上 下
1 / 80

そるとそら

しおりを挟む
私は猫と犬を飼っていました。名前はそるとそら。 二匹とも子供の頃から飼っていたのでとても仲良しでした。二匹ともとても臆病で、穏やかで優しく、私と父と母、近所に住む奏太君が大好きでした。私達は毎日夕方になると散歩に出かけるのが日課でした。田舎なもので、そらにはリードをつけて、そるには首輪だけで、一人と二匹仲良く散歩していました。そこに遊びから帰る途中の奏太君が途中から混ざってくるのです。そんな毎日がとても楽しく、まさかあんな事件が起こるとは思いもしませんでした。

ある日のことでした。遠くからびーびーと、防犯ブザーが鳴り響きました。何事かと思っているうちにそるが飛び出していき、続いてそらも飛び出していきました。そるとそらのあまりの速さについていけずに、途中でリードを離してしまいました。でもブザーの音で方向はわかるので、急いで走っていきました。

そこには、傷だらけのそるを抱きしめて泣いている奏太君と、その前に立ちはだかる同じく傷だらけのそらの姿。そして、手にナイフを持った不審者の姿がありました。そらとそると奏太君が殺されちゃう!私はそう思って、咄嗟に嘘をつきました。

「おまわりさん!こっちです!」

不審者はすぐに逃げて行きました。

奏太君を連れて、とにかく急いでその場を離れます。向かう先は近くの動物病院。あそこに逃げ込めば安全だし、そらとそるを助けられるかもしれない。

動物病院に着くと受け付けのお姉さんにまずそらとそるを預け、急患としてみてもらいました。そして受け付けのお姉さんに事情を話し、警察と親に連絡をしてもらいました。警察に保護されて事情を話していると、奏太君の親と私の親が迎えに来てくれました。

「よく頑張ったね、偉かったね」

「もう大丈夫だよ」

「そるとそらも命に別状はないよ」

私と奏太君はそこでようやく安心してわんわんと泣いてしまいました。警察のお兄さんは目頭を押さえていました。お兄さんもペットを飼っていたそうです。

後日犯人は逮捕されたそうです。その辺りの事情はよくわからなかったのですが、あとで聞いたところによると、犯人は近所の大学生だったそうで、奏太君を道連れに死のうとしていたそうです。奏太君はたまたま巻き込まれてしまったそうです。初犯だったため執行猶予がついたそうですが、遠くに引っ越していったためもう大丈夫とのことでした。

そるとそらは酷い怪我でしたが、獣医さんの懸命な治療のおかげで無事退院の日を迎え、またいつものように散歩が出来るようになりました。

その後数日経ち、奏太君とお話ししました。

「なんでそるとそらは奏太君が殺されちゃうってわかったんだろう?」

「あのね、僕、防犯ブザーを鳴らして必死に逃げながら、ママ!パパ!そる!そら!助けて!って叫んだんだ。それがそるとそらには聞こえたのかな」

「そっかー、偉かったね。そる、そら」

「わん!」

「んふわぁ」

「相変わらずそるの鳴き声は気が抜けるなぁ」

「ねー」

その後も、二匹の臆病で穏やかで優しい性格は変わらず、十五歳まで長生きしてから天国にいってしまいました。十二歳の頃には二匹とも認知症だと診断されましたが、私と父と母、奏太君のことは最期まで覚えていてくれたように思います。天国にいく時も、二匹仲良く一緒にいってしまいました。

時は流れて、はやくも私達は二十五歳。仕事にもつきました。私と奏太君は今度、結婚式を挙げることになっています。

私と奏太君は今、うちのお庭にあるそるとそらのお墓の前にいます。二人で手を合わせて、どうかこれからもずっと見守っていてね、と声をかけます。すると、

「わん!」

「んふわぁ」

と聞き慣れた声が聞こえた気がして、思わずぽろりと涙が溢れました。奏太君は急に泣き出した私にあたふたしています。その様子がおかしくて、二匹の気持ちが嬉しくて、私はにっこり笑いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

一途に愛した悪役令嬢

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有り。本当に微々たるものですが。 小説家になろう様でも投稿しています。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...