオン様」
私は今日も、この方の隣で、幸せに生きています。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?
下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。
エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった!
なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。
果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。
そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる