君が僕に心をくれるなら僕は君に全てをあげよう

下菊みこと

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呆れられる

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「…ということで、まだまだ天に昇るのは先になるそうです」

天の国に戻って、上司に報告する。

あの者を連れて戻るはずだった私が一人で戻ってきたのを見て、説明を求めてきた上司に。

いつも優しく微笑むばかりの上司は、私の報告を受けて難しい顔をした。

この人のこんな表情は久しぶりに見る。

よほどあの者の判断が解せないのだろう。

「人間の娘一人のために天に昇るのを拒否するとは、わからんな」

「おそらく、あの娘が自分の命よりも大事な宝なのでしょう」

「人間の娘がか?」

「あの者はそもそも元人間です」

「ああ、そういえばそうだったな」

納得したように頷いた上司。

その顔にはいつもの微笑みはまだ戻らない。

あの者の判断に、まだ疑問があるらしかった。

この人は顔が厳しいから、いつものように微笑んでいてくれないと妙な緊張感を感じてしまう。

さっさといつも通り笑ってはくれないか。

「ならば娘を眷属にして、二人でくればよかったのではないか?」

「それをするにしても、さすがに娘が成長するのを待ってからの方がよろしいでしょう」

「何故」

「紫の上計画です」

上司に深~いため息を吐かれて、呆れられる。

上司は私のするこの手の話を聞き飽きているらしい。

素晴らしい話なのに何故。

ラブロマンスは一番の娯楽だというのに。

この上司は娯楽を嗜まないから困る。

いつも仕事仕事で忙しくしているし。

もっと自分を労ってほしいのだが。

「お前はその手の話が好きだな」

「年の差婚はロマンです」

「ふ、まあいい。そういうことであれば待とう。本当に紫の上計画なのかも楽しませてもらおうか」

「きっとあの溺愛ぶりはそうですって」

「ははははは」

笑う上司。

その顔には笑顔が戻る。

笑顔が戻ると緊張感も薄れてホッとする。

やっぱりこの人には笑顔が似合う。

だが失礼だ、私は真剣なのに。

「もういいです」

「そう拗ねるな。良いではないか、紫の上計画。私はあの二人が将来どうなるのか楽しみだぞ」

「私もです!」

「ははははは」

この上司もようやくラブロマンスのなんたるかに気付き始めたのだろうか。

布教してきた甲斐がある。

ラブロマンスを理解できるようになったなら、もっともっと色々なラブロマンスを布教できる。

今から楽しみだ。

次はどの小説を上司に進めようか。

ああ、それにしても次にあの者を迎えに行く日が今から楽しみだ。

きっと大いに素晴らしいラブロマンスをお土産話に持ってきてくれるだろう。

それをこの上司にも聞かせてやるのもいいだろう。

仕事詰のこの人の、息抜きくらいにはなるはずだ。
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