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えんがちょ

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「コトハ」

「うん、なに?」

家に帰ると兄様に言われた。

「えんがちょしよう」

「えんがちょ」

兄様はそう言って、私の手を取った。

「はい、えーんがちょ」

兄様がそう言って、えんがちょをした。

「はい、これで大丈夫」

「うん?」

「もうあの変質者は寄ってこれないはずだよ」

「よかった」

「でも一応迎えには行くからね」

そう言って兄様は頭を撫でてくれる。

よかった、これで兄様は祓われないんだ。

「しかし、面倒な男だな…」

「ん?」

「うん、なんでもないよ」

にっこり笑う兄様。

よかった。

「さあ、宿題と予習復習をやっちゃおう」

「うん!」

二人でお勉強を済ませる。

そして二人でご飯を作って、食べて、お皿を洗って。

お風呂を沸かして済ませて、髪を乾かして。

いつも通り。

そしてお布団に入って眠る。

「…おやすみなさい」

兄様に買ってもらったぬいぐるみを抱きしめる。

兄様が無事でよかった。











「…んん」

目がさめる。

トイレに行きたくて起きた。

済ませて、手を洗う。

部屋に戻るときに、リビングがちらっと見えて兄様を見つけた。

兄様は、多分あの変質者のおじさんになにかしていた。

「…」

いつもの穏やかな兄様と違う、おどろおどろしい兄様の雰囲気に息を飲む。

兄様はやがておまじないが終わるといつもの兄様に戻った。

そして、リビングを覗き込んでいた私と目が合う。

「あれ、コトハどうしたの」

「うん、えっと、おトイレに起きたの」

「そっか、おいで」

手招きをされて、ソファーに腰掛けていた兄様の足の間に座る。

「コトハ、怖かった?」

「うん?」

「見てたでしょう?」

「うん、ちょっと怖かった」

「だよね」

兄様は私の頭を撫でる。

「でも、僕はコトハのことは呪ったりしないよ」

「うん、知ってる」

「僕はコトハを大事に思ってるよ」

「それも知ってる」

「じゃあ、大丈夫かな」

兄様に問われて頷く。

「うん、大丈夫。私、兄様を信じてるから」

変質者のおじさんは可哀想だけど。

「ふふ、よかった。コトハに嫌われたら悲しいからね」

「兄様を嫌いになることなんてないよ」

「それは嬉しいな」

にっこり笑う兄様。

「僕もずっとコトハの味方だからね」

「うん。兄様、大好き」

「僕もコトハが大好きだよ」

ずっとこうして兄様と暮らしていたい。

兄様がそのために変質者のおじさんになにかしたなら、私は止めない。

悪い子でごめんなさい。

でも、どうしても兄様と離れたくないの。

兄様が私に安心と幸せをくれたから。
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